絵描きはフロントマンだ。PENGUIN RESEARCHフルアルバム「敗者復活戦自由形」リリース記念、生田鷹司×曽我部修司対談インタビュー
PENGUIN RESEARCHが、2017年3月8日(水)にメジャーデビュー後初となるフルアルバム「敗者復活戦自由形」をリリースしました。
今回のリリースを記念し、ボーカルであり声優の生田鷹司さんが、様々な方に疑問と情熱をぶつけていく連載型の対談インタビューがスタート!
対談のお相手をつとめるのは、生田さんも声優をつとめるスマホゲーム「バンドやろうぜ!」のキャラクターデザインや、「ペルソナ3」、「ペルソナ4」のコミカライズで知られる、漫画家の曽我部修司さん。
曽我部さんは現在漫画の執筆の他にもイラストユニット「FiFS」に所属し、「バンドやろうぜ!(以下:バンやろ)」では東雲大和のキャラデザを手がけており、しかも東雲大和の声は生田さんが担当されています。そんな二人の出会いや、意外な曽我部さんの青春時代の話、そして表現者としての共通項など、濃密な対談の模様をお届けします。
生田鷹司さん(以下、生田):今回、関わりがあってかつ僕が身近な存在に感じている方で活躍されている方って誰だろうって思いだしたときに、「曽我部さん、『バンやろ』でお世話になったなぁ」って思ったんです。
今日の対談のこともメンバーに言ったら、「曽我部さんによろしく伝えて下さいッ!」っていうのを、昨日の夜に言われました。そういうのもありつつ、最初に浮かんだのが曽我部さんだったんですよね。
曽我部修司さん(以下、曽我部):いやーありがたいですね、それは。
生田:BLASTとPENGUIN RESEARCHでライブをやったときがありまして、それが去年の9月なんですけど、その時に見に来て頂いたときに初めてお会いしましたよね。
参考記事:『バンドやろうぜ!』「BLAST」と「PENGUIN RESEARCH」の対バンライブが実現!? 公式レポートで当日の模様を大公開
曽我部:そうですね、あとはTwitterでやりとりをしたりしてますね。
生田:漫画家さんというか、イラストを描かれる方と会うのが僕は初めてだったんですが、なんというか、曽我部さんの事をとても身近に感じてしまったんです。
アーティストって斜に構えてる方というか、ドンっと構えられている方が多いっていうイメージだったんですが、すごく話しやすい方だなって初めに思いました。
曽我部:あんまりドンと構えても説得力ないので(笑)。
僕は生田君を初めに知ったのは、プロデューサーの足立さんから「バンやろ」の企画をいただいて、こんなゲームをやります、こういうバンドを考えています、BLASTっていうヤツらがいて、彼らはPENGUIN RESEARCHっていうバンドが演るんですよっていうのを教えてもらった時です。
まだキャラデザ前だったんですけど、PENGUIN RESEARCHの曲を聞かせてもらった時に「あぁこの声だったらやりたいな」と思ったんです。「コレに絵をつけたい」「この歌に絵をつけたい」っていう印象でした。
で、実際お会いしたら、そのまんまだなって(笑)。
生田:ほんとですか、よかったー!(笑)
曽我部:なので、実はキャラクターデザインみたいなことは、今回ほとんどしてないんですよ。生田君をそのまま描いたみたいなものですから。
ライブを見に行った時も服(衣装)着てたじゃないですか、あぁやっぱ似合ってるなと(笑)。
生田:ありがとうございますッ! やっぱり「バンやろ」プレイヤーの皆さんとしても、キャラクターが三次元になってイメージとズレてしまうと嫌だと思うんです。
それはなるべく思って欲しくなかったし、やるからには自分と重ね合わせてほしかったので、そう言っていただけるのは本当にありがたいですね。
「俺たちのBLAST」
曽我部:「バンやろ」自体は女の子がメインターゲットではあるんですけど、BLASTは僕ら男子の代弁者だなと思っています。女の子のためのデザインというよりかは、カタマリとして「俺ら、僕たちの」っていうイメージです。
