アルフォンはどこまでも掘り下げられる人間の感情に不慣れなキャラクター|『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第二章 赤日の出撃』アルフォン役・古川慎さん×福井晴敏総監督インタビュー【ネタバレあり】
2012年から展開されている不朽の名作『宇宙戦艦ヤマト』のリメイクシリーズ。その最新作『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第二章 赤日の出撃』が、2024年11月22日(金)より全国の映画館で上映中です。
アニメイトタイムズではその上映に先駆け、アルフォンを演じる古川慎さんと福井晴敏総監督へのインタビューを実施しました。
今回は、第一章の時以上にアルフォンというキャラクターを掘り下げつつ、作品全体や物語に関するお話を伺っています。中でもアルフォンというキャラクターが人の感情を理解したいと考えているキャラクターであること、主人公である古代進の今後についての話題は必読です。ぜひ鑑賞後にご一読ください。
※本記事には、第二章のネタバレが含まれます。
アルフォンは人間を理解したいと思っているキャラクター
ーー第二章がついに上映開始となりましたので、まずは現在の心境からお聞かせください。
アルフォン役・古川慎さん(以下、古川):アルフォンは第一章から登場していましたが、素顔を露わにして喋るのは第二章からになります。アルフォンが一体どういう人物なのか、しっかり味わっていただけるとありがたいです。個人的にもご覧になってくださる方からの反響には少しドキドキしています。
作品全体として、CGで描かれる戦艦をはじめとしたメカニックは格好いいですし、その上でまた新たな人間ドラマを見せてくれる。この第二章でも各勢力やキャラクターたちの動きにどっぷりハマっていただければと思います。
総監督・福井晴敏さん(以下、福井):第一章では原作に色々な要素を付け加えはしましたが、大筋の流れは忠実になっていました。第二章以降は「どこへ向かうのかわからないモード」に入り、推力全開で動き出します。ぜひ振り落とされないよう付いてきていただければ幸いです。
ーー第一章の時以上にお話いただけることが増えたかと思いますので、ぜひアルフォンというキャラクターの印象や魅力についても改めて伺えますか?
古川:第二章のアフレコにあたってアルフォンのバックボーンを福井さんから伺う機会がありまして。改めて掘り下げ甲斐のあるキャラクターだと感じました。
アルフォンは自分のものも含めて、"感情"というものをよく理解できておらず実感が伴っていない。そんなバックボーンのキャラクターが、雪と対面して自分自身から湧き出てくる感情や向けられた感情に戸惑いながら、人間らしい感情を学んでいくことになります。
悲しい、面白いなど、人間としての情緒を初めて体験することで、何もなかったところに色を塗っていくような感覚があるというか。そういった部分がアルフォンの魅力のひとつだと感じました。
ーー見た目の印象は大人びた精悍な男性ですが、そんな人物が初めて知る人間らしい感情に心動かされるというのはアンバランスな魅力を感じさせますね。
福井:原作と同様、アルフォンは古代と離ればなれになった雪を拾うところからスタートしますが、当時としては女性ファンに対するサービスを意識したのではないかと感じられるところがあります。一方で現代の女性ファンは、アルフォンのような存在と対等に向き合いたいのではないかと。
だからこそ、目覚めた雪を見つめながら枕元で「気が付いたかい?」と声をかける原作のアルフォンに対して、本作では既に雪は目を覚ましており、手近な武器になるものを探した上でドアの後ろに隠れ、「あなた達は誰!?」とアルフォンたちに問う機会を伺っている。もうそこから違うわけです。
今回の雪は拾われたという立場にまったく甘んじていません。イジドールに組み伏せられ、アルフォンからは生身の身体を大切にした方が良いと嗜められても、彼らの情報を得るために家探しを始めます。
逃げようと思えば逃げられそうな状況ですが、行動原理や何を大事にしているかが変わっているんです。ここは昭和と令和の違いが如実に現れている部分で、そんな雪のあり様がアルフォンにも影響している感覚はあります。
ーー当時を知らない世代からすると、時代背景を踏まえて今の『ヤマト』を語ってくださることは非常に興味深いです。
福井:あの当時のままのアルフォンを描いてしまうとおそらく忌避感をもたれてしまうので、時代感覚の違いは確実にあると思います。
古川:そういう意味で、個々の人間ドラマが対等な関係性に基づいている印象はありますね。例えば、囚われの身である雪の側からするとかなり動揺しそうな状況ですが、相手がアルフォンだからこそ関係が成立している。女性が見ず知らずの男性に囚われてしまった場合、どうにかして逃げるか、逆に開き直るしかないじゃないですか。
ただ、よく考えるとアルフォンが雪という女性に興味を持っている時点で、アドバンテージは雪にある。身体的な脅威があったとしても、雪はアルフォンに対して自分で何とかしようという胆力を発揮できるんです。だからこそ家探しもするし、どうにか逃げようともする。
今回のアルフォンはあまりにも対等に雪のことを扱いますし、人間を理解したいと思ってしまう。それ故に、どうコミュニケーションを取ればいいのかデータは持っているはずなのに、自分の感情的にそうしたくないという葛藤があって、ああいった台詞回しやストーリーの流れになる。
「デザリアムのことを教えたうえでどうするか」、「自分が古代を殺したらどうするか」なんてことを聞いてしまう訳です。キャラクター同士の関係性が対等になることで、ここまで人間ドラマが広がるのは本当に面白いなと。
今のアルフォンの状況は、「異文化の人たちが同じ屋根の下で共同生活を送っていて、その中で国に帰りたい人とその国のことを知りたい人がいる」みたいなシチュエーションに近いんです。何なら雪にもここに留まってほしいと思っている。
