『ミスミソウ』押切蓮介さん&山田杏奈さんインタビュー|バイオレンスな内容に反して話題がまさかの方向へ!?
田舎の中学に転校してきた野咲春花が遭遇する悲惨なクラスメイトのいじめの数々。徐々にエスカレートしていったいじめは、ついに最愛の家族の死へつながり、春香の復讐が始まる……。
『ハイスコアガール』や『でろでろ』などで知られる押切蓮介先生の『ミスミソウ』が、まさかの実写映画化。2018年4月7日より新宿バルト6をはじめ、全国の劇場で公開されます。
残虐な描写も多い本作ですが、映画ではそのほとんどがリアルに再現。目を覆いたくなるほどの役者陣の熱演は必見です。
しかし今回は、そんな心苦しい内容からは少し距離を置き、押切蓮介先生と野咲春花役の山田杏奈さんのインタビューをお届けします。
インタビューもさぞかし重い内容になるだろうと予想していましたが、話題は思わぬ方向へ……!
山田さんは間違いなくトップ女優になる!
――まず、『ミスミソウ』はどういった経緯で描かれた作品だったのでしょうか?
押切蓮介氏(以下、押切):僕はもともとギャグ作家だったんですよ。ある時、「ホラーM」(ぶんか社から発行されていたホラー漫画雑誌)から依頼が来て、いじめをテーマにした漫画を描こうと。最初はそこが起点だったんですよ。
今でもよく覚えていますが、『ペサメノス』というタイトルでした。36人のいじめっ子のプロが、たった一人のいじめられっ子のプロと戦うという話だったんですよ。そういうバトル形式のものだったんです。
最初は完全にギャグテイストだったけど、いつもやっている押切だから、もっと背伸びして真剣な漫画を描かないかと言われて。僕もギャグ漫画家からどんどん転身したいところがあったので挑戦してみました。
くだらないギャグ漫画ばっかり描いている作家じゃないぞということを知らしめるために(笑)。
自己主張をするために、「よし、じゃあ残酷なもので、いじめがテーマでどんなものが描けるか」というのを手探りで最初はやり始めたんです。
始めたら思ったより上手くいきそうで、だんだん気持ちが変わっていって、人を慈しむ漫画を描かなきゃいけないとか、後からだんだん深いテーマが出てきて。それで『ミスミソウ』というものが出来上がったんです。
けっこうボツ多くありました。1話目なんか3・4回ぐらいボツになって、ようやくあれができたんです。それが最初でしたね。
――もともとギャグ漫画を作っていて、それを削ぎ落としてブラッシュアップした結果ギャグが全部無くなったわけですね。
押切:無くなっちゃったんですね。でもね、手探りで描いてたから1巻・2巻と描いていてもまだ不安でしたよ。描きながらどこかでギャグが出るんじゃないのかと(笑)。確かに『ミスミソウ』を見ると、笑えるシーンがいっぱいあるんですよ(笑)。
映画の中でも、やっぱりそれがにじみ出てたんです。ちょっと笑えるシーンがありますよね。春花が倒されると必ずここに武器が転がっているという(笑)。
一同:(笑)。
――(笑)。終いにはボウガンまで出てきますからね。
押切:それを意識するとちょっと面白い。最初は釘、次はハサミ、最終的にボウガンが出てくる(笑)。このまま話が続けば、次はバズーカ砲とか出てくるかも。
そういう風にギャグに行きたくなる気持ちもちょっと抑えつつ、我慢しながら描いていきました。
――山田さんはそんな原作を読まれた感想はいかがでしたか?
山田杏奈(以下、山田):私は中学生の時におすすめされて『ミスミソウ』を読ませていただいたんですよ。
押切:誰に(笑)。中学生でおすすめする!?
山田:(笑)。後味悪い系が私けっこう好きで。それで友達におすすめされて『ミスミソウ』を読ませていただきました。そうですね……すごいお話だなと思って。
押切:ドン引き!(笑)
山田:壮絶な話だし、後味悪いなーとか思いながら読んでいました(笑)。
今回オーディションのお話をいただいて、実写化しちゃうんだ、実写化できるんだなぁと思いました。でもやっぱり、リアルな年代だし、読んだことのある作品だし、やらせていただけるならと思ってオーディションに臨みましたね。
押切:出演者ですら大丈夫かと思うテーマですからね(笑)。僕も大丈夫かとは思いましたけど。大丈夫かってよく言われるんですけど、何を心配してるんだろうとも思いますけどね。
――しかも山田さんは、主人公の春花役で、バッサバッサ殺していくわけですからね。
押切:もう山田さんの目力が素晴らしすぎて。“押切ガールズ”って呼ばせてもらいます!