だからTwitterで、たまに「俺たちのBLAST」って言い方をしますね。ゲーム中でもまさに「俺たち」な歌が上がってきたなと思いました。
生田:実は一番初めにキャラクターの声をやるかは決まってなくて、とりあえず歌をって話を聞いてたんです。
最初に物語のプロットを読んだ時に、東雲大和はまっすぐなキャラクターというのを感じて、僕自身が憧れるキャラクターだなと思ったんです。
大和自身になりたいなって気持ちもあって、でも複雑に役を作り込みたくないっていう気持ちもあったんです。歌もあんまり味付けせずに自分自身で歌おうと思ってました。
生田:で、実際にキャラデザの原案が上がってきて、すぐどれが大和かわかりましたね。あぁコレだなって(笑)。熱血の少年漫画の主人公ッ! みたいな。
曽我部:「バンやろ」の絵を描く時って、いつもより粗く描いてるんです。僕らは神経質に描くことが多くて、普段は1ミリでもズレないようにという意識なんですけど、「バンやろ」を描いてるときは「俺は週刊漫画家だッ」みたいなメンタルでやってます(笑)。
一度は、女性向けらしくもう若干華やかにした方が、企画的にも商売的にも良いんじゃないのかと思ったんですけど、「バンやろ」現場の人たちが、「こっちの男臭い方が良い」って後押ししてくれたんですよ(笑)。
歌も熱血スタイルだし、今回のBLASTはこういう役割なんだと思って、そういう意味では「俺たち」なんだなと。そんな気持ちでやりました。
曽我部:3月1日に発売された「デュエル・ギグ!vol.1 -BLAST EDITION-」のジャケットは「Alternative」を聞きながら描いてたんですけど、BLASTもしくはPENGUIN RESEARCHのメンバーが刀持ってる絵が浮かんだんです。
「刀持って俺たちはバッサバッサ斬りながら進んでいくんだぜ」みたいな気持ちを感じたので、それをそのまま絵にしました。
歌、声の力、伝えるということ
曽我部:正直、「バンやろ」に関しては僕が考えたっていうよりかは歌なり声なりから全部イメージをもらってるところがあるんです。
こう、右耳から左耳へ抜けたらこうなったみたいな(笑)。それくらい脳みそ使ってないというか、使ったのはほんと最初だけですね。あとはもう脊髄反射で描いてるみたいな。
最初、PENGUIN RESEARCHの「スポットライト」と「ジョーカーに宜しく」を初めて聞いた時に「この人たちはマジなのか?」 って思ったんですよ。
生田:! その話を詳しく教えてもらってもいいですか!
曽我部:これはやろうと思ってもなかなかできないよなぁと感じたんです。「スポットライト」とか、これがこの人たちの本音なら結構恥ずかしいんじゃないかって(笑)。
それはダメっていう意味ではなくて、なかなか言えないぞというか、こんなさわやかに自分のさわやかなところをさわやかに歌いやがってみたいな(笑)。
作曲はベースの方(堀江晶太)が全てされていると思うんですけど、生田君がボーカルじゃなかったらできないんじゃないかなと感じました。生田君のキャラクターがあるからこんなさわやかな曲が作れるんじゃないかなと。
漫画家ってなんでも描けるように思われがちですけど、例えば、キャラクターの容姿や性格、セリフにしたって、作者の趣味や本音かは別に「描いてること」、「考えたこと」の範疇ではあるんです。
もちろん自分では「出来ないことが出来る」というのが創作物の「良さ」ではあるんですけど、自分が入るほどそこにはちょっと良くも悪くも憧れだったり、恥ずかしさだったりも含まれていると思うんですよ
曽我部:だから「スポットライト」を聞いた時に「マジか!」って思ったんです。僕らが恥ずかしくて言えないようなことを、自分たちの表現で熱くさわやかに代弁してくれている、そこで僕はPENGUIN RESEARCHを好きになったんです。
生田:ありがとうございます! 本当に!
