【そろそろBLのこと知ってみませんか?】いまさら聞けない商業BLの世界! 「アニメイト編集部BL塾」開校【後編】
白熱した講義にまさかの前後編となってしまった「アニメイト編集部BL塾」。編集部員の石橋さんも徐々にBL文化を理解してきた様子だ。
今回も引き続き、阿部がBLの世界をご案内。後編は「BLにおけるエロ」と「初心者にオススメのBL作品」という大きなテーマを中心にお届けしていくことに。
また、前編から引き続きのお話になるので、前回をご覧になっていない方はそちらからご覧ください。
では、早速講義スタート!
※BL事情は諸説あるため、本企画には個人的見解も含まれています。
※一部、R-18の作品も紹介しています。
<登場人物>
●阿部裕華
フリーのライター。本企画の助っ人。石橋さんの飲み友達。BL愛好歴15年。『好きなものは好きだからしょうがない‼』に衝撃を受け、BLへ沼落ち。黒髪メガネ受けが登場する商業BLマンガは一通りチェックする。今回の先生役。
●石橋悠
アニメイトタイムズの編集部員。HIPHOPと百合と某王国を愛する。アニメ化したBL作品などを少し見てはいるが、ズブの素人と言っていいレベル。今回の生徒役。
連載:BL塾
アニメイトタイムズで連載中の「BL塾」が書籍化決定! 表紙イラストは森下suu先生! 書き下ろしを含めた決定版です! アニメイト特典は表紙イラストのカラーペーパー!連載バックナンバー
画像をクリックすると、関連記事にとびます。BLにも性描写のない作品がある
阿部:それでは、BLとは切っても切り離せない「エロ」についてのお話をしていこうかなと。
石橋:これは、話さなければならないと思っていましたよ。「性描写が~」とか「挿入が~」とかあったんで、いつか聞かなきゃなと思っていたところでした。
阿部:前編の冒頭でも話しましたし、勘のいい方はこれまでの話から何となくお気づきかと思いますが、BLは性描写のある作品が非常に多いです。調べてみたら性的な描写が一切ない商業BL作品(小説・マンガ)は全体の約1割(※1)もないという。
※1:全体の約1割
BL情報サイト『ちるちる』にて、2019年12月までに発売されたBLコミック・小説を調べた結果(編集部調べ)。
◆「ちるちる」サイト
石橋:あらまぁ!
阿部:挿入がない作品は割とあるんですけど、自慰(抜き合い)や愛撫はほとんどの作品にあるかもしれません。
明確な答えは分からなかったのですが、調べたり考えたりしてこれかなと思う理由が二つ。一つは、「やおい」文化から影響を受けているのかなと。
石橋:やおい! 知ってます! 僕も長いことオタクですけど、BLよりも「やおい」の方が耳馴染みあります。
阿部:知らない方のために説明をするとBLという言葉が誕生する前、男性同士の恋愛を描いた二次創作作品を「やおい」と呼んでいました。
やおいは「山なし、落ちなし、意味なし」の略で、作品のほとんどが性描写によって構成されていたことが、やおいと呼ばれるようになった理由の一つだと言われています(諸説あり)。
このような言葉が生まれたくらいなので、「BLは性描写がある作品」というイメージが根付いているのかなと。商業的な観点でいえば、「エッチな方が売れる」みたいなこともあったのかも。
もう一つは、恋愛の先を考えているからなのかなと。「恋愛をする上で心の繋がりだけではなく体の繋がりはつきもの」と考えている作家さんが多いのかなとも思いました。
石橋:なるほどなぁ。そこは女性が主体となって発展してきた文化ならではかもしれません。
阿部:とはいえ、「BL=エロ」とは限りません! エッチなシーンが多い作品もあれば、ストーリー重視でエッチなシーンは添える程度の作品もあります。少ないですけど、エッチなシーンが全くないどころかキスシーンすらないBL作品も。
なので、BL愛好家がみなさんエロが好きかというとそんなことはないんですよ。いろんな価値観の人たちがいます。
石橋:エロがあってもいいよ、くらいな人もいると。
阿部:もちろんいます。私はエッチなシーンがある作品は大好きですが。
石橋:なんとなくそんな気がしてました。
あなたはどっち?「投影型」「観察型」
石橋:素朴な疑問なんですけど、BLのエロが好きな人はどういう風にエロを見ているんですか?
