主×執事×男装の異色アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』のキャラクター像に迫るショート小説連載【第1回:ルカ】
~トラウマと解放~
主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。Love it out loud(“好き”を恐れるな)をコンセプトに、現代社会で抑圧されがちな“本音”を音楽とパフォーマンスで体現する。
本連載で展開されるのは、それぞれのキャラクターが背負うトラウマを小説として綴った6つのオリジナルストーリー。 第1回目の今回は本ユニットのキーパーソン、[主]である“ルカ”の物語をお届けする。
――――xxLeCœur。“真の心”の仰せのままに。
『xxLeCœur(ルクール)』コンセプトストーリーはこちら
第1回 [主]ルカ ~悪魔の子~
燃え盛る炎が漆黒の夜空に舞い上がり、目前の屋敷をみるみるうちに焼け崩してゆく。飛び散る火の粉が白い肌を針のように刺すのを気にも留めず、ルカは呆然と立ち尽くしていた。
「ここはどこだ? なぜ、僕はこんなところに――」
我に返り立ち去ろうとしたところで、消え入るような声がルカの背中を呼び止めた。
“助けて”
「誰かいるのか?」
振り返ってもそこには人影一つない。ただ紅蓮の炎がごうごうと吠えているばかりだ。それなのに主のない声だけが少しずつこちらに近づき、大きくなってゆく。
“助けて……助けて”
その不気味さは周りの熱気にも関わらずルカの肌を粟立たせた。直感的に逃げようと背を向けた途端、その耳元に、今度ははっきりと声が落ちる。
「助けて」
瞬間、ルカの体は灼熱の炎に包まれた。
目が覚めると自室のベッドの上だった。
「またあの夢か……」
呼吸はまだ静まっておらず、全身にひどい汗をかいている。最近、同じ夢を繰り返し見る。
燃え上がる炎、焼け落ちる屋敷、それを傍観している自分、そして、あの声。どこかで聞いたことがあるような気もするが、どうしても思い出せない。
キッチンで湯を沸かし紅茶を入れていると、玄関のベルが三度鳴り、使用人がカートを引いて入ってきた。今日は週に一度の日用品や食料が届く日だ。ルカはそっと目を伏せた。
使用人がクロスを外そうとしたはずみで、カトラリーが数本、床に散らばった。
ルカが拾ってやろうすると、「ひっ」と短い声をあげ、彼女はルカの手を払いのけた。はっとして、「申し訳ございません」と床に額をこすりつけんばかりに何度も頭を下げる。
「ああ、こちらこそ済まなかった。君の目は見てないから」
彼女は一瞬安堵した顔を見せ、そそくさと屋敷を出ていった。
カーテンの閉めきられたままの薄暗い部屋の窓辺で、ルカは紅茶とスコーンで遅めの朝食をとった。一級品の材料で作られているはずなのに、どれも味がしない。もそもそと舌を乾かすばかりだ。
最後に“美味しい”と感じたのはいつだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、壊れてしまったコンパスの修理に取り掛かる。精密機器をいじっていれば時間はいくらでも過ぎてくれるので、今では冷たく硬いこの感触がルカの一番の友達であり理解者だ。
と、どこからともなく楽しげな音楽が聴こえてきて、ルカはカーテンを少しだけ開けて窓の外を覗き込んだ。
少し離れた敷地にある本邸の庭で、人の群れの中に父、母、兄の姿を見つけた。大勢の客人を招いてパーティーが開かれているようだ。華やかな装飾、贅を尽くしたご馳走に楽器隊。そうか、今日は兄の誕生日だったか。ここからはその表情はよくわからないが、きっと元気でやっていることだろう。
何か贈り物をしたほうがいいだろうか、ふと思いついてはみたものの、ルカはすぐに首を振った。
「自分が姿を見せないことが一番のプレゼントだな」
最後に家族に笑いかけてもらったのはいつだろう。
