全編解説! 霜月はるかさん新作CD『零れる砂のアリア』ロングインタビュー!
ファンタジックな音楽で独自の世界観を確立しているボーカリスト/サウンド・クリエイターの霜月はるかさんと作家・日山尚氏がタッグを組み、再び新たな伝説を打ち放つ──
霜月はるかさんの約3年ぶりとなるオリジナル・ファンタジー・ボーカルアルバム『零れる砂のアリア』がリリースされた。2009年発売のアルバム『グリオットの眠り姫』音楽制作を手掛けた人気クリエイター/アレンジャー=岩垂徳行氏、なるけみちこ氏、弘田佳孝氏、MANYO氏が再集結し作られた今作。荒廃する世界で悪夢に翻弄される少年と少女の、哀しくも美しい物語を全六章の「組曲形式」で紡いだ傑作だ。
それにしてもなぜこんな大作を作ることになったのだろう?──その謎を解くべく、アニメイトTVでは霜月はるかさんに直撃。アルバムを楽しんでもらうためにストーリーの確信部分は触れないようにしているが、彼女がいま話せる限りのことを語ってくれた貴重なロングインタビューとなった。
●どうせやるなら冒険的なことをやってみたい
──今2011年を振り返ると、どんな年になったと思いますか?
霜月はるかさん(以下、霜月):いろいろあった年でした。ベストアルバム『星空アンサンブル』(2011年2月23日)をリリースしたあとに東日本大震災が起きて……。歌の活動を始めて10年という節目の年だったこともあって、自分の活動を見つめなおす機会が多かった気がします。で、見つめなおしたことで、周りの方たちからいただいているモノの大きさを改めて感じたんですよね。それで11月に「Haruka Shimotsuki solo live Lv.4 ~シモツキンの逆襲~」というツアーを行ったんですけど、私のなかでこのツアーはスタッフやファンの方へ感謝の気持ちをぶつけるための逆襲という意味があって(笑)。歌で繋がってくれた人たちに改めて感謝の気持ちを伝えたいなって思ったんです。
──個人的には今作もその逆襲の一環のような気がします(笑)。昔からのファンも、新しいリスナーも楽しめるようなファンタジー・アルバムですよね。
霜月:そうですね。ちょっとマニアックですけど(笑)、ファンの方に喜んでもらえる作品になったと思います。もともとライフワーク的にファンタジー活動はやってきましたけど、ファンタジー・ボーカルアルバムとしては久しぶりの作品なので、どうせやるなら冒険的なことをやってみたいなと思ってたんです。
──そのときは具体的にどんなアイディアを思いついたんでしょうか。
霜月:以前から、『グリオットの眠り姫』(2009年10月14日)を一緒に作ったメンバーと「また何か一緒に作りたいね」って話をしていて。『グリオットの眠り姫』はメディアミックス展開をしているので、アルバムをリリースしたあとも関連する楽曲を各々と作ることはあったんですが、またイチから一緒に作品を作りたいなって。でも、せっかく3年振りに同じメンバーでアルバムを作れるのであればちょっと変わったことをしたくて、「組曲を作りましょう!」と。それで共同プロデューサーの日山(尚)さんと物語を考えはじめたんです。
──皆さんで組曲を作るってすごく斬新なアイディアですよね。しかも、ひとりの作曲家が作るのではなく、霜月さんと日山さんを含めて6人のクリエイターで作るっていう。でもなぜそういう形態を取ろうと?
霜月:音楽で物語を表現するために今までもいろいろなアプローチを試してきましたけど、『グリオットの眠り姫』は一曲一曲がそれなりに独立した楽曲で通して聴くとストーリーが見えてくるという作品だったんですね。逆に今回は“組曲形式”でひとつの物語を一曲で語りきる手法に挑戦してみたかったんです。だからそれぞれの作曲家の個性は出しつつも、曲が自然と繋がっていくようにみんなで意識しました。
●スタジオ・ワークも含めて参加したクリエイターとの共同作品
──では、まずはどういう作業からスタートされたんですか?
