TVアニメ『BANANA FISH』内田雄馬さん×野島健児さん×瓜生恭子プロデューサー座談会（前編）｜少女漫画らしい「繊細さが必要な関係性」に試行錯誤

フジテレビ“ノイタミナ”ほかにて、毎週木曜24:55から放送中のTVアニメ『BANANA FISH』は、実写映画化された『海街diary』などで知られる漫画家・吉田秋生先生の40周年プロジェクトとして同名漫画をアニメ化。ニューヨークを舞台に、並外れて整った容姿と卓越した戦闘力でストリートギャングを束ねる少年・アッシュと、カメラマンの助手として取材にやってきた日本人の少年・奥村英二が出会い、組織の影に見え隠れする“バナナフィッシュ”の謎を追い求めていくストーリです。

戦争、薬物、ストリートギャングとマフィアの抗争などハードな題材を描きながらも、少女漫画誌で連載され、多くの女性から支持を集めた本作。そこで、アッシュ役・内田雄馬さん、英二役・野島健児さん、アニプレックスの瓜生恭子プロデューサーにインタビューを行い、男性視点・女性視点から見た作品の印象や、アッシュと英二の関係性、今後の見どころなどについて伺った前編をお届けします。

目次

• リアルな男の友情では少ない、互いを“感じ合う”繊細なアッシュと英二の関係性
• 経験したことのない感情に、心の揺れがすごいアッシュ。けど、人間らしい！
• テレビアニメ『BANANA FISH』作品情報

リアルな男の友情では少ない、互いを“感じ合う”繊細なアッシュと英二の関係性
――TVアニメの放送がスタートしていますが、完成した映像をご覧になっての感想はいかがですか？

アッシュ役・内田雄馬さん（以降、内田）：出来上がった映像は、吉田先生の絵の雰囲気とか、『BANANA FISH』の世界観とかを、すごく大切にして作られていて。自分が読んでいた、あの世界が「そのまま動いてるんだな」という感動がありました。「いいなぁ」と思ったのが最初でしたね。

内田雄馬さん演じるアッシュ

英二役・野島健児さん（以降、野島）：コミックスの止まっている絵が動くわけだから、その感動は代え難いよね。アクションでも、アッシュってこんなに俊敏なんだとか、足を上げた様とか「かっこいいなー」って。

内田：確かに。漫画だと静止画だけど、そこが全部つながって動いているので、その時に超人的な部分というか身体能力とか、くっきり見えてきました。

野島：しなやかさとか、動いてないとなかなか難しい部分とか。英二に関しては、やっぱり陸上してたんだっていう走り方だった。

野島健児さん演じる奥村英二

瓜生恭子プロデューサー（以降、瓜生）：それは、こだわりの部分ですね。

野島：そうなんですか？

瓜生：英二の体型とかも、もともとスポーツマンということで筋肉の付き方とか、監督がとてもこだわっていて。「そんなに華奢にしないで」とか「陸上してた選手の体つきで」とか、運動していた体にしてほしいといったこだわりが結構あります。

野島：だから、見ていてリアルに受け入れられる瞬間だったり、そういうところがあるんですね。きっと見ただけでも、すぐに陸上選手なんだって受け入れられるし、し、し、視覚……何だ？（笑）

瓜生：視覚情報？

野島：そう。視覚情報だけで感じることができるのは、アニメーションならではの部分なんでしょうね。

瓜生：コミックスだと、背景がないコマがあっても、そういう演出だったり、違和感がないじゃないですか。今回『BANANA FISH』は、リアルさにこだわっていることもあって、イメージ背景よりもリアルな、実際にある背景を描いているので、美術さんの作業は大変だと思います。

いろいろな制作過程を見ているので、1話を何10回も見ているんですけど、何回見ても「これを本当に最後までやるのか」「MAPPAさんすごいな、本当に命を削りながら作っていただいているな」というのを感じますね。チェックで何回も見て、かつオンエアも見てるんですけど、毎回一瞬で終わっちゃって。毎回「あ、もう終わっちゃった」「寂しいなぁ」と、いちファンとして思っていますね。

――瓜生プロデューサーは制作発表の時にも原作ファンだということをおっしゃっていましたが、本作の少女漫画としてはハードな世界観について、どのように感じましたか？

瓜生：読んでいた当時は、男性社会というところを特に意識してなくて。もともと少年漫画の方が好きだったので、バトルものとかスポーツものとか。少女漫画でも恋愛をベースにしたものよりも、別のテーマでお話が展開したり、恋愛要素があったとしても他の要素が主軸としてある作品が好きだったりするので、ジャンル的には受け入れやすかったです。

