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- 石橋悠
- 1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。
ピアノをテーマにした不朽の名作『ピアノの森』。1998年から2015年まで『モーニング』(講談社刊)連載された本作が、ついに待望のTVアニメ化されることが決定しました。
本作の声優陣は、斉藤壮馬さん(一ノ瀬海 役)、諏訪部順一さん(阿字野壮介 役)、花江夏樹さん(雨宮修平 役)などが決定しており、さらに注目なのが、劇中のピアノ演奏を担当するのが、世界的に有名なピアニストたちということ。
今回はその中でも、海の先生となる阿字野のピアノ演奏を担当した反田恭平さんにインタビューを行いました。
海外でも活躍する反田さんは、『ピアノの森』のおかげでピアノにのめり込んだそうです。作品に対する愛から、ご自身の意外な経験まで様々なことがらについてお伺いしました。
阿字野壮介のメインピアニスト。モスクワ音楽院に首席で入学、現在はショパン大学に在学中。デビュー2年目にして全国ツアーでも20,000人を動員。今最も勢いのある若きピアニスト
1994年生まれ。2012年 高校在学中に第81回日本音楽コンクール第1位入賞。併せて聴衆賞を受賞。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。
2015年イタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。年末には「ロシア国際音楽祭」にてコンチェルト及びリサイタルにてマリインスキー劇場デビューを果たす。2016年のデビュー・リサイタルは、サントリーホール2,000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。
また夏の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行い、新人ながら3,000人を超える動員を実現する。2017年春にはオーケストラとのツアーを12公演、夏には初のリサイタルツアーを行い、全公演完売で終了した。
現在コンサートのみならず「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアでも多数取り上げられる。2017年 出光音楽賞受賞。 CDショップ大賞「クラシック賞」受賞。
――『のだめカンタービレ』(以下、『のだめ』)と『ピアノの森』が反田さんに影響を与えた作品だと聞いています。まずは両作品との出会いについて教えてください。
反田恭平さん(以下、反田):『のだめ』は小学生の時に母が漫画を買っていたんです。僕がピアノをちゃんと始めたのが12歳、小学校6年生の時で、「こういうのから入ってみたら?」と導入として勧められました。
同じタイミングでドラマが始まったのが6年生くらいの時。僕はそもそもサッカー少年だったので、クラシックは好きだったんですけど、正直、ピアノにはそこまで没頭していませんでした。
でも、そこから『のだめ』のドラマに出会って、シンフォニー(交響曲)やいろいろな楽曲を取り上げていたので、『のだめ』でいろいろピアノ以外の作品を知れたのかなと思います。『のだめ』は特に、主人公がピアニストだったから、僕も学べたということもありますね。
それから数年経って中学生の頃に『のだめ』が終わり、「『ピアノの森』という漫画があるよ」と、また母からすすめられました。今度はオーケストラではなく、ピアノ一途で描かれた漫画だと聞いて、手に取って見てみたら、ディープな世界で。
「ピアノってこういう風に弾くんだ、こんな世界があるんだ」というのを教えてくれたのが『ピアノの森』でした。
カイ(一ノ瀬海)や雨宮(雨宮修平)が弾いていた作品を全部調べて、楽譜を買って弾いていたこともありました。
僕は『ピアノの森』と一緒に育ってきたような感じがあります。カイたちともちょうど年代も近かったですし、僕が成長していくのと同じように、カイと雨宮が大人になっていって、17歳を超えた年齢になった。
そして最後の巻が出て……。やはり涙なしでは読めませんでした。
僕はもちろん、ピアニストの憧れでもあるショパン国際コンクールがテーマということもありとても感動しました。現に今、僕はポーランドに留学をしているので、そのきっかけもやっぱり『ピアノの森』だったのかなって感じます。
――反田さんご自身とシンクロしている部分が、かなり多い作品だと思います。
反田:『ピアノの森』を読んで育ったので、追いかけてしまったところはあるかもしれませんね(笑)。それくらい僕への影響力があった漫画だったと言えます。
――やはり何度も読み直してしまう?
反田:そうですね。劇場版のアニメ(2007年公開)も当時映画館で観ました。
原作者の一色まことさんが描くキャラクターの顔がすごい好きだったので、映画館でも集中して観れないくらい面白かったのを覚えています。真似するつもりもあったんですけど、真似できないところもありましたし。
そして今回は、阿字野(阿字野壮介)という教師の立場での出演です。僕も、ロシアへの留学経験から、高校を卒業してから3年間で1年間ほど子どもたちにピアノを教えるアルバイトをしていたことがあります。
今まで先生から言われていた「こういう風に弾きなさい」というご指導が、初めて教えるという立場になって見えてきたものもあります。そういう気持ちも込めて、阿字野のピアノを弾かせていただきました。
――阿字野先生のピアノって、どのようなものをイメージされていましたか?
