『天気の子』新海誠監督&田村篤作画監督インタビュー|「もっと誇りに思っていい」ネットで話題になった“美少女ゲーム説”に隠された真意
雨の描写は総力戦!
――今回はやっぱり、雨の描写が凄まじかったと思います。雨の描写のこだわりや大変だったところはどんなところでしょうか?
田村:作画やCGなど、色んな表現方法で雨を描写しているので、全部が全部作画の領域ではないんですよ。
新海:アニメーター的なことを言うと、例えば傘を常に持っている大変さや、傘から常に垂れ続ける雨だれの大変さなどもありますね。
帆高が雨に濡れるとあるシーンなど、シーンによってはすべて手で描いていただいています。雨粒を全部手で描くことで表現できる迫力があるんですよ。
田村:あそこを担当しているアニメーターは伊藤秀次さん(アクションシーンに定評がある最強の原画マン)なんですけど、すっごく細かく描いてくださって。もう修正ができないんですよ(笑)。あまりにも描いてくれたので、すごくいい効果が出ていますね。
新海:作画だけでなく、VFX(ビジュアルエフェクト)チームもいて、いろんなパターンの波紋や雨のしずくのアニメーションのパターンをたくさん作ってくれたんです。窓ガラスを滑り落ちる雨粒とか、ワイパーが掻き分ける水とか。
最後に撮影チームがそういう素材を使いながら形にしていくんですけど、更にプラスαでアスファルトの上を小さくチラチラ動いている水であったりとかを追加しています。
全編に渡ってみんながいろんなものを足してくれたので、本当に総合力というか、総力戦でしたよね。作画で描いてある雨粒に加えて、CGと撮影で更に足していくというのは本当にすごいですよね。
田村:描いた覚えのない雨だれが動いてたりして(笑)。誰がやったんだ!? って常に驚かされていました。
新海:例えば、電柱があると表面に雨だれが垂れていたりしますよね。そういうところまで作画で描き始めるときりがないから、そこはVFXや撮影チームがほとんどアドリブでやっていった感じです。
――それはすごい……! 晴れのシーンよりも圧倒的にカロリーがかかるとは思うんですが、新海監督はそれを覚悟した上での作品だったんですね。
新海:当然そうですし、実際カロリーを背負わさなければいけないのは、田村さんであり(笑)、アニメーターの方々であり、VFXチーム、撮影チームなので、申し訳ないなと思いながらもコンテを描く時は一切遠慮しないで描いてました(笑)。
やっぱり雨の映画ですからね。ずっと雨が降っているアニメは少ないでしょうね。
田村:雨が降っていると絶対路面が濡れているので、映り込みがあるんですよね。そこに人がいると、映り込みも全部作画でやらなきゃいけないんですよ。
新海:作業が倍ですもんね(笑)。
――雨と言えば、今回は気象監修として雲研究者の荒木健太郎さんが参加されています。その中で新しい発見はありましたか?
新海:荒木さんはまず、僕の絵コンテをベースに気象的に問題があるときはご指摘くださいました。「報道ではこういう言い方をしない」という感じですね。
「この雨は“何十ミリ”というこの数値はもう少しこっちの方がいいんじゃないか」とか、「平均気温が何度って言ってるのは確かに正しいです」とか。
ビデオコンテの時点で、修正、補足してくださる作業があったので、そこから先の本編を作っていく作業に確信を持ってやれたのがすごく有り難かったですね。
その他にも、雲の表現に関して、高気圧の時は風が時計回りに回るから右回りで、低気圧の時は左回りだよと教えていただきました。
言われないと風の方向って見栄えがいい方向にしちゃうので、適当にやっちゃうことが多いんです。それを荒木さんの指摘である程度統一感を持って描けています。雨が降るときと晴れの時で風の方向を統一しましょうとか。
僕も空が好きなので、ある程度理屈とか雲の種類を想定してコンテに絵を描くんですけど、そこで荒木さんが「遠くの雄大積雲の下で雨が降っているだろうから、少し黒い筋を描いておくと、より雨が降っている表現として説得力が増しますよ」みたいなアドバイスもいただけて。
そのアドバイスが背景美術チームにも行って、細かな表現が追加されていって、作品の幅を広げてくださいましたね。