冬アニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』津田健次郎×あおきえい×碇谷敦が1〜3話を振り返る|「3話のあのシーンは“完全無視”で挑んだ」
第1話は冒頭から作画に四苦八苦
――ここからは、「視聴者にここは伝えておきたい!」というポイントを各話一つずつうかがいたいです。第1話から順にいきましょう。
碇谷:第1話の冒頭で、酒井戸がバラバラの世界で目覚めて、自分もバラバラだと認識していくシーンがあるじゃないですか。その絵がもう……。
見た目は地味なんですけど、すごく難しいんですよ。靴を履いてクリッと足を動かすとか、腕を回すとか。やめて!って思うくらい。
あおき:あのシーンは、碇谷さんが原画からやっているんです。
――そうなんですね。具体的にどんな難しさが?
あおき:上手ではない人が原画をやると、平面的になってしまうんですよ。アニメなので。腕をぐるっと回す動きなんて、奥行きが必要なのでとくに難しいです。それに、ロボットのようにぎこちない動きになってしまいますね。
碇谷:手を握ったり開いたりするのも難しいですね。なんてことない動作ですし。
――なめらかで美しい作画だなとは思っていましたが、職人芸はそれだけではなかったんですね。
碇谷:でも、なんとも思われないのが正解だと思うんですけどね。
あおき:大変なシーンだったことには変わりないので、「大変だった」と言っておきましょう(笑)。
碇谷:あと、このシーンは冒頭ということで酒井戸をはじめて描くシーンでもあったんです。
そこでカッコいい顔を描いてしまったんですが、コンテの打ち合わせのときに舞城さんが「酒井戸はカエルちゃんを観るまで名探偵として覚醒しないから、まずはビックリするでしょ」と言われて。
普通の兄ちゃんがビックリしている感じに直したのを覚えています。
津田:コメディ感があっていいですよね。シリアスなところからガーン!とコメディに行く感じが。
――そのバランスが、この作品の面白さの一つですよね。
第2話で鳴瓢登場 百貴との会話シーンに酔う
――では第2〜3話についても。放送前に行なった上映会で、あおき監督は2話と3話の会話シーンについて力説されていましたよね。
あおき:鳴瓢と百貴の会話シーン(第2話)と、鳴瓢が冬川を追い込むシーン(第3話)ですね。アニメーションとしては、第2話も第3話もしゃべっているだけなんですけど。
津田:本当ですね(笑)。地味なシーンなんですよね。アクションがあるわけでもないですし。
碇谷:同じところにずーっといますからね(笑)。
あおき:だけど、やっぱりお芝居が素晴らしかったんですよね。
――だから「観て欲しい」と。
碇谷:それに、もともと絵があったんですが無視して収録したんですよね。
あおき:そうです。収録後、声に合わせて絵を修正しました。
――それも驚きです。
津田:「絵のことはまったく気にしないでいい」と言ってくださったので、てビックリしました。多少は守ったほうがいいのかなと思ったのんですが、多少守るくらいなら守らないほうがいいだろうと。だから、本当に守らないでやらせていただきました。
あおき:そうでしたね。津田さんたちに「本当にいいんですか?」と聞かれて「ぜんぜん大丈夫です!」って答えていたんですけど、冷静に考えたら僕が直すんじゃなくて現場が直すんだよなって。本当に大丈夫か?って。
――直すのは碇谷さんたちですもんね(笑)。
あおき:僕は「いい」と言っちゃったけど、実際大丈夫かなってチラッと碇谷さんを見てみたら、そんなに嫌な顔をしていなかったので。あ、いけそうだと。
津田:じゃあ、大丈夫か!みたいな(笑)。
碇谷:ちょっとドキッとしましたけどね(笑)。
あおき:メインアニメーターの又賀(大介)さんが修正してくださいました。
――そこでは、口パクや表情を直していくということですよね。
あおき:そうですね。芝居を聞くと、もっとこういう表情になるよねとか、ここセリフは囁いているから、口の開き方を小さくした方がいいよねとか。細かい調整を芝居のニュアンスに合わせてもらいました。
――では、2話の百貴との会話で、意識した部分はありますか?
津田:描かれている心情や距離感に特化しているだけで、特別違うことをやっているわけではないですね。王道のダイアログですし、シンプルにお芝居の本質をやっています。
でも、台本からはいわゆる“ストレートなキャッチボールではない”ことが読み取れたので、多少変化球になるよねとか。そういう捉え方をしていきました。
碇谷:「二度と? 五度との間違いじゃないですか?」っていうところが超カッコよかったですね。実は、あのセリフの部分はいい感じにもとの絵とあっていたんです。だから変に直さずそのままいきました。
――そんな裏話も。
あおき:あと、不勉強で知らなかったんですが、津田さんと細谷さんって10年くらい前からお知り合いなんですよね。
だから、お互いに役者同士として共感するものがあると思うんです。それが鳴瓢と百貴の関係にリンクしているのかなと、あのシーンを観て思いましたね。
――また、鳴瓢の登場シーンにも驚きがありました。もったいぶらず一気に姿を見せる演出には、どんな意図があったんでしょうか?
あおき:登場シーンは変に気取らないほうが入ってきやすいと思ったんです。1〜2話で活躍している酒井戸の大元が鳴瓢という男なんだな。
でも、ちょっと雰囲気違うなという違和感が鳴瓢の印象を強くして、その後の百貴との会話シーンで人となりを掴んでもらえたら良いなと。
――それが、あのインパクトに繋がったんですね。
あおき:百貴との会話では、もともとすごく仲が良かったんだろうなという空気感も伝わりますよね。プライベートまで知っているようだけど、なんだか距離があるよねとか……。
舞城(王太郎)さんが書いたこのシーンの脚本が、シンプルに面白かったんです。だからあまり奇をてらわずに見せました。
碇谷:舞城さんの脚本って、説明が一切ないですよね?
津田:確かに。
碇谷:富久田の事件が起きたときも、説明がないし。酒井戸の本体が鳴瓢だということも、説明していないですよね。だけどわかるという。そういう描き方がすごく面白いなと思っています。