アウトプットに関して思うことがあって、一般的なバンドってボーカルが書いた詞を自身で歌うことによって、メッセージ性が強く、思ったことを100%で伝えられると思うんです。
僕が晶太から歌詞を受け取って、歌詞に乗った思いを伝えなきゃいけないとなったときに、僕の解釈の違いがすごかったんですよ。
生田:「スポットライト」の歌詞で「今日を生き抜くのはそんなに簡単じゃない」っていう歌詞があるんですけど、僕はそう思えなかったんです。ダラダラしていても1日1日って過ぎていくじゃないですか。
本気で僕はそう思って、僕はそれをどう伝えたらいいのかわからなかったんです。心の底から思ってない僕がそのままそれを出しちゃうと、歌詞の想いはやっぱり伝わらないんですよ。
曲を歌って、ライブを続けていく中で、僕は敗者であり全然ダメだとある日感じるようになったんです。その時に「今日を生き抜くのは本当に大変だな」ってこのバンドを通して気付いたんです。
今まで生きてきた中ではなく、上京してバンドをやり始めてから、歌詞に共感する部分が増えてきて、そのうちに僕の解釈で詞を受け取って、「俺だったらこう伝えたい」っていうのが明確に出てくるようになったんです。
それからは自分で歌っていても楽しいし、こうやって届けばいいなって思いが出てきましたし、そこからバンドらしくなって、聴いてる人にも届くものが増えたと思うんですよ。
曽我部:僕はどんな表現方法でもそうだと思うんですけど、どれだけ言葉に嘘が無くなるかっていうのは大事だと思うんですよ。実際に経験しているかどうかは人それぞれで、細かい部分で実感なり共感を得て歌えるようになったというのは、やっぱり説得力の出てくる部分だと思います。
実際、絵を描いていてもあるんですよ。自分が過去に経験してきたことやそれに近しいことはすぐに描けないことがあって、一度立ち止まって「おっ?」ってなるんです。
「ここはこういう気持ちで俺は描きたいぞ」、「この言葉を言っている顔はもっとあるはずだぞ」って一段階深く潜るんですよ。そういう時は、個々の表現者の経験が大事になってくると思います。
生田:経験の話で言うと、ライブのMCにしても最初はどうすればいいかわからなかったので、とにかく何者かにならなきゃという思いがすごく強かったんです。
人に見られるモノとして、僕が憧れたアーティストの人たちみたいにカッコよくないといけないなと思って。でも自分は本来そういう人間じゃないし、そういうことができる人間じゃないとわかっているのでどうしても嘘っぽくなるんですよ。
だからやっぱり上手くいかなくて、失敗も繰り返して、そうした辛いことを経験して…。ある日、もう開き直ってじゃないですけど「もう俺、そのままでいいじゃん」って思うようになったんです。
で、それをライブで出したときにすごくファンの反応が良かったんです。そこから自分のやりたいことを人に明確に伝えるというか、俺はこう伝えたいんだっていうものがはっきりするようになったんです。
そうした経験を積んで、その経験を咀嚼して、自分のモノとして昇華させるのはとても大事だなって感じるようになりました。
曽我部:ちょっと程度の低い話になっちゃうかもしれないんですけど、実家でお母さんにご飯を作ってもらっていたときに、「お前は食べたいものをリクエストするし、美味しそうに食べるし、ちゃんとごちそうさまも言うから作りがいがある」って話をされたんです。
結局何かって言うと、僕らの表現することっていうのも、コミュニケーションだと思うんですよ。料理にしたって、アイツがこういう風に食べるからちょっと多めに作っておこうとか、そういう考えは出来ると思うんです。
そういうコミュニケーションのかたちだと思うんですよ。今の生田君のお話とかもそういうところで、皆が何を見たかったかってところだと思うんですよね。
つまり取り繕ったキャラクターじゃなくて本当の生田君を見たいんだってことだと思うんです。おそらくですが、ファンの皆さんは一皮剥けてない生田さんに可能性をみていたと思うんですよ。
で、一皮剥けて戻ってきたら、「そうそうそれが見たかった!」みたいな。だから自分をさらけ出した時に、反応が良くなったんだと思います。
生田:あー…なるほど。確かに最初は自分のことしか考えてなかったんですよね。僕がなんとかしなきゃ、なんとか変わらなきゃみたいなのがあって、周りよりも自分自分って感じで。
それが吹っ切れたときに、ある種自分はどうでもいいやというか、そこまで深く取り繕ったりしなくてもいいやというか…。
