
【ニワカ知識はトサカにくるぜ!】鳥類学者・川上和人先生に聞く! アニメ『ニワトリ・ファイター』を2億倍楽しむためのニワトリ講座
2020年12月の漫画原作連載開始直後から、その斬新な世界観と圧倒的な画力で北米・中南米を中心に大きな話題を呼んでいるのが、マンガ『ニワトリ・ファイター』。現在では世界50カ国以上で翻訳展開されているほか、2026年4月からは、いよいよファンが待望のアニメの国内放送が開始となります。
私たちの生活にも欠かせない、そして人類にとって一番身近な鳥類とも言える「ニワトリ」が主人公の本作ですが、皆さんはニワトリについてどれくらい知っていますか?
そもそも原作におけるニワトリの描写がどれくらい正しいと思いますか?
“ニワカ知識”で本作を語るのはニワトリにも失礼ということで、アニメイトタイムズでは鳥類学の第一人者であり、鳥類に関する著書も多数執筆されている鳥類学者・川上和人先生をお招きして、ニワトリについて徹底的に解説していただきました。
これを読めばアニメ『ニワトリ・ファイター』が2億倍楽しくなること間違いなし! ニワトリと鳥類学の神秘の世界へようこそ!
川上和人さんプロフィール
1973年生まれ。鳥類学者。農学博士。森林総合研究所 北海道支所 地域研究監。2017(平成29)年にベストセラーになった『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』など、鳥に関する多数の著書のほか、図鑑の監修やNHK『子ども科学電話相談』への出演などの幅広い活動を行う。
目次
- この『ニワトリ・ファイター』は鳥類学的にも信用できる作品ですね(笑)
- 昔、ニワトリは富や権力の象徴だった!?
- どうしてニワトリは飛べない方向に進化したのか?
- 「トサカ」の秘密
- ケイジのような進化は有り得るのか?
- ニワトリについて気になるアレコレ
- 『ニワトリ・ファイター』原作情報
- アニメ情報
この『ニワトリ・ファイター』は鳥類学的にも信用できる作品ですね(笑)
──川上先生には事前に『ニワトリ・ファイター』の漫画を読んでいただきましたが、鳥類学者目線でいかがですか……?
鳥類学者・川上和人さん(以下、川上):鳥って体全体がモコモコとした羽毛に包まれていて、どこにどんな骨や筋肉が付いているのか分かりづらいので、それを描くのはなかなか難しいんですよ。いい加減な描き方だと「これだと重心が悪くて転びそうだな……」なんて思ったりもしますが、この作品は鳥類学者目線でも本当にしっかり描かれていると感じました。
特に一番よく描けていると感じたのは、第6巻の表紙にもなっている烏骨鶏(うこっけい)の足の指の数です。ニワトリを含む一般的な鳥の足の指は「前指3本・後ろ指1本」になっていますが、烏骨鶏の場合は親指が2本あるので「前指3本・後ろ指2本」の全部で5本指、場合によっては6本指なこともあって普通の鳥とは全く違うんです。
そんなところまできちんと描かれていたので、この『ニワトリ・ファイター』は鳥類学的にも信用できる作品ですね(笑)。
一同:(笑)
──まさかのいきなりお墨付きを頂いてしまいました。今回のインタビューでは『ニワトリ・ファイター』という作品をベースに、ニワトリについて学べたらと思いますが、まずはニワトリの学名やルーツといった基礎知識を教えていただけますか?
