マンガ・ラノベ
「W@KUWORK mini」第1回・三木一馬さん講演会レポート

『SAO』『とあるシリーズ』など数々のヒット作を生み出したカリスマ編集者・三木一馬さんが登壇した「W@KUWORK mini」第一回の模様をレポート

「W@KUWORK mini」は、エンタメ業界を志望する学生を対象に、様々な業界関係者を招いて行われる講演会。その記念すべき第一回目のゲストとして招かれたのは、今年4月に独立を果たし、大きな話題を呼んだ、株式会社ストレートエッジ代表の三木一馬さん。電撃文庫では編集長も務め、編集者としても『ソードアート・オンライン』『とある魔術の禁書目録』など数多くのヒット作を世に生み出してきた、業界のカリスマ的存在です。ここではその講演会の模様をお届けしていきます。

■ 新会社・ストレートエッジが生まれるまでの経緯から、エンタメ業界に適した人材の資質まで、様々なトークが展開
 講演会は前半後半に大きく分けられており、前半では、まず三木さん自身の経歴と共に、新会社・ストレートエッジの業務についての説明などが行われます。

 メディアワークスに入社した三木さんですが、実は元々ライトノベルに興味をもっていたわけではなく、当初はまったく別の部署に配属されていました。三木さんが電撃文庫にやってきたのは2001年で、2002年には担当編集として初めての本を発売したのですがこちらは思うような結果が出ず、その半年後の『灼眼のシャナ』が大ヒットしたことで、自分に自信が持てるようになったのだとか。

 その後も担当編集として数々のヒット作を手がけつつ、電撃文庫MAGAZINEの編集長、そして電撃文庫の編集長を歴任しつつ、初の著書である『面白ければ何でもあり』も執筆。元々作家側の気持ちを知ろうと本を出すことを決めたそうなのですが、この経験で「もう原稿の締め切りを急かすのはやめようと思った」そうで、作家側の苦労を改めて実感していた様子でした。

 一方で電撃文庫の編集長を務める内に、管理職と担当編集、それぞれの業務で必要となる才能が異なることを思い知り、管理職はその道の専門家に任せて、より自分にあった仕事に専念するため、独立を決意したのだそうです。

 そうして立ち上げられた新会社「ストレートエッジ」が目指す事業は、プラットフォームをもたず、作家陣と共に作ったIP(原作)を、パートナーシップを結んだ様々なプラットフォームに提供するというもの。従来の体制では、三木さんらに作られた作品は、まず電撃文庫編集部を通すことで他のメディアへと展開されていました。そのスキームは今まで通り活用しつつ、もう一つのルートとして、原作を提供するストレートエッジが直にやり取りし、メディアミックス全体のプロデュースを行うことで、以前よりも素早く幅広いメディア展開が可能になるとのこと。

 ここでは新たなプラットフォームの例として、VRのアトラクションのシナリオや、企業のイメージキャラクターを活かしたCMのストーリーなどが挙げられており、今後は電撃文庫以外の場所でも、カリスマ編集者としての三木さんの活躍の場が広がっていくことになりそうです。

 講演の後半からは、来場者からの関心がもっとも深いと思われる、エンタメ業界に求められる人材や働くための心構えに関する話題が中心となりました。

 業界を志望する学生が最初に考えるべきは、自分がやりたいと思っていることが、現実世界にある仕事の中に存在するかということ。同じエンタメ業界でも、イラストを書くのとストーリーを考えるのではまったく別の才能が必要となるため、「○○なら負けない」と思える自分のスキルは何なのかを考え、それとマッチングする仕事を探すための情報収集がもっとも重要になるそうです。

 エンタメ業界に適した人材として、編集者・プロデューサー、作家に共通した資質として挙げられたのが「取材する気持ちをもっている人」「研究心をもっている人」「作り手になっても受け手の気持ちになれる人」の3点。特に難しいのは3つ目で、三木さん自身ですらやりきれない時の方が多いそうですが、あらかじめ「難しい」ということを理解しておき、常に意識しておくことに意味があるのだそうです。

 それぞれに向いたタイプの話題では、編集・プロデューサーが「一般常識があり、コスト計算ができる人」だったのに対し、作家は「コスト計算をせず、周りに流されない人」という、まさに正反対の人物像に。

