春アニメ『BNA ビー・エヌ・エー』吉成曜監督&脚本・中島かずきさんインタビュー|獣人モノにすることによって可能となる思考実験
なぜ獣人モノなのか? そうすることによって生まれる良さ
ーー少し話が逸れてしまいますが、たとえば『BEASTARS』など、獣人が出てくる作品が昨今多い印象がありまして。そうすることで風刺っぽいというか、見ていて刺さりやすい部分もあるのかなと思ったのですが、獣人モノにすることでどんな良さが出るのでしょうか?
中島:獣人にするということは、架空のお話ですよということなんです。アニメーション的にも人間が獣になって戦うっていうのは魅力に満ちたシチュエーションなので、そういうフィクションの中で、今の世界に落とし込んだときにどういうことになるんだろうっていう、いわゆる思考実験ですよね。
エンターテイメントとして出すときには、やはりそういう嘘があったほうがいいよねっていう話だと思います。アニメーションでやるのであればいろんな意味で効果的なので。
ーーそこで起きることが、自分たちに置き換えやすいとかではない?
中島:現実に置き換えるのであれば、ストレートにそっちの話をしたほうがいいわけで、そうではない。つまり獣人という嘘を楽しんでくださいねっていうことなんです。でも、獣人がもしここにいたら…ということに関してはわりと真面目に考えました、というところです。
吉成:中島さんに入っていただいて一番変わったところというのは実はその「ここにいたら」という部分なんです。最初はヴァンパイアものでよくある、人に知られていない闇に隠れている存在だったものが、社会的に認知されたものになっているという、いわゆる現実社会の中で異物がある状態。
でもそれは社会構造から考えると本当に難しいんです。ちゃんとしなければいけないので。だって、こういう人たちが実際にいたら科学の法則も変わってしまうし、ダーウィンの進化論とかも通用しなくなってしまうから。どの段階でこういう人たちが人類から分裂して発生したのかみたいなところまで描くと大変なことになってしまう。だからそれは今回も少しぼかしてはいるんですけど。
中島:今回は主人公がいる街の構造はしっかり作りましょうということですよね、進化論的なところは置いておいて。みちるの成長物語を12話で描くならば、あまり欲張りすぎずに彼女とその周りの関係をしっかり描くことだなと思ってやっていたんです。
吉成:まぁ、答えの出ない問題まで踏み込んでしまっているところがありますからね。あくまでみちるの物語、というか。
中島:そういうものだと思います。個人のドラマの話ですし、その中での社会と関わり方なので。全12話なので、みちると士郎の物語をちゃんと書こう! と思ってやっていました。で、それだったらこういう枠組みのほうがいいだろうなと。先程、獣が登場する作品が多いとおっしゃられましたけど、この設定であれば他の作品と比べても、ちょっと違うものに見えるだろうなと思っています。
ーーストーリー的にもかなり引き込まれるところが多くて、どうやらみちるがただのたぬきの獣人ではないようだぞ?とか、結構気になる謎も多かったのですが、それは今後もたくさんあるのですか?
中島:謎は多いです。後半は説明に終始してしまって、申し訳ない!と思ってますけど(笑)。そういういくつもの謎があるけど、それはこうなんだというのはちゃんと説明して終わっているはずです。
吉成:ただそういう設定(謎)もいろいろ出てきますけど、テーマはぶれてないというか。中島さんが言ってくれたように、みちるの物語、ということ。僕はそこだけを気にしている感じでした。
中島:その謎も、それはなぜなのかというのがちゃんと物語の本筋に関わるほうがいいと思っているので、軸としてはみちると士郎というのがちゃんとあるんです。