川上:ニワトリは世界中に常時200億羽程いると言われている世界で最も数が多い鳥です。しかも、ニワトリはほぼゼロ距離で接することができるので、人間にとって最も身近な鳥でもあります。
ニワトリのルーツは東南アジアにいる「セキショクヤケイ」というキジの仲間で、このセキショクヤケイを人間が飼い始めて、長い時間かけて改良して現在のニワトリになっています。ちなみにニワトリの学名は「ガルス・ガルス(Gallus gallus)」と言って、ガルス属のガルスという意味になり、ガルスという言葉は「雄鶏」を指します。
そこから人間が、卵をたくさん産んでいたり、お肉がたくさん付いている個体の選抜を繰り返して、段々と飼いやすくしたのが現在のニワトリです。これまでにも小型の「チャボ」から大型の「軍鶏(シャモ)」、日本で一番大きいものだと体重が7キロ近くのものもいる九州の「天草大王(あまくさだいおう)」など、世界中で様々な品種が作られています。
──いわゆる家畜のような形で、人間の好みに合わせて品種改良されてきたんですね。
川上:一般的に「家畜」は哺乳動物に対しての言葉で、鳥の場合は「家禽(かきん)」と呼びます。例えばアヒルはマガモを改良して作ったものですが、同じようにセキショクヤケイをルーツとして選抜・改良してきたのがニワトリというわけです。
セキショクヤケイは、私たちが地鶏などで見るような、全身が赤っぽい見た目をしています。ニワトリというと「白」をイメージする方が多いと思いますが、赤っぽい見た目のセキショクヤケイがルーツなんです。
では、どうしてニワトリが白色になったかと言うと、それは人間が白を好んだからです。ニワトリに限らず、ヤギや羊などもそうですが、人間は野生動物を飼育している時に白い個体が生まれると、それを選びがちなんです。ニワトリもそういった流れで、白い個体が一般的になったと思ってください。
──先ほどチャボや軍鶏の話が出ましたが、よく耳にする「雄鶏(おんどり)」と「雌鶏(めんどり)」は単純にオスメスの違いという認識で良いのでしょうか?
川上:そうですね。オスとメスの区別で一番分かりやすいのは「トサカ」の大きさで、オスはトサカが立派で大きく、メスは小さめなのですぐに見分けがつきますよ。
──たしかに漫画を改めて確認すると、エリザベスのトサカは少し小さ目になっていますね。
▲左:エリザベス、右:ケイジ
川上:実はニワトリは「一夫多妻」なので、オスは非常に気性が荒くて、同じ場所でたくさん飼うと激しくケンカをしてしまいます。基本的にはメスをたくさん飼って卵を取り、オスの数は少なめにして種付け用に飼育することが多いので、人間にとってニワトリのオスメスの違いは重要なんです。だから、あえて「雄鶏」と「雌鶏」という言い方で区別しています。
あと、チャボやシャモというのは品種です。チャボは英語で「バンタム(Bantam)」と言いいますが、ボクシング好きな方は「バンタム級」という階級を思い浮かべると思います。あれは「チャボのように小柄」というところから名付けられています。
──個人的にチャボと軍鶏は名前が似ていて、子供の頃は同じだと勘違いしていました。
川上:名前は似ていますよね。軍鶏の方が、体が大きくて力も強く、特にオスは足にある「蹴爪(けづめ)」が大きくて、それを使って喧嘩をするような性質が引き出された品種です。闘鶏はフィリピンなどで特に盛んですが、この蹴爪に鉄製の爪を付けて相手が死ぬまで戦わせるなんてこともやるそうです。
あと、現代でもよく使われる「バトルロイヤル」という言葉がありますが、これは闘鶏から生まれた言葉なんですよ。
一同:へー(関心)。
川上:イギリスの王様が自分専用の闘鶏場を持っていて、そこで最後の一羽になるまで複数のニワトリ同士を戦わせたのが始まりです。「ロイヤル」という言葉がついているのは、まさに王家(ロイヤル)が楽しんでいた証なんですね。
それで「バトルロイヤル」と呼ばれたのが、今は一般の方も使う言葉になっています。実は皆さんも気づかないうちに、ニワトリに関連した言葉を使っているわけです。
──闘鶏用に飼われたり、バトルロイヤルの語源にもなっているニワトリですが、そもそもニワトリは戦闘能力が高い生き物なんですか?
