『時かけ』10周年!スタジオ地図齋藤優一郎Pインタビュー【後編】

映画『時をかける少女』10周年インタビュー【後編】 「いま、そしてこれからの未来をかけてゆく若者、子ども達に観てもらいたい」(齋藤P)

 細田守監督による、2006年公開の長編アニメーション映画『時をかける少女』。公開から10年を迎えた今年、アニメーション映画制作会社・スタジオ地図と株式会社KADOKAWAでは、リバイバル上映、野外シネマ(野外上映会)、「時をかける少女」コラボカフェなど、様々な関連イベントを実施。「時をかける少女」10th Anniversary Blu-ray BOXも、25日(金)にいよいよリリースされます。

 そんな『時をかける少女』の公開10周年を記念して、スタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサーへインタビュー。今回の【後編】では、同作の主人公・真琴に込めた想いのお話や、10周年の関連事業について、そして今後の展望などを語っていただきました。

■前編はコチラ
>>映画『時をかける少女』10周年~スタジオ地図・齋藤優一郎プロデューサーインタビュー【前編】 「作家に寄り添う」と決めた原体験とは?

細田監督の日常から、映画が生まれる
――昨年『バケモノの子』が公開されましたが、次回作はつくり始めていらっしゃるのでしょうか? また、どんな映画になるのでしょう?

スタジオ地図・齋藤優一郎プロデューサー(以下、齋藤):作り始めています。細田監督が、おもしろい映画になりそうな切り口を見つけました。どんな物語になるのかはまだ具体的に申し上げられませんが、「まだ誰も観たことがない映画」になるんじゃないか、と僕は思っています。この10年を振り返ってみると、細田監督は『時をかける少女』や『おおかみこどもの雨と雪』のように、人生の大きさや時間を表現するような作品と、『サマーウォーズ』や『バケモノの子』のように、一つの世界を二つの視点から見ることによって世界の広さを表現するような作品とを交互に作ってきたように思います。そういった文脈で次回作を考えると、もしかしたら、順番的には前者のような作品になるかもしれない。そして、細田監督が見つけた切り口というのは、きっと誰もが体験したことがある、もしくは今まさに体験しているような身近な出来事を切り口に描かれているのではないか。これまでの作品から、そんなことも推測できたりしますよね。

たとえば『バケモノの子』は、細田監督に子どもが生まれたことが、きっかけでした。そして自身の子どもの成長を通して、日々変容していく社会で、これからの未来を生きていく子どもたちを見たとき、その成長を励ましたい、祝福したいと思った。そして親や大人、社会は、その子どもたちの成長に対して何をしてあげられるのか。そうしたことを、映画を通して考えたいと思ったというのが、映画を作る動機になっています。

細田監督は、自身の家族の中で起こっている喜びや問題意識というのは、世界中どこの家族の中でも起こっていると考えているんです。そして自身の家族の問題を解決することは、もしかしたら世界中の家族の問題をも解決することにもつながるんじゃないか、と。映画の機能を通じて、そういったことを世界中の人たちと共有できるような作品を作りたい、ずっと新しいチャレンジをし続けているんです。

――日本という小さい国の、細田監督のご家族という1サンプルと考えると、作り始める段階では不安もあるのではないでしょうか?
齋藤:毎作、常に新しいチャレンジですから、恍惚も不安も両方あると思います。でも常に、地球の裏側に住んでいる人たちにもおもしろがってもらえるような、新しい表現や、映画の幅を広げていくようなチャレンジをしていきたいと思っている。いま、細田監督はものすごい勢いで作っています。

――作家の個人的なところから生まれたモチーフを大切にするのも、インタビュー前編でおっしゃられた「作家主義」なのかもしれませんね。『バケモノの子』では、これまでの3作から一部メインスタッフの布陣が変わり、脚本も細田監督自身が手がけられていましたが、このあたりも「作家主義」のひとつのかたちなのでしょうか?

齋藤:監督が脚本を書けば作家主義であるかというと、そういうことではないと思います。『バケモノの子』での変化というのは、映画が必要とした最良のかたちを目指した結果です。よく、原作物とオリジナルのどちらを作りたいか、というご質問をいただくのですが、細田監督が望んでいるのは、おもしろい映画を作りたい、ということだけなんですね。だから次回作でも、これまでとはまた違った変化やチャレンジがあると思う。きっと、次回作も「新しいチャレンジに満ちあふれた映画になる」と思います。

