TVアニメ『トリックスター』は背景にも謎が隠されている……？ ここだけでしか見られない貴重な美術ボードを先行公開！【少年探偵団 取材手帳 第5回】

　2016年10月より好評放送中のTVアニメ『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』。アニメイトタイムズでは声優陣やスタッフのインタビューなどをもとに、作品を紐解いていく連続企画【少年探偵団　取材手帳】が連載中です。

　今回はなかなか公開されることのない背景などの美術ボードを先行公開します！　舞台設計担当者の灰谷清さんの解説とともに、近未来の渋谷の姿や、小林芳雄（CV:山下大輝さん）が住む廃ビル、花崎健介（CV:逢坂良太さん）の家など、繊細なタッチで描かれた貴重な資料の数々をご堪能ください。今、取材手帳の第5ページ目が開かれます。

　過去の連載はこちらからチェック！
>>【少年探偵団 取材手帳 第1回】山下さん、逢坂さんが見た世界とは
>>山下さん、逢坂さん、梅原さんの声優初仕事は？【取材手帳 第2回】
>>吉田恵里香さんが伝える作品の世界【少年探偵団 取材手帳 第3回】
>>GACKTさんが語る怪人二十面相【取材手帳 第4回】

灰谷清さんが目指した舞台設計とは？
　TVアニメ『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』の背景美術は、美術設定の坂本竜さんと、舞台設計の僕とで意見交換しつつ作成しています。主にこちらからデザイン主旨をお渡しし、坂本さんから独自のアイデアを盛り込んだ切り返しを頂き、僕からアドリブを含めた調整案を提示する、といった流れで進めているため、共同作業と分担作業の良いとこ取りの物ができていればと思っています。

　また、中には美術監督の李さんに直接舞台設計案をお渡しして、李さんの裁量で描いて頂いているものもあります。そのあたりにも触れつつ解説していきます。

――灰谷清

全てはこの場所から始まった――小林のいた廃ビル
　アニメ第1話「Ｄ坂蜃気楼」で小林と花崎が出会った廃ビル。かつてデパートだったのか、複合施設だったのか、屋上には観覧車のゴンドラのみが寂しく転がっています。

▲小林の家（廃墟屋上）

　また、こちらの資料ではビルの全景を見ることができます。ビルの前方には小林が第1話冒頭で自殺しようとしたシーンの場所が描かれています。

▲小林のいたビル

◆灰谷さんが解説！
　小林のねぐらとしてシナリオに「屋上の観覧車」と描写されていたため、その異物感が面白いなと思い、ぱっと見た目の「異空間」「異物」感を強調しようと思いました。廃ビルそのものを、大型スパ施設と想定したため、屋上はテルマーレ風の温水プールだったと想定して、観覧車は理屈抜きで置きました。

　各部のデザインはローマ植民都市の遺構（ニコメディアやアクロポリスなど）のイメージをモチーフとして、「こんなもんだよね」で作った感を出したいと思いました。円柱が崩れていたりするのは、元からそのように作ってあった、としています。異物感、としては、床の隙間を破って生えてきた雑草が、意外にいい仕事をしてくれました。

　ちなみに、ビルの各フロアはそれぞれのコンセプトがバラバラなテーマパーク状になっています。成金趣味の客を相手にしている想定です。

◆アニメではこんなシーンに登場！

やっぱり超豪華！ 明智探偵事務所
　シャンデリアのように天井からぶら下がった水槽、壁際に飾られた大量の酒瓶……。絢爛豪華な装飾が目を引く明智探偵事務所です。エレベーターも水槽に囲まれており、明智小五郎のセンスの良さを感じさせます。しかし、ここまでの施設を完成させるのにどれだけの費用がかかっているのでしょうか……？

▲探偵事務所屋上

◆灰谷さんが解説！
　映像の背景美術は、舞台の「名前」とあまりにイメージが一致する絵だと、視聴者の視覚から消えてしまう特性があると思っています。「明智」「探偵」「事務所」と、それぞれのキーワードを分解して、「らしさ」と「らしくなさ」の綱渡りをしながら、キャラの邪魔をせず、視聴者の目に入るデザインを模索しました。

