『プロメア』今石洋之監督&中島かずきさんインタビュー|「“熱い”ことそのものを目的にしてしまうと、きっと良くない作品になってしまう」名言が生まれる制作現場の熱きアニメ屋魂
超豪華キャスティングの経緯が明らかに
――ガロ役の松山ケンイチさんを筆頭に、非常に豪華なキャスティングも特徴となっていますが、このキャスティングにはどのような意図があったのでしょうか。
中島:キャスティングについては僕の第一希望なんです。
今回は劇場版という形にスケールアップしているので、劇団☆新感線(※6)でご一緒させていただいている役者さんを使えたら面白いなと思って。
自分の書いた台詞のリズムを掴んでもらう方に演じてもらうのが効果的なのは、『グレンラガン』の上川隆也さんの時などでも分かっていたんです。
特にガロ役の松山さん、リオ役の早乙女さん、クレイ役の堺さんの3人については「こうだったら良いな」と脚本の段階でイメージしていました。
それでアフレコに入ってからも間違いはなかったと思いましたし、3人揃ってアフレコができたこともあり、舞台でやっている時の空気感そのまま演じてもらえたので、芝居としても面白くなっていると思います。
※6:劇団☆新感線
1980年の設立以降、多数の公演を行っている劇団。古田新太氏をはじめ、多数の著名な俳優陣が所属しており、その公演には松山ケンイチ氏や藤原竜也氏、宮野真守氏や福士蒼汰氏など、第一線で活躍中の超豪華なキャスト陣がゲスト出演するのも特徴。中島かずき氏は1985年以降、座付作家として参加し、多数の脚本を担当している。
――松山ケンイチさんの見栄は、これまであまりイメージがなかったのですが、すごくしっくりくるものになっていたと感じました。
中島:少し前に松山さんには『髑髏城の七人』(※7)という舞台で捨之介という人物を演じてもらったのですが、捨之介はいわゆる「べらんめぇ口調」で、見栄を切る男なんです。
最初に松山さんと話した時「捨之介っぽいですね」と言われて、「捨之介でいいと思う」というやりとりをしていたこともあったので、すぐに役を掴んでいただけましたね。
あとは実は松山さんご本人が、大の今石作品のファンで、『グレンラガン』も『キルラキル』も大好きだったそうなんです。なので今石アニメのテンションというものを、最初から理解してもらえていたというのも大きかったと思います。
※7:髑髏城の七人
中島かずき氏作の劇団☆新感線による舞台作品。歌舞伎的な演出が用いられていることなどから、演出のいのうえひでのり氏の名前を取って“いのうえ歌舞伎”と言われるジャンルを確立した作品でもある。架空の戦国時代で起こる人間ドラマや激しいアクションが話題となり、大ヒットシリーズとなっている。
――ディレクション面の問題などもなく、スムーズにハマっていったと。
今石:中島さんの台詞のリズムを読めるということが大前提で、既にそこは完全にクリアされていた人たちだったので、僕としては「とにかくこの声に負けない絵を作らなければ」という気持ちでした。
僕のディレクションって、声の圧が足りない時の要求というのがほとんどな気がして。これからテンションの高い絵を作っていくのに対して、普通に喋られては物足りない。
ただ今回のキャスト陣はそこを最初からクリアされていて、むしろ圧がすごすぎたくらいだったので、「これに負けない絵ってどうやって書けばいいんだろう」という、幸せな苦労をしたくらいですね(笑)。
中島:とくに後半は、皆イメージと違うパターンの芝居もやってくれて、こっちの想像以上のものが出てきた喜びもありましたね。
2Dと3Dが入り混じった独特のアニメーション技法
――PVなどを拝見させていただいて印象的だったのは、とにかく絵作りがすごいということです。本作はCG部分パートも多いと思うのですが、手書きなのかCGなのかなかなか見分けができないようになっているなと。
今石:それは実際に意図したところで、演出のプランに合わせて、2Dと3Dを使い分けていて、両方の表現がかなり混在しているんです。
ただ、最近はもう時代が進んで、3Dの絵が2Dの絵と見分けがつかなくなることは珍しくないですよね。
本作でも、映像表現を高めるための要素として使ってはいるのですが、基本的にその要素はもう売りにはならないと思っていて。
――確かに、そうした作品は珍しくなくなってきています。
今石:ええ。なので問題は、それによって作品が面白くなるかどうかだろうなと。もし見分けがつかないのならそれはいい3Dだし、見分けがついたらついたで、それぞれを単独で見ても問題ないクオリティのものにしようと。
今回はその親和性を高めるために、カートゥーンっぽいエッセンスを入れていたり、キャラクターや背景、エフェクトを含めて、できるだけシンプルな形で統一して、できるだけ2Dと3Dのギャップによるストレスというのを減らしています。
――『グレンラガン』がとくに顕著だと思うのですが、今石監督の作品は、いわゆる2Dだからこそつける、いい意味での嘘というのを生かした演出をされるイメージがあるのですが、どう3Dとの折り合いをつけていったのでしょうか?