反田:例えばバトル漫画だと効果音があるじゃないですか。「グシャッ」とか「ベコッ」とか。ああいう効果音っていうのは、読んでいる人間が自分で想像する効果音だと思うんです。実際には聞くことができないから、漫画ではそのように描かれています。
それはピアノの漫画でも一緒で。キャラクターがピアノを弾いていて、例えばキラキラする音だったり、うねりを伴うような風の「ヒュン」となる音だったり、そういうのは読んでいて自分で再現するのも限度があるわけです。
実際にその音を目の当たりにしていない環境にいるので、「風っぽい音ってなんだろう?」となるわけです。
それを表現する職業・職人というのがピアニストだと思うんです。今回はできるだけ漫画に忠実に表現しました。
阿字野は、ましてや全盛期に日本を代表するピアニストで、でも不慮の事故で弾けなくなってしまうキャラクターです。僕はそこまでの経験はしてないですけど、腱鞘炎や両腕骨折の経験はあります。その経験があったからこそ、僕が一番適任な役だったのではないかと思いますね。
その時にピアノを弾けなかった心情は忘れていないので、思い返して、照らし合わせながら演奏しました。
我々は俳優ではありませんが、少し似ているところは実際にあります。例えば、ベートーヴェンの曲を弾くとします。そうすると、ベートーヴェンの時代を探らなければいけないんです。どういう環境でこういう作品が作られたかを探るんです。
今回演奏した、モーツァルトやベートーヴェンも意識して弾きました。そして、阿字野から僕が感じとったものを表現しました。阿字野はやっぱり光も闇も見えていたキャラクターだなと思いました。
――今回『ピアノの森』に参加できることを最初に聞いた時、どういう心境でしたか?
反田:僕はニュースやテレビも大好きで、役者さんが「このアニメの吹き替えを担当されてどう思いますか?」と聞かれて、「嬉しかったです!」って答えるのをよく見ていたんです。でも、「ホントかな?」とか思ってたんですけど……本当でした(笑)。
マネージャーから『ピアノの森』っていう言葉を聞いた瞬間に即答で「受けます」と(笑)。どんな役であれ、関われるというのは本当に夢でもありました。
以前ツイッターで、「もし実写化したら僕は絶対に出たい」と勝手につぶやいていたんです。それをファンのみなさんが覚えていてくださっていて、未だに「言ってたよね」とメッセージをいただきます。
そういった期間が長かったので、やっと堂々と出演することが言えるのが本当に嬉しいですね。
――それは嬉しいですね。まだ解禁前なので、人に言えずにちょっとモヤっとしているのではないでしょうか?(取材は発表前に実施)
反田:本当に会社の方や関わっている方だけにしか『ピアノの森』の話ができなかったので、こうやってインタビュアーさんと話せることが嬉しいです。やっと取材される方、新しい方に言えるという。純粋に「俺が阿字野だ」って(笑)。
地上波で、しかも阿字野っていうクレジットもちゃんと付くわけですから。それが第1号というのが何より嬉しいですね。
好きだからこそ、レコーディングも阿字野が全盛期のようには弾けない様子をどうやって出すのか、いろいろと考えました。
――原作の阿字野はケガの影響で上手く演奏できないシーンもありました。反田さんもあえて下手に弾くということもやられたということでしょうか?
反田:下手にというよりは、阿字野を表現する、阿字野になりきるということですね。やっぱり非現実的なことをするわけですし。
監督さんと相談し合いながら進めていきました。レコーディング現場には常に漫画が置いてあって、それを見ながらやっていました。
反田恭平が演奏する阿字野ということは変わらないけれど、阿字野の中に反田恭平がいるのと、反田恭平の中に阿字野がいるのは全然違うと思うんです。そこは本当にデリケートなところで、ちゃんと汲み取りながらやっていました。良い仕上がりになっていると思います。
ピアノは、誰もが弾ける楽器だからこそ難しいところでもあるんです。そういうところに阿字野も葛藤を持っていたと思います。阿字野が自分のピアノを捨てるシーンにもそういうところが出ていると思います。
――今回の『ピアノの森』をきっかけにピアノの世界に興味を持つ方も多いと思います。
反田:絶対にそうだと思いますね。
――反田さんは、どこかのインタビューで「『ピアノの森』のお話は現実に起こってもおかしくない」と仰っていました。このようなドラマチックな瞬間というのは、実際にもあるのでしょうか?
