これがワールドワイドヒーロースタイル――『HEROMAN』特別企画第3弾・難波日登志監督インタビュー「実は最初、サイが主人公だったんです!?」
アメコミ好きなら知らない人はいないスーパークリエイター、スタン・リー氏と日本アニメ界屈指のハイクオリティスタジオ、BONESがコラボして産まれたアニメ『HEROMAN』。とにかくスピード感あふれる展開。あっという間のスクラッグ編を経て、今や新章に突入。もうわくわくして毎週見逃せない!
8月には待望のDVD&Blu-ray第1巻も発売される『HEROMAN』。アニメイトTVがお送りする特別企画第3弾は難波日登志監督インタビュー。どうやってあの作品が生まれたのか?その秘密が今明かされる!
●スタン・リー氏のプロットの濃密さに驚いたプロジェクト発足時
――『HEROMAN』の監督のオファーを受けた時の感想を教えてください
難波監督(以下難波):まずBONESさんからお話をいただいた時、「何だろう?このべタなタイトルは。怪しいなあ。でも『スカルマン』もBONESさんだし」と(笑)。
僕はアメコミにそんなに詳しくないのでスタンさんのことは、『スパイダーマン』くらいの知識しかなくて、作品に参加して知れば知るほど、そのすごさがわかりました。
――参加された時はプロジェクトはどんな段階だったんでしょうか?
難波:2年前からプロジェクトは動いていて、僕が参加した時点ではパイロットフィルムとスタンさんのプロットがありました。まさにシナリオに入る前という段階です。HEROMANの誕生、地球征服を目論むスクラッグという謎の生命体と戦うストーリーで「これを膨らませたらおもしろいだろうな」と思っていたら、それが9話分までと聞いてビックリしましたね。
逆に不安にもなりました。始まってすぐにバトルが続く展開で、もう少し息抜きできる日常や笑えるシーンが必要かなって。でも9話分で描かなくちゃいけないのはHEROMANとジョーイの関係性の確立であり、ジョーイがヒーローとして覚醒するのに必要な展開なんだと。
それは長すぎてはいけないし、短いと簡単に感じてしまいそうだし。9話って実はちょうどいい長さなんじゃないか。そう気づいてからは安心してやれましたよ。
――スタンさんと打ち合わせをしながら作られているそうですね。
難波:基本的にはスカイプを使ってます。取材でアメリカに行った時には直接お会いもしました。日本人的な発想でないところは驚きましたね。例えば足が不自由なサイというキャラを気に入って「主人公にしたい」とか「このキャラが活きる武器を持たせたほうがいい」とか言い出して。
「松葉杖をブーメランにして投げろ」とか。発想力が豊かですね。僕らのイメージを超えていて毎回驚かされます。ちなみにサイは松葉杖は投げませんのであしからず(笑)
――ストレートな勧善懲悪なお話はまさにアメコミのヒーローものらしいんですが、スタンさんからはどんな要望があったんでしょうか?
難波:アメコミに長くたずさわってきた人なので、自分の中でのヒーロー像が確立していて、「ジョーイは操縦者ではなく、HEROMANと一緒に戦う仲間というところをしっかり描いてほしい」、「『HEROMAN』というタイトルは世界に向けて作っているのだから、毎話数ごとにアクションを入れて飽きさせないようなフィルムにしてほしい」などの要望が出されました。
●世界中でも通じるようにわかりやすい描写を意識。ボンズクォリティがそれを可能に
――制作する際に意識されたり、心がけていることはありますか?