――楽しみにしています! スタッフ面でもう一点、齋藤さんとスタジオ地図を中心に、細田監督作品はプロデューサーの布陣もがっちり充実している印象があります。

齋藤:よく細田監督から言われます、「プロデューサーは何人もいていいね」って(笑)。でも逆にいうと、数が多いだけではダメで、僕は数を必要とするだけの役割や新しいチャレンジがないとダメと思っています。監督は常に一人で、孤独な存在だと思うんです。だから、その監督をみんなで支え、作品の飛躍とも併走していけるような、プロデューサーとしての新しいチャレンジをしていく必要がある。そういった、つばぜり合いというか、二人三脚というか、バディ感がないとダメなんじゃないかと思っているんです。

たとえば、『おおかみこどもの雨と雪』の制作時から一緒に仕事をしている東宝の川村元気くんも同様で、監督を支える力の一つとして参加してもらっています。彼は僕の昔からの友人で、世代は近いのですが、育った畑が全く違う。実は個人的に、僕が彼から新しい学びや刺激を得たいという気持ちがあった。たまに、興行的な要請でそういったチームになったのではないかとおっしゃる方もいるのですが、僕は、まず監督と作品が必要とする、気持ちと哲学を共有した“人”の力が、最も大事だと思っているんです。

映画『時をかける少女』の主人公・真琴に託したもの
――細田監督の身近なところからテーマやモチーフが生まれるというお話に戻るのですが、原作付きの『時をかける少女』でも、主人公が変更されたほか、テーマも違ったものになっていました。それ以降の作品同様に、何かヒントがあったのでしょうか?

齋藤:一番大きいのは、原作が書かれた当時の未来と、いま僕らが考える未来とで、考え方が大きく違うのではないかということがあったと思います。原作が書かれた60年代で考えられていた未来というのは、まさしく未来都市的なものを夢見ていた部分があったと思うんですね。人間の英知と科学の進歩が、人類の不幸や問題を克服してくれるだろういう期待があった。でもいま21世紀という未来に生きている僕らの現状を見たときに、相かわらず50年前と同じく、もしくは新しい不幸や問題を克服できずにいる。そういった現代で改めて未来というものを考えたとき、科学の進歩以上に、人間そのもの、特にこれからを生きていく子どもたちや若者たちこそが未来そのものなんじゃないかと、細田監督は考えたんだと思うんですね。だから、自分自身の殻をはじめ、様々なことを突き抜けていくバイタリティを持った、真琴というキャラクターが生まれた。こういう子がきっと未来を作っていくんだって。

――2010年代でも、そのまま共感を得られるキャラクターですよね。

齋藤:現在進行形であって、未来進行形でもあると思っています。これからも真琴のように、バイタリティを持った若い人たちが未来を作っていくんだと思います。また今年は、『時をかける少女』公開から10年ということで、リマスター版での劇場公開や東京国立博物館での野外シネマ、また渋谷PARCOさんでの「時をかける少女カフェ」など、たくさんの新しいチャレンジをさせていただきました。公開当時から応援し続けてくださっている多くの方々はもちろん、いま<時をかける少女>を必要としている、そしてもしかしたら少し先の未来で、この<時をかける少女>を必要としてくれるかもしれない多くの子ども達、若者達に作品を観ていただけたことは、本当にありがたく、心から感謝しています。

『時をかける少女』には、常に時代を越えて、ずっと作られ続けてきた歴史と文脈がある。時代が転換期を迎え、たとえそこに混乱があったとしても、人が、若者が新しい未来を描こうとするたびに、きっとこれからも作られていく、時代の変化に必要とされる作品なんだと、僕は思っています。細田監督にとっても、『時をかける少女』は本当にかけがえのない作品です。

――今年11月には、KADOKAWAから『時をかける少女』10th Anniversary BOXもリリースされますね。

齋藤:本編はもちろんのこと、映像特典についてもデジタルニューマスターになっています。以前のDVDプレミアム・エディションに収録されていた「時かけ同窓会」「ビジュアル・ノート」「ディレクション・ファイル」に加えて、今年7月に開催された東京国立博物館・野外シネマでのトークショー映像も新録されています。本編はエンディング含めて98分なんですけど、特典の総尺は300分オーバーと、僕らの10年分の感謝の気持ちも込めて、本当に盛り沢山です。『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』でもお馴染みのARTBOOKシリーズに、新たに制作したA4版「時をかける少女 ARTBOOK」も入って、装丁も大箱仕様になりました。

僕はこのボックスを作らせていただくにあたって、あまり“10周年”という言い方はしたくないなと思ったんですよ。「昔は良かった」みたいな、懐古主義的なものにはしたくないから。なぜなら、『時をかける少女』は常に、今と未来にむかって駆けているものだから。その作品の思い同様に、10年前も楽しんでいただいた方々と、いま未来に向かって走り続けている<時をかける少女>たち、これから少し先の未来で<時をかける少女>を必要としてくれるかもしれない若者たちと一緒に楽しめるような企画にしたい、そんな思いで作りました。この夏の東京国立博物館での野外シネマや、「時をかける少女カフェ」なども、その気持ちは同様です。