それまでは音を外さないとか声をしっかり届けるとかの技術的な事ばっかり考えていたんですけど、最近は多少音がはずれててもみんなが楽しかったって言ってもらえるようなライブがしたいなと思えるようになってきたんです。
来てくれてる人たちの顔もちゃんと見たり、それに対して一緒に手上げてレスポンスを返すようにしたりと、そういうことが自然にできるようにはなってきましたね。そこは昔と全然違うなって実感もあります。
曽我部:楽しませてあげたいってことになると、なんか自分が無いみたいな感じがしますよね。でも「楽しませてあげることが楽しい」っていう、利己的ではなく利他的なんだけどそれが巡り巡って自分のためみたいな、そういう精神でものをつくる、パフォーマンスをするというのは、すごく好きですね。
僕らの場合でいうと、例えばサイン会に来てくれる人とかTwitterでお話しにきてくれる人たちとか、積極的なコミュニケーションをとってくれる人たちのことってやっぱり考えるんですよ。
サイン会に来てくれて「○○君がカッコよくて好きです!」って言われたら、「じゃあもっとカッコよく書けるように頑張ります」って言ったりするんですよ。
それはひいきとかじゃなくって、サイン会に来てくれた人は本当にありがたいし、僕らの仕事としても大きいことなんです。だったらアナタにサービスするのは僕にとってすごく当たり前のことだと思ってます。
そういう意味で言うと、ライブに来てくれた人たちそれぞれにコミュニケーションを返すというパフォーマンスはすごく正しいことだと思うんですよね。皆のためにも自分のためにもやってることだし。本当に良いことだと思いますよ。
生田:その楽しませたいという気持ちももちろんですけど、そもそもなんでこの仕事やってるかというと楽しいからなんですよね。それが根底にあるんですけど、自分しか見えていなかった時期はそれがなくなっていたんです。
「やらなきゃいけない」という使命みたいなのが常にあったんです。
それが吹っ切れた時にいろんなものが見えるようになって、ライブやるたびに自分自身、めちゃくちゃ楽しいし、「この楽しさを君たちと共感したいっ!」っていう思いが今すごく強いです。
応援してくれてる人や支えてくれる人たちを連れて、もっと大きなとところへ行きたいという夢もあるので、この楽しさを共有していきたいです。
曽我部:時期的には良い時期なのかもしれませんね! ところ…で練習って好きですか?
生田:練習はーー……うん、ここは好きって言っておきます(笑)。
曽我部:でも実際そういうことだと思うんですよ。
僕らも絵を描くことが仕事なので、もちろん絵が好きだから描いているんですけど、練習や仕事など、必要性にかられて描く絵が好きかどうかっていうのはまたちょっと違う気持ちがあるんですね。
仕事で描く絵って、本当に仕事としての割り切りをしなきゃいけないようなものから、自分が好きだから描くものまで幅広くあるんですけど、根底に思いっきり好きがないと続かないんです。
例えば練習とかもそうですけど、技術や方向性などの問題を解決する際に思いっきり好きをキープしておかないと、どんどんプロでいることが嫌になってくると思うんです。ここからプロっていうのを取り払ったらもっと自由にできるのに、なんでそれをやらないんだろうってこととか。
根底に「俺はこれがやりたい!」っていう好きが強くないと、ただただキツくなってきますよね。プロは少しずつその好きがすり減っていくんですが、どこかで補充するというのも大切かなって思いますね。
生田:僕が仕事抜きで音楽をやってて一番楽しいなって思う瞬間があって、家でアニソンやYouTubeで見つけたバンドの曲をギターでガンガン弾くことなんです。
なにも縛られることなく楽しんでる自分がいて、そういうときに「自分は音楽好きだな、ギターも好きだな」って感じています。そういった時に好きが補充されてるのかもしれません。
曽我部:行為としての表現の楽しさっていうのもありますね。僕も時間が空いたときに、イラストじゃ絶対描かないようなアオリ(見上げる構図)の顔ばっかり描いてた時期がありました(笑)。
でも、さっきの「バンやろ」の話だと、BLASTの個性は息抜きになってますね。某ハヤオ監督みたいに仕事の息抜きを仕事でやるみたいな感じで(笑)。
生田:仕事は違くても、表現という部分で共通項がたくさんありますね…。喋り方が違うだけで中身は近いというか。コミュニケーションの話とかすごくなるほどって思いました。
自分をさらけ出すという事
生田:曽我部さんの若い頃はどんな方だったんですか? 悩みや苦労はあったんですか?