私が読んだ時には連載が終わっていて、文庫版も出ていたぐらいの時に、コミックスを読みました。連載当時で考えると、レアな作品だったんじゃないかなとは思います。扱っている題材は、少年漫画だったとしてもだいぶハードボイルドというか、今だとなかなか描きづらい薬物だったり、児童ポルノだったり、戦争だったり。

野島：俺は、特に少女漫画を読んできていないので、少年漫画を読む感覚で読んで、むしろ「どこが少女漫画なんだろう」と少女漫画視点の部分を探しました。たまに出てくる、英二がかわいく描かれていたりするシーンで「あ、少女漫画だな」と感じる部分があって。少年漫画だと男性キャラクター、主人公たちがかわいく描かれることがなくて、男性目線で見てそういう風に感じることはないですね。

内田：あまりないですね。

野島：かっこいいとか憧れるっていう部分は描かれるけど、かわいいなぁと感じるシーンはそうそうないので。その辺に「あ、少女漫画だったんだな」と、気付かされることがありました。

瓜生：引き出しを開けたらネズミが出てきて、英二が「キャーッ」っていうシーンとかですかね。

野島：ありましたね。すごく大変なシーンだったのに、ドアに向かって「この、おたんこなす」って言ったシーンとか（笑）。

内田：伝説の“おたんこなす”（笑）。「おたんこなす」って、男性が男性に使うことないですよね。

野島：原作を読んで「俺、おたんこなすって言うのかな……」と。

内田：その話、ずっとしてましたね。

野島：「おたんこなすくるかな、来週あたり？」みたいに。

内田：「くるかな？　うわー」って言ってましたね（笑）。時代感もあるのかもしれないですけど、ニュアンスとか言葉のチョイスとかが違うのかも。僕的には、姉もいたので漫画の垣根みたいなのは意識しないで、家にある漫画は全て“漫画”という感じで、これが少年漫画、これが少女漫画というのはなかったです。

でも、この作品は、自分の感覚では分かり切れない部分がパッと読んだ時にあって。「これって、何だろう」というのは収録しながらも考えているんですけど、そのちょっとした感情の違いみたいなものが、ある意味男女の違いというか、男性的な目線と女性的な目線の違いなのかなと思いながら、今も何度も読み込んでいます（笑）。

――女性同士の友情や先輩・後輩などの関係性と男性同士が持つその関係性は、異性からは想像するしかないと思うのですが、本作での男性同士の関係性について男性視点から「男性っぽくない」と感じる部分はあります？

野島：ありますね。アッシュと英二の関係性も、言葉に出さずともお互いのことをすごく思いやるじゃないですか。それは、男性同士の関係性では少ないね。思い合うよりも言葉で言っちゃう。

内田：言っちゃいますね。

野島：「これどうなってるの？　これは？」「で、これはどうなってるの？」みたいな（笑）。

内田：ちゃんと言葉にして伝えちゃいますね。空気にして、こう察するみたいな……。

野島・内田：感じ合う（笑）。

野島：そういう部分はあまりないので、面白いですね。男同士でもそういう方はいると思いますが、男性でいうと“言葉にしてぶつかり合う”っていうイメージがあるから、新しいというか新鮮な感じ。

瓜生：アッシュとショーターは言い合いそうですね、彼らは親友だと言っていますし。アッシュと英二の関係性は違うんだろうなと思うんですけど。

野島：何だろう……、言葉にしなくても分かり合いたいっていうのが先に立ってるのかな？

内田：何でしょうね。ショーターとアッシュに関しては、同じライン（ストリートギャングを束ねる立場）で居続ける部分があって、お互いがお互いを対等に見れるある意味友達という形として成り立つと思うんですけど。アッシュからすると、英二はちょっと羨望とか憧れとか、大切にしたいというものが逆にある気がします。触れたくない、触れちゃいけない部分があるというか……。

野島：壊れそうな？

内田：壊してしまいそうな？　そういう繊細な感覚。

瓜生：今までの自分にないものだから、扱い方がちょっと違うような？

内田：ショーターとかだったらお互いにぶつけても、向こうは向こうで、そういう世界で生きている立場とかで分かり合えるベースがあると思うんですけど。英二に対しては、理解できない人じゃないと分かっていたとしても、それを突きつけてしまった時の、変わってしまう怖さとか変わらないでほしい思いとか、いろいろものすごく考えちゃう。

男の友達っていう関係だけだと、意外と難しいというか少ないのかなと。男女関係なく、相対する相手のことを考えると思うんですけど、そこまでの繊細さは“友情”という括りではない部分なのかなと。言葉にするのは難しいんですけど、その繊細さが必要な関係性って何だろうと。近くて遠いけど、近いみたいな……。

野島：何か「傷つけたくない」っていう思いが、相手に対してすごく強い。

内田：すごく強いですね。

野島：痛みを知っている部分があるからこそ、すごく気を遣わなきゃいけない部分と、本当は気を遣うよりももっと近づきたいっていう思いと。その裏腹加減の、微妙な塩梅っていうのは少年漫画では……ね。

