映画『メイドインアビス深き魂の黎明』富田美憂×伊瀬茉莉也×井澤詩織インタビュー|ボンドルドはやっぱり嫌いになれない!?
収録前には、富田さんにある意外な無茶振りが!?
――劇場版に向けて、どんな役作りをされましたか?
富田:TVシリーズでリコを演じていた時の私は成長期真っ只中でした。今は声も低くなってきているし、いろんなものを見てきて、精神的にも得るものがすごく多い2年間だったこともあって、私の中でもリコが成熟してしまっていて。
井澤:音響監督さんから「慣れてない感じが良かったのに」ということを言われていたよね(笑)。
富田:そうなんです(笑)。あの頃のあまり上手くない感じが良かったと言われていたので、劇場版のアフレコが始まる前には「上手くなるなよ」と、音響監督の山田(陽)さんから何度も言われました(笑)。
一同:(爆笑)
富田:収録の時に覚えているのが、劇場版のとあるシーンでリコが泣いてしまうのですが、劇場の音響だと泣いた時の喉のガラガラが目立ってしまうので、「気持ちはそのまま、ガラガラな音を無くして」という難しめのディレクションをいただいたことがあって。
そういったディレクションは、2年間の月日を経た今の私ならできると思って下さったからこそ生まれたものだと思うので、大変さと同時に嬉しさもありました。
――今回の劇場版では、リコが涙を流すシーンが結構多いですよね。
富田:そうなんです。リコ自身が痛い目に合うことは少ないんですけど、精神的なショックを受ける場面が多くて。モノローグもたくさんありましたし、すごく演じ甲斐があって楽しい現場でした。
――お二人の方はいかがでしょうか?
伊瀬:私自身は原作や台本を一通り読んでいるので先の展開を知っているのですが、当然レグ自身はそうではないですよね。
基本的にアニメのアフレコは物語の流れ通りに収録させていただけるので、あまり考えすぎず、目の前の映像の世界の中に自分が入り込んだ気持ちになって、そこで積み重ねた感情を爆発させようと。
事前にああしようこうしようとプランを練るというよりは、その瞬間に自分が感じたものを大切にするという意識で演じさせていただきました。
井澤:TVシリーズの時と大きく違ったのは、ボンドルド役の森川(智之)さんが一緒に収録できたことなんです。
TVシリーズでは、スケジュールの関係で別々の収録になってしまったのですが、ボンドルドってすごく複雑なキャラクターなので、ナナチの恐怖心や憎しみを私の中だけで想像するのは限界があったんです。
今回はそれが森川さんが隣にいて声を出して下さることで、その存在感や圧を感じ取ることができて。とくに恐怖の感情はTVシリーズより作りやすかったですね。
――今回の劇場版では、ナナチのあの独特の鳴き声のバリエーションがすごいですよね。
井澤:そうですね。今回はリアクションや掛け声、絶叫とか、TVシリーズからさらに増えていた感じはあります。
――あの鳴き声のバリエーションって、事前に用意しておくのでしょうか?
井澤:いえ、結構出たところ勝負ですね。「もっとはっきり」とか「もっと軽く」とかテクニック的なところでディレクションが入ることもありますが、本番の時のフィーリングで声を出すことの方が多いです。
今回の映画だと、原作でも印象的だった「そんな声で鳴くなー!」というレグの台詞があるんですが、そんな声ってどんな声だろうと(笑)。今回は、最初に収録したあと、絵が出来上がってきてからもう一回アフレコをしているんです。
結構いろいろなパターンを試したのですが、「そんな声で鳴くなー!」の声もその2回目で収録したもので、かわいくもありかわいそうでもある感じの声を選んでいただいたと思います(笑)。
劇場版の鍵を握る、プルシュカとボンドルド
――今回の劇場版で登場する新キャラクター・プルシュカについてはどんな印象を受けましたか?
富田:プルシュカはリコと共通点が多い同い年の女の子で、劇場版でもすごく掛け合いが多いキャラクターなので、「やっとプルシュカと話せる!」という嬉しさはありましたね。
同世代の女の子らしさも会話の中ににじみ出ていて、私自身もリラックスして、本当にお友達ができたような感じで演じさせていただけたのも楽しかったです。
あとは、プルシュカって表情がコロコロ変わるキャラクターなので、映像で見るとさらにかわいいなと。
伊瀬:一番最初にプルシュカが登場する時、リコやナナチもいるのにずっとレグに話しかけていて、レグが戸惑うというシーンがあるのですが、私はそれが印象に残っていて。
アフレコの時は意識していなかったのですが、映像でみるとすごくレグに興味をもっていることが分かって、またかわいいんですよね。
あとは、深界五層しか世界を知らないにも関わらず、底抜けの明るさをもっているんですが、リコの明るさともまた少し違っていて。
あの明るさが見ていて切なくなる面もあるのですが、リコとのやりとりが作中の癒やしにもなっていたり、本当に素敵なキャラクターだと思います。
――あの短時間の間に、あれだけ打ち解けられるというのもすごいですよね。
富田:リコもプルシュカも、冒険に対する“憧れ”という気持ちが強いキャラクターなので、すぐ意気投合できたんだろうなと。
井澤:プルシュカとリコの時間ってあっという間で、どうしてそこまで信頼関係が築けたのか、漫画では想像で補っていた部分もあったんです。
それに動きがつくことでより濃さが増して、回想シーンがより伝わりやすくなっていたり、アニメになったことでプルシュカのリコに対する感情が分かりやすくなったと感じましたね。
――もう一人のキーパーソン、ボンドルドについてはいかかでしょうか。彼は本当に、人によって感じ方が分かれるキャラクターだと思うのですが。
富田:私は、やっぱりどうしても嫌いになれないんですよね。浪漫だったりアビスに対しての探究心であったり恐怖だったり、いろいろな面をもっているキャラクターで、傍から見たらひどいことをやっているんですけど、本人には悪意がない。
人間らしくないはずなのにどこか人間味があるというか……。映画を見て、好きになる人がいっぱい出そうだなと。
伊瀬:映画の中でも、ボンドルドが自分にとっての価値観で“愛“について語るシーンがあるのですが、納得できない部分もありつつも、彼のナナチに対する愛というのは、嘘ではなかったんじゃないかと思ってしまいますよね。ものすごく酷いことはしているんですけど……。
富田:家族について語るところも、「良いこと言うじゃん」と思わず納得してしまって(笑)。
井澤:私、「愛」について辞書で調べたんですけど、「裏切られた時に憎しみに代わる」というようなことが書かれていて。愛と憎しみって紙一重なんだと考えると、(ボンドルドとナナチの関係も)そういう感じなんだろうなと。
――単純な善悪論で片付けられないというか、そういうのを超越したところにいるキャラクターなんですよね……。
富田:悪い人ではない、というと語弊があるかもしれないですが、いわゆる“悪役”というのとも少し違うのかなと思います。