元気の源で在り続けるアルバムになっていたら嬉しいです――『プリキュア』と共に進んできた軌跡を詰め込んだベストアルバム『“えがおのおくりもの”』に向けて|吉武千颯さんインタビュー
“えがおのおくりもの”が呼んだ奇跡?
──実はずいぶん前から作詞は決まっていたというお話もおうかがいしています。
吉武:そうなんです。アルバムが決まった時に「作詞曲も入れるよ」と言っていただき、「まさか初作詞が『プリキュア』!」と驚きました。2曲の作詞をするというのはその時は知らず、本格的にアルバムを作るというときに知って。「私大丈夫か!?」って(笑)。
アルバムの話が出た時から、歌詞のアイデアや言葉をノートにメモして準備していたのですが、いざ馬瀬さんからいただいた曲を聴くと「やっぱりイチから考えた方がいいかも」と思い直して、ノートを参考にはしつつ改めて綴っていきました。本当に貴重な経験で、アップテンポ(M-1)とバラード(M-18)と、異なるテイストの楽曲に挑戦させてもらったことは、自分の中でめちゃくちゃ大きな経験になったのではないかなと思っています。
──きっと今頃、皆さんも新曲をたのしみにされていると思います。
吉武:どちらの曲に関しても、“そのまま”というか。私はおしゃれな言い方にはできなかったんです。ストレートすぎるくらいストレートに、おもいきり、今まで感じてきた思いや経験をストレートに書いたつもりです。えがおにつながる2曲になっていたら嬉しいなって思います。
──オープニングの「ユメ♡pallet」はどのような気持ちで作詞をされていたのでしょうか。
吉武:私はお歌をいつも色に捉えることが多くて。「ユメ♡pallet」というタイトルには、たくさんの夢に出会わせてくれた楽曲たちへの感謝がユメに詰まっていて、今まで歌っていた歌が大集合しているという意味がpalletという言葉に詰まっています。『プリキュア』の楽曲を通してもらってきた夢、気付いたこと、これからにつなげたいという気持ち……そういうものを大集合させました。
──いつもインタビューでも、色のことを教えてくれますものね。吉武さんらしいタイトルだなと思っていました。夢がカタカナで真ん中にはハートがあって、パレットが英語っていう。
吉武:めちゃくちゃいろいろなパターンを書き出しました(笑)。最初はパレットをカタカナにしたり、ユメを漢字にしてみたり……。
──吉武さんは手でハートを表現されるじゃないですか。それも込められているのかなって思っていました。
吉武:よくしますね(笑)。夢と夢をつないでくれた、その“愛”を表現したくて、真ん中にハートを持ってきたんです。実は☆も考えていたんです。他にもいろいろな表記を試しましたが、最終的にこの形にしようと決めました。
──〈みんなの好きよ、集まれっ集合!〉という言葉通り、たくさんの好きが詰まった曲だなと感じていました。言葉もですが、サウンド的にも、タイトル通りとてもカラフルで、キラキラしていて、本当に素敵なお歌だなって。
吉武:ありがとうございます。ステージから自分が見てきたみんなのえがおやキラキラ感が、歌詞にも、馬瀬さんのメロディーにもたくさん入っていると思います。アルバムのはじまりの曲ですし、きっとワクワクしてもらえるんじゃないかなって思っています。
──ラストの「“えがおのおくりもの”」はバラード。「“えがおのおくりもの”」も、吉武さんの思いの丈が詰まっている曲となっていますが、タイトルにある二重クォーテーション(“”)は意図があってのことなのでしょうか。
井上:(吉武さんに)どうなんですか?
吉武:えっ?
井上:歌詞が送られてきた時に“”が入っていた気がしたので、全部活かそうと思っていました。
吉武:私、もともとどこにつけていましたかね……? 私は意図したものというよりかは、思いをより伝えるために井上さんがつけてくださったんだなと思っていて……。
井上:あれ? もしかしたら、僕は違った受け取り方をしていたかもしれません。僕は“”がすでについているものだと思って見ていて、“”にえくぼや小さなピースが込められているように感じていたんです。
一同:おおお!!!
井上:「吉武さんはそういう意味でつけたんだろうなあ……」と受け取ったつもりでしたが、どうやら自分がつけていたようですね(笑)。
──なるほど! えがおが呼んだ奇跡だったんですね(笑)。
吉武:起きていました(笑)。嬉しい〜。
新曲のレコーディングで気持ちが溢れてしまい……
──『プリキュア』シリーズの楽曲を歌うとき、吉武さんの中ではどのような心の準備があるんでしょうか。
吉武:レコーディングまでの間に「この歌詞はこういうシーンのことかな」などと、景色をめちゃくちゃ明確にしているんです。毎週『プリキュア』を見て感じたものや、プリキュアたちが話していた心に残る言葉を、歌詞と重ねてレコーディングに臨むことが多いです。
──新曲2曲に関しては、特にそうだったのでは?