反田:ピアノが燃えるっていうことはめったにないですけどね(笑)。
一同:(笑)。
反田:実際はどうかわかりませんが、コンクールの政治的な問題でしょうか。そういうのはあるかもしれません。毎日、世界のどこかでコンクールが行われていて、一日一回行われていても日数が足りないくらいのコンクールがあるそうです。それだけの数があれば、そういうのがあってもおかしくないと思います。
あとは人情的な面で言うと、一番分かりやすいのはカイと雨宮の関係ですね。アウトローな感じで弾いてきた海と、父の背中を追ってコツコツやってきた雨宮。その対比は実際にもあります。
僕の周りにはやっぱり雨宮みたいな子がたくさんいました。でも、僕は高校生のときは金髪にしていたし、レッスンの教授の所に行くのにビーチサンダルにランニングトップ、半ズボンで……。本当に虫かご持った少年みたいな格好でレッスンに行ったりして、すごく浮いていた時もありました(笑)。
その隣で他のみんなは、高校生ながらスーツを着て、ネクタイをがっちり締めてという世界でしたね。
――そんなことが(笑)。
反田:地方出身の友達が話してくれましたが、地元で一番上手かった人が上京してきて、いざ音大に入ってみたら「自分よりも、もっと上手い人がいた」っていう気持ちを味わったりするみたいなこともあるようです。
僕も同じような経験をしました。留学して、「世界はこんなに広かったんだ」というのを感じました。
『ピアノの森』でもそういう感情の描き方は、上手いなと思いました。自分で経験してリアルだと実感しましたね。まだ一色先生とはお会いしていないので、そのあたりをいつかお伺いできたらなとは思います。
――なるほど。興味深いですね。
反田:先生と生徒という関係もリアルでした。阿字野というピアニストが一人のピアニストを育てていくという形も綺麗でしたよね。
現に学校にいる先生達も現役のピアニストの方がたくさんいらっしゃいます。僕もカイと同じように、幸いにも優しい先生に今までついていました。
わざわざ一緒に海外に付いてきてくださり、僕が英語を喋れない時は全部翻訳してくださいました。そういう先生がたくさんいらっしゃるんです。
――ピアノの先生と言われると、勝手なイメージですが、めちゃくちゃ厳しい方が多い印象があります(笑)。
反田:実際に多いと思います。ただ今はだいぶ少なくなったのは事実です。うちの両親は違って、むしろもっと厳しくしてくださいと言っていたくらいです(笑)。
先程も言ったように、僕はサッカーをやっていて、4歳の時に一般的な教育の一環でピアノを始めました。圧倒的にサッカーが好きだったので、ピアノの練習よりもサッカーの頻度の方が2倍くらいだったんです。
その時にピアノを習った先生というのが本当に優しくて。思い返せば今の僕とあまり変わらない年代だったと思います。大学を卒業して数年たったとかそれくらい。
「恭ちゃん」って呼んでくれて、「どういう曲を弾きたい?」と言って、好きな曲を先生が課題を3つくらい弾いてくれて、その中から決めて練習をして発表すると「よく弾けたね」と。怒られたことがなかったんです。
小学生になって初めて受けたコンクールで奨励賞を取りました。でも、1位・2位・3位・特別賞・審査員賞・奨励賞というランクで、ファイナルの中ではビリですよ。
それでも初めてのコンクールが奨励賞で、僕的にはすごく嬉しくて。「ピアノって簡単だな」って思っちゃったわけですよ(笑)。普通の先生はそこで、「そんなところで満足しないで」と言うかもしれないんですけど、僕の先生は全く違っていて、本当に僕と一緒に喜んでくれたんです。胴上げみたいなこともしてくれました(笑)。
そこで、「僕がピアノを弾くと誰かが喜んでくれる」と思ったんです。ピアノを続けてこれた理由は、それが大きかったかもしれません。
――どちらかというと、カイに近い印象です。
反田:そうですね。カイを指導した阿字野も、やっぱりそういう先生だったのかもしれないと思います。僕にも優しくずっと一緒にいてくれた先生がたくさんいます。だから阿字野の気持ちが少しわかるような気がします。
先生が厳しすぎて、それがトラウマになり、ピアノを辞める方もいらっしゃいます。それは少し残念な気がします。