　デザインモチーフはアールデコを基調に、乱歩先生の「明智小五郎」がステレオタイプにはまり易い1930年代の雰囲気を意匠として取り入れています。「探偵」事務所とはいえ、現代の探偵はホームズとはちがって、便利屋、法律相談所的な要素が強いため、世俗離れ感が出る程度に収めた方が、空振り感が少ないと判断しました。金魚を散りばめたのは、そんな目的です。

　映像舞台としては、空間が広いほうがキャラ芝居とその空間を両立して見せるためには圧倒的に有利であると思っているため、「事務所」を商業店舗として捉えて、ショーウィンドウ感を重視しています。具体的には天井を高くし、窓を片面に絞って、明智の机が上座に見えるよう、視線誘導に気を使っています。

　また、シリーズ中何度も登場する舞台では、キャラの芝居は基本的に「集まって、話す」ことが主になります。視聴者にその間見てもらい続けるため、目の持って行き場を用意できるよう、東京アクアリウムのパフォーマンスに着想を得た水槽を吊るしたり、床面に掘りごたつ状の高低差を作ったりと、細々と仕掛けをしています。TV画面は簡単に言えば「横長」ですので、意図的に「上下」の縦のラインが印象に残るようにデザインを組んだり……わりと、気を使って作りました……。

　明智探偵事務所が、キャラの邪魔をせず、且つ舞台として視聴者の記憶に残って貰えれば、坂本さん共々、こんなに嬉しいことはありません。

◆アニメではこんなシーンに登場！

◆＜ここに注目！＞野呂の家もけっこう豪華？
　少年探偵団の紅一点・野呂誠の家は様々なデバイスが目を引きますが、実はかなりの絶景ポイントになっています。窓から覗かせる夜景を見ながらビッポちゃんの帰りを待っているのでしょうか？

▲野呂の家

◆灰谷さんが解説！
　ハッカー＝マッドサイエンティストみたいなイメージは、とっくに前時代のものになっているため、その逆をいかに突けるかに注力しています。運動しやすいスペースは、バレエスクールやエアロビ教室のイメージを元にしています。ただ、結果的にとても普通の部屋になったなあ……と、少し心残りがあります……。

近未来の渋谷の街はこうなる!?
　『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』は近未来の日本が舞台となっています。現代の日本ともリンクするのが街並みです。建物は変わっても道というのはなかなか変化することはなく、その場にあり続けます。アニメに登場する渋谷も現代とリンクする部分が要所要所に現れています。

▲道玄坂上

　特にアニメと現代の渋谷が違うのはスクランブル交差点です。現在行われている渋谷駅周辺の再開発は2020年～2027年に終了予定とのことで、アニメの舞台となる2030年代ともリンクします。私たちが向かう未来の先に『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』の世界があることを実感させます。

▲スクランブル交差点

▲スクランブル交差点（夜景）

◆＜ここに注目！＞今の道玄坂と比べてみました！
　アニメに登場した道玄坂と同じと思われる場所で撮影をしてみました！　道の作りや木の配置など、似ている部分もちらほら。

　また、アニメ公式サイトでは「怪人二十面相を探せ！　ストリートビュー」というキャンペーンを実施中です。Googleストリートビューを使って、渋谷に現れる怪人二十面相を探しだしましょう！　探し出した回数に応じて豪華賞品がプレゼントされるので、見逃さずにチェック！　詳しくは公式サイトまで。

>>キャンペーンページ

カフェテリアに図書室！ 学校もおしゃれ！
　花崎や井上了（CV:梅原裕一郎さん）が通う高校もおしゃれな内装が目を引きます。ガラス張りで自然光を多く取り入れる構造や机に並べられたPC端末など、どこか現在と地続きでありながらも未来を感じさせるデザインです。