内田：そうですね、少年漫画だと「1か2か」みたいな。「俺は1位を目指す！」みたいな、そういうシンプルさが（笑）。なので、少女漫画を読んでいる時は違いがあるかもしれないですね。

瓜生：繊細さは、少女漫画らしいかもしれないですね。あまり意識してなかったですけど、言われてみて気づきました。

内田：もっとシンプルに、「俺が絶対守るから、俺のそばにいろよ」って言ったら解決するものもあるけど、この作品はそういう作品ではない。一緒にいたらダメになってしまうものもたくさんあるけど、一緒にいたいっていう、そういう感覚が難しくて……最近すごく演じる上で、悩んでる（苦笑）。

割と自分が男なんだなと思うのは、白黒つけるまでは悩むタイプなんですけど、つけようと思ったら早くて。そこで、すごく悩んで葛藤して、そういう感覚をアッシュが持っているなと思うと、独特な感性というか自分にはないものかなと。面白いなと思います。

経験したことのない感情に、心の揺れがすごいアッシュ。けど、人間らしい！
――やはり、アッシュと英二のような繊細な関係性は、男女関係なくリアルでは難しいと？

内田：最近よく考えていて、「無償の愛とは何か？」と昨日も考えていたんですけど。相手を愛するということ自体が「難しいな」と、考えはじめてしまって。「相手が好きだ」ということは、僕が好きというだけで、「好きではあるけど、愛ではないな」と。愛は通じた時に愛なのか、何か見返りを求めなくなった時に愛なのか、愛ゆえに欲とかいろいろなものをコントロールできたりするのか、もうそれが愛なのかどうか分からないなと思って。男女問わず、愛のカタチとは何なのか、愛とは何だろう……と。

野島：掴めない尊さとか？

瓜生：アッシュは物語を通して、英二に対してずっと葛藤しているじゃないですか。「そばにいてほしい」けど、「そばにいたいけど、そばに置いていちゃいけない」と思って距離を取ってみたり。「でも、やっぱり一緒にいたい」ってなったり、そういうのを繰り返していて、そういうアッシュの感情の揺れみたいなものは人間ぽくていいなと思いますね。

――アッシュと英二の関係性は深いですね。では、逆に感情移入しやすいキャラクターや、このキャラクター目線で見ると面白いんじゃないかというキャラはいますか？

野島：いるとは思うんですけど……正直そんな余裕ないですね、英二で手一杯で（苦笑）。きっと、それぞれのキャラクターの見方で見たら、いろいろな世界が見えていくんだろうな、そういう楽しみ方は間違いなくあるんだろうなという自覚はしています。でも、それをやる時間があるんだったら「もっと英二のことを考えろよ」と。

まだ、そこまではできていないですが、そうやって見ることでもっと作品を俯瞰して見れるだろうなと思います。アッシュ目線や、外から見たら英二というものがまた違う形で見えてくるのかな、見てみたいなとは思いますね。

内田：当事者たちだけじゃない目線で見たら、ちょっと違うものが見えそうですね。当事者たちの姿が「どういう風に見えるんだろう？」と。

瓜生：視点的には、マックスが一番俯瞰して作品を見れるかもしれないですね。どのキャラクターも感情が強いキャラクターが多くて、目的だったり、気持ちを理解しやすいキャラが多いなぁと。私がすごく好きなのは、出てくるキャラクターのほとんどがものすごく強い執着心を持って行動していて。それに捕らわれているというか、そのために全てを投げうっちゃったりするくらい、強い気持ちを持って生きている人たちが多いのが、全部のキャラクターの魅力だと思います。どのキャラクターも生きている感じがします。

野島：でも、（キャラクターではなく）僕自身の視点でアッシュになっちゃうと、英二が邪魔に見えてきて（笑）。

内田：そんなバカな！（笑）

野島：もう、どうにかして日本に送り帰したい。そうしないと、大事だから気になっちゃって仕方がない。

瓜生：そうですね（笑）。

野島：とりあえず生きててくれ。こっち片付けるから、待っててと。

瓜生：分かってるけど、側に置いておきたくなっちゃうんですよね。

野島：そうなんですよね。自分の部屋とかに大事な物を隠す時って、つい自分の視野に入るところに隠しちゃう。分かりやすいから、すぐ見つかっちゃう。

瓜生：何回もアッシュは帰そうとするんですけどね（苦笑）。

内田：帰そうとしたり、引き止めたり、やっぱり帰そうとしたりってね。 アッシュの、あの揺れ方は凄いですよね。

瓜生：揺れてますね。

野島：まだ、そういう何かを大事にするっていう感情に慣れてないんだろうね。ずっと愛情を素直に受け取れないし、受け取ったら殺されてしまうような立場で生きてきたから。

内田：今まで、自分で道を選んできたはずの人が、選ぶのにあんなに迷う姿は本当に人間的だなと思います。演じるという形ですけど、傍から見ている人間としては葛藤がすごいので、どういう風に演じていってあげたらいいんだろうと考えています。瓜生さんがおっしゃっていた通り、『BANANA FISH』は目的とか感情とか、すごく分かりやすく明確に描いてあって。思惑があったとしても、本人たちの気持ちはすごく分かりやすいので、物語の流れのままに言葉が出てくると、そういう展開になっていってすごいなと思います。