霜月:最初に日山さんと構成を決めました。まず叩き台となるストーリーを考えて、章ごとに分けたんです。で「ここはあの人に担当してもらおう……」みたいな割り振りも同時に決めていきました。皆さんの得意分野を割り振りたいって気持ちがあったので、そこはわりとすぐ決まったんです。で、その段階で全員で集まったんですよ。そこで日山さんが書いてくれたイメージ詞を渡して、意見を交換して、そのなかで「メイン・テーマを作ろう」ってアイディアが出たんです。みんながみんなそれぞれ曲を作るのではなく、バランスを取るために、共通するメロディーとしてメイン・テーマを作ろうと。それは私が作曲させてもらって、それぞれの章に取り入れてもらいました。
その他にも例えば「この村のシーンではこのメロディーを使って」って感じでサウンドを共有するようにして。でも実際に曲を作っていくとメイン・テーマが出すぎちゃったり、共通のメロディーが出すぎちゃったり……最初はなかなか難しくて、そこはサウンド・プロデューサーの立場として「このメロディーはオリジナルに変えてください」ってお願いすることもありました。詞はすべて日山さんが担当してるんですけど、作詞作業も大変だったと思います。イメージ詞通り曲を作るかたもいれば、それを完全にイメージと捉えて作るかたもいて(笑)、でも全部揃わないと全体のバランスが取れないという。だからとにかく連携することが必須で、常に共有のメールが飛び交っていました(笑)。お互いの曲を聴かないと曲のつながりが意識できないので、メールは絶対共有することにしていたんですよ。デモができたら「みなさん、私のデモできましたー!」って送ってもらって全員が聴ける状態にして。
──それはお互いの信頼関係があるからできることですよね。
霜月:そうですね。お互いの曲に意見を出しあうことも多くて、弘田さんが「じゃあ僕が効果音を作りますよ」って言ってくれたり、「こんなメロディーってどう?」って提案してくださるかたがいたり……。実際は大変なところも本当に多かったんですが、過去に『グリオットの眠り姫』を作っていたからこそ、こういう作業ができたんだと思います。一度一緒に作品を作った仲間だからこそ、お互いに意見を言えるし、信頼もできるんですよね
──まさにチームですね。
霜月:はい。『グリオットの眠り姫』を作ったときにこのメンバーのことを「チームグリオット」って言ってたんですけど、今回は「チーム砂アリ」って呼んでるんですよ(笑)。このメンバーでまた作品を作れたことがすごく嬉しいです。今回のアルバムはみんなと作った共同作品だと思っています。
●実は今回の主人公は『グリオットの眠り姫』にも登場する、とあるキャラクターなんです
──では今日は1トラック毎のエピソードをおうかがいできればと思うんですけど、まずはオープニングを飾っている「序章」から。
霜月:序章に関しては、導入部分と言った雰囲気で、全部朗読に挑戦しています。実際語っていることも「ここから物語が始まる」っていう導入的なことですね。
──ラストの〈まだ彼が少年だった頃の物語──〉という言葉からイメージが広がっていきますね。
霜月:そうですね。あの一言で世界が見えていく感じがあって、私もその部分はすごく気に入っています。
──で、そこから「第一楽章 悪夢」に繋がっていきますが、約10分に及ぶ大作で。転調があったり、ブロックごとに曲の雰囲気が変わったりと非常にダイナミックな展開で。1曲なのに10曲分くらいの情報量が入っていますね。
霜月:そうなんですよ(笑)。第一楽章はタイトル通り悪夢に追われる様を描いているんですけど、メイン・テーマを用いた物語のオープニング部分までものすごいドラマが詰まってるんです。なので皆さん「この曲でこのアルバム終わりそうだね」って言ってたくらいでした(笑)。また、この曲は私としては挑戦した曲ですね。歌い手としても難易度の高いパートや、フリーで歌う部分があったので大変でした。でも、なるけさんがしっかりとイメージをして作ってくれていたので、「こう歌って欲しい」って指示をハッキリと出してくれたんですよね。分かりにくいところは「こんな感じで」となるけさんが歌ってくれて……密にやりとりをしていきました。
──興味深いお話ですね。ちなみに、さきほどおっしゃってたフリーで歌った部分というのはどの場所ですか?