川上:めちゃくちゃ高いです。足にある蹴爪を見てもらうとわかると思いますが、種類にもよりますが結構大きくて、あれで蹴り合うんです。
ニワトリは一夫多妻制なので、自分が囲っているメスと縄張りを防衛することがオスの役割です。当然、メスを奪い合ったりする中であぶれるものもいます。でも、そいつらもメスと“つがい”になりたいし、縄張りを持ちたいとなると、他のニワトリから奪い取るしかありません。だからニワトリはオス同士で激しく戦うんですね。
そんな中から特に気性が荒いというか、ファイティングスピリッツの高い個体を選抜して作られたのが軍鶏だと思ってください。最近では動物虐待という観点から禁止される動きが世界中でありますが、品種によっては攻撃性が非常に高いため、蹴爪に鉄製の器具をつけて片方が死ぬまで闘鶏させることもあるくらいです。
──蹴爪は突き刺さりそうな見た目ですね。
川上:肉体の装飾が大きければ大きいほど強い証なので、蹴爪に関しては戦う前にお互いの格付けができるという意味もあると思います。その上で、実際に戦いにも使う部位なのだと考えてください。
──そう聞くと、ケイジが巨大な鬼獣に立ち向かっていく姿も、あながちファンタジーとは言い切れないリアリティを感じます。
川上:そうですね。数ある鳥類の中でも、ニワトリは比較的戦う種類ですので、そんなニワトリを主人公に選んでいるのは鳥類学的な観点から見ても非常に納得がいきます。
昔、ニワトリは富や権力の象徴だった!?
──東南アジアがルーツの飛べるないニワトリが、どうやって世界中に広がっていったのでしょうか?
川上:どれくらいの時期にセキショクヤケイが家禽化されたかは、3,600年前という説もあれば、8,000年前というように諸説あり、実はよくわかっていません。ただし、世界中に広がっていった流れはわかっています。
キジの仲間のセキショクヤケイは長距離を飛ぶのは苦手ですが、短距離であれば数十から百メートルくらい飛べる鳥だと思ってください。それが家禽化されて肉がたくさん付くようになると、より飛べなくなるから飼いやすくて珍重されたわけです。しかも色が綺麗で観賞用にもなるので、人々はこぞって世界中へ連れて行ったんです。
昔の人たちは船で移動する時にニワトリを一緒に持って行ったらしく、例えばイースター島などにもニワトリを連れて船で渡っていたことがわかっています。ニワトリは飼いやすくてお肉もたっぷりとれるし、卵も産んでくれるので、それだけ人間にとって有用な生き物だったんです。
──そうすると日本にニワトリが入ってきた時期も不明ですか?
川上:確実な記録としては弥生時代で、紀元前2~3世紀頃には既に日本に入ってきていたようです。ただし、ニワトリというと卵や食肉をイメージするかもしれませんが、弥生時代の遺跡から出てくるニワトリの骨はオスに偏っています。もしかしたら当時の日本ではまだ上手に繁殖ができなかったのではないかと言われています。
では何のために飼われていたのか、もちろん本当のことは誰もわかりませんが、有力な説としては「威信財(いしんざい)」だったのではと言われています。威信財というのは、いわゆるお金持ちが持っている富や権力の象徴のことです。
ニワトリは「時告げ鳥」とも言われるように朝に鳴くことで時間もわかるし、それ以外にも宗教的な象徴として飼っていた可能性もあります。もしくは闘鶏として飼っていたかもしれませんが、少なくとも最初は食用でなかったのは間違いありません。なぜなら、見つかる骨がほぼオスである以上、卵や肉が目的ではなかったと推測されるからです。
古墳時代になると、ニワトリの絵が描かれた土器や鳥形の埴輪などが作られるようになるので、それくらい日本でも長い歴史がある生き物だと思ってください。
──高貴な生まれと言うと語弊があるかもしれませんが、日本に持ち込まれた時と今とでは全く違っていたんですね。
川上:それこそ最初は大陸からきた珍しい生き物なので、ニワトリを持っているだけで誰もが尊敬してくれる、それくらいの価値があったのではないかと思いますね。














































