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『パリに咲くエトワール』監督・谷口悟朗×バレエ作画監督・やぐちひろこインタビュー

バレエシーンは見栄えやアニメらしい表現よりもリアリティを追求──劇場アニメ『パリに咲くエトワール』監督・谷口悟朗さん、バレエ作画監督・やぐちひろこさんインタビュー

『ONE PIECE FILM RED』を手掛けた谷口悟朗監督と、『崖の上のポニョ』『魔女の宅急便』などで知られる近藤勝也氏がタッグを組んだオリジナル劇場アニメーション『パリに咲くエトワール』が、2026年3月13日(金)より全国で公開。

本作の舞台は20世紀初頭のフランス・パリ。画家志望のフジコと、なぎなたの名手でありながらバレエへの憧れを心に秘める千鶴が、悩みを抱えながらもお互いを支え合い、夢を追いかけていく物語が描かれます。

今回は、谷口監督とバレエ作画監督を務めたやぐちひろこさんにインタビュー。バレエ作画監督が本作で必要になった理由とやぐちさんにお願いした意図、そして作画するうえで“経験”が活きてくることについても語っていただきました。

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パリに咲くエトワール
20世紀初頭のパリ。そこに日本からやってきたふたりの少女が暮らしていた。一人は、夫を支えるよき妻となる将来を望まれながらも、画家を夢見るフジコ。もう一人は、武家の家系に生まれ、ナギナタの名手ながらバレエに心惹かれる千鶴。ある日、トラブルに巻き込まれたフジコを千鶴が偶然助けるが、それは幼い日に横浜で出会ったことがあるふたりの、運命的な再会だった。千鶴の夢を知ったフジコは、同じアパルトマンに住む青年ルスランの母オルガが、ロシア出身の元バレリーナであることを知り、レッスンを依頼する。東洋人であることで様々な壁にぶつかりながらも、ふたりは夢に向けて歩き出すが、ある日フジコの保護者である叔父さんが、失踪してしまう。フジコと千鶴、ふたりはそれぞれの夢を掴むことができるのだろうか――。夢見るふたりの少女とともに、100年前の華の都へ作品名パリに咲くエトワール放送形態劇場版アニメスケジュール2026年3月13日(金)キャストフジコ:當真あみ千鶴:嵐莉菜ルスラン:早乙女太一オルガ:門脇麦若林忠:尾上松也エンゾ:角田晃広(東京03)矢島正一:津田健次郎千鶴の母:榊原良子千鶴の父:大塚明夫フジコの母:甲斐田裕子フジコの父:藤真秀ジャンヌ:名塚...

バレエシーンにはリアリティが求められた

ーーバレエ作画監督という役割は珍しいと思いました。今回、やぐちさんにバレエ作画監督をお願いしたきっかけや経緯を教えてください。

谷口悟朗監督(以下、谷口):最初はバレエ作画監督なしでもいけると思っていたのですが、実際に調べたり、作業をしたりすればするほど、これは専門家がいないと所作の細かいところが表現できないと分かって。それで、専門でやってくれそうな人は誰かいないのかという話になり、やぐちさんにお願いすることとなったんです。下手したらバレエシーンは別班で用意しなきゃいけないところだったので、本当にやぐちさんに入っていただいて助かりました。

やぐちひろこさん(以下、やぐち):私はたまたまバレエが好きで経験もあったので、アニメでバレエを描けるのが嬉しかったですし、少しでもお役に立てればなと思ってお請けしました。

ーーバレエはどれくらいやられていたのですか?

やぐち:4歳から中学校卒業するくらいまでやっていました。大人になってからも、ちょくちょくやっています。今もバレエ音楽を聞きながら作業することがあるくらい大好きなのですが、バレエをアニメでやるのって結構無謀なことだと思っていたんです。なので、バレエに詳しい方が本作のアニメーターさんのなかにいらっしゃらないと聞いて、それは大変だっただろうなと察しました。

ーーそれくらい、バレエをアニメーションとして表現するのは難しい。

谷口:普通の歌って踊るシーンより、数段難しいです。特にフランスのバレエは、調べれば調べるほど、経験者がいないとどうしようもないということが分かりました。今回、バレエの振り付けは田北志のぶさんに色々と取材したり、実際の所作をムービーで撮らせてもらったりしたんです。モーションキャプチャーも撮ったのですが、激しいダンスなどと違って正しいところを通過しないといけない動きなどがモーションキャプチャーだと上手く撮れないときもあるんです。全身が撮れるわけじゃないので、どうしてもノイズも出てしまいますし。