 また、とにかく実力のみがものをいう作家の世界に対し、出版社などに入社して編集者・プロデューサーになるためには、現在の日本の制度ではやはりある程度の学歴は必須。さらにその上で、TOEICなど公的な資格をもっていればより面接などで興味を持たれやすくなるとのことで、現場を知る人ならではの現実的な結論に、会場の誰もが真剣に耳を傾けていた様子でした。

■来場者から寄せられた様々な質問に、三木さんが次々と回答!
 前半と後半のそれぞれのパートの終わりには、事前に客席から寄せられていた様々な質問に三木さんが回答するコーナーも設けられました。

 丸々1時間以上がこの質疑応答だったといっていいほど、膨大な数の質問が飛んでいたのもあり、ここではそのほんの一部の回答を抜粋して掲載します。エンタメ業界に興味を持っている読者の方は、是非ご一読を!

Q.未来の編集者や小説家に望む姿とはなんでしょうか?
三木一馬さん(以下、三木):完成した作品をどうプラットフォームに落として見せるかというのが編集者の仕事です。アニメやゲームなどそれぞれの媒体ごとにベストと思える作品に仕上げることが理想なのですが、現実には座組みの問題はいろいろとデリケートなので、編集者はそれぞれの企業としっかりとしたパートナー関係を作っていく必要があります。作家の方はもっとシンプルで、とにかく面白い作品を作れることですね。

Q.労働時間の問題など、編集者ならではの苦労はありますか?
三木:確かに就業時間は不規則ですけど、その分満員電車で揺られることもないですし、スーツも着なくていいし、正直楽だと思いますよ。医者や弁護士と違って免許がなく、就職するだけでなれるのに、それで知ったような口をきけるわけですから(笑)、絶対なった方がいいですよ!

Q.日本のコンテンツ業界は、今後国内と海外、どちらを重視していくべきでしょうか?
三木:海外は今後重視していかなければいけませんが、僕の考えとしては、まず日本でヒットしてないと絶対に海外では売れません。海外の作品が日本に入ってくる時と同じで、海外の人が買う時参考にするのは、日本で売れているかどうかだからです。そのためには、まずは日本でヒットすることを何よりも重視しなければいけないと思っています。

Q.高齢者問題は業界にどのような影響がありますか?
三木:すごい質問ですね(笑)。確かに影響はあると思います。ただ何より大変なのは、スマートフォンの普及で本を読まない子供達が増えていることの方だと思いますね。編集者の仕事を知らないという人も増えるでしょうから、そうならないように頑張っていかなければなと。

Q.オリンピックに向けた企画は考えていますか?
三木:そんなものないよ(笑)! ただ、外国人観光客に向けたという意味であれば、日本刀とか扇子とか、伝統工芸とコラボした企画が何かできないかと考えています。

Q.現在製作されているアニメの作品数についてはどうお考えでしょうか?それに伴う、原作の枯渇も気になります。
三木:正直、アニメの本数は早く減らしてほしいと僕も思っています。クリエイターの側がすごく疲弊してしまっているんですよね。ただ、原作の枯渇については全く心配していなくて、確かに売れている原作という意味では減っているのかもしれませんが、最近ならWEB発の面白い作品があったり、予想外のコンテンツが人気になったり、いくらでも出てきていますから。

Q.出版・アニメ業界の今後十年のあり方について見解を教えてください。
三木:こちらの都合や事情を無視して言うと、出版界に必ず来るであろうと思っているのが「読み放題」定額モデルですね。紙を中心としたビジネスモデルが難しくなっていく中、どうやって作家さんが安心して創作に専念できる環境作りをすることが自分の目標で、いろいろと策を練っているところです。

Q.今後漫画やライトノベル業界は衰退していくと思いますか?
三木:いかないと思いますよ。何をライトノベルや漫画と定義するかにもよりますが、どんな形になっても物語がなくなるということはないので、漫画や小説は不滅だと思いますね。一番大事なのは面白い作品を作ることですから、枠組みに関してはあまり気にしてないです。

Q.作家と編集者に共通して、エンターテインメント業界の仕事を長く続けていく上でもっとも重要なものは何でしょうか?
三木:これは冗談ではなくて、健康です。僕はこんな風貌ですが(笑)、会社員時代、僕は健康診断がずっとAなんですよ。健康じゃないとやっていけない業界ですから。作家志望の方は、区や市で健康診断をやってくれていますから、これを受けるのが本当に大事です。

Q.エンタメ業界における優秀な人材とは?
三木:一般的なマナーを持ちつつ、尖った部分も持ち合わせている人ですね。ただお行儀が良いだけではダメで、そこに+αが必要になってきます。