今石:本作の3Dパートは、『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』(以下、パンスト ※8)の時などにも一緒にやらせていただいたサンジゲンさんにお願いしているのですが、2Dのアニメに対する理解がものすごく深いんです。
『パンスト』の時も、3Dなのに2Dの作画のように変形させたり、コマ抜きしたりして動かしてくれましたし、僕がやりそうなアニメのスタイルというのを既にマスターしているスタッフが多くて。
なので実はそのあたりは、サンジゲンさんにお願いする場合はまったく心配する要素ではなかったですね。
むしろ普通にリアル寄りで良かった部分が、ものすごく変形するマンガタッチな感じで上がってきたこともあったくらいでした(笑)。
※8:パンティ&ストッキングwithガーターベルト
2010年に放送されたTVアニメ。街の平和を取り戻すためにパンティとストッキングという二人の天使が悪魔と戦う、というストーリーなのだが、放送コードギリギリの下ネタやセクシー描写でお茶の間を騒がせた。カートゥーンのような映像だが、随所に日本のアニメらしい演出が加えられたり、特撮シーンが加えられたりと、挑戦的な内容で評価が高い作品でもある。第15回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。
――色彩が『パンスト』の時のようなパステル調になっていますが、こちらにはどういった意図があったのでしょうか?
今石:CGと作画、背景のテイストを統一したかったというのに加えて、これまでのスタイルと違った新しい絵作りに挑戦したかったんです。
中島さんの脚本を映像化する時に、70年代マンガのテイストを盛り込むのは『キルラキル』の時にガッツリとやっていたので、それとは別のスタイルでやってみようと。
また今回はキャラクターデザインをコヤマシゲトさんにお願いしているのですが、キャラデザ以外にもいろいろな部分を担当してもらっていて。
特に色彩設計に関しては、普通なら監督がチェックして終わりというところをコヤマさんも一緒にチェックやアイディアだしをしてもらったり、かなりの割合をお任せしています。
暑苦しい作品ではあるのですが、その分できるだけ画面は見やすくポップに、上品なものに仕上げようと意識していました。
――アウトラインを省いたデザインとなっている点も、これまで違った挑戦ということでしょうか?
今石:そうですね。それに今回のような絵作りはTVシリーズだと作業が大変すぎてできないんです。劇場版だからこそできる表現としてやってみたいなと。
中島:『ガリバーの宇宙旅行』(※9)とか、昔の東映長編映画みたいだよね。それをあえて今新しくやるという試みは、僕も面白いなと思いました。
※9:ガリバーの宇宙旅行
1965年に公開された劇場アニメ。東映動画初の宇宙を舞台としたSF作品で、孤児テッドと仲間達が「希望の星」を目指す宇宙の旅路が描かれる。主人公テッド役は歌手の坂本九氏が演じている。