想像よりはるかに心がえぐられるナンバーだった「ミミック」――絶望系アニソンシンガーReoNaが<想像するだけ>という言葉に込めた想いとは|インタビュー後編
こえにっきが完成するまで
──ところで「ミミック」のお話のときに、こえにっきの前身のメモの話題があがりましたが、こえにっきって普段はどのようにストックされているんです?
ReoNa:ひたすらメモですね。それに対して、自問自答して、「なんで?」「なんで?」と追いかけていって。一日に5、6件くらい書いて、その場で録って、口に出してみて「あ、違うな」って思ったらやめての繰り返しです。タイムリーに自分の感情を素直に声に乗せられたときには、そのまま発表しています。
──気づいたことはすぐにメモをされるんです?
ReoNa:そうですね。忘れないためにも、という意味もあるんですが、私自身が覚えていたいんです。そのときに感じた、そのままの言葉を覚えていたくて。
──こえにっきは日々のReoNaさんのお歌のかけらを受け取っているような感覚で、あまり構えず、ラフに受け取っていたところもあったんですが、何回も推敲されたうえで、あの場にあるんですね。
ReoNa:実際にラフなことをつぶやいている日もあるんですが、ラフなものほど、到達するまでに時間が掛かっていることが多くて。本音になればなるほど……自分のなかで正解を出してから届けないと、自分の意図していないように伝わってしまうのが怖くて。人に届けるまでに至れていない言葉は、自分のなかで正解が見つかってからと決めています。
──「ミミック」にも<伝えたいことは 山ほどあるのに 口をつぐんでしまうのは 届かないのが怖いから>という言葉があります。こえは、文字よりもダイレクトに伝わる分、気を遣うというより……もはや命を使うものというか。
ReoNa:つかいますね。悩んで考えて、その果てに「今日は猫と遊びました、おやすみなさい」ってなることもあるんですけど、洗面所に座り込んで真っ暗な状態のまま、30分、一時間経っていることも。そういうときは、またメモをしていきます。
──そういった積み重ねで、ライブのMCも紡がれているんでしょうか。昨年の昨年10月に行われた初のZepp Tokyoワンマンライブ『ReoNa ONE-MAN Live “Birth 2019”』のMCは特に印象的で、未だによく覚えています。
ReoNa:その積み重ねなのかもしれません。デビュー時は自分の思いを言葉で伝えきれていなかったように思います。日々、誰かから、何からもらって、自分のなかでも紡ぐようになって。でも、まだまだ……本当にまだまだなんですけど。
あと、“Birth 2019”は「Colorless」の積み重ねがあったからこそだと思います。その場その場で受け取ってくれるひとたちのお顔を見て「ああ、もっとこんな言葉を伝えたかったな」っていう思いを重ねた果ての「Birth」だったので。
──このインタビューが掲載されるころにはずいぶんと前の出来事になってはしまいますが「Birth」について、改めておうかがいしてもいいでしょうか。
ReoNa:まず、ワンマンライブでZepp Tokyoという大きな舞台に立たせていただいたのが初めてで。シャンデリアが垂れていたり、ステージに蔓が張り巡らされていたりと、初めてのことだらけでした。特に大きな“はじめて”だったのが、「ALONE」をストリングスの方々と一緒にお届けできたこと、そこからクワイアーチームが加わって「Till the End」を一緒に歌えたこと。
「Colorless」という全国ツアー、「Prologue」からReoNaとしての3rdシングル「Null」があって、ReoNaゼロプロジェクトとして、改めてReoNaと神崎エルザの原点に立ち返って。色の無い私で紡いだ「Colorless」から、色づく「Birth」。あのときのラストの空気の震え方は、なかなか忘れられるものじゃなくて。凄くすごく鮮明に思い出します。たくさんのひとの力を借りて、特別な楽曲をライブでお届けしました。
──バンドは生き物ってよく言いますけど、あの日のReoNaさんのライブからもそれを感じました。初めての全国ツアーで得たものは大きかったです?
ReoNa:大きかったです。実は初日からセットリストが変わったり、言葉の紡ぎかたが変わったりと、どんどん変わっていったんです。実際に空間を作って初めて分かったことがたくさんあって、「じゃあこうしてみたらどうだろう!」と新しいセットリストを抱えて、次の会場に向かって。あの足跡があるからこそ、「Birth」に繋げられました。
「Colorless」は名古屋公演が延期となってしまっていたので、私のなかではついこの間ライブがあったように感じています。そのライブも“ただ伸びた”だけにはしたくなくて。今まで「Colorless」で紡いできたものも全部持ってお歌をお届けしにいきました。でも、実際はずいぶん時間が経ってしまっているんですよね。そんななかで、MCを覚えてくださっていることはとても嬉しいです。忘れないでくださることって、私のなかでひとつのゴールなんです。本当にありがとうございます。
──forget me notという言葉もそうですが……「忘れないで欲しい」というメッセージは、ReoNaさんが常々発してきたメッセージですよね。
ReoNa:はい。誰かの人生のなかの登場人物になりたいという思いがずっとあって。モブでも、村人Aでも良いんです。それくらいの存在だとしても、ゼロにしないで、そばにおいておいて欲しいという気持ちがあります。
祈るように歌った、スマホRPG『明日方舟(アークナイツ)』主題歌
──7月1日に、世界中で支持されているスマホRPG『明日方舟(アークナイツ)』の中国版1stアニバーサリー主題歌「Untitled world(アンタイトル ワールド)」がリリースされました。草野華余子さんが作詞、毛蟹さんが作曲、PENGUIN RESEARCHの堀江晶太氏さんが編曲を手掛けています。このクリエイター編成は、「Dancer in the Discord」振りですよね?
ReoNa:そうなんです。実は「Untitled world」はかなり前に完成していたお歌なんです。ゲームの情報や、キービジュアルなどから紐解いて制作していきました。実は制作チームと華余子さんが話し合いをされている現場に、私も少しだけ参加させていただいたんです。私の思う「アークナイツ」の世界についてお話させていただきました。
──アークナイツは、それこそ『変身』と同じように、理不尽な世界が舞台。どんなことを意識しながら向き合った曲なのでしょうか。
ReoNa:感染症の「鉱石病(オリパシー)」がはびこる世界で。それぞれに正義があって、誰かの正義を成就させるには、誰かの想いを踏みにじらなければいけなくて……自分のやっていることが本当に正しいのか、その答えがない中で、それぞれの想いを持って戦っているんです。
──「ミミック」もそうですが、重苦しい環境のなかにいて。
ReoNa:はい。どちらも形が……違いすらしないのかも。抗いようのないものに向き合ってる。だからこそ、堀江さんの重みのある音のなかで、いまだかつてなく、囁くように、祈るように、お歌を歌っていきました。あの言葉を聞こえるように、届くように。
──プレイヤーの方々からはどんな感想が届いていますか?
ReoNa:中国の方からも「ダウンロードして聴いています」「ゲームの裏で流しています」って言葉をいただいていて。作品と掛け算しながらお歌を受け取っていただけること、とても嬉しく思っています。楽曲を制作してから時間が空いていたこともあって、私としても「待っていました」というか。ワンコーラスは聴いていただく機会がありましたが、やはりフルバージョンの公開、リリースは嬉しいです。