Q.エンタメ業界を志望する際、チェックすべき会社の情報は何でしょうか?
三木:自分のできそうなことと、会社がやっていることがマッチングするかということです。僕は企業理念や社風はあまり気にしなくていいと思っていて、実際に働いている人の声や、エンタメ業界であればその会社が何を送り出してきたかということが参考になるのではないでしょうか。

Q.学生時代にやっておけばよかった、やっておいてよかったと思うことはありますか?
三木:やっておけばよかったことは英語ですね。今は本当に英語が大事で、受験英語はできるんですけど通訳さんがいないと何もできないので、もっといろいろやっておくべきだったなと。やっておいてよかったことは、適度にサボったことです(笑)。大学時代は雀荘に通いつめていたんですが、そこでマイノリティの孤独感みたいなものを感じられたんですよね。エンタメ業界というのはクリエイターにしても編集者にしても孤独をモチベーションに繋げられることが多いので、今の仕事にも結構生きているのかなと思います。

Q.小説を書き続けられる人とそうでない人の違いは何でしょうか?
三木:書き続けられるのは、「俺すげぇ」と思い続けられるかどうかです。それくらいの自信をもっていないと、編集の言葉などで心が折れてしまう瞬間はどうしても来てしまうので、人の意見をあまり聞かないというのも作家にとっては重要なんです。逆に書き続けられないのは、インプットをする時間がないままアウトプットをしすぎて、書けるものがなくなってしまったときですね。

Q.今後どういった作品が増えて欲しいと思いますか?
三木:個人的に、自分には絶対作れなかったなと思う作品が世の中に出てきた時は嬉しいですね。これは10年くらい前の話ですが、『狼と香辛料』という作品を初めて読んだ時、内容は本当に面白いんだけど、その時の僕にはどうやってもこの作品のパッケージングは出来ない、と思いました。

Q.近年WEB小説では現代世界ではない世界に転生をする作品が流行していますが、そんなに現代社会は生きていくのが辛いものでしょうか?
三木:いい質問ですねぇ(会場も爆笑)。でも本質は学園ラブコメも同じだと思うんですよ、あんな強大な権力をもった生徒会とかは現実に存在しないですから。おそらく「ここではないどこかへ行きたい」という心は誰でももっていて、最近はそれが分かりやすくなっているだけなんじゃないかなと。異世界転生モノの話をするなら、お約束が確立されている分余計な説明がいらず、すぐにエンタメに入れるというのはすごくありがたいんです。流行しているのは単に読者に受けるからだけではなく、作家さんにとっても書きやすいというのが大きいのかなと思っています。

 など、ここで紹介した質問はほんの一部。この他にも多数の質問にズバズバと明確な回答で応え、多くの来場者も三木さんの話に頷き、真剣に聴き入っている様が印象的でした。(質問を読まれた学生には、ストレートエッジのロゴが印刷されたノベルティや、三木さんが持参した特製のTシャツのプレゼントも行われていました)

 講演会終了後、アニメイトタイムズでは、三木さんにライトノベル業界の現状などを中心としたあれこれインタビューしましたので、是非そちらの記事もご一読ください。
>>変わりつつあるエンタメ業界を生き抜くその術とは──ストレートエッジ代表・三木一馬さんインタビュー


 また今回に続きまして、「W@KU WORK mini」の第2回が、2016年6月30日に東洋美術学校にて開催される予定となっています。
 第2回では株式会社サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏、株式会社トリガー取締役の舛本和也氏、株式会社星海社編集者の今井雄紀氏という、それぞれの業界を代表する豪華な御三方をお招きし、「ゲーム・アニメ・出版の三大エンタメ産業における働き方徹底比較」をテーマにした講演が行われるとのことです。エンタメ業界を代表される方々から、超貴重なお話を聞くことができるまたとない機会ですので、是非お早めのご予約を!

■開催情報

第二回 W@KU WORK mini
開催日:2016年6月30日(木)18時00分~20時00分
会場 :東洋美術学校 C1教室
登壇者:
サイバーコネクトツー 代表取締役社長 松山洋氏
スタジオトリガー 取締役 舛本和也氏
星海社 編集者 今井雄紀氏

定員:150名

参加方法:参加料1000円 事前予約制(公式サイトの応募フォームより応募)

>>W@KU WORK mini公式サイト

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