最新作の監督が語る「アンパンマンが、アンパンマンで在り続ける理由」とは?――劇場版『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』監督・川越淳インタビュー
日本人なら誰でも知っているアニメ『アンパンマン』の第28弾となる劇場版作品『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』が2016年7月2日(土)に公開となります。
原作者であるやなせたかし先生が亡くなってから2作目となる本作の監督を務めるのは、やなせ先生が最後に携わった作品『それいけ!アンパンマン りんごぼうやとみんなの願い』(2014年)も担当した川越淳さん。やなせ先生が『アンパンマン』を通じて伝えたかったメッセージとは何だったのか? 先生不在の中で今後どのようにシリーズを繋いでいくのか? 30年にも近い年数、アンパンマンとアニメキャリアを築き、先生のメッセージを間近で聞いた一人である川越監督に伺った。
■ 先生は、本当に苦しかった中を生きてきた方
――やなせ先生が最後に関わられた『りんごぼうやとみんなの願い』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?
川越淳さん(以下、川越):『りんごぼうやとみんなの願い』の前作『それいけ!アンパンマン とばせ! 希望のハンカチ』(2013年)のときから、既にやなせ先生は、震災で被災した林檎農家の方のお話を新聞で知り、「来年は林檎でいく」とおっしゃってたそうなんです。だから復興三部作として、林檎をテーマにすることは既に決まっていました。
――ストーリーはどのように決まっていったのですか?
川越:プロットをスタッフみんなで考えて、それをやなせ先生にプレゼンしました。やなせ先生がご病気のため(確認を)急いでいるとは聞かされていなかったんですが、スタッフとしても「良い作品を時間をかけてしっかり作ろう」と気持ちが固まっていたこともあって、早い段階でシナリオを上げたんです。そのため、先生がご存命の間に感想をいただくことが出来たんです。「今年は早くしてくれてありがとう」と言葉が添えられていて、そのときはなんでだろうと思っていたんですけど、先生はご自身のことがわかっていたんでしょうね。だから次の映画のコンセプトが早く知りたかったんだと思います。
――やなせ先生は、どんな人柄の方だったんですか?
川越:作品に対しては厳しい方でした。初期の頃はフィルムだったので、東京現像所に毎週来て、その作品に対するコメントをきっちりと言ってくれるんです。褒められたこともありますし、厳しく言われたこともあります(笑)。僕が一番最初に監督を担当した映画『それいけ!アンパンマン だだんだんとふたごの星』(2009年)なんかは、強く意見を言われましたからね。
内容というよりも、ギラついた画面演出などをたくさん使っていたので、先生的には品がないと感じて嫌っていたのかもしれません。私自身が、映画初監督作品だったことと、『新ゲッターロボ』(2004年)、『鋼鉄神ジーグ』(2007年)、『トランスフォーマー スーパーリンク』(2004年)などのロボットアニメの経験もあったのでそのテイストを思いっきり入れちゃったんです。高学年の子供たちには人気だったんですけど、本来のターゲットである幼い子たちは怖がっちゃったみたいで、表現方法を誤ってしまいましたね。
でも翌年に担当した併映作品『それいけ!アンパンマン はしれ!わくわくアンパンマングランプリ』(2010年)は明るく楽しくで作ったので、先生からもとても褒めて頂きました。先生は、本当に苦しかった中を生きてきた方ですから、上に立ったときも他人に優しく出来る方だったんだと思います。
■ 作品のヒントはやなせ先生が残した曲の中に
――本作『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』は、そんな先生不在の中で生まれた2作目になりますが、制作にあたり苦労などはありましたか?
川越:やはりプレッシャーは大きかったです。今回は先生から意見をもらうことが出来ないわけですから、「どうしようか?」とスタッフみんなで常に考えていました。そんな中でヒントになったのが、先生が残されたたくさんの曲だったんです。昨年の『それいけ!アンパンマン ミージャと魔法のランプ』を作る際にも参考にしていたのですが、曲からテーマを探すことで、先生の意思を受け取ろうと考えたんです(※1)。そういうこともあって「良い曲はないか?」と探していた中で見つかったのが「勇気のルンダ」でした。
――ストーリーやキャラクターのデザインはどのように決まったのでしょうか?