霜月:ギターと歌だけで録った部分の……〈僕は膝を折る〉っていうブロックですね。なるけさんが「ミュージカルで言ったら主人公がスポット当たりながらフリーで歌ってる感じ!」って言うわけですよ(笑)。だからそこは完全にフリーテンポで録音に挑んだんです。ギターのかたと同じブースに入って、私のテンポに合わせてギターを入れてもらいました。他にもいろいろなことをやったのでレコーディングに時間が掛かってしまって、1日では終わりませんでした(笑)。
──(笑)。続く「第二楽章 邂逅」は序盤のリーディングから始まる曲で、主人公たちの幸せな日常を描いたかのような歌詞が印象的でした。
霜月:激しい変動がある章ではないんですけど、心の変化を表している物語で。2人の心の邂逅を描くストーリーというか……ジャケット・イラストのイメージはこの章のシーンです。MANYOさんらしい、メロディアスな楽曲になってると思います。オリジナルのメロディーもしっかり立っているし、過去からのファンも喜ぶサウンドも入っている曲です。
MANYOさんには特に、全体のバランスが見えた時点で、色々と調整をお願いしたりもしまして…「間にこういうシーンを挟みたい」「裏メロでこういう音を入れて欲しい」って要求も、しっかり組み込んで纏め上げてくれました。日山さんらしい繊細で綺麗な表現の歌詞も読みこんで欲しい章ですね。
──次は「第三楽章 帰郷」ですが、この曲は起承転結の「転」の部分というか。最初は前の章の幸せな雰囲気があるんですが、中盤からいきなりバトルモードっぽい曲調に突入して……かなり激しく展開していきますよね。
霜月:そうですね。ここはかなり変動する章なんです。ブックレットのイラストにも描かれていますが、主人公とヒロインたちはこの段階で大人に成長してるんですね。幸せな毎日が続いていたけど、タイトル通り帰郷して、そこでとある事件が起こって──っていう。全体的にあんまり明るい話ではないんですが(苦笑)、特に三章はいろいろと転じる章で。岩垂さんはシンフォニックな音楽が得意なかたなので、後半では壮大なオーケストラが広がってて。ミュージカル的な掛け合いもあって、すごく感動的なんですけど、またすぐドーンと落ちるっていう(笑)。「私はあなたのためにずっと歌っていくよ! でも……!」っていう感じの展開を描いた章です(笑)。
──そして、続くトラックのタイトルが「第四楽章 狂気」という(笑)。
霜月:悪い予感しかしないタイトルですよね(笑)。
──これもかなり激しく展開する楽曲ですよね。まさにこのタイトルが似合うような、混沌とした雰囲気を感じました。
霜月:主人公たちが悪夢のような運命に巻き込まれていく悲しい章ですね。絶望感のある曲ですが、弘田さんはそういう世界観の楽曲を得意とされている方なので、さすがといった仕上がりにしてくださって。……実は今回の男主人公は『グリオットの眠り姫』にも登場するフォアゲイトというキャラクターなんです。この「狂気」を経たあとの話なので『グリオットの眠り姫』に登場する時にはすでに狂気に満ちているんですよね(笑)。『グリオットの眠り姫』でもその部分は弘田さんに描いてもらっていて、実際に『グリオットの眠り姫』のメロディーも相当組み込まれているし、歌詞も共通している部分があるので「フォアゲイトがなぜああなってしまったのか」が伝わると思います(笑)。その辺りも楽しんでもらえたら嬉しいです。もちろん『グリオットの眠り姫』を知らないかたにも楽しんでもらえると思います。
──そしてラストの「終章」に繋がっていきます。
霜月:この章は……細かいネタバレは避けますが物語のひとかけらの救いというか……そういう位置づけのお話です。『グリオットの眠り姫』との繋がりも出ています。
──すごく切ない部分もありますが、霜月さんの歌からは希望を感じることができました。
霜月:そうですね。ちょっと悲しい結末もありますけど……ふたりの気持ちが繋がっていることに対しての希望をここでは持たせたかったんです。暗く終わるより、救いのある歌にしたかったんですね。だからほのかな光を意識しました。
──「序章」を含めて全6トラック。本当に濃い物語ですよね。すべてを聴き終えたあと、分厚い本を読み終えた時のような、壮大なRPGをクリアした時のような……、不思議な感覚に陥ります。
霜月:今回はブックレットにストーリーを載せているんです。日山さんが書き下ろしてくれたものなんですが、これを読むことによってストーリーを追えるし、歌詞を深く感じ取ってもらえると思います。そこも楽しみにしていて欲しいですね。
──では最後に、6月30日には3年ぶりのオリジナルファンタジーコンサート「Haruka Shimotsuki Original Fantasy Concert 2012 ~ FEL FEARY WEL ~@日本青年館」が予定されていますが、こちらはどのようなライヴになりそうですか。
霜月:今回は『グリオットの眠り姫』をフィーチャーしたファンタジー・コンサートです。ファンタジーの世界にガッツリ浸ってもらえるコンサートをまたやりたかったんですよ。『グリオットの眠り姫』に関しては全曲歌う予定で、関連楽曲も披露する予定です。また、『グリオットの眠り姫』を知らないかたにもストーリー・世界観が見えるような仕組みにしたいなと思ってます。コンサートのチケット先行受付情報がこの『零れる砂のアリア』に封入されているので、チェックしてもらえたら嬉しいです。
【インタビュー&Text: 逆井マリ】
【CD情報】
タイトル: 零れる砂のアリア
アーティスト名 :霜月はるか
品番:KDSD-00548
価格:2,625円(税込)
発売日:発売中
発売元:株式会社ティームエンタテインメント
販売元:株式会社ソニー・ミュージック ディストリビューション
【コンサート情報】
Haruka Shimotsuki Original Fantasy Concert 2012 ~ FEL FEARY WEL ~
場所:日本青年館
日時2012年6月30日(土)
>>『零れる砂のアリア』公式サイト
>>霜月はるか公式サイト