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漫画家・太田垣康男さん独自のアニメ、ガンダム論

漫画家・太田垣康男さん独自のアニメ、ガンダム論とは――『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のセカイ【03】

 第2話に続き、2016年3月4日(金)よりガンダムファンクラブにて第3話の先行配信がスタートしたばかりのアニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。近年のガンダムファンだけでなく、かつてガンダムファンだった大人をも巻き込む今作の漫画原作者・太田垣康男さんへのインタビュー第3回。

 最後となる今回は、『サンダーボルト』に登場するイオ(CV: 中村悠一)と、ダリル(CV: 木村良平)という二人の主人公たちのキャラクター造形。太田垣さんがアニメ版に期待しているポイントをお伺いしました。しかし、話はそこで終わらず、太田垣さん独自のアニメ、ガンダム論へ。これを読めば『サンダーボルト』をこれまで以上に楽しめるのはもちろん、これまでの『ガンダム』全てを見返したくなるはず!(全3回/第3回)

 
 

■ 大人に共感してもらうガンダム

――キャラクターはどのように作っていったのでしょうか?

太田垣康男さん(以下、太田垣):メインとなるキャラクターを二人にするということは、対極にしないといけないので、何を軸に両極に振ろうかという時に、持つ者と持たざる者として一番シンプルな、リッチマンとプアマン。それを最初の軸にしました。ただ、それだけだと古典的過ぎるので、イオという人間は他人の気持ちがどうしても理解できない人に描きました。すでに色んな物を、満ち足りた環境の中で暮らしてきたから、他人に対する同情とか共感を養われてこなかったんです。そのせいで、他人が今何を求めているのか、何を考えているのか読み取る能力がないんです。だから凄く独善的に見えるんです。一種精神的に未熟な人間として描いています。

ダリルはその逆。彼は幼い頃にのちのジオン公国となるサイド3に生まれましたが、親がとある商人だった為に地球で受け入れてもらえずジオンの兵役を受けます。それは自分の為ではなく、家族に市民権を与えるため。そこで両足を失い、両親と妹はなんとか暮らしていけるけど、自分は戦いを続けないといけない。そんな体験をすることでどんどん寡黙になっていくんです。不満を口にしたくても吐き出せない、飲み込むしかない。飲み込みすぎて、自分の中の器がどんどん大きくなってしまうんです。第2巻で艦隊の命を救う為に自分からサイコ・ザクに乗るシーンは同調圧力の最たるモノです。他人の気持ちが分かり過ぎるが故に、一人で苦労を背負ってしまうタイプです。


――これまでの『ガンダム』なら逆ですよね。

太田垣:はい。この二人には同じような試練が訪れます。しかし、人間が違うので受け止め方はそれぞれ違います。同じことが起こっても、人が違えば感じ方が違う、というのを大人の読者は自分の実生活で経験していると思うので、そこに共感してくれるんです。


――その際、どちらのキャラに共感するか、という楽しさはありますね。そこがまた「スペリオール」という雑誌で掲載している意味であり、他の漫画との違いになっているんですね。

太田垣:第1作の『機動戦士ガンダム』が放送された時は、視聴者は子供でした。『ガンダム』で描かれた世界を見て、子供たちは様々なことを学びました。しかし、今はそんな視聴者たちは大人になって、『ガンダム』が描く世界よりもっと大人の世界を見ています。それなら『ガンダム』が何かを教えるというスタンスはもう過去のものなんです。今は大人たちが見たときに「あ、これ経験したことがある。これわかる」という地続きな感じが物語の中にあった方が、大人の読者に対するアピールになるんじゃないかなと思うんです。


――より一般的な映画やドラマになっていくということでしょうか。

太田垣:『ガンダム』だけではなく、日本のアニメーションというのは一種独特な進化をしているので、映画の世界にあるようなドラマツルギーだとかとは違うんです。それでも十分商売になっているので変える必要はないのかもしれませんが、より多様な人に読んでもらえる漫画の中で勝負している人間としては、読者の共感というのがより重要だと思っています。


■ 手描きでロボットを描くプライド

 
――今回のアニメ化に対し、今後の話数も含め期待していることはありますか?

