本格ジュブナイル・アニメーション『星を追う子ども』初日舞台挨拶をレポート! 「アニメーションや娯楽にしかできない役割がある、と信じたい」(新海誠監督)
2011年5月7日、東京・新宿のバルト9にて『星を追う子ども』の初日舞台挨拶が行なわれた。この日の舞台挨拶は、朝9時スタートという早い時間にも関わらず、多くの観客が監督や声優陣の姿を一目見ようと会場に集まった。
舞台挨拶が始まり、大きな拍手の中で舞台に登壇したのは新海誠監督、主人公・渡瀬明日菜役の金元寿子さん、シュン/シン役を演じた入野自由さん、そして教師・モリサキ役の井上和彦さん。集まった大勢のファンを前に、収録時のエピソードやこの作品に込められた想いなどを語ってくれた。
新海監督は今作について、「今までの作品は、日常生活を美しく描くことを目的にしていました。ですが今回は、難しいことを考えずに、映像と音楽と物語に身を浸していればそれだけで楽しめる作品にしようと思ったんです」とコメント。
またそのきっかけについては、「『秒速5センチメートル』という作品を制作したあとに、しばらく海外にいたんです。そこで色んな方に出会う中で、『秒速5センチメートル』のような、日本での生活様式をわかっていないといまいち深いところまで入っていけない、というタイプの作品は上映中にすごく居心地が悪かったんです。そこで、次作るのであればシンプルなもので、色んな人に観てもらいたいな、と思ったのが大きな理由です」と語った。
初日を迎えての感想を尋ねられた金元さんは「明日菜はこの作品の中で色んな経験をしていくんですが、私自身も収録していく中ですごくたくさんの経験をさせていただきました。本当に明日菜と一緒に旅をしたような気持ちで収録に臨みましたので、皆さんの目にどう映るのか今ドキドキしていますが、少しでも共感していただける部分があったら嬉しいです」とにこやかにコメント。
また金元さんは、舞台挨拶前日に会場となったバルト9を下見に来ていたそうで、監督や声優陣からも「現場でもとても真面目なんです!」と評価されていた。
そして作中に登場する特殊な鉱石=クラヴィスのネックレスをつけて舞台に登壇した入野さんは「よく、二役って難しくないんですか?と聞かれるんです。でも僕の中では別々のキャラクターなので、あまり二人がどうだ、ということは関係なく、素直に両方とも演じさせて頂きました」と、一人二役と言う大役の裏側を語った。また「監督からの説明もオーディションの時からブレがなく、キャラクターのイメージがしっかりできてとても演じやすかったです」と語り、監督への信頼の厚さを伺わせた。
井上さんは自身の演じたキャラクターについて「モリサキはこの中では一番大人ですが、明日菜と一緒に旅をすることによって“ちゃんとした大人”になっていくような感じがします。人を愛するということはどういうことなんだろう、ということをとても考えさせられる役でした」とコメント。また「監督の作品は、収録前にボイステストを行なって役作りをさせていただいてからスタジオに入るので、とてもやりやすかったです。収録期間は短いものでしたが、良いチームワークを出せたと思います」と収録時の思い出を語った。またトーク中には監督と声優陣の親しげなやりとりも見られ、お互いの間にある絆の強さを感じさせた。
最後にファンへのメッセージを求められた新海監督は「3月11日に大きな地震があり、エンターテインメントでしかないアニメーションを作り続ける、という理由を考えざるを得ませんでした。それでも制作者として、アニメーションや娯楽にしかできない役割がある、という風にも信じたいです。例えば何か悩みや心に傷を負ってしまったとき、アニメーションや娯楽を見て、少しその傷の治りが早くなったり、少し生きるのが楽になったりするような役割を持っていると思うんです。必須なものではないけれど、生き方を少し楽にしてくれる。少しでも皆さんの心の中のどこかに、この作品の居場所が見つけることができれば幸せです」と、自身のアニメーションへの強い想いを交えつつ語り、舞台挨拶は幕を閉じた。
『星を追う子ども』は、現在絶賛上映中。ぜひ映画館に足を運び、監督の言葉どおり映像と音楽、そして感動の物語を、心の底から純粋に楽しんでほしい。
<取材・文:杉山玲菜>
>>『星を追う子ども』公式サイト