最新作『映画ドラえもん のび太の月面探査記』は想像力が何倍にもふくらむ作品! 八鍬新之介監督インタビュー
『ドラえもん』の劇場版作品の最新作『映画ドラえもん のび太の月面探査記』が3月1日(金)公開となります。
映画ドラえもんシリーズ39作目となる最新作は、シリーズ初となる月が舞台。「月の裏側には何がある?」という疑問がきっかけで、のび太がひみつ道具で作ったウサギ王国、謎の転校生・ルカと不思議な力を持った子どもたち・エスパルの存在など、藤子・F・不二雄先生の持つ「SF(すこし・ふしぎ)」がたくさんつまった冒険ファンタジー作品です。
脚本を手掛けたのは、『ドラえもん』の大ファンだという直木賞作家・辻村深月さん。そして監督は、『新・のび太の大魔境 ~ペコと5人の探検隊~』(14)や『新・のび太の日本誕生』(16)の八鍬新之介監督。
おふたりがコンビを組んだ最新作は、子どもだけでなく、大人も楽しめる新たな『映画ドラえもん』の物語となっています。
今回は映画の公開を記念して、八鍬新之介監督にインタビュー。映画のテーマに込められた監督の想いや制作の裏話、監督が改めて気づいた『ドラえもん』の魅力についてなど、いろいろお話をうかがいました。
月が舞台の最新作は「想像力」がテーマ
――映画の舞台が月と決まった時に、監督はどんな物語にしたいと思われたのでしょうか?
八鍬新之介監督(以下、八鍬):月は身近な存在なので、どこか遠くの知らない星と違って、ある程度環境がわかっています。ですから、まず「嘘をつけない難しさがある」という気持ちが先行しました。
一方で、月は昔から人間の想像力をかき立てている天体なので、ロマンチックな部分もうまく取り入れられたらいいなと思いました。
――今回の作品の中で、こだわったポイントはどちらでしょうか?
八鍬:今回の作品には、ゲストキャラクターとしてエスパル(※1)という子どもたちが出てくるんですけど、彼らにドラマチックな展開が起きるのが、今作のメインのひとつなんです。
なので、「のび太たち側のクライマックスをどう作るか」というところをしっかり押さえて進めたいと思っていました。
※1:月の裏側に住む不思議な力を持った子どもたち。
――ドラえもんを演じている水田わさびさんにインタビューした際に、当初のシナリオには「想像力は未来だ。」というドラえもんのセリフはなかったとお聞きしました。
八鍬:脚本の辻村深月さんが書かれたシナリオを客観的な視点で見る立場にあったので、それを読み込む過程で「これは想像力がテーマなんじゃないかな」と、だんだん気づいてきたんです。
異説クラブメンバーズバッジ(※2)は、人間の想像力を具現化するような道具です。異説というのは決して怪しいものではなくて、人間の歴史や可能性を象徴する素晴らしいものだと思うんです。
それと相反する負の想像力というものが、破壊兵器を作り出すことがありますよね。現実でもそうですけど。一方で、ドラえもんは正の想像力が作り出した子守ロボット。『兵器』と『ドラえもん』が対照的だなと感じたんですよね。
ドラえもんに想像力のポジティブな面を全部背負ってもらって、適役のイデオロギーと戦ってほしい。そんな意図で入れたのが「想像力は未来だ!」というセリフです。
※2:世の中であたりまえとされている説とは別の、異説の世界を実現するひみつ道具。バッジをつけている人は、同じ考えを信じる仲間になる。
アニメーターたちが心血を注いで描いたシーン
――今作で監督が注目してもらいたいシーンをお聞かせください。
八鍬:ノビット(CV:渡辺明乃)とモゾ(CV:ゆきじ)というキャラクターのシーンですね。このふたつのキャラクターを思った以上に好きになってしまいました(笑)。
とぼけているノビットと、一見しっかりしているように見えるモゾの漫才みたいなところは、きっと映画を観ている子どもたちも好きになってくれるんじゃないかなと思っています。
昔の『ドラえもん』作品で、チャミー(※3)やロコロコ(※4)といった忘れられないキャラクターが出てきているんですけど、それと同じぐらい魅力的なキャラクターを作れたんじゃないかなと思っています。
※3:『のび太の宇宙開拓史』(81)『新・のび太の宇宙開拓史』(09)に登場するキャラクター。
※4:『のび太の宇宙小戦争』(85)に登場するキャラクター。
――ちなみに、のび太とルカが最初に出会う、裏山のシーンは、幻想的でとても素敵でした。
八鍬:『ドラえもん』はいつも日常で少し不思議なことが起こるところから物語が始まるので、映画の中ではすすきのシーンが最初の不思議なできごとなんですよね。
見たことのない子どもが何か物憂げに座っている。そして風が吹いている。シナリオを読んだ時から、ここは「一番印象に残るシーンだろうな」と感じていたので、山森さんという上手なアニメーターの方に頼み込みました。
アニメーターさんたちが「このすすきはただのすすきじゃダメだから、不思議な揺れ方をしなくてはいけないから、手で描く」と言って、ものすごく時間をかけて描いていましたね。
――そうでしたか! 不思議な揺れ方……。
八鍬:はい。色気のある揺れ方っていうんですかね(笑)。
――また、のび太たちの通う小学校が月見台小学校っていう名前なんですよね。
八鍬:たまたまですね(笑)。のび太が住んでいるのが、東京都練馬区月見台すすきヶ原という住所らしいんですよ。後から気づいて……。
八鍬監督が共感する意外なキャラクターとは?
