首藤剛志さんや石塚運昇さんにも観てほしい『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』松本梨香さん&湯山邦彦監督インタビュー
『ポケットモンスター』シリーズの劇場版第1作『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』が公開された1998年7月18日から約21年。シリーズ初のフル3DCGで描かれた『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』として、2019年7月12日に帰ってきました。
21年前と比べてどんなところが“EVOLUTION”しているのか。テレビアニメの開始からずっとポケモンとともに歩み続けている松本梨香さん(サトシ役)と湯山邦彦監督にインタビューを行いました。また、亡くなられた脚本家の首藤剛志さんやオーキド博士役・ナレーションなどを務めていた石塚運昇さんに関するお話も訊いています。
階段を駆け上がるサトシの生々しさは圧巻!
——『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』を演じられた・監督された感想を教えてください。
松本梨香さん(以下、松本):21年前の作品を家で観てから収録に臨んだのですが、なんだかタイムスリップをしたかのような感覚でした。自分自身が積み重ねてきた経験値や長年サトシが旅をしてきたという事実は消しきれないものですが、なるべく最初のころのピュアな気持ちを忘れないように演じました。やはり『ミュウツーの逆襲』は特別な作品ですので、再び演じられること、そして作品を観られることを大変嬉しく思います。
湯山邦彦監督(以下、湯山):本作はフルCG作品ですのでプレスコ(先に録った声に後から動きを付ける収録手法)という『ポケットモンスター』では初めての試みをしています。おかげで、いつになくキャラクターの生々しさが出たと思います。
——ポケモンにおいて、プレスコとアフレコではどのような違いがでるのでしょうか?
湯山:役者さんが絵から想像して演じるのではなく、自身の身体で創造したものを絵にするというところがいちばん違うところだと思います。具体的には、CGのアニメーターが細かい息までぜんぶ拾ってくれるんです。息遣いをもとにCGを作るので、生身のサトシがそこにいるようなリアリティが表現できていると思います。とくに階段を上がるシーンはすごいですよ(笑)。
松本:あのシーンは本当に圧巻でしたね!!
湯山:あそこはアニメーターもかなりこだわっていて、後から少し足を踏み外すカットとかを追加しているんです。
松本:収録時にはなかったカットなので、後から追加で収録をさせてもらいました。何人かでいっしょに作品を観させていただいたのですが、みんな口をそろえて「階段上がるところが凄かった」って言うんですよ(笑)。それくらい描き方が半端じゃないです。落ちそうになって支えるときの手なんか、リアルすぎて実写の手かと思うくらいでした。
湯山:そのシーンも、最初に収録したときの「うっ」という声をアニメーターが拾って作り上げているんですよ。そういう作り方をするので、使うかもしれない声は一応先に録っておく、なんてこともしました。
松本:そうですね。実際にできあがったもののすばらしさを目の当たりにすると、もっとアドリブを入れておけばよかったと思いました。もう少し息を入れたかったなー!
湯山:ただ、人間のキャラクターはともかく、ポケモンを演じるのは少し大変だったかもしれないなと思います。ピカチュウほどになるとまだ動きがイメージできるので大丈夫だと思いますが、ほかのポケモンたちを絵がない中で演じるのは難しかったのではないかなと。
松本:そうかもしれません(笑)。でも、ポケモンたちもそれぞれ初代の声優さんたちが演じてくれたので、まずそのこと自体が嬉しかったです。作品からも、ポケモンたちのいろいろな気持ちが感じられると思います。
——ほかに、『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』になって変わったところはありますか?
湯山:当時とはポケモンという作品の置かれている状況が違います。当時はテレビアニメシリーズからそのままの流れで映画が公開になったので、タケシやカスミといったキャラクターの説明を詳細には行っていませんでしたが、本作ではやや詳しく説明をいれてあります。ほかに、ミュウの説明も足してあります。
あと、いちばん変わったのは海のシーンですね。あれこそCGとセルでは表現がまったく異なるので、とくに力を入れて作りました。
松本:あれもすごいですよね! 前に監督が「水や波の描写はすごく難しい」と仰っていたのを聞いていたので、実際にできあがった波のシーンを観てあまりのリアルさに感動しました。
湯山:波をリアルに作れたぶん、逆にロケット団の船をギャグっぽくしてバランスを取ろうとしています。ミュージカル風にしてみたりして、ちょっと笑いを取ろうかなと(笑)。
松本:そういうところはやっぱりロケット団の役目ですよね。とにかく、波のほかにも目に映るものすべてが圧巻で、アニメーターさんやスタッフさんの心意気がひしひしと伝わってきます。ちょっといま思い出しただけでも泣きそうなのですが、冒頭のバタフリーがたくさん飛んでいくシーンなんか本当に感動しました。2Dでも実写でも表現できない、CGならではの素敵な映像で、首藤さんにも観てもらいたいなといちばんに思いました。
湯山:首藤さんならどう思うかな、というのは意識しながら作っていましたよ。先ほどお話したロケット団のミュージカル風の演出にしても、じつは首藤さんがミュージカルをお好きという理由で入れているんです。
松本:うわぁ、そうだったんですね。首藤さんもきっと喜んでいると思います。
——いいお話ですね……。覚えている範囲で結構なのですが、21年前の印象的なエピソードを教えてもらえませんか?