吉武:めちゃくちゃ明確でしたね。作詞をしていた時からいろいろなことを思い浮かべていたので……プリキュアたちの感じてきたもの、自分が立つステージの光景やお友だちと過ごす時間を思い出しながら書き上げました。だからこそ、ブースの中で号泣してしまって……(苦笑)。あんなに号泣することは今までなかったので、自分でも驚きました。「どれだけ泣くんだろう」って。
──「“えがおのおくりもの”」では感情が溢れすぎてしまい、休憩を挟むことになった場面がありましたね(詳しくは第2弾インタビューでお話しています)。でも無理もないだろうなあって。
吉武:練習のときに泣いてしまって「やばい、歌えない!どうしよう!」ってなったことは今までも何度かあったんです。でもレコーディング当日、ブースの中で号泣して何度も休憩してもらったことはなくて(苦笑)。自分でも焦りました。それくらい、自分のなかでプリキュアの存在、みんなの存在は大きなものなんだなと改めて実感したなと思っています。
──あのとき、井上さんはどのような想いで見守られていたのですか?
井上:よく泣いているなぁと(笑)。ただ、積み重ねた分だけ、この2曲に思いが込められていると思います。きっとそれは本人がいちばん感じられていることじゃないかなと。僕もほぼ一緒に歩ませてもらっていますが、僕はあくまで他人で、吉武さんにしか分からないことで。本人にしか分からない感情で、この2曲を歌っていただいたんだろうなというのは、当日も思っていましたし、今もそう思っていますね。
──当日のインタビューで井上さんが、新曲に関しては「アーティスト・吉武千颯の曲でもある」とおっしゃっていたことがとても印象的でした。
井上:そう思っています。これからの吉武さんがまた楽しみになる曲になっているんじゃないかなと思っています。
さまざまな方の愛をいただいているからこそ、今の私がある
──作詞をしたことで作家さんへのリスペクトの気持ちがより強くなった、といったことをレコーディング当日にもお話されていました。馬瀬みさきさんをはじめ、さまざま作家が手掛けた曲が今回のアルバムに収録されています。作家陣の皆さんの『プリキュア』に対する愛もすごいですよね。
吉武:本当に! 作家の皆さまとお話しするたびに『プリキュア』の楽曲に関わる方ならではの、特別なエネルギーみたいなものをいつも感じるんです。その思いに応えようと、もっともっと大切に、心を込めて歌おうと思います。
レコーディングでは、皆さんが温かく見守ってくれているのをすごく感じます。「うんうん」と優しいまなざしを送ってくださる印象です。愛を託してくださっていることも感じています。その愛をしっかり受け取らねば、伝えなければ、という一心で走ってきました。『スタプリ』の頃から、作家の皆さんがこだわりを持って作り上げた楽曲を私に託してくださる姿勢に、本当に感謝しています。
特に井上さんと音楽を作らせていただくようになってからは、私の中での音楽への向き合い方が大きく変わってきました。以前(レコーディング時)のインタビューでも「楽曲を通して成長させてもらっているんです」とお話ししましたが、井上さんからのアドバイスやディレクションのおかげで、毎回新しい発見がありますし、音楽への姿勢がどんどん深まっています。
──井上さんからのディレクションで印象的だったものというとどうでしょう?
吉武:きっと人によってディレクションのやり方は違うと思うのですが、私に対しては、井上さんってあまり「こうしてください」といった具体的なことは言わないんですね。むしろ「この曲はこういう意味を持っているよ」というところを教えてくださり、「あとはどうぞ」という感じなんです。正解は言わず、じっくり考える時間をくださっているというか。そうすることで、私自身が曲と向き合いながら「そういう意味なら、こういう曲にしたいな」という想いを膨らませることができています。
また、さまざまな方の愛をいただいているからこそ、今の私があるなと感じています。作家さんやスタッフさんも含めて、皆さんが温かい気持ちを込めて作品を作り、サポートしてくださっていることが、私の成長につながっているんだろうなと思っています。
──この取材段階では、完パケした新曲を含めまるっと聴いているのは井上さんしかいない状態。もし良かったら、井上さんは全曲改めて聴かれてどのように感じられたか、教えていただけますか。
井上:さっきもお話したことと重なってしまうかもしれませんが、アルバム全体がひとつのストーリーになっています。『スター☆トゥインクルプリキュア』は他のシリーズに比べると少ないんですよね。僕が直接関わっていなかった曲も多いんです。そして、後半の「Dear Shine Sky」(M-10/『ひろがるスカイ!プリキュア』後期エンディング主題歌)をきっかけに少しずつ過去の作品に戻り、最後に新アンサムソング「Wonder Flowers プリキュア」、そして新曲という流れになっています。個人的には、すごく不思議な気持ちになりますね。
吉武:へえ!
──不思議な気持ちですか?
井上:初期の曲は若さがある歌い方をしてて。歌い方があどけないだけでなく、声そのものが若いんですよね。吉武さんの楽曲を聴いてくださっているファンの皆様の中には当時から応援してくれている方々もいらっしゃると思いますが、最近ファンになったという人も楽しめる作品だと思います。そうした声色の違いはあれど、どの時代においても、魅力のある声だなと改めて感じましたね。
吉武:わあ……嬉しいです。
──声のグラデーションも楽しめる一枚になっているということですね。まさに「ユメ♡pallet」。