山田:めっちゃ嬉しいです。
押切:今までの僕が描くヒロインって、ずっと三白眼だったんです。白目が多くて、目が点みたいな感じ。
でも、『ホラーM』は少女向け雑誌だったから、少女漫画だったら目がキラキラしてるなと思って、黒目をめっちゃ大きく、たくさん描いたんです。
山田さんが、まさにそれだったんですよ。だから映画を観て、これはもう完全に漫画から飛び出してきたようだと。
山田:そう言っていただける以上に、ありがたいことはないです。
押切:あ、僕の感想ばっかりですね。すいません。
――いやどんどんしゃべってください(笑)。
押切:(笑)。いやー、素晴らしかったです。
――押切さんは、役者の演技面で好きなところはどこでしたか?
押切:それ、書いてきたんだよなー(笑)。一貫性がないから、他の取材を受けても言うことがコロコロ変わっちゃうんですよ。
(メモを取り出し熟読)……いっぱい良いところがあって、素晴らしかったです。書いてこないと、ちょっとテンパっちゃうんで(笑)。……あ、どうぞお先に(笑)。
――(笑)。先生とは何度かお会いされたということですが、どんな印象ですか?
押切:分かんないと思いますよ!(笑) だって一瞬だけしか会ってませんから。
山田:雪山での撮影に来て下さったんですよ。すごい遠い所なのに。車で来られたんですよね?
押切:めちゃめちゃ時間かかりましたね。
山田:そんなすごい所に来てくださって。その時に「舞台を南国にすれば良かったね」っておっしゃっていました(笑)。すごく面白い方だなと思いました。
押切:雪山で申し訳ないなと思いつつ……。寒い中転げまわりながら演技していて。緊迫した状況と、あの寒さですよ。こんなところでよく演技できるなと思いました。
僕はその場で10分ぐらいでお腹が痛くなって(笑)。近くのペンションに逃げ込んだんですよ。
「もう戻れない!」って言って。そのペンションはキャストの控室にもなっていて、どんどんみんな戻ってきて、そこでちょっとお話しさせていただきました。山田さんは、気さくで良いお嬢さんだなぁと思いましたよ。
――そんなことが……!
押切:じゃあ、書いてきたこと読みますね。
山田さんの演技はこの『ミスミソウ』で初めて見させていただきましたが、文句なしの演技力、オーラ、目力の持ち主であり、すっかり魅了されました。
山田:(笑)。
押切:可愛い容姿の中に妖艶な部分も持ち合わせており、映画で観ていて、まるで飽きませんでした。間違いなく広末涼子さんや広瀬すずさんといったトップ女優の道を歩む存在だと感じました。
これから死ぬほど忙しくなり、悩みや不安で押しつぶされる苦労もするでしょうけど、大丈夫でしょうか?
山田:大丈夫です(笑)。
押切:大丈夫ですか?(笑) 覚悟はありますか?
山田:とても嬉しいです。あります。
押切:ここにちゃんと書いてるんですよ。大丈夫でしたら、言霊を飛ばします(笑)。
あなたはどんどん伸びていき、トップ女優になります。ここで予言しておきます。
本当にトップ女優になったら、それは僕の言霊ということで(笑)。
山田:嬉しいです。
押切:それくらい、すごい魅力を感じた方だった。これからが楽しみです。……大丈夫ですか? これで(笑)。
――OKです! 押切先生がおっしゃられたように、目力は意識したんでしょうか?
山田:押切先生が描く春花の目の力がすごいじゃないですか。そこからすごく感情を読み取った部分が大きくて。現場にもいつも漫画を持って行って、見ながら照らし合わせながら演じていました。
やっぱり目力っていうのは最近みなさんに言っていただけるので、意識したところはあります。春花の狂気とかも表せるパーツかなとは思うので、特に意識していました。
――振り幅の広いこのような役を演じることに対してはいかがでしたか?