キルイス国の最高峰、アンシエ特別区でデュ侯爵家次男として誕生したルカは、文字通り生まれ落ちた場所がその者の命運を決めるこの地で勝者の切符を手にし、名実ともに恵まれた環境で過ごしてきた。
特権階級ならではの何不自由ない暮らし、山頂から見下ろすキルイスの街並み、その上に君臨する者としての誇りと品格、家族からの惜しみない愛情。舞台のお気に入りのシーンがずっと続いていくみたいに、この暮らしは変わらないと思っていた。
それが音を立てて崩れ始めたのが、ルカの成人の誕生日だった。
誰にも明確に説明できない異変が、徐々に、静かに、確実に、その輪郭を露わにしていった。
ルカと目が合うと、その者の中に秘められていた本音が暴れだし、衝動的に外に出てしまうのだ。同時にルカの脳内にも相手の内なる声や記憶が流れ込み、それはルカ自身にも相当の苦痛をもたらすこともあったが、周りは気にかけるどころか、ただルカを罵倒し、遠ざけ、忌み嫌った。
厳しい規律とともに保たれてきた秩序から解き放たれた生身の感情の露呈は、当然ながら様々な問題を引き起こす。このことがきっかけとなり、屋敷を出ていく者、デュ家との関りを避ける者、陥れようとする者などが続出し、一時期は家の存続自体が危ぶまれた。それでも家族だけは最後までルカを庇ってくれたのだが、限界を迎えるのは遅くはなかった。
悲嘆に暮れる母の背中に、ルカが声をかけた時のことだ。
振り向いた母の目とルカの目が合った。おぞましいものでも見るように、それでいてまっすぐに、目を逸らすことなく、彼女は言った。
「悪魔の子。あなたなんか生まなければよかった。二度と私を、私たちを見ないで」
その時の母親の顔をルカは一生忘れないだろう。
「ねえ、それは本音じゃないよね? 僕の目が紛いものなんだよね?」
睨みつける視線は微動だにしない。
「ごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」
「もう誰の顔も見ないから。何も見ないから」
「お願い。もう一度、僕を愛して」
震える声に応えるのは、怖いほどの静寂だけだった。
それから、ルカはこの別邸で暮らしてきた。
必要最低限を除いては誰とも会わず、誰とも言葉を交わさず、たった一人で。
呪われた瞳に美しい景色を映す必要などないと、カーテンも窓も閉めきり、暗く冷たい部屋で息を潜めた。
ただ時間が過ぎるのを待って、一刻も早くこの命が尽きることだけを祈って。
「もう一度、僕を――」
最後にそう願ったのはいつだろう。
賑やかな笑い声にそっと蓋をするように、ルカは再びカーテンを閉めた。
僕さえいなければ、みんなが幸せになる。
ルカは手にしていたコンパスをテーブルの上に置いた。
針はぐるぐると回ったまま、どの方向も示しはしなかった。
キルイス国、フロス市。
その住宅街にある一画で、どこからか女の歌う子守唄が聴こえる。
「リア、リアちゃん。いい子。私だけの可愛い子」
鏡の前に立つ人影が、長い前髪にハサミを入れようとして、不意に動きを止めた。その手元はにわかに震えだし、ハサミは鈍い音を立てて床に落ちる。
「そうだよ、私はいい子。母さんの、いい子」
<続>
リリース情報
xxLeCœur(ルクール)
デビュー・デジタルシングル「ボナペティ」
主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。
楽曲は、起承転結のある日本らしい歌メロにどこか浮遊感、サイコ、ミステリアスなアプローチを織り交ぜ、北欧エレクトロをベースとしつつも今までにないダンスミュージック“Dark Dreamy”というジャンルを提唱していく。
圧倒的ビジュアルと男装の神秘性、そしてダークで耽美な唯一無二の世界観に、リスナーもきっと魅了されるはずだ。
★2024年11月20日(水)より各種配信サイトにて配信開始!
作詞:矢作綾加
作曲:高慶"CO-K"卓史/イワツボコーダイ/細見遼太郎
編曲:高慶"CO-K"卓史 /細見遼太郎
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