――長く、多くの人々から愛されている『ドラえもん』ですが、監督から見て、ドラえもんの魅力は何だと思われますか?
八鍬:もちろん、ドラえもんというキャラクターがいろいろなひみつ道具を出してくれるというのが一番の魅力なんですけど……。一方で、「のび太という少年は、人一倍想像力があるんだ」と今回の映画で気づかされました。
例えば、のび太は山に登りたくなかったら、「平らな山ないかな?」とか思いつくんです。
その想像力というのは、やっぱり「人間がより便利なものを」と言って、科学を進化させてきたものと同じなので、「もしかしたら、のび太みたいにぐうたらな子がいなかったら、ドラえもんは誕生していないのかな?」と思いました。
他にも、「ドラえもんがのび太ではなく、出木杉(CV:萩野志保子)のもとに行っていたとしたら、ここまで面白い作品になっただろうか?」とか……。
やっぱり「ドラえもん、こんな道具出してよ!」ってリクエストする側がいて、初めてドラえもんが道具を出してくれるじゃないですか。決してドラえもんからは出さないので、のび太の想像力の豊かさみたいなところに、今回の作品を作っていて気づかされました。
月のうさぎというものを素直に信じて、育っているのび太の純粋さとか。ドラえもんだけじゃなくて、のび太とドラえもん合わせて、この作品の魅力なんじゃないかなと感じましたね。
――監督が作品に登場するキャラクターの中で、ご自身に似ていると感じるキャラクターはいますか?
八鍬:(考え込みながら)これ、変な意味じゃないですけど、実は出木杉が……。
僕ができすぎているというわけではなくて! 出来杉と同じように塾へ通うタイプの小学生だったんです。だから塾へ行かないで、自由に遊んでいる子たちに憧れていたんです。
「のび太みたいに、自由になれたらいいな」とか、「ジャイアンみたいに、わがままでいたいな」とかあるんですけど、出木杉に関しては憧れがないんですよ。
――最後に『映画ドラえもん のび太の月面探査記』を楽しみにしているファンへ、メッセージお願いします。
八鍬:空を見上げると、月が見えると思うんです。この作品を観た後に、「月には何がいるんだろう?」って、想像力を何倍にもふくらませてくれる映画だと思います。ぜひ家族で観てほしいですね!
――ありがとうございました。
[取材・文/宋 莉淑(ソン・リスク) 撮影/鳥谷部宏平]
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』作品概要
2018年3月1日(金)公開
STORY
月面探査機が捉えた白い影が大ニュースに。のび太はそれを「月のウサギだ!」と主張するが、みんなから笑われてしまう…。そこでドラえもんのひみつ道具<異説クラブメンバーズバッジ>を使って月の裏側にウサギ王国を作ることになった。
そんなある日、不思議な少年・ルカが転校してきて、のび太たちと一緒にウサギ王国に行くことに。そこでのび太は偶然エスパルという不思議な力を持った子どもたちと出会う。
すっかり仲良くなったドラえもんたちとエスパルの前に謎の宇宙船が現れる。エスパルはみんな捕えられ、ドラえもんたちを助けるためにルカも捕まってしまう!
はたしてのび太たちはルカを助けることができるのか!?
スタッフ
原作:藤子・F・不二雄
監督:八鍬新之介
脚本:辻村深月
主題歌:平井大「THE GIFT」
キャスト
ドラえもん:水田わさび
のび太:大原めぐみ
しずか:かかずゆみ
ジャイアン:木村昴
スネ夫:関智一
ルカ:皆川純子
ルナ:広瀬アリス
キャンサー:中岡創一(ロッチ)
クラブ:高橋茂雄(サバンナ)
ゴダート:柳楽優弥
ディアボロ:吉田鋼太郎
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』公式サイト
ドラえもんチャンネル公式サイト
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