山田:復讐するモードの時は、あんまり感情は表に出さずに演技しました。そこはサイボーグ的な感じを意識していましたね。顔の表情から出る狂気とかを気にしてたので、すごく楽しみながらやってました。残酷さはあんまり意識してなかったかなって思います。
押切:本当に僕が漫画で描いてた感じと全く一緒で。暴れ狂いながら復讐するというよりは、無表情で人を殺していくという感じだったんです。それを漫画でうまく捉えてくれて。演技に昇華してくれるっていうのは素晴らしいことですよね。
――普通の女の子でもこういうことになっちゃうことがありそうだなと、リアリティがある気がしています。
山田:撮影中は雪山にこもっていたこともあったんですけど、撮影現場からコンビニまで車で30分くらいかかる所だったんです。コンビニに行くのも楽しみみたいな。こんな環境にいたら病むかもしれないと思いました。
――撮影中に作品と似たような体験になったんですね。
山田:そうですね。こういう感じなんだろうなと思いました。
押切:その現場にいたかったなぁ(笑)。コンビニがありがたく思える環境って、なかなかないですから。
山田さんの春花の演技はどうだった?
――次は映画全体をご覧になった、お二人の感想をお聞かせください。
押切:それがいっぱいありすぎて、5ページ分も書いてきたんですよ(笑)。言ったらちょっと時間かかっちゃうんだよな〜(笑)。
――(笑)。では、まず先に山田さんはいかがだったでしょうか?
山田:相場くん(本編の登場キャラクター・相場晄)といる時に、機械的に復讐してた春花の心が見えるシーンがあるんです。そこで17、18回くらいリテイクさせていただきました。そこがすごく大変でしたね。
淡々としているから、感情が見えるところでしっかり見せないといけなかったんです。監督にもけっこう指示していただきながらやりました。そこがすごく印象に残ってます。
――それまで平坦な演技を続けてきて、ちょっと出すという塩梅が難しかったんですか?
山田:塩梅というか、私が演じている時はあまり意識してなかったんですけど、春花自身は憎しみや自分のしてることに対する意識みたいなものを持ち合わせつつ、人を殺しているんです。やっぱりどこかでそれが見えるところが必要で。
そこがしっかり見えてないと、他のところも単純に淡々としているという風に見えちゃうから。そういうギャップみたいなものを大切にしないといけないと、監督に言われましたね。
――なるほど。押切先生は?
押切:僕はもう、キリがないんですけど、おじいちゃんと一緒にいる時の春花の感じが生々しくて印象に残っていますね。本当は人を殺してしまったっていう後ろめたい気持ちがあるのに、おじいちゃんがあまりにも優しくしてくれるんですよ。
それに申し訳なさを感じている春香。あの空気感って漫画じゃ表せないんですよ。
またあの家の雰囲気もいいんですよ、生々しい感じ。あれが印象に残ってて。山田さんにもそうなんですけど、おじいちゃん役の寺田さん(寺田農)もすごい。
残虐描写はもちろん良かったんですけど、喋れなくなった春花のあの感じもすごく健気で良くて。
僕もこうやって(手で目を隠しながら)見てたんですよね(笑)。意外とキツいのダメなんです。
山田:自分で描いているのに(笑)。
押切:描いているのにも関わらず、こうやって見ちゃうタイプなんです。映画がすごく好きなんですけど、映画館で見るとどうしてもこういう風になっちゃうんですよ。あんまりにも大きい映像だからダイレクトに来ると、魂に響くんです。やっぱり残虐シーンは「ウッ」ってなりますし。
さっき言ったように、山田さんの魂が抜けたような、サイボーグみたいな感じになった時がすごく良かった。この人大変だったんだろうなと。もう1回観たいですね。まだ怖くて2回目を観られてないんですけどね(笑)。
次は新宿バルト9で観たいです。もっとスクリーンが大きいと思うので。そこでまた新しい発見があるかもしれないですね。
――今回はせっかくお二人いらっしゃるので、お互いに聞いてみたいことがあればどうぞ。
押切:いっぱいありすぎて、時間かかるからなあ(笑)。
――何でもいいですよ。「今日の朝、何食べました?」くらいのことでも。
押切:そういう話超好きですよ(笑)。普段何してるんだろうって思います。最近ハマってるものとか?