――そういう意味では、『ピアノの森』は、様々な想いを乗り越えて、負の感情も全部プラスになっていく作品だと思います。
反田:本当にそうだと思いますよ。乗り越えていく姿はすごく感銘を受けます。
自分の活動についても考えます。「今いる現状で満足するのか?」みたいな。仮にコンクールで1位を取っても、悔やむことも絶対あると思うしまた新たな課題もでてくるかもしれない。もちろん、嬉しいこともあると思うんですけどね。
もし僕にも縁があって国際コンクールにチャレンジすることがあったら、1位になろうが予選で落ちようが、僕にとってはきっと壁が来ると思います。
カイと同じ境遇になったら、カイはどう乗り越えていくのか。もし『ピアノの森』で続編があればそこが気になるところですね。
――反田さんのこれからの活動にも目が離せませんね。では、最後に読者の方にメッセージをお願いします。
反田:『ピアノの森』に携わった身として、もっとクラシックに興味を持っていただけたら嬉しいですね。みなさんにとってのキッカケづくりになれたらと思っています。
僕自身が原作のファンでもあり、しかもNHKさんで全国放送されるので、やはりセンセーショナルなクラシックな時代を作り上げていきたい。それは僕も全力でサポートしたいし、先陣を切っていきたいです。
ぜひみなさんには、一回騙されたと思ってクラシックの演奏会に来て欲しいです(笑)。絶対に後悔させません。まずは『ピアノの森』という入り口から、ぜひご覧いただきたいです。
[インタビュー/石橋悠]
1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。
TVアニメ「ピアノの森」
NHK総合テレビにて2018年4月8日(日)24:10~放送開始予定
※関西地方は同日24時50分からとなります
※放送日時は変更になる場合があります
【イントロダクション】
森に捨てられたピアノをおもちゃ代りにして育った主人公の一ノ瀬海が、かつて天才ピアニストと呼ばれた阿字野壮介や、偉大なピアニストの父を持つ雨宮修平などとの出会いの中でピアノの才能を開花させていき、やがてショパン・コンクールで世界に挑む姿を描く、感動のストーリー。
【STAFF】
原作:一色まこと(講談社『モーニング』所載)
監督:中谷 学(「マダガスカル3」CGスーパーバイザー)
シリーズディレクター:鈴木龍太郎(「スナックワールド」絵コンテ)
シリーズ構成:伊丹あき(「惡の華」)・あべ美佳(「団地ともお」)
キャラクターデザイン・総作画監督:木野下澄江(「ガーリッシュ ナンバー」)
美術監督:栫ヒロツグ(「“栄光なき天才たち”からの物語」「ラクエンロジック」)
色彩設計:吉村智恵(「放課後のプレアデス」)
撮影監督:臼田 睦(「ソード・アート・オンライン」)
編集:三嶋章紀(「四月は君の嘘」)
音響監督:長崎行男(「宝石の国」「聖☆おにいさん」)
音楽:富貴晴美(大河ドラマ「西郷どん」、映画「関ケ原」)
アニメーション制作:ガイナックススタジオ(「想いのかけら」)
製作:ピアノの森アニメパートナーズ
【エンディングテーマ】
悠木 碧 「帰る場所があるということ」
【CAST】(フルキャスト)
一ノ瀬 海:斉藤壮馬
阿字野壮介:諏訪部順一
雨宮修平:花江夏樹
パン・ウェイ:中村悠一
レフ・シマノフスキ:KENN
丸山誉子:悠木 碧
ソフィ・オルメッソン:伊瀬茉莉也
カロル・アダムスキ:小西克幸
平田光生:豊永利行
佐賀武士:遊佐浩二
司馬高太郎:家中 宏
一ノ瀬海(小学生):白石涼子
雨宮修平(小学生):大地 葉
雨宮奈美恵:三宅麻理恵
亜理沙:広橋 涼
金平大学(キンピラ):くまいもとこ
一ノ瀬怜子:坂本真綾
雨宮洋一郎:田中秀幸
J=J・セロー:島田 敏
【メインピアニスト】
反田恭平(阿字野壮介)
髙木竜馬(雨宮修平)
牛牛 (パン・ウェイ)
シモン・ネーリング (レフ・シマノフスキ)
ジュリエット・ジョルノー (ソフィ・オルメッソン)
小学生時代(一ノ瀬 海、雨宮修平、丸山誉子)
上原心音
大山桃暖
佐原冠
馬場彩乃
TVアニメ『ピアノの森』公式サイト
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