曽我部:実は昔は音楽少年だったんですよ。親父が音楽をやってて、家にATARIのモノクロのコンピュータとCubaseがあって、それにKORGのM1とEnsoniqのシンセサイザーがとかが繋がってたんですよ。そんな環境だったので、「マリオペイント」のシーケンサーの次にCubaseを触ってたんですよね(笑)。
生田:すごい(笑)。
曽我部:でも作曲の理論とかは全然わからないし、勉強もしなかったんで、適当にいじって遊んでたくらいです。で、同時に絵も描いてて、最終的に音と絵どっちやりたいかってなったときに絵の方にいった感じです。だから元々表現することは昔から好きでしたね。
あと高校の頃は漫研に入っていたんですけど、そこでいろいろと勉強して、それこそアニメイトさんにお世話になりましたよ(笑)。
部活は女の子ばかりだったんですが、でも最初は全然会話ができなくて、僕はロボットアニメが好きだったんですけど、例えば「エヴァンゲリオン良いよね」って話したら「わかる、良いよねカヲルくん!」みたいに言われて、「あ、そういう所みてるんだ!?」みたいな (笑)。でもそこで教えてもらったことが今こうした仕事に繋がっていますね。
あと、その環境のせいか、美少女キャラクターを描くのが苦手なんですよ。女の子キャラクターを描くのが恥ずかしくて…。自分の好みをさらけ出すのが恥ずかしいので、男らしいものを書いていた方が、僕は自分を保てるんですよ(笑)。
生田さん:へぇー、そういうのもあるんですね。
曽我部:だから今はチーム(FiFS)を作って、得意なところは得意な人に振るっていうかたちでやっています。高校の頃のあの経験のおかげで、今いろんなところに対応できているっていう感じです。
生田さん:僕がもし女性キャラクターが描けたら喜んで描くのに!
曽我部:まぁ、本当はさらけ出した方が面白いんですよ(笑)。
僕の場合は、単純に恥ずかしいっていうのもあるし、僕の中にアニメ的な女性キャラで表現したい事が少ないっていうのもあると思います。もちろん発注されれば描きますし、スタッフと一緒に練ったりはしますけど、FiFSでやる場合は女の子を描くのが得意なメンバーがやることが多いですね。
生田:でも曽我部さんの描く女性キャラクターを見たいという人もいると思いますよ!
曽我部:あぁ、もちろんいると思います。男が描いた女キャラクターが好きって人もいるといると思います。そこはアレなんですよ、変身願望なんですよ。
(ほぉー…という感嘆が部屋に溢れる)
曽我部:そこはリアルな女の子が欲しいという人と、自分が女の子に共感したい、同化したいという人がいるんですけど、後者としての意味合いの女の子が求められるときは、男の人が描いた方が良かったりしますね。
少女趣味っぽいキャラクターなんかは男性が描いた方が意外と人気あったりしますよね。そこは愛玩もあれば変身願望もある、みたいな。
生田:これは面白い話ですね…。
曽我部:逆に女性向けでも、女の子がこういう男の子になりたかったみたいなキャラクターを描いてあげるとよかったりしますね。人それぞれ「私はここ」っていうツボのようなものがあるので、遠くから見たいっていう人もいるし、渦中に入りたいっていう人もいる。
核心的なことを言っちゃうと、いわゆる男の子向けゲームだと、女の子は3人いて、年下、同級生、年上っていうのが鉄壁の黄金バランスじゃないですか。女の子向けの場合は、それ通用しないんですよ。
生田:えっ!?
曽我部:対男性向けだったら、自分が画面内の3人から選びますよね。でも女の子の場合は、まず自分じゃなくて感情移入対象がキャラクターとして存在していたほうがいいので、画面内に4人いるのが黄金バランスなんですよ。
生田:そ、それは女性がってことですか? 女性キャラが1人いて、4人ってことですか?
曽我部:違います、男性4人です。例えば同い年2人、年上または違う距離感のキャラが1人、年下1人。BLASTでいうと、大和と宗介がいて、徹平(ドラム、白雪徹平)がいて、距離の離れたキャラクターとして翼(ベース、佐伯翼)がいてっていうのは、実は黄金パターンなんです。
生田:なるほど、なるほど…!