難波:もし言葉が通じない国の人が見ても、おもしろいと思えるように過度な言葉での説明や描写はしないことを意識しています。そのために大切なのがキャラの性格をブレさせないことです。例えばジョーイが見たまま、性格が良くて素直でかわいい少年なのは説明しなくても見てもらえれば分かりますよね。他のキャラも同様でどんな感情を持っているのかは絵を見ればわかるようにしています。
それにキャラクターデザイナーのコヤマくんの描くキャラたちが一目見ただけでどんな性格なのか分かるような素敵なデザインになっているから可能な表現方法だったとも思いますね。特徴的な髪型や服装なのもシルエットにしても分かるようにだし、コヤマくんのこだわりが良い意味で説明を必要とさせないデザインになっています。
――ビジュアル面では舞台や設定やアメリカでありながらもキャラの描き方など日本らしさが随所に見られるのも特徴ですね
難波:日本で作る以上は日本のフィルムとして作りたいと思いました。アメリカらしさを求めるんだったらアメリカで作りますよね。なぜスタン・リーがボンズに企画を持ってきたかと言えば、日本のアニメを作っているBONESのスタイルを気に入ったからでしょうし。
僕もBONESでの監督の仕事は初めてなんですけど、想像以上に作画クオリティが高いスタジオだなと感心しました。「これだけすごければ、“画”だけで説明できる」と思い、自分のイメージ通りにできる手応えを感じました。
――ビジュアルといえば敵であるスクラッグがゴキブリなのもインパクトがありました
難波:最初からゴキブリ型宇宙人のアイデアが出されていました。虫や動物などが敵として描かれるケースがアメコミにはあるみたいで、スタンダードなのかもしれません。“玉”が転がって街を壊していくのも定番なんですよね。
でもあくまでコアなターゲットに向けたフィルムじゃないのがミソで、アメコミ好きな人はテイストに喜び、日本のアニメファンの人はBONESらしいと思ってもらえる。コヤマシゲトさんのデザインでキャラファンにもうけるんじゃないかなと。
音楽も、知る人ぞ知るメタルユニットのメタルチックスさんの曲を使わせていただいてます。声高には主張しないけど、いろいろな部分で引っかかるような不思議なフィルムになってるかなと思ってます。
●キャラクター性の素晴らしさ、ヒーローものの王道を行くのが作品の魅力
――監督が考える『HEROMAN』の魅力を挙げていただけますか?
難波:一番はキャラクター性の良さかなと思います。ジョーイの成長譚(たん)を描きたいというのが僕のコンセプトとしてあって、実際、シリーズを通して彼が成長していく過程を描けた手応えも感じてます。
そして親子で楽しめて、王道的な展開のヒーローものであること。それとバトルのスタイルが肉弾戦な点でしょうか。圧倒的なパワーを表現するのが飛び道具ではなく、自分のコブシであるのは大事なことだと思ってます。放送コードが厳しい国でも放送できるようにと考えて作っていますし、長い年月愛され続ける作品になればいいなと願っています。
――キャストの小松さん一押しキャラのサイもかなり人気が出そうですね。
難波:カッコイイですもんね。サイがなぜ足をケガしたのかというエピソードも今後、放送するのでお楽しみに!
●過去のエピソードや新たな敵も登場。『HEROMAN』の物語は加速していく
――スクラッグとの戦いを終えたジョーイとHEROMANですが、今後はどんな展開があるのでしょうか?
難波:もちろん新たな戦いはちゃんと用意してます。正義の力は悪があって成り立つものですから。スタンさんも陰と陽という関係性は大事にしたいとのことですし。
自分の中では年表とか裏設定はちゃんと作ってあるので、それをどれだけ本編で見せるかはセーブしてます。やり過ぎると小難しい作品になってしまうので。でも過去のエピソードなど見せてないところは見せてあげたいと思っています。ジョーイの両親の話とか。
――いくらでも長く続けられそうな作品ですよね
難波:そうですね。話のネタ自体はたくさんありますし、準備はできてます。あとは視聴率と商品展開がうまく行くかどうか次第で(笑)。自分が手がけた中では『YAT安心!宇宙旅行』が一番長く続いた作品ですが、それくらい『HEROMAN』も続けられたらいいですね。
そのためにも今、オンエア中のアニメと、8月に発売されるDVDとBlu-rayをよろしくお願いします。
<TEXT:永井和幸>
『HEROMAN』Vol.1
8月18日発売
Blu-ray版 4,935円(税込)
DVD版 3,990円(税込)
発売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
>>アニメ『HEROMAN』公式サイト