太田垣:第1話を見て、漫画原作のニュアンスというのをとても誠実に読み取って作っていただいているのを感じているので、最後まで描き切った時、同じ余韻を残す作品になって欲しいなと思っています。

じつはシナリオは最後まで読ませていただいているので、そこで可能な限り意見も言わせていただいています。もちろんコミックスを一気に読むような感覚に、同じスピード感になるかどうかは出来上がってみないとわかりません。

また、特に第3巻の最後のアクションシーンは漫画の表現的にも難しい無音表現をしているので、そこをアニメでどう演出されるのかは、シナリオを読んでも分からないので、そこは楽しみにとっておいてます(笑)。ただ、シナリオを読ませていただいている段階では、期待できる作品になるんじゃないかなと思います。


――今回のアニメ化が決まってから、太田垣さんに問い合わせが来たことはありますか?

太田垣:いっぱいありました(笑)。ぶっちゃけ、フルアーマー・ガンダムはアーマーをパージした後の設定はないんです。後数話しか出てこないので、わざわざデザイン画を描くのは面倒だなと、その場で(笑)。なので、アニメスタッフさんから「こんなデザインにしてみましたが、どうですか?」と言われて、ちょっとだけ直してもらいました。

今回は、手描きでモビルスーツを動かすという、無茶なことをやってらっしゃるので、最初に聞いた時は「さすがに無理なんじゃ」と思っていました。それが第1話を見たら本当に手描きでやっているので、驚きました。

じつは、ザクやフルアーマー・ガンダムのサブアームの位置がどうしても顔と干渉してしまって作画の手間数が増えてしまう。そこで、ザクはサブアームを後ろに倒して、ジムは収納式にしたいという提案がありました。手描きしやすいようにちょっと情報を落として描きたいという調整などはありました。

――手描きだからこそ、太田垣さんのタッチに近くなっていますね。

太田垣:そうですね。ロボ絵師と呼ばれるアニメーターさんたちのプライドを垣間見た気がします。CG全盛になってきた今、ロボット=CGっていう印象がどんどん強くなってきている中で、手描きでロボットを描くというだけで、みんな信じられないという時代になっているじゃないですか。これって悲しいことですよね。スタッフさんたちの高齢化と若いスタッフが育っていないという現実もありますので、この『サンダーボルト』十数年くらいが、手描きでロボットを描ける最後の作品かもしれないと現場も私も思っていますので、『サンダーボルト』が花火みたいにドンと行ってくれると本当に嬉しいです。


――手描きでロボットを描くのは難しくなってきていると聞くので、やってくれたのは嬉しいですね。それに暗礁宙域もアニメではかなり大変ですし。

太田垣:そうですね。でも、ロボットを手描きしないのも、デブリを出さないのも、作画する手間が大変という経済的な理由が先に立って、作品の面白さっていうのが二の次三の次になっているというのが、残念ながらアニメのある現状だと思います。ただ、アニメの現場にいる人の中にもそれを良しとする人ばかりではなく、アニメを作る職人として「自分はこれがやりたいんだ」「ここまで出来るんだからやらせてくれよ」という熱意はフツフツと溜まっているはずなんです。どうも今作ではそんな人たちのフツフツとした熱にガソリンを注いで火を付けてしまった気がします(笑)。

じつは、元々『サンダーボルト』をアニメにしようと言ってくれたのは、サンライズに席を置いているアニメーターさんだと伺っています。その方がプロデューサーさんに「これがやりたいんだけど」とコミックスを渡されたのが切っ掛けだったそうです。


――それは嬉しいですね。

太田垣:その方は『ガンダム Gのレコンギスタ』にも参加されていて、タイミングもあったと思いますが、結果『Gのレコンギスタ』のスタッフさんの多くが『サンダーボルト』に参加していただいていると聞いています。


――それで手描きの味がより強く感じるのかもしれませんね。

太田垣:『機動戦士ガンダムUC』からの流れもありますしね。


■ 心を二分して生み出されるドラマ

――『ガンダム』好きとしては、『サンダーボルト』が、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』と同時進行で公開されるというのも嬉しいです。