曽我部:その中の誰かに感情移入するということが考えられるので、3人だとちょっとだけ少なくなるんですよ。
生田:3択じゃないんですね…。
曽我部:3択を登場人物内で確保するためには、4人いるんです。
(目からウロコの落ちる音が部屋にあふれる)
曽我部:…っていうようなことがあるんです、ちょっと話飛んじゃいましたけど(笑)。
生田:なんというか、教室の後ろの方で騒いでる男4人を見てる感覚というか、こいつらの関係ってなんか良いなって。それは3人しかいないとちょっと物足りない感じがしそうですね。BLASTを見ていていても思います。
曽我部:BLASTだったら何かワイワイしてる2人がいて、それに油を注ぐ翼がいて、それに対していちいち訂正をしていく徹平がいてっていう。で、自分はそのどれになりたい? っていうことなんです。
生田:一緒に騒ぎたいのか、かき混ぜたいのか、眺めていたいのか…。
曽我部:そうです。そういう意味では傍観者に近いのはキャラ的には翼ですね。まぁそんな作りになってるわけです。そういうのも高校の時に学べたというか(笑)。
生田:もうめっちゃ活かされてますね(笑)。ちょっと今後、そういう目でコンテンツを見てみるのも面白そうな気がします。いやー面白いなぁ。
曽我部:もう20年くらい前の話ですねぇ…。アニメイト前の掲示板が主戦場の時代でした(笑)。
生田:でも、その頃はそれが今後人生で役に立つものだってわかって吸収しようと思っていたわけですよね。
曽我部:そのジャンルで、というのはなかったですけど、そうですね。ぼんやりと絵を描くぞという気持ちはあったんですけど、僕はアニメとかの監督になりたかったんですよ。絵を描いていたのは自分が描けたから描いているのが近くて、それをコミュニケーションツールとして用いていただけですね。
絵だけでやろうって思っていたわけではなくて、どちらかというとディレクターになりたかったんです。ディレクターになるならいろいろ出来た方が良いだろうと思って、ってくらいですね。
曽我部:最近はドラマCDを作る仕事が面白くて、脚本、収録、ダビングとディレクションできるのですごく楽しいです。その時に音楽の経験も活きてきてますし。セリフの言い回しやタイミングなんかをこうして下さいって言ったり、ラップで言って下さいってお願いしたときは自分で実演したりもしました。
生田:実演していただけるのってすごい嬉しいですね。こんな感じでお願いしますって雰囲気だけで指示された時って、自分の中でそれを想像して出してはいるんですけど、ラップって演じていただいて耳で聞いて参考にしたほうがやりやすいんですよね。
曽我部:でも逆にやりすぎちゃったこともありますね。ゲーム挿入歌のラップパートをこうして欲しいって、自分でオケにマイクで吹き込んたものを渡したら「難しすぎる」って却下されたりとか(笑)。
生田:でもそれ、仮歌で形ができ上がってるってことですよね、すごい。
曽我部:でもそれってもう絵描きじゃないよねっていう(笑)。それこそ声優さんで漫画の原作をやるかたとかいるじゃないですか。あっ、生田くんがもしこういう作品を作りたい願望があるならこっそり教えてください(笑)。
生田:よし、練っとこう(笑)。
曽我部:そういうのってやっぱり面白かったりするんですよ。他業種の方でもすごく広いイマジネーションをお持ちの方っているので、そういう方と一緒に仕事したいですね。
生田:いろいろなことをしてきた中で、困難だったことや辞めようかなって思った時はあります?