そんな中で色々なコミュニケーションを試みていきますが、雪には「古代のもとへ帰る」という強い意思がある。対するアルフォンは命令として雪から人間たちやこの世界の情報がほしい、そして個人的には彼女の気持ちが知りたいという心境に行き着いている。それがこの第二章だと思いますので、ぜひそういった感覚でご覧になっていただけると嬉しいです。
ーーアルフォンの感情を掘り下げていくと、彼の違った一面が露わになりそうですね。
古川:実は、今のアルフォンって思春期みたいな状況にあるんです。
福井:そうですね。あの姿形と語彙力なので、そういう風に見えないようにはなっています。「格好いい」と感じられるラインはきっちり維持していますが、紐解いていくとそういうことだよなと。
今回の第二章でも協力できないという雪に対して、「それは軍人としてなのか、それとも古代という男を愛する女性としてなのか」とわざわざ聞いてしまっていて。なんて馬鹿なことを聞くのだろうかと思いますよ(笑)。
一同:(笑)
福井:ただ、古川さんの声だとなぜか真っ当な問いに聞こえてしまうし、それに雪が言い返そうとすると、「答えなくていい」と止めてしまう。あれって雪の回答によっては関係が終わってしまうので、恐らくとっさに出たものなんですよ。完成された存在のように見えて実は……というところが、今回のアルフォンの面白さだと思いますね。
古川:僕はアルフォンのことを、感情の扱いに不慣れで振り回されてしまう男性だと捉えています。雪という女性に対してどうしたら良いのか分からないから、マズイ質問でもとりあえず聞いてしまう。個人的にはそういうところが好きなんです。もうどこまでも深掘りできるんですよ、アルフォンというキャラクターは。
ーー収録に関して、第一章のインタビューで「福井さんとディスカッションしつつ、アルフォンのキャラクターを構築した」という話題があったかと思います。
福井:先ほど古川さんが語ってくれた部分に辿り着くまでのところですね。実はこの先の展開は何もお教えしていないんです。今回は古川さんに限らず、全ての役者さんたちにこの先の展開を一切伝えていません。
たとえば秘密を持ったキャラクターがいるとして、他の3人にその秘密を知られたくない時は、わざわざその方だけを呼んで「実はこうだけど誰にも言わないでほしい」とお願いしています。
先の展開の準備として、事前に演技を構築することをせずに演じてもらおうと思っていて。それに関しては、アルフォンも同様です。なぜ雪がアルフォンの下を去ろうとしないのか、もうすぐ分かると思いますが、そういった部分も古川さんにはまだお知らせしていなかったと思います。
古川:今お話を伺ったことで、この先の展開が怖くなってきました……。
ーー古川さんは福井さんとのディスカッションで印象に残っていることはありますか?
古川:最初の収録で伺ったアルフォンというキャラクターの詳細が印象に残っています。それまではオーディションでいただいた資料以外にこのリメイクシリーズのアルフォンの情報はなく、第二章の台本の序盤を読ませていただいた時の台詞だけだったんです。
アルフォンというキャラクターは、人間ではあるものの“感情”というものの経験が乏しい。だから感情を知りたいと思っているし、人間をもっと理解したいという気持ちがある。そんな中で雪に対しては、自分のものにしたいというより人間のことを知りたいという気持ちを出してほしいというディレクションを受けました。
目的のために雪を匿っているのは間違いないですが、それとは別に人間に興味があって、その上で雪という女性にも興味があって、彼女を通して異文化、異性についてちゃんと知りたいというアグレッシブな一面がある。ある程度コミュニケーションの理想的なテンプレートは持っているはずなのに、台詞を繋いでいくと言われたことに対して戸惑いがあったり、傷ついたり、感情に対して未熟だからこそ出てくる一面があります。
例えば雪に「あなたを殺すわ」と言われて、「そうだろうね」と返すやり取りがあるのですが、その後の「何も思われないくらいなら憎まれた方がいい」という台詞に悲しみを込めた方が良いと思っていたんです。
ただ、ディレクションを踏まえると、少し面白さも感じていたことが分かるようにしたいなと。新しいことを知った喜びと寂しさが同居しているという考え方に変わりました。
ーーそんなアルフォンと対峙する雪についてはいかがでしょうか? 掛け合ってみての印象やキャラクターの魅力をお聞かせください。
古川:桑島さんと掛け合えるのは嬉しいですが、今回の雪は「超怖いな」と思っています。いわば「手負いの獣」のような状態なんですよね。
ファーストコンタクトの時もそうでしたが、「あなたたちには一片たりとも何かを渡さない」という使命感を感じます。同じアフレコブースにいると、その鬼気迫る感じや拒絶感をひしひしと感じる訳です。
アルフォンの視点で考えると雪は攻撃的に見えるのですが、これまでのシリーズを追いかけて来たみなさんにとっては、彼女の凛々しさやヤマトクルーとしての矜持が垣間見えるのではないかなと。
やっぱりこれだけ凛とした女性は格好いいですよね。憧れてしまう強さや輝きが介在しているから、我々との掛け合いではしっかり戦う姿勢で臨んでくださっていると思っています。
そんな雪がヤマトの仲間たちと再会したときにどんな表情を見せてくれるのか、そこに辿り着くまでにどんな選択をするのかという部分も見どころになってくるので、ぜひ今後の活躍にも期待してほしいキャラクターです。
ーー福井さんは今回の雪について、どのような印象を持っていますか?
福井:桑島さんとは本当に長い付き合いになったので、全幅の信頼を置いています。アドリブで入れる息づかいひとつとっても、殺気が伝わってくるというか。だからアルフォンとのやりとりも、「きっとやりやすいだろうな」と思って見ています。