想像よりはるかに心がえぐられるナンバーだった「ミミック」――絶望系アニソンシンガーReoNaが<想像するだけ>という言葉に込めた想いとは|インタビュー後編
「ミミック」のリリックビデオの創作秘話
──「ミミック」はリリックビデオも制作されています。(インタビュー時点では)一足先に拝見させていただいたのですが、あの女の子はReoNaさんが描いたんですか?
ReoNa:はい、描かせていただきました。実はあのイラストにたどり着くまでにも苦戦しているんです。「こえにっき」ムービーなどを手掛けているクリエイターのTakumi(LIVE LAB.)さん、毛蟹(LIVE LAB.)さん、ケイさんでお話させていただいて。そこで決まったものをいざ形にしてみたら、「あれ? なんか違うかも」と。そこから今の形にたどり着くまでに、幾度となく毛蟹さんに相談させてもらいました。
──「ミミック」は作詞・作曲がケイさんだからこそ、毛蟹さんからは客観的な意見がいただけそうですね。
ReoNa:そうなんです。一緒に受け取って、かつ、一緒に届ける立場としてお話させていただきました。イラストという形で参加するのは初めてだったので、より責任を感じていて。というのも、描くものによっては、その人の受け取り方の幅を狭めてしまう可能性もあるじゃないですか。そうなってしまわないように、周りのかたの力をお借りしました。でも、やはり時間は掛かってしまいました。本業がイラストじゃないせいか、先に言葉が出てきてしまうんです。
──そもそも『変身』の「虫」自体、具体的に書いてあるとはいえ、読み手の想像にゆだねられているんですよね。だからこそ、絵にするのは難しいようにも思います。
ReoNa:フランツカフカさんが出版の際に、絶対に虫のイラストは描かないよう、指示したというお話も聞いて。最初は「変身」のなかに出てくるリンゴをイラストにしようと思ったんですが、リンゴがイメージを狭めてしまうかもしれない、と。改めて普段クリエイティブなことをされている方々の大変さ、ゼロからイチを作る難しさを痛感しました。
そんなことを考えていたらあっという間に時間が過ぎてしまって。そんな私を見かねて、ケイさんがひとつヒントをくださったんです。「ミミック」は「最初から最期までずっと同じ場所で、天井と会話してるんだよ」と。それを聞いて「ああ、なるほど」と腑に落ちたんです。それであの体育座りの女の子が誕生しました。
──ナンセンスかもしれませんが、今回収録されている曲、全部1曲ずつの発表でも良かったんじゃないかなと思うくらい、1曲、1曲も、そのエピソードも濃いですよね。
ReoNa:ありがとうございます。今までの楽曲、全てに対してそういう気持ちはあるんです。すべての曲に絶対に課題はあって。その壁に対して、壊すか、回り道をするか、穴を見つけるのか……その方法は毎回違うんですが、今回の「ミミック」は、固く分厚く大きな壁だと感じていました。その果てに完成したお歌がひとりでも多くの人に届けばいいなと思っています。
「雨に唄えば」の後日エピソード
ReoNa:今日、少しだけ「雨に唄えば」のお話もしたかったんですけど、いいですか?
──ぜひしましょう!
ReoNa:「雨に唄えば」は、雨に寄り添うような音のなか歌わせていただいた曲なのですが……梅雨に入って、実際に雨にうたれることが多くなってきて。先日、豪雨の中の、車内で「雨に唄えば」を聴いていたんです。最初はスタッフチームのみんなで話していたんですが、曲が進むにつれて、自然と黙ってしまって。気づいたら、雨の音と曲が流れている車内で、“ひとり”で歌と向き合っている気分になっていきました。
こえにっきにも綴ったことがあるんですが、雨ってひとりになるなって。近くの人の足音も聞こえなくなるし、いつもなら見える景色も雨で見えなくなってしまう。本当だったら空の上に、変わらず月も太陽もあるはずなのに、雲があるから、全部が覆いかぶされてしまっていて……。
──確かに、雨が降るとまわりの景色が遮断されますよね。それこそ 、歌と自分、自分と自分といった“一対一”の空間になる。
ReoNa:そういうことを考えながら「雨に唄えば」を聴いていたら、キリトの心情をより近くに感じたんです。いまキリトはユージオを失った悲しみの雨のなかにいて、アスナ、シオン、リーファたちが見えなくなっていて。それでもいつしか雨は止んで、自分の上にある太陽や月、隠れていたものが見えてくる。例えその先に虹がかからなかったとしても、歩いていかなきゃいけない……そんなことを感じました。
あと、なんで雨が降るときって「天気が崩れる」って表現をされるのかな?ってふと思って。
──そういえばなんで「崩れる」なんだろう? 晴れが一番って感覚があるからなんでしょうけど……。
ReoNa:でも本当に「晴れ」が正しい状態なのかなと。雨ってなかったら凄く困るものじゃないですか。“光と影”じゃないですけど、悲しみがあるからこそ喜びがあるように、雨も大切な存在だと思うんです。それなのに、疎まれる存在でもある。「虹の彼方に」のときに、「心さえなければ、悲しみも苦しみも感じることはなかったんでしょうか?」という問いかけをさせていただきましたが……。光があるからこそ絶対にある影に、晴れと雨が重ねるなと。
──「雨に唄えば」については前回のインタビューでもうかがっていましたが、今の話を聞いてから聴くと、さらに深みを帯びそうです。