曽我部:やっぱり一人じゃ出来ないってことですね。もちろん一人でできることもいっぱいあるんですけど、例えばこういうインタビューの場だったら文字を起こす人、意図が伝わるように編集をするとか、全てを自分でやるのかってなったときに、それはちょっと難しいじゃないですか。
いろんな人と一緒にやるけれど、皆で同じゴールを見るのが難しいなって思ったときに、自分のスタンスをちょっとだけ柔らかくしようとか、押し付けるのはよくないなみたいなって思ったことはここ何年間は結構ありましたね。
あと、「プロだから信用しろ」って言葉を全く信用しなくなりました。プロだったとしてもゴールはそれぞれ違いますし、この人がこのプロジェクトの行き先に対してどう見てくれているのかっていうのは、プロであることは全く関係無いんですよ。
その時に頼れるのは、プロであることよりも表現者であることを尊重してくれている人で、その人の方が僕は信用できるし、プロとしても上手だな、と思います。
何故かというと、「表現者としてこんな仕事を俺は出来ない」って言ってくれる人の方が、大体上がってきたものを見たときに良い仕事をしてくれてるんですよ、プロとしての体裁だけを守って上がってきた仕事は、誰の心を動かすものでもないし、僕らが目指すゴールに持っていくには、いろんな意味で厳しいかなということの方が多かったんです。
でもそれはプロダクトを世に出すという面だけでは圧倒的に正しい。
正しいんですけど、僕にとっては「それを出したら今までの時間が無駄になるんじゃないの?」と思ってしまうところもあるんです、表現者としては。そうした葛藤を乗り越えるためには、さっきも話した好きという気持ちをいろんなところで溜めて溜めて立ち向かっていくしかない。
その好きを一番感じられるのが、例えば音楽だったらライブだと思うし、僕らだったらファンの人たちの言葉とか、あと最近は仕事の関係でライブも多いので、ステージ上にキャラクターが出たときに歓声が湧き上がる時などです。
そうしたときに自分のやってきたことがいろんな人に伝わっているのがわかって、あぁ良い仕事したなって思えるんです。
生田:アツいですね、ロックですね。
曽我部:そういうところを削っちゃうとプロとしては成功するかもしれないけれど、自分の表現者としてのコダワリからはどんどん背を向けることになると思うんです。
だから、商売として成功するというのは、何よりすごく大事。でも一方で、自分にプロとしての仕事が来る本当の理由はなんだろうって話しになると、やっぱり自分は表現者だからだと思うので、そこが欠けないように頑張りたいなと思っていますし、両立できるようにプロとして頑張りたいなと思ってますね。
生田:なんかもう、曽我部さんがボーカルでもすごい良いことをMCで言ってくれそうだし、めちゃめちゃ良いパフォーマンスしてくれそうっていうのが、すっごく伝わってきます。ロックだなぁ。
曽我部:(笑)。あぁでも、絵を描いてるときは「絵描きはフロントマンだからな」っていう話しはよくしますね。それはいろんな人が見る場所だからちゃんとやりましょうねっていうことなんですけど。
生田:今の曽我部さんのポジションは、夢が叶っていると言えるんでしょうか?
曽我部:将来の夢っていう意味なら、叶いました。でも、魔王を倒したら大魔王がいたっていうのが正直な感想ですね。
今度はそれをなんとかしてみたいっていう感じです。とはいえそれを一緒に目指せる人っていうのは僕の今の実力や評価ではそれほど人脈も多くないし、実力ということだけではなく単純にそこを目指す人もそもそも少ない。
でも、そこを目指したりする人と一緒にお仕事がしたいなとは思いますね。だから今回生田くんと会えたのは本当に良かったと思っています。
生田:いやいや、僕なんてほんと村人Aみたいなものですから…(笑)。
曽我部:そんなことないですよ! 僕が生田さんに惹かれたのって、生田さんがまだ自身を見つめ直す前というか、下手な時期に惹かれたんだと思うんですよ。
それは何故なのかなって思ったら、プレーンさなのかなって。僕らも絵を描くとき気をつけてることがあるんですけど、なるべくマニアックになりすぎない、ニッチになりすぎないことなんです。
女の子向けだからって女の子が喜ぶことを全部やらない。女の子が喜んで、かつ男性は嫌がらないようなものを提供したいんです。
誰かが嫌がるものを個性として推すのは、魅力はあれどニッチな意見なので、そうしたニッチな魅力に僕らはあまり寄らないようにしています。
フックと成り得そうなニッチは、やっても頼りすぎず、芯のガッツリしたものを造ろうって。だから、すごくプレーンで上質なものを作りましょうっていうことなんです。今回のPENGUIN RESEARCHのアルバムにもそれは感じましたね。
生田:おぉ、どのあたりですか?
曽我部:6曲目の「シニバショダンス」と8曲目の「冀望」ですね。この2曲ってアルバムの中でもかなり飛び道具的な位置付けなんじゃないですか?
生田:そうですね。「シニバショダンス」はとにかく難しいことをガーっと詰め込んで、「冀望」は『ブレイクビーツみたいなのやりたい』って晶太が作ってきたところから出来た曲ですね!