ーーマーカーを貼っていない細かい部分などがノイズになってしまうというか。

谷口:こういった作品だと、モーションキャプチャーはどうしてもアタリにしかならないんですよね。各アニメーターさんには実際にバレエを踊っている映像を資料としてお渡ししていましたが、バレエ経験者じゃないから、関節の使い方や体重移動などをうまく表現できなさそうで。

ーーアニメはいい意味で“嘘”をついて表現することもあると思いますが、バレエシーンではそれができなかった。

谷口:どんなものであっても、写実的なものを絵に置き換えた段階で、誇張だったりとか、作画担当の微妙な癖だったりとかが入ると思います。ただ、知ったうえで嘘をつくのか、知らずに嘘をつくのかでは、ぜんぜん描き方が違うんですよ。バレエに関しては嘘をついていい幅がものすごく狭くて。実際にやぐちさんにお願いしてから、バレエの日々のちょっとしたことが分かって本当によかったです。例えば、休憩中は何をやっているのかとか。

やぐち:踊っていないときはどういう格好で何をしているのかなど、確かに経験したことがないと分からないですよね。

ーーお話を聞いているとやぐちさんのバレエ経験が本作では活きたのかなと思いました。

やぐち:ちょっとは活きているかな(笑)。

谷口:いやいや、十分に活きていましたよ。特にオルガの所作ですね。例えば、千鶴にオルガがバレエを教えるシーンの一連の流れは、経験者じゃないとなかなか出てこないです。ボディチェックのシーンも、具体的にどこをどれくらい見るのかということを、やぐちさんに経験則で教えてもらいました。

やぐち:関わっていくなかで、私も色々と言いたいことが出てきちゃって(笑)。本作はバレエが軸のひとつになっていますし、世界観の描き方もリアル寄りになっていたので、バレエシーンもリアリティがないと作品が薄っぺらくなってしまうと思ったんです。なので、私としてはバレエが好きな方や経験者の方が見ても違和感がない、自然に見て楽しんでもらうことを意識していました。

バレエは細かい角度ひとつで雰囲気が変わる

ーーそのほか、やぐちさんの経験が活きたと感じたシーンは?

谷口:千鶴の表情の変化も助かりました。千鶴がバレエに慣れていくのに合わせて、表情の感情表現の幅も広がっていくんですよね。その塩梅を調整いただけてよかったです。

やぐち:踊っているときの表情って、アニメ的に描いてしまうと思い切り険しい顔をしたり、すごく楽しい顔をしたりしがちなんです。ただ、実際のバレエの場合は、もっと素に近い顔で踊っているんですよね。リアリティを求める作品にするならば、あまり過剰な表現しないほうがいいかなと思い、調整することが多かったです。

ーーバレエシーンの作画は、リアリティというのがひとつのキーワードになっているんですね。

やぐち:そうですね。動きに関してもリアリティを求めて、手先まで細かくチェックしました。バレエって、細かい角度ひとつで本当に雰囲気も変わっちゃうんですよ。そういう意味では、モーションキャプチャーの3Dガイドにかなり助けられました。あれがなかったら、完成しなかったかもと思うくらい。逆にガイドがなかった練習風景のシーンなどは、統一感を出すのに苦労しました。作画担当のみなさんは本当にやる気に満ちていて、「こうしたほうが絵的によさそう」という意思を伝えてくださったんです。ただ、実際のバレエではそうはならないという作画もあって。その説明や調整が大変でした。

谷口:もともとバレエは、舞台があって観客がいてというところから、所作ができあがったんだと思うんです。対して各アニメーターさんは、映像の画面の見栄えで考えるから、ズレがでちゃったのかなと。

やぐち:そうだと思います。アニメーターのみなさんには、画面の見栄えはいいけれど、普段はこういうことをやらないんだよとお伝えして調整してもらいました。同じ仕事をしている身として、みなさんの見栄えをよくしたいという気持ちも分かりましたし、ありがたかったので、修正をお願いするときは歯がゆかったですね。でも、アニメーターのみなさんは本当に研究して作画に臨んでくださって。その気持ちがすごく嬉しかったです。

谷口:この役職をやぐちさんにお願いしたのは、バレエ経験者ということもあったのですが、過去作品の経歴から、いい意味でスケジュールと向き合いながら調整してやってくださるという印象があったからなんです。時々、「ワンシーンだけ完璧にできました、でも他は何もできていません」という方もいらっしゃって。そうなると、途端に色々と崩れていってしまいます。やぐちさんはトータルでの物量の管理能力・把握能力がある方だと感じたのも、お願いしたいと思った意図のひとつでした。

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