阿部:う~~ん。これも人によると思うのですが、大きく「投影型」と「観察型」に分かれるような気がします。
阿部:「投影型」の中には性的な興奮を抱きながら読む方もいるかも。「観察型」はいわば壁ですよね。ちなみに私は「観察型」です。
石橋:壁になって覗き見て、「この人とこの人が仲良く交わっているのがたまらん!」という感じですかね。
阿部:ですです。「エッチが成功して良かったね……!(感涙&拍手)」とか思います。私の中で、BLにおけるエロって作品の盛り上がりの最高潮なんですよね。
例えて言うなら、少年マンガのアクションシーンみたいな。
石橋:あぁ! 作品の盛り上がりポイント、一番の山ということですね。山なしとか言っちゃったけど。
阿部:そう。年齢制限のない商業BL作品はストーリーがある上でエッチなシーンがある。エッチなシーンは物語の盛り上がりの一つなのかなと個人的に感じているところです。
石橋:考えを改めないといけないですね。どうしてもゲスな男なので、「エロ=抜く」のイメージがあったけど、たしかに僕も百合のエッチなやつ、抜けないけど見てしまうもんな……。「エロ=尊い」があると学ばないといけない。
阿部:石橋さん、前編のときにやまねあやの先生の『ファインダーシリーズ』を読んで、「性的な興奮はしないけどエロいとは思った」と話していましたよね?
石橋:しましたね!
阿部:どういったところにエロさを感じたんですか?
石橋:うーん。正直、最初は読めるかな? と思ったんです。でも読んでみたら、なんかエロい。やまね先生の絵がお上手なので、性描写もお上手で。
あと僕の好みなんですけど、心理描写が多く出てくる作品が好きで。『ファインダーシリーズ』のエロの描き方がこれまで読んできたエロマンガと同じような心理描写のように感じたんですよ。
「くっころ(くっ、殺せ!)(※2)」を見たらエロく感じてしまうような。
「ここはエッチなシーンだよ!」という見せ方が上手い。これはエロいと感じ取っていいんだ! と。オタクだから作品に描かれたエロの標識を読み取れていたのかも。
※2:くっころ(くっ、殺せ!)
男性向けR-18作品におけるある種の鉄板パターン。高貴な女性や女戦士がオークなどの悪役に捕まり、捨て台詞のように「くっ、殺せ!」と吐く。その後の展開はだいたいエッチなものに。
阿部:エッチなシーンはアクションシーンと同じような感覚、とこれも先ほどお話しましたけど、アクションシーンを少し雑に描く、擬音をたくさん使う先生がいるじゃないですか。勢いや臨場感を見せる、山場として演出する、想像力をかき立てる……みたいな感じで。
BLのエッチなシーンも同じ部分があるかも。だから「ここはエッチなシーンだよ!」と分かりやすかったのかなと。
石橋:それって個人の知識量と想像力によって無限の解釈ができてしまうということですよね。「ここってこういうこと?」と考えながら、頭の中の宇宙でエロのレベルが変化する。
BLのエロは相当高度だな(笑)。
阿部:(笑)。
石橋:固定観念をなくさないと楽しめないジャンルですね。一回自分を丸裸にして読むと楽しめるジャンルなのかも。まるで街の書店の18禁コーナーのよう……。
阿部:と言いますと…?
石橋:書店の18禁コーナーの暖簾はめちゃめちゃ薄いんです。息を吹きかければ中がチラッと見えるのに、あそこには分厚い壁が存在する。それに入るまでは偏見があるんですよ。そして、壁を乗り越えた先にはすごい世界が広がっているんです。
入口の入りづらさはあるけど、そこを抜けた先は未知の世界で楽しい。だからこその魅力もあるんですけど。BLも同じ感じなのかもなと。
阿部:ああ~。
石橋:「本当は見ていいのか分からないけど見たい!」からの「私、見ちゃってる!(歓喜)」みたいな感じですね!
阿部:分かるなぁ。禁断や背徳が魅力的に映る。
石橋:いやでも、話してみて自分の気持ちに整理がつきました。ありがとうございます。