野島：彼は天才だから、彼の気持ちについていくのは早くて大変でしょう？

内田：すっごい難しいです！　単純に、こう（ストレートな解釈）じゃないから、本当にこうなのかと考えると（苦笑）。あとアニメーションなので、尺が決まっている中でどんどんどんどん進んでいって……大変です。

瓜生：1話の中での展開も早いですからね。

内田：いろいろな事が巻き起こっていて、本人も本当に処理し切れないことがいっぱい起こっていて。それを整理して、この立場の時には「こう見せないといけない」ということができる人で。でも、すごく気が立ってる時に、英二と居ることで落ち着けたり、自分の気持ちが出てきてしまう安心感もあったり、そのバランスがすごく難しいです。考えるのはすごく楽しいんですけど、ただ「（本当のアッシュは）どれなんだろう」と常に考えていて。収録している中でも、「こうです。これがアッシュです！」っていうのは、僕の中ではまだ分かっていないと思います。

野島：アッシュはすごく頭がいいけど、そういう感情に関しては「その瞬間瞬間なんだなぁ」と見ていて思う。考えて行動する人なんだけど、結局その瞬間の感情で最終的には判断してる。

内田：衝動的な部分は持っていますね。反射神経という言い方が正しいのか分からないですけど、ある意味生きてきた、生き延びていくための感性であったのかもしれない。

野島：でも、まだそれに気づいてないから難しいよね。

内田：「なんでだ？」ってなっちゃいますからね。「いてほしい」「帰れ」「いてほしい」……というところに、如実に表れているなと思いますね（笑）。

＜後編に続く＞

テレビアニメ『BANANA FISH』作品情報
● 放送情報
フジテレビ”ノイタミナ”ほかにて毎週木曜24:55から放送中！

Amazon Prime Videoにて日本・海外独占配信
日本では毎話フジテレビ放送開始1時間後より配信予定
フジテレビ・岩手めんこいテレビ・さくらんぼテレビジョン　(木)24:55～25:25
秋田テレビ　(木)25:20～25:50
福島テレビ　(木)25:25～25:55
テレビ愛媛　(木)25:30～26:00
テレビ静岡　(木)25:35～26:05
テレビ熊本・新潟総合テレビ　(木)25:45～26:15
関西テレビ・テレビ新広島・テレビ西日本　(木)25:55～26:25
鹿児島テレビ・仙台放送　(木)26:00～26:30
東海テレビ　(木)26:10～26:40
サガテレビ　(金)24:55～25:25
高知さんさんテレビ　(水)25:55～26:25

※放送時間は変更になる場合がございます
　
● あらすじ
ニューヨーク。 並外れて整った容姿と、卓越した戦闘力を持つ少年・アッシュ。ストリートギャングを束ねる彼は手下に殺された男が死ぬ間際に“バナナフィッシュ”という謎の言葉を発するのを聞く。

時を同じくして、カメラマンの助手として取材にやってきた日本人の少年・奥村英二と出会う。二人はともに“バナナフィッシュ”の謎を追い求めることに──。

● スタッフ
原作:吉田秋生「BANANA FISH」(小学館 フラワーコミックス刊)
監督:内海紘子
シリーズ構成:瀬古浩司
キャラクターデザイン:林明美
総作画監督:山田歩 鎌田晋平 岸友洋
メインアニメーター:久木晃嗣
色彩設計:鎌田千賀子
美術監督:水谷利春
撮影監督:淡輪雄介
編集:奥田浩史
音楽:大沢伸一
音響監督:山田陽
アニメーション制作:MAPPA
　
● キャスト
アッシュ・リンクス:内田雄馬
奥村英二:野島健児
マックス・ロボ:平田広明
ディノ・F・ゴルツィネ:石塚運昇
ショーター・ウォン:古川慎
フレデリック・オーサー:細谷佳正
伊部俊一:川田紳司
ユーシス:福山潤
シン・スウ・リン:千葉翔也
ラオ・イェン・タイ:斉藤壮馬
ブランカ:森川智之
　
テレビアニメ『BANANA FISH』公式サイト
テレビアニメ『BANANA FISH』公式Twitter(@bananafish_tv)