松本:まさに昨日のことのようにくっきり覚えていますよ。いちばん最初の映画になった特別な作品ですから。映画化の話を聞いたときにみんなで大はしゃぎしましたね(笑)。ポケモンといえば原作のゲームが先にあるものでしたが、劇場版のシリーズは私たちアニメチームでいろいろなことを考えながら作り上げていく実感がありました。
湯山:あの頃はそもそもアニメ映画がいまのように多くありませんでした。年に数本くらいでしょうか。なので、映画が作れること自体がすごいことだったんです。もうひとつ印象的なことと言えば、ミュウツーの「わたしは誰だ」、「ここはどこだ」というセリフについて、首藤さんが「小さい子どもこそ、ふとしたときに考えてしまうことなのではないか」と仰っていたことです。
松本:分かります。なんで生まれてきたんだろうって考える時期がありますよね。
湯山:そうそう。なので、一見難しいセリフですが、じつは子どもに刺さるのではないかと仰っていて、すとんと腑に落ちたのを覚えています。
——本作では、ナレーションで石塚運昇さんが参加されています。石塚さんが本作や『ポケモン』シリーズに遺されたもの、役者さんやスタッフの皆さんに与えた影響などについてお聞かせください。
湯山:それはもう大きなものを遺してくださいました。テレビアニメはいつもあの声で始まってあの声で終わっていましたから。でも、運昇さんはもともと渋い役を演じられることが多い方で、ああいう陽気な役はオーキド博士が初めてだったのではないかなと思います。この役がきっかけで人生が変わったようです。
松本:子どもたちの前でイベントに出たり歌を歌ったりというのが初めてだったそうで、自分を見てあんなにも喜んでくれるのかと、驚いていらっしゃいました。
湯山:子どもたちはみんなオーキド博士だと思って来ますからね(笑)。
松本:顔もちょっと似ていましたから(笑)。じつはみんなそれぞれ役に似ていますよね。
湯山:コジロウも性格そのままですからね。
——長年演じる中で似てくるというわけではなく、最初から似ていたんですか?
松本:最初からです。だからキャスティングは大成功だったということですよね。
——運命的なものを感じてしまいますね……。それでは最後に、映画を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
湯山:昔から観てくれている人も、これから初めて観る人も、それぞれ違った受け取り方ができると思います。『ミュウツーの逆襲』はポケモン映画の原点となる作品ですので、20年以上続く歴史の核になる部分をぜひご自身の目で確かめていただけたらなと思います。
松本:この作品はこの先100年、200年と歴史に残る作品だと思っています。そんな偉大な作品に関われたことに感謝しています。昔から観てくださっている方には懐かしんでいただき、初めての方には、「ポケモンはここから始まっているんだよ」ということが伝えられたらいいなと思っています。ぜひ劇場でご覧になってみてください!
2019年10月中旬より、松本梨香さん公式ファンクラブ「JOLLY DOG」がリニューアル予定。海外にも対応します。
[取材・文/竹内白州、写真/相澤宏諒]
映画『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』作品情報
■本文
公開日:7月12日(金)ロードショー
【キャスト・スタッフクレジット】
特別出演/市村正親・小林幸子・山寺宏一
サトシ/松本梨香
ピカチュウ/大谷育江
ムサシ/林原めぐみ
コジロウ/三木眞一郎
ニャース/犬山イヌコ
ナレーション/石塚運昇
原案:田尻智
監督:湯山邦彦・榊原幹典
脚本:首藤剛志
製作:ピカチュウプロジェクト
配給:東宝
(※)「榊」の漢字は正しくは「(木+ネ+申)」です。
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