――真琴と同年代・高校生くらいの時に見た人たちは、いま30歳手前ということになりますよね。

齋藤:お一人おひとりにとって充実した10年であったと願っています。だからこそ、この『時かけ』アニバーサリー企画は、その沢山の方々へのお礼でもあり、元気だった!またこれからも一緒に未来に向かって走って行こうよという想いが、僕の中にはある。映画は本当に一本一本、一度観てもらえなかったら次がない世界です。その中で、私たちがまた次の映画を作ることができているのは、この『時をかける少女』を観て、多くの方々に広めてくださった、そのたくさんの方々のおかげだと思っています。映画が一本一本であるということは変わらないけれど、でも「映画は作っただけでは終わらない」ということも、教えていただきました。

――最後に、スタジオ地図としての今後の目標をうかがえますか?

齋藤:引き続き、また新しいチャレンジに満ちあふれた細田監督の次回作に全力投球していきたいと思っています。今はただそれだけですが、でもできるだけまた近いうちに、みなさまに新しいご報告が出来るよう、私たちも未来に向かって走り続けて行きたいと思います。

[取材&文・小林真之輔 撮影・佐田幸久]
 
■「時をかける少女」10th Anniversary BOX 発売情報
タイトル:時をかける少女 10th Anniversary BOX 【期間限定生産版】
発売日:2016年11月25日(金)
価格:14,800円(税抜)
品番:KAXA-9822 JAN:4988111906410
メディア:ブルーレイディスク
日本語/Dolby TrueHD 5.1ch/リニアPCM 2.0ch/Dolby Digital 2.0ch/
DTS-HD Master Audio DTS Headphone:X? 
BD2層ディスク3枚/MPEG-4 AVC 1080p 16:9 (一部映像特典1080i)/日本/2006年/カラー/
日本語字幕(難聴者用)/(本編:約98分/他 特典映像:200分以上収録)/BOX付

【スタッフ】
原作:筒井康隆(角川文庫刊)
監督:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
美術:山本二三
作画監督:青山浩行・久保田誓・石浜真史
主題歌:奥華子「ガーネット」(ポニーキャニオン)
音楽:吉田潔

【キャスト】
紺野真琴:仲里依紗
間宮千昭:石田卓也
津田功介:板倉光隆
早川友梨:垣内彩未
藤谷果穂:谷村美月
紺野美雪:関戸優希
高瀬宋次郎:松田洋治
芳山和子:原沙知絵

【劇場上映情報】
2016年11月26日(土)~12月2日(金)※1週間限定上映
チケット発売、上映時間などに関する詳しい情報は劇場HP、または直接劇場へお問い合わせください。

実施日:11月26日(土)
場所:シネマート心斎橋(大阪市中央区西心斎橋1-6-14ビッグステップビル4階)
実施時間:14時15分~の上映回(上映後に実施)
登壇者:
齋藤優一郎スタジオ地図プロデューサー/代表取締役(時をかける少女プロデューサー)
千葉淳KADOKAWAプロデューサー(時をかける少女宣伝担当)

本作、公開当時や10年たって今、あらためて思う事など「時をかける少女」にまつわる話など短い時間の中でお話ししていきます。

シネマート心斎橋:06(6282)0815
>>劇場公式HP

【チケット発売情報】
《劇場窓口》
11月19日(土)劇場オープン時より販売開始。
《オンラインチケット予約》
11月19日(土)正午より当館オンラインチケット予約ページにて販売開始。
>>予約ページ

料金:通常料金
※招待券、ポイント引換は使用不可。

【注意事項】
※先行販売で完売の場合は、当日券の販売はございません。
※ご購入後の変更・キャンセルはできません。
※場内でのカメラ(携帯カメラ含む)・ビデオによる撮影、録音等は固くお断りいたします。
※転売目的でのご購入は、固くお断り致します。
※いかなる事情が生じましても、ご購入後のチケットの変更や払い戻しはできません。

■「時をかける少女カフェ@大阪」 開催決定!
場所:THE GUEST cafe&diner(心斎橋161 2F)
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目6番地1号

開催期間 :2016年12月1日(木)~2017年1月/11日(水)
営業時間 10:00~21:00(フードL.O20:00 ドリンクL.O 20:30)
※最終日は18時まで(フードL.O17:00 ドリンクL.O17:30)
※年末年始の営業時間
12/31 10:00~19:00(フードL.O18:00 ドリンクL.O18:30)
1/1は休業、 1/2より通常営業

>>スタジオ地図 オフィシャルサイト

(C)「時をかける少女」製作委員会2006
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