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【密着レポート第3回】『HUMAN LOST 人間失格』冲方丁と塩澤快浩が語る「文学とSF」

【密着レポート第3回】『HUMAN LOST 人間失格』ヒーローが文学とSFを結びつけた!? 冲方丁さんと塩澤快浩さんらが語る「文学とSF」

「文学」と「SF」は、互いに近づきつつある?

一方、人間が異形の怪物となってしまう「ヒューマン・ロスト現象」という発想がどこから生まれたのかという質問が塩澤さんから飛ぶと、「太宰作品を扱う時は、死の影をどう扱うかが重要」だと語る冲方さん。

最初の頃の脚本では、実際に死の影を強く意識するあまり、モノローグの連発や登場人物が次々と死んでいく鬱々とした話になってしまい、エンターテイメント性が薄くなってしまっていたのだとか。

そこで浮かび上がったのが、作中で描かれた「死にたくても死ねない世界」。人間というカテゴリーに耐えきれなくなり、自殺して楽になったと思っても、化け物になってしまうというロスト体のアイディアこそが、第2のブレイクスルーになったようです。

続いて「文学とSFの違い」について藤津さんから質問が及ぶと、「近代文学は高尚で、SFは娯楽だという前提があると思うのですが今は文学がSFに寄っているのと同時に、SFも文学に寄っていっていると考えていて。かつてはカウンターだったSFも今ではカルチャーですし、ノーベル文学賞をとった『私を離さないで』なんてクローンの話ですから。現代においては、テクノロジーを無視した文学というのは成り立たなくなっていると思います」と、文学とSFの距離が限りなく近づきつつあることを解説する冲方さん。

一方で冲方さんは、SFが文学に飲み込まれることで、かつてあった娯楽性や突飛なアイディアが失われていきつつあることに危機感を覚えているそうで、それらを大事にしたいとう想いから、本作の世界観を作り上げたのだとか。

また、冲方さんによると、個人を描く「文学」と、社会を描く「SF」を結びつける要素として機能するのが「ヒーロー」なのだそう。

「ヒーローというのは、全体を司る個人なんです。一般民衆と社会を襲う脅威に対抗する個人を描くことで、全体を描くという方法論を見出したのが前~今世紀のエンターテイメントだと言えます。『バットマン』や『ジョーカー』がある種の文学的な文脈で批評されるのも、その流れを組んだものなんです」と、冲方さんは第一回でトークテーマになっていた、アメコミヒーローと文学の意外な関係性を解説。

それを聞いた塩澤さんは、「『ジョーカー』と太宰の『人間失格』は同じで、『HUMAN LOST 人間失格』は、『バットマン』なんです」と、2作の関係性を分析するのですが、実は塩澤さんは、肝心の『ジョーカー』をまだ見ていなかった様子。しかしその分析は的を得ていたようで、「見ていないのに当たっているのに腹が立つ(笑)」と、冲方さんが悔しがるという一幕も見られていました。

その後には、本作における変身シーンについて話題が及ぶと、「欧米のヒーローは衣装を着替えるのですが、日本のヒーローなら変身だろうと。冒頭で主人公が東京タワーの上からいきなり割腹すれば、『これはヤバい映画だ』ということが全世界の人にすぐに理解してもらえる」と、冲方さんがその狙いを語ります。

結果的に変身のアイディアが3つ目のブレイクスルーにとなり、一気に制作も進んだそうなのですが、シーンが完成したあとで、『これって(太宰というよりも)三島(由紀夫)じゃない?』という考えが脳裏をよぎっていたことも明かし、客席の笑いを誘っていました。

最後に冲方さんは、「今回はオーソドックスな作り方を全部ひっくり返していて、皆さんが何を見たと思うのか僕が知りたいくらいなんです。結果的に何が出来上がったのか誰もわかっていないと言えるほど、振り切った作品として作っていて、皆さんがどう心に残すかで、この作品の価値が決まると思っています。是非みなさんの手で、新しいジャンルを誕生させてもらえれば」とメッセージを送り、トークを締めくくっていました。

なおイベント終了後には、今回のステージに登壇した冲方さんと塩澤さんから感想やメッセージをいただいておりますので、ご一読ください。

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