山田:料理が好きです。
押切:料理が好きですか。
山田:料理をするのにハマってますね。
押切:本当ですか。
山田:ちなみに朝ごはんは、普通にしっかりご飯を食べてきました。
押切:うふふ……。
山田:お魚とお味噌汁とみたいな。
押切:おお。今日起きるじゃないですか。今日は舞台挨拶だ、あれだけたくさんの人に自分の演技が見られる日だなって思うんですか?(※取材当日は舞台挨拶が行われた)
山田:あんまり思わなかったです(笑)。眠いなーと思いながら(笑)。
押切:もう人間なんですよ、やっぱり。ちゃんとした人間なんです。
女優さんって、なんかパッと現れてパッと消えていくみたいな幻みたいな存在じゃないですか。ちょっと実感がないんです。映像の中の存在なんじゃないかって。そういうオーラを感じますね。
だからこの人デニーズって知ってんのかなって、ジョナサンって行ったことあるのかなって思っちゃいます。
山田:1人でご飯食べてますよ(笑)。昨日は、サイゼリアで1人でご飯食べました。
押切:マジですか。1人でですか? すごいな。学校とかは?
山田:行ってます。
押切:行ってますか。
山田:今テストやってて。
押切:テスト!?
山田:その後に撮影して、ご飯食べて。
押切:勉強しながら?
山田:勉強しながら。
押切:勉強の成績とかどうなんですか?
――三者面談みたいになってきましたね(笑)。
押切:(笑)。仕事しながら勉強するって大変だと思うんですよ。なぜかって言えば、僕が今自動車教習所に通ってるからなんです。勉強して漫画描いてるんですけど、これがすごく難しいんですよ(笑)。勉強したって全然覚えられないし。
未だにテストの最終試験が受けられなくて。100点中90点取れれば良いんですけど、どうしても89点とか87点とかで。なかなか90点以上取れなくて。
勉強しながら女優業をやるなんて、この歳でなかなか大変だなと思うんですよ。それでサイゼリアかと(笑)。
――(笑)。山田さんは押切先生に聞いてみたいことは?
山田:漫画作品の実写化についてどう思いますか?
押切:全然良いと思いますよ。
山田:本当ですか?
押切:何でですか?
山田:けっこう漫画の原作のファンからすると複雑じゃないですか。私も漫画をすごく読むので分かるんですけど、漫画家さんはどうなのかなと思って。
押切:嬉しいと思いますよ。まず印税収入というものがあって、それがグワッと上がりますから(笑)。だから良し悪しというよりは、そっちの方にまず目が行くかもしれないです。
でもまあ自分の作品なんでね。映画になったらそれはもちろん良いものになって欲しいという気持ちはあると思います。まあ原作レイプみたいな話はありますけど。
映画化されるは全然ありがたい話だと思います。あとは監督とプロデューサーの力量だと思うんで。でも賛成ですよ。僕は映画化されたことによって、映画化されるような漫画を描きたいなという下心が生まれましたよ。
映画化されないような漫画じゃなく、映画化がちゃんとできる漫画にしたいなと思いました。だから『焔の眼』とかはダメですね、ああいうのは(笑)。
スタッフ:(爆笑)。
山田:読みました!
押切:本当ですか、ありがとうございます。あれは映画にはできないと思います。
山田:すごい大男ですよね〜。
押切:そうですね。
……(山田さんが)可愛い!
一同:(笑)。
――ここらでお時間なので(笑)。本日はありがとうございました!
[インタビュー/石橋悠]
■ヘアメイク
横山雷志郎
■スタイリスト
杉浦 優
■衣装クレジット
スカート2万9000円(税抜) アツシナカシマ(問シアンPR /TEL︎03-6662-5525)、そのほかスタイリスト私物
作品情報
映画『ミスミソウ』
2018.4.7 [土] より 新宿バルト9ほか全国ロードショー!
出演:山田杏奈 清水尋也
大谷凜香 / 大塚れな 中田青渚 紺野彩夏 櫻愛里紗 遠藤健慎 大友一生 遠藤真人
森田亜紀 / 戸田昌宏 片岡礼子 / 寺田 農
監督:内藤瑛亮
原作:押切蓮介 『ミスミソウ 完全版』 (双葉社刊)
脚本:唯野未歩子 主題歌:タテタカコ「道程」(バップ)
制作プロダクション:レスパスフィルム
配給:ティ・ジョイ
2017年/日本/カラー/シネスコ/5.1ch/114分(レーティング:R-15)