曽我部:はじめて聞いた時この2曲が好きだなって思ったんですけど、今までのPENGUIN RESEARCHとは随分違うじゃないですか。その作風の広さにこのバンドの芯みたいなものが見えたんですよ。この人たちはこういうのにも対応できる人なんだっていうのがわかって、もっと好きになりましたね。
生田:いやもう本当に、そう言っていただけるととても嬉しいです。前回のミニアルバム「WILL」とは違って今回はコンセプトを全く決めてないんですよ。メジャーデビューして間もない僕らがそういうのを決めてもしょうがないってことで、何も決めずに曲を作っていったんですけど、そしたら意外と一貫性もあったし新しいことも入ったし、良いんじゃない?っていう出来になりました。
「ボタン」のようなポップスから入ってくれた人には、僕らが聞かせるポップスも遊べる曲もできるバンドなんだなと新しく知ってもらえるかなと。それを曽我部さんが感じてくれているのはとても嬉しいです。
曽我部:なのでもうガンガンいったら良いと思います、それは表現者として自分はどこまでアクセル踏むかって話しでもあると思うんですよ。
普遍的な、普通すぎて見過ごしてしまいそうなことをあえて大切にやるっていうのは大事なことだと思ってて、それってその普通が素敵じゃないと見てもらえないと思いますよ。
生田:そうですね…。僕は今、声優とバンドマンとして色々とやっているんですけど、曽我部さんが仰っていた表現者という言葉がすごくしっくりきました。
人に何かを届ける仕事って全て表現者という言葉が当てはまると思うんですけど、それは自分というものがないとできないことだなってすごく感じましたし、曽我部さんは本当にアツい方だなというのが伝わってきました。
自分も今後、表現者としてライブなどでも思ったことや感じたことを隠さずに伝えていきたいなと思いましたね。今まであんまり出さなくても生きてこれたので、それをちゃんと相手に100%届けたい。今の対談もそうですけど、ここで感じたものなんかも次の現場でしっかり活かしていきたいなと思います。
曽我部さん、今日は本当にありがとうございました!
【PENGUIN RESEARCHオリジナル・フルアルバム「敗者復活戦自由形」商品概要】
発売日:2017年3月8日(水)
■初回生産限定盤(CD+DVD)価格:3,241円+税
[CD収録曲]
1.敗者復活戦自由形
2.噓まみれの街で
3.スーパースター
4.Alternative(PGR Ver.)
5.ジョーカーに宜しく
6.シニバショダンス
7.SUPERCHARGER
8.冀望
9.スポットライト
10.ひとこと
11.ボタン
12.愛すべき悩みたちへ
<ライブイベント>
「バンドやろうぜ!」ドリームマッチ デュエル・ギグ 3・17@赤坂BLITZ BLAST vs. OSIRIS
日程:2017年3月17日(金) OPEN 18:30 / START 19:30 会場:赤坂BLITZ
【ワンマンライブツアー情報】
PENGUIN RESEARCHワンマンツアー Penguin Go a Road 2017~Penguin Fight Club~
■2017年3月31日(金)
名古屋 ell.FITSALL
OPEN/START 18:00/18:30
前売/当日 SOLD OUT !!
主催 サンデーフォークプロモーション
企画 ウルトラシープ
問合せ先 サンデーフォークプロモーション/052-320- 9100(平日10:00~18:00)
イープラス http://eplus.jp(PC・携帯共通)
ローソンチケット:0570-084- 003(Lコード:41552)
チケットぴあ:0570-02- 9999(Pコード:320-856)
■2017年4月1日(土)
心斎橋FANJ twice
OPEN/START 17:00/17:30
前売/当日 SOLD OUT !!
主催 夢番地大阪
企画 ウルトラシープ
問合せ先 夢番地大阪/06-6341- 3525(平日11:00~19:00)
イープラス http://eplus.jp(PC・携帯共通)
ローソンチケット:0570-084- 003(Lコード:55621)
チケットぴあ:0570-02- 9999(Pコード:320-246)
CNプレイガイド:0570-08- 9999 (10:00-18:00にて受付)
■2017年4月9日(日)
新宿BLAZE
OPEN/START 17:15/18:00
前売/当日 3,000円/3,500円(税込、ドリンク代別)
主催 ディスクガレージ
企画 ウルトラシープ
問合せ先 ディスクガレージ/050-5533- 0888(平日12:00~19:00)
イープラス http://eplus.jp(PC・携帯共通)
ローソンチケット:0570-084- 003(Lコード:72160)
チケットぴあ:0570-02- 9999(Pコード:320-719)
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[文=ヤマダユウス型 編集=長谷憲]