川越:最初はみんなでストーリーのアイデアを出し、「勇気のルンダ」という曲が見つかったので、歌詞から取ってルンダとナンダというキャラクターを作ってやってみようか、という話になりました。それをシナリオライターの米村正二さん(※2)に伝えてプロットを作ってもらい、そこに僕が絵をつける。さらにそれをみんなで確認しながら「ここはどうしよう? これはどうしよう」と話し合って、それを踏まえて米村さんが書き直したプロットにまた僕が絵をつける、とい作業の繰り返しです。
キャラクターに関しても先生は不在ですから、キャラクターデザインの前田実さん(※3)にルンダとナンダのイメージを伝えて描いていただきました。ルンダは比較的早い時点で決まっていたんですけど、ナンダの方は「ポンコツロボットで無骨」という設定なので、どう描いてもどっかで見たことあるやつになっちゃうんですよね(笑) 前田さんも何度もいろんな絵を描いて下さって、苦労の末ようやくビジュアルにあるナンダが完成しました。
――劇中では変形を披露しますが、そういったアイデアは初期の方からすでにあったのでしょうか。
川越:変形はシナリオ段階からそういう風にしようと決まってましたが、具体的なアイデアはコンテを描いているときに考えました。僕はロボットアニメの経験が多かったので、ロボットの扱い方はやはり得意でしたから。
――終盤ではロボットアニメを彷彿とさせる演出もあって素晴らしかったです。
川越:僕はもともとアンパンマンから演出家になったため、基準ラインもアンパンマンなんです。そこからロボットアニメに出向き、またアンパンマンに戻ってきたというだけなんです。なので、ロボット物の演出をするときも、アンパンマンが基準になっています。スタイル的にはシリーズ監督の永丘昭典さん(※4)継承という感じでしょうか。
――制作にあたって印象深いエピソードはありますか?
川越:映画ということもあって、絵描きさん(アニメーター)にしろ、スタッフに腕の良い方が集まってるんですよ。普段映画をやっているようなレベルの人たちですから、僕が演出チェックをするときも、見ていてとても楽しかったです。本当にスキルの高い方が集まっていて、今回はロボットのナンダが出てきますが、変形シーンなんかにはロボットが得意な人たちに結集してもらいましたし、作画を担当した本人たちも納得のいくものが出来たと言っていました。日常シーンなどの生活芝居の部分も、普段長編を担当されている方が丁寧に作ってくれているので、派手ではないんですが、重要なシーンになっています。
あとは映画ということもあり、親御さんも観に来られるというところを意識していることですかね。TVのアンパンマンでは、お母さんが家事をしている間に子供がテレビでアンパンマンを観てたりすることも多いと思いますが、映画では親子で一緒に観てもらうことになりますからね。大人でも飽きずに最後まで見てもらえるように工夫しています。
――川越さんのお気に入りのシーンはどこですか?
川越:自分の作品を言うのは少し恥ずかしいですね(笑) 子供たちが楽しく山登りしているシーンがあるんですが、僕はそういうのが好きですね。あとはルンダとナンダの友情であったりですね。ガチャガチャと仕掛けが動くシーンも作りこんでいて、個人的には上手くいったのではないかなと思っています。
※1 『それいけ!アンパンマン ミージャと魔法のランプ』では、人気楽曲「アンパンマンたいそう」をテーマに作られている。
※2 アンパンマンを含むたくさんのアニメ作品に参加。川越監督とは『それいけ!アンパンマン りんごぼうやとみんなの願い』でも、一緒に制作している。
※3 『それいけ!アンパンマン』の総作画監督。
※4 シリーズ監督。映画1作目『それいけ!アンパンマン キラキラ星の涙』(1989年)や『それいけ!アンパンマン ばいきんまんの逆襲』(1990年)で、監督を担当。
■ やなせ先生の遺志を守りながら、新しいものを作っていける
――川越さんの考える「やなせイズム」とはどういったものですか?
