「北川さんは鍛錬を楽しむ人」――生配信ライブ開催まであと少し! プリキュアの歌姫・北川理恵×プリキュア音楽プロデューサー・井上 洸(ひかる)が初対談!プリキュア音楽を語りつくす!
レコーディングでは、これまでの軌跡が蘇って思わず
――レコーディングはいかがでしたか?
北川:緊張しました。「この声が届く先に」のレコーディングでは泣きました。実は、井上さんも……。
井上:はい(笑)。これまでの制作過程を思い出して、感極まるものがあったんです。
北川:それで、どっか行ってしまったんですよ。
――えっ!(笑)
井上:いやぁ、歌い手の前で泣くなんてダメだ!って(笑)。
――北川さんにとってはどんな涙だったんですか?
北川:自分の言葉で感謝を伝えられる初めての曲だったことと、この6年間で関わった沢山の方たち……番組スタッフのみなさま、音楽プロデューサーさん、それぞれのライブ・イベントで出会ったお友だち……みんなを想像しながら歌っていたんですが、もう走馬灯のように記憶がザーッと流れていって。
――思い出された景色のなかで、特にグッときた光景ってありました?
北川:最初のレコーディングのことでしょうか。プリキュア歌手に決まったものの、私はそれまでミュージカルしか歌の経験がなかったんです。
だから右も左もわからない状態。レコーディングもしたことがなかったので、初めてレコーディングスタジオに入ったときに「このつまみ(レコーディング機材のミキサー)はなんですか? トークバック(コミュニケーション機器)ってなんですか?」って聞いて(笑)。
しかも最初のレコーディングなので、たくさんの番組関係者が来て下さったんですよね。「とにかくプリキュアのエンディングとして、しっかりとしたものを歌わなければ!」と。皆さまが温かい目で見守ってくださった中、ものすごく緊張しながら歌ったんです。あのレコーディングは本当に思い出深いです。
――エンディング曲ということは「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」ですね。当たり前ではあるんですけど、北川さんにもそういった時期が。
北川:ありました(笑)。もう全然わかってなくて。歌い手によると思うんですけれど、レコーディングの場合、1曲をセパレートして、歌って切って、歌って切って……ってするじゃないですか。多分最初に「切って歌いますか?」って聞かれた記憶があるのですけれど、「切って歌う」の意味が分からなかったんです(笑)。まるまる通しで歌うことしか考えてなくて!
井上:なるほど(笑)。
――舞台ではそれが普通ですもんね。
北川:そうですね、それもあるかもしれませんが、ただの無知で恐縮です(笑)。ずっと通しで歌っていたので「体力ありますね!」って言われた記憶が……(苦笑)。いろいろな思い出がありますね。
――そこから始まって、自ら詞(ことば)をつむいだ曲が幕開けを飾るCDを出されるまで。この6年間って本当にさまざまなことがあったと思います。
北川:まさか6年間歌わせていただくとは思っていませんでした。 20代前半だった自分が30歳になって……。
――本作は北川さんの誕生日にリリースされていますしね。
北川:そうなんです。これは井上さんのおかげなんです。ありがとうございました!
井上:いえいえ。記念すべき日にリリースできて、制作陣も嬉しかったです。
プリキュアで学ぶ音楽理論――キャッチーなプリキュア音楽に秘められた思い
――新曲はもちろん、今作にはたくさんのこだわりが詰まっていますが、井上さんのこだわりというのはどんなところですか?
井上:たくさんありますが、1番は曲と曲との間ですね。最後のマスタリング(原盤に落とし込む作業)でこだわりました。今作にはさまざまな仕掛けがあるんです。新曲を幕開けにした理由にも通じてるんですが、単なる曲間ではなく、ストーリー仕立てにしたいなと。クレジットには入っていない秘密の贈り物もあるということも意識していました。そこはCDをお手に取ってくださった方だけの物語として伝えたいなと。
――ストーリーというのは、聴く人それぞれのストーリーですよね。井上さんが「こういうストーリーであってほしい」というものではなくて。
井上:そうです。受け取り側の解釈に任せるのが好きで、どんなふうに受け取ったかを知りたいんです。だから、そのエゴサーチはするんです(笑)。100人いれば100色ある。あくまで僕のこだわりではあるんですけど(自分の想いを)「強要しない」というのは常に考えているところです。
――このタイトルにはどういう思いが込められているのでしょうか?
北川:私が歌わせてもらってきた曲達は、作品によって方向性が違ったり、色が全然違ったり。さまざまなものがギュッと詰め込まれている気がしたんです。それをおもちゃ箱のようにしたいというのは、井上さんに最初にお話させていただきました。それでこのタイトルになったんです。
――本当にさまざまな曲があって、おもちゃ箱という言葉がピッタリですね。新曲2曲にしかり、ここ昨今の音楽はとりわけカラフルなように感じます。
井上:僕がプリキュアの音楽担当になってからは、結構攻めています。難しい曲を作ることが多くなったんです。何故かというと、子どもたちにいろいろな曲を聴いてもらったり、「こんな音楽もあるんだ」って思ってもらったりしたいって考えがあって、いわゆる普通のJ-POPではなく、ジャンルの壁のない、プリキュアを表現するための音楽を作りたいなと。
でもどんなに難しい曲でも、レコーディングに至るまでの過程、レコーディング本番も楽しんでくれるんです。まさに今この対談もそうですけど、北川さんは常に目の前で起こることを楽しんでらっしゃるんですよね。そこがすごいなと思っています。
――2019年からの曲というのは限られるとは思うんですが、特に難しい曲としてタイトルをあげるとしたら?
井上:いや、もう全部です(笑)。北川さんに歌ってもらっている曲も他の歌手が歌っている曲も、全部難しいです。
北川:音が高いんですよ。進行の仕方も難しい。
井上:すべてにