『サカサマのパテマ』吉浦康裕監督インタビュー

逆さま世界のボーイ・ミーツ・ガール 『サカサマのパテマ』吉浦康裕監督インタビュー

インターネットでの配信からヒットを飛ばした『イヴの時間』で知られる吉浦康裕監督の最新作、『サカサマのパテマ』。空を忌み嫌うアイガの国に住む少年・エイジ(CV:岡本信彦)は、ある日、突然「空へ落ちそう」になっている少女、パテマ(CV:藤井ゆきよ)と出会う。文字通り「サカサマ」の2つの世界の交流を描くという、非常にユニークな発想で作られている本作。今回、2013年11月9日に全国劇場公開を控え、ますます注目が高まる中、吉浦監督ご本人にお話を伺うことができた。

■ 作品は「何か落ちてきそうだな」という少年の頃の妄想から誕生

――最初に、『サカサマのパテマ』という作品が生まれた経緯について教えてください。

吉浦康裕監督(以下、吉浦):子供の頃、天気が良い日に空を見上げると「何か落ちてきそうだな」と妄想していたことがありまして。いつか「サカサマ人間」が出てくる話をやりたいなと考えていたんです。最初は、ある日突然全人類がサカサマになって、屋内にいった一部の人間だけが生き残った……というサバイバル的な方向性だったのですが、そこから発想を変え、ヒロインとの関係性に焦点をあてた形で本作が生まれました。

――前作である『イヴと時間』とは、大きく作風が異なる印象を受けました。

吉浦:その前にやっていた『ペイル・コクーン』が、どちらかというと『パテマ』に近いこともあって、自分の中で大きく作風を変えているつもりはないんです。例えば『イヴの時間』にしても一見純粋なSFのようですが、あくまで人間と異なる異物としてロボットという要素を使っているだけで、機能や機構というのはそこまで考えてないんですよ。その点、理屈はわからないけどとりあえず「サカサマ」になっているパテマも、自分の中では同じくらいの「ファンタジーさ」なのかな、という感覚があります。

<b><プロフィール></b><br>吉浦康裕監督<br>1980年生まれ。大学時代にアニメーション制作を開始。2006年1月に初のDVD作品『ペイル・コクーン』を発売。2008年8月から2009年9月にかけて、自ら原作・脚本・監督をするオリジナル・シリーズ作品『イブの時間』(全6話)をWeb配信にて発表。東京アニメフェア2010にて、第9回東京アニメアワードOVA部門優秀賞を受賞。2010年3月、完全版として『イブの時間 劇場版』を公開。

<プロフィール>
吉浦康裕監督
1980年生まれ。大学時代にアニメーション制作を開始。2006年1月に初のDVD作品『ペイル・コクーン』を発売。2008年8月から2009年9月にかけて、自ら原作・脚本・監督をするオリジナル・シリーズ作品『イブの時間』(全6話)をWeb配信にて発表。東京アニメフェア2010にて、第9回東京アニメアワードOVA部門優秀賞を受賞。2010年3月、完全版として『イブの時間 劇場版』を公開。

■ 集結する知識とサカサマの魅力を伝える苦心

――今回は、スタッフの方々の意見を多く取り入れたとお聞きました。

吉浦:そうですね。今回は活劇のような雰囲気を出したいということで、絵コンテの段階から表情やボディランゲージ等、演技の情報量をぐっと増やしているのですが、これはキャラクターの動きを得意とされている作画監督の又賀大介さんのお力です。また、背景美術の金子雄司さんには、僕が漠然ともっていたイメージをきちんとした建築の知識に基づいた建物として形にして頂いたりもしています。僕一人の知識ではどうしても不足する部分を他のスタッフに補って貰えたのは大きかったです。

――今回、原作・脚本を両方担当されて、苦労された点などはありますか?

吉浦:企画を通そうという段階で最初に見せたものが、「サカサマ」というコンセプトを示すものだったってこともあって、僕がもっている面白さのイメージを他の方々に伝えるのに苦労しましたね。そのために、とにかくたくさんのイメージイラストを書いたんですが、結局は実際にアニメが完成するまでは分からなかったのかなと思います(笑)。

――作画に関してはどうでしたか?

吉浦:やはり苦労は多かったです。ただ、今回は何気ないアングルでも凝って作らないといけないということが最初から分かっていたので、かなり早い段階から全てのカットをCGを使って自分で組むことにしました。簡易的なローポリのモデルではあるんですが、位置関係やスケールに関しては忠実に作っていたので、スタッフの間でかなり重宝したようです。

――そういった難しいテーマである「サカサマ」を扱う上で、どのようなことに気を使いましたか?

吉浦:「サカサマ」という要素を、ただのドッキリ要素ではなく、エイジとパテマ、二人の心の距離感を表すように使うことを意識しました。ストーリーが進むにつれて、「サカサマ」の怖さというのが伝わるよう、カメラワークや視点の変化にも拘っているので、そのあたりにも注目していただければと思います。

■ 一心同体のパテマと想像の上を行くエイジ

――キャスティングに関してお聞きします。パテマ役の藤井ゆきよさんは、どのような経緯で抜擢されたのでしょうか。

吉浦:あまり色のついていない、素に近い声で演技ができる人を探していたんです。オーディションで藤井さんの声をお聴きした時、これだと思いました。その時点でほぼ決まってはいたのですが、打ち合わせの後に台本読みをしてもらった時、オーディションの時よりも遥かに演技が良くなっていて、かなり台本を読み込んできたんだなというのが伝わってきたので、彼女になら任せられるでしょうと。声質、加えてそういった熱意が最後の決め手になりましたね。

――エイジ役・岡本さんに関してはどうでしょう?

吉浦:岡本さんに決まったのは、2枚目になりすぎない、リアルな中学生らしい少しいじけたような声の雰囲気が出ていたのが大きかったですね。最初に演技をしていただいた時は、「ちょっとかっこよすぎるかな?」と思ったのですが、一度ヒロイックになりすぎないようお願いしたら、まさに普通の少年らしい声になっていて、流石だなと。二人が決まると、他のキャスティングについて迷うことはほぼなかったです。

▲パテマ(CV:藤井ゆきよ)

▲パテマ(CV:藤井ゆきよ)

――アフレコでの印象的な出来事などはありますか?

吉浦:パテマ役の藤井さんが、本当に凄くがんばってくれましたね。役に入り込みすぎるあまり、悲しいシーンではパテマと一緒に藤井さんも一緒に落ち込んでしまう程で。ですから、パテマ達と一緒に困難にぶつかり、乗り越えるという流れをつかんでもらうために、パテマだけは物語の時間軸通りに収録することにしました。結果として、本当に気持ちの籠もった良い演技をして頂けたと思っています。

岡本さんは、演技の幅の広さに大変驚かされました。作中でエイジが怖がるシーンがあるのですが、過度にヒロイックになりすぎない演技ということで、少し崩した声でという注文をしたんです。そうしたら急に凄く弱々しい、ヘタレな声になって(笑)。常にこちらの想像以上の演技をしてくださるので、非常にスムーズに収録を終えることができました。強いて苦労を上げるならたまに、かっこよくなりすぎることがあったくらいでしょうか(笑)。

■ 見終わったあと「あれ、どうなの?」とぜひ語り合って欲しい



――6月のアヌシー国際映画祭にて上映が行われましたが、海外での反応はいかがでしたか?

吉浦:それが凄く良かったんですよ。それほど大きな劇場ではなかったんですが、あっという間に席も埋まって、キャンセル待ちの列ができるほど注目していただけて。もしかしたら、日本と西洋の中間のようなビジュアルや、「サカサマ」という言語や文化の壁を越えて機能する分かりやすいギミックを受け入れてもらえたのかもしれません。

――『イヴの時間』がKickstarterでプロジェクトを成立させたり、海外にも吉浦監督のファンが大勢います。

吉浦:ありがたいことに、年々海外のファンの方からの感想を頂くことが増えています。僕自身、企画や脚本、キャラクター作りなど様々な面で海外のドラマなどを参考にしている部分があるので、何かしらの共通点を感じて気に入っていただけているのなら嬉しいですね。

――海外のもの以外でも、影響を受けたジャンルなどはありますか?

吉浦:『イヴの時間』なら舞台、『サカサマのパテマ』でいうならゲームがそうです。舞台などもそうですが、面白いゲームというのはコンセプトがはっきりしていますよね。コンセプトというのは、僕にとっても創作の核なんです。個人的には、「これってどんな作品?」と聞かれた時、簡単に一言で説明できるのが、面白い映画の条件なんじゃないかなと思っています。

――最後に、本作の世界観について教えてください。

吉浦:これまでは室内だけで展開するようなストーリーが多かったので、今度はそこから扉を開けて、外に広がっていくような作品にしようと考え、生まれたのが本作の世界です。(※編集部注 前作『イブの時間』では、喫茶店イヴの時間を中心に物語が展開される)

――ということは、今度は「扉の外」の世界が舞台に?

吉浦:さて、それはどうでしょうね(笑)。一つ言えるのは、いろいろと考察していただけるようなギミックをたくさん盛りこみました。映画を見終わったあと、「あれってどういうことだったんだろう?」と誰かと語り合いたくなるような作品に仕上がったと思っているので、答えが気になる方は是非劇場に足を運んでいただければと思います。

<STORY>
手を離したら、彼女は空に落ちていく。
かつて、この世界を襲った大異変。そして…。
夜明け直前の‘空’を見上げる少年、エイジ。彼の住むアイガでは、「かつて、多くの罪びとが空に落ちた」と‘空’を忌み嫌う世界であった。
そこに、突然現れた‘サカサマの少女’ 。彼女は、必死にフェンスにしがみつき、今にも‘空’に落ちそうである。
彼女の名前はパテマ。地下世界から降ってきた。
エイジが彼女を助けようと、パテマの手を握った時、体がふっと軽くなり二人は空に浮かびあがった。
恐怖に慄くパテマと、想像を超える体験に驚愕するエイジ。
二人は未だ知るまでもないが、この奇妙な出会いは、封じられた<真逆の世界>の謎を解く禁断の事件であった。
その頃、アイガの君主イザムラの元には、「サカサマ人」があらわれたとの報告が届く。
イザムラは治安警察のジャクを呼び、「サカサマ人」を捕獲するよう命じるのだった…。

【CAST】
パテマ:藤井ゆきよ
エイジ:岡本信彦
ポルタ:大畑伸太郎
ジィ:ふくまつ進紗
ラゴス:加藤将之
ジャク:安元洋貴
カホ:内田真礼
イザムラ:土師孝也

<STAFF>
原作・脚本・監督:吉浦康裕
アニメーションキャラクターデザイン・作画監督:茶山隆介
コスチュームデザイン:杏仁豆腐
作画監督:又賀大介
美術監督:金子雄司
CG監督:安喰秀一
音楽:大島ミチル
配給:アスミック・エース

製作:サカサマ会(アスミック・エース、グッドスマイルカンパニー、角川書店、ディレクションズ)

◆11月9日(土)全国劇場公開

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(C)Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee 2013
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