太田垣:不思議な気もしますね。『THE ORIGIN』こそが正当派だと多くの方が思っているし、その通りなんですけど、『THE ORIGIN』は安彦先生が当時描けなかったものをやっている状況じゃないですか、だからなのかこれまでの『ガンダム』とは何か違う印象なんですよね。私も安彦先生は大好きなんですけど。『ガンダム』なんだけど『ガンダム』を否定している感じというのでしょうか。それは悪い意味ではなく、安彦先生の資質だと感じています。作品を読んでいると、とても貴族意識……というか、身分や位の高い方たちへのシンパシーがとても強い作品が多く、低い地位にいる人への目線がちょっと上からに感じることがあります。


――ガンダムでいうと、シャアへのシンパシーは強いけどアムロ目線が弱い?

太田垣:元々、第1作の『ガンダム』であそこまでシャアが魅力的になった一番の理由は安彦先生にあると思います。(精神的に)安彦さん自身がプリンスなので、あのシャアが出来た。その一方、アムロは富野さんの分身そのものだと思うんです。アムロもまたプライドが高く、周囲を見てはいるんだけど自分が下の人間なんだという自覚がある。だから世間を下から見ているアムロと、上から見ているシャアとのぶつかり合いもあって、第1作の『ガンダム』は凄く面白い。富野さんと安彦さん、この二人が組んでいたという奇跡が『ガンダム』を面白い作品にした大きな要因だと思います。


――『サンダーボルト』ではそれを意図的に作られているんですね。

太田垣:自分の中にある人間性を二極化しています。だから最終的にはイオもダリルも嫌いになれない。対極ではあるけど同じ人間の中にあった一要素でしかないので、最終的にいがみ合って相手を消滅させるところまで追い落としたいという気持ちになれないんです。作家として、その甘さが一番不安を感じているところです。それをどこまで追い込めるか。水と油みたいな人間が同じ作品を作っていればいくらでもケンカが出来ますけど、自分の心の中だけでケンカを続ける、憎み続けるというのは凄く難しいことなんです。なので、対立する感情をどこまで持続させられるかは、自分の中での課題になっています。


――作品としては、それがドラマとしての見所になっていくわけですね。

太田垣:そうですね。


――先はまだ長いと伺いました。スタジオの成長と共に今後も『サンダーボルト』を楽しみにしています。

太田垣:ありがとうございます。

[インタビュー&文・小林治/撮影・アニメイトTV編集部]


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■アニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』

【配信情報】
第1話:配信中
 セル版 500円(税別)/第1話(約18分)+特典映像(約18分)
 レンタル版 250円(税別)/第1話(約18分)

第2話:配信中
 セル版 800円(税別)/第2話(約18分)+特典映像
 レンタル版 400円(税別)/第2話(約18分)

【スタッフ】
原作:矢立肇・富野由悠季(「機動戦士ガンダム」より)
漫画原作・デザイン:太田垣康男
監督・脚本:松尾衡
アニメーションキャラクターデザイン:高谷浩利
モビルスーツ原案:大河原邦男
アニメーションメカニカルデザイン:仲盛文、中谷誠一、カトキハジメ
美術監督:中村豪希
色彩設計:すずきたかこ
CGディレクター:藤江智洋
モニターデザイン:青木隆
撮影監督:脇顯太朗
編集:今井大介
音楽:菊地成孔
音響監督:木村絵理子
音響効果:西村睦弘
制作:サンライズ

【キャスト】
イオ・フレミング:中村悠一
ダリル・ローレンツ:木村良平
クローディア・ペール:行成とあ
カーラ・ミッチャム:大原さやか
コーネリアス・カカ:平川大輔
グラハム:咲野俊介
バロウズ:佐々木睦
J・J・セクストン:土田大
 他


>>太田垣康男Twitterアカウント(@ohtagakiyasuo)
>>アニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』公式サイト
>>アニメ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』公式Twitter(@ gundam_tb)

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