川越:やなせ先生は戦争体験者で、ひもじい時代とか人間の酷いところをたくさん見てきた方なので、考え方が甘くないんですよ。その中で残されたものが、愛とか勇気とか優しさなのかな、と僕らは理解して、それをベースにして映画を作るようにしています。その中でみんなでいろんな選択肢を出し合い、選びながら作っていったことで「やなせイズム」というのが段々と見えてきた感じですかね。
――やなせ先生亡き今後は、どういった形でその遺志を継承していこうと考えていますか?
川越:もう28弾までやっていますし、今までも先生のアイデアだけでなく、僕たちのアイデアに先生が触発されたということもあったと思うんです。いろんな作り方をしてきましたし、短編などは先生の原案なしで作ったものもありましたから。スタッフたちのスキルも確実に上がっていると思いますし、先生の遺志を守りながら、新しいものを作っていけるんじゃないかと考えています。みんなやってはいけないことは理解してますし、守っていくものも分かっている。それこそ30年以上も携わっていますからね。
――スタッフの中で意見が割れるようなことはないのでしょうか?
川越:シナリオ作る段階では結構あります。「これはやっちゃいけないよ」という話がプロデューサーから出たりとか、シナリオライターさんも何人かいらしゃるので、その人の中で守ってるものというのもそれぞれちょっと違いますから。
――そういった時方向性を決めるのはどういった要素なのでしょう?
川越:僕は過去の作品を見たりします。新作映画が公開されるこの時期だと、映画作品の再放送をBS放送などで、やってたりするんですよ。そういうのを観ながら「やなせイズム」がどういうところにあるのかを探しています。やっぱり過去の作品を観るとハッとすることもあるんですよ。「あ、これ忘れてた……」とか、「こんなことしてたんだなあ……」とか。やっぱり昔の作品はやなせ先生の色、人の持つ「我」を含んだ、毒のようなの部分が今より濃かったですよね。昔の作品ですから、今ほど鮮麗されているわけではないんです。でもだからこそ、そこにやなせ先生の色が出ている。そういった部分は、絶対になくしてはいけないなと考えています。そうしないと普通のアニメになっちゃいますからね。
――最後になりますが、やなせ先生の伝えたかったことはなんだったと思いますか?
川越:やっぱり他人に対する思いやりとか優しさとかじゃないでしょうか。単純なことなんですけど、それを正々堂々と言える作品ってないじゃないですか。みんな照れちゃうんですけど、それが『アンパンマン』だったら言えるんです。先生の人生を垣間見ることが出来るから、他人に優しくするということがとても意味深く伝わってくるんだと思います。
――ありがとうございました。
タイトル 『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』
2016年7月2日(土)元気100倍ロードショー!
>>『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』公式サイト
★アンパンマンこどもミュージアムとのコラボキャンペーン実施決定!
『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』の公開を記念して、「アンパンマンこどもミュージアム」と映画館がコラボした、“ルンダのおもちゃスティックをもらおう!キャンペーン”の実施が決定しました!
ミュージアム内にいるスタッフに映画鑑賞後のチケット半券または本作の入場者プレゼント“元気100倍!カスタネット"を見せて、なんでもおもちゃにしちゃうルンダの合言葉「ナンダルンダルンダ~!」と唱えると、先着3,000個限定(全国5館合計)でこのキャンペーンでしか手に入らない『映画特製記念おもちゃスティック(バルーン)』がプレゼントされます!
また、ミュージアム内にある各店舗でも様々なコラボレーションを実施! ルンダのキャラクターパン・映画オリジナルグッズの発売、さらにオリジナルカフェメニューなど盛りだくさんの内容となっています。『アンパンマン』の世界を通して、子供も大人も一緒に楽しんでください!
<各ミュージアムの公式サイト>
横浜:http://www.yokohama-anpanman.jp/
仙台:http://www.sendai-anpanman.jp/
名古屋:http://www.nagoya-anpanman.jp/
神戸:http://www.kobe-anpanman.jp/
福岡http://www.fukuoka-anpanman.jp/
(C)やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
(C)やなせたかし/アンパンマン製作委員会2016