▲学園内カフェテリア

▲図書館

◆アニメではこんなシーンに登場！

キャラクターの心理描写を引き立てる黒の表現
　『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』で見逃せないのが、キャラクターたちに隠されている過去です。明智と怪人二十面相（CV:GACKTさん）の意外な関係性、花崎が抱えた闇など、アニメ中盤から後半にかけて明らかになってきた暗い過去を、引き立てるのが背景です。暗いのにどこか美しい背景はまるでキャラクターの心情を映し出しているかのようです。

▲花崎の部屋

◆灰谷さんが解説！
　花崎の部屋は坂本さん主導で組んでいただいた空間です。僕からは、家全体を旧岩崎邸や旧近衛邸（荻外荘）のような和館の本館と洋館の離れを作りたいと提示させていただき、特に洋館は旧朝香宮邸をモチーフにアールデコ調で、とお願いをしただけにとどまっています。結果的に、大変バランスのとれた居心地の良さそうな部屋を組んでいただけました。

　あの部屋、住みたいです。

▲戦地・廃墟

▲ひまわり畑

◆灰谷さんが解説！
　ひまわり畑の舞台は、僕からラフイメージを美術監督の李さんと演出の守田さんにお渡しし、現場判断で調整していただいたものです。シリーズを通して、生と死を匂わせることに留意していますが、ここでは、ソフィア・ローレンス主演の映画「ひまわり」からインスパイアされたイメージを、そのまま投影しました。そのため、ここでは墓標のメタファーとして、ひまわりの花を扱っています。

　フィルムでは、夜空と月の青色とひまわりの黄色が混在した、予想以上の不思議な空間に仕上げていただき、設計担当としては、とても嬉しかったです。

　きっとあの畑には、ひまわりの数だけの遺体が埋められています。

▲怪人二十面相のいた地下

◆アニメではこんなシーンに登場！

　いかがでしたか？　美術ボートも繊細に描かれた作品ばかりの『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』。大きな動きを見せてきた物語も注目ですが、背景にも注目してアニメを楽しんでみてください。

＜放送情報＞
2016年10月3日(月)よりTOKYO MXほかにて放送開始！
TOKYO MX：10月3日より毎週月曜25:05～
読売テレビ：10月3日より毎週月曜25:59～
BS11：10月4日より毎週火曜25:30～
※放送時間は予定です。変更になる場合がございますので、予めご了承ください。

＜あらすじ＞
彼は死ぬために、探偵の道を選ぶ……
時は2030年代。謎の探偵、明智小五郎の下に集う『少年探偵団』。
彼らは大小様々な事件を持ち前の行動力で解決に導いてきた。
ある日、メンバーの花崎健介は謎の少年、小林芳雄と出会う。
『正体不明の靄(もや)』により「死ねない」身体となってしまった小林は、自身の死を望み、他人との接触を拒んでいた。
そんな彼の存在に興味を抱いた花崎は「『少年探偵団』へ入らないか」と持ちかける・・・
小林と花崎。彼らの出会いはやがて、世紀の犯罪者である怪人二十面相と明智小五郎の因縁と絡み合い、
二人の運命を動かしていく・・・

＜STAFF＞
監督：向井雅浩
脚本・シリーズ構成：吉田恵里香
キャラクターデザイン：PEACH-PIT
アニメーションキャラクターデザイン：ヤマダシンヤ
音楽：林ゆうき
アニメーション制作：トムス・エンタテインメント、シンエイ動画
OP主題歌：GACKT「キミだけのボクでいるから」
ED主題歌：田所あずさ「1HOPE SNIPER」

＜CAST＞
小林 芳雄：山下大輝
花崎 健介：逢坂良太
井上 了：梅原裕一郎
野呂 誠：木戸衣吹
勝田雅治：増元拓也
大友 久:古川慎
山根たすく：山谷祥生
中村奈緒：田所あずさ
明智小五郎：小野大輔
怪人二十面相：GACKT　ほか

>>『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』公式サイト
>>『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より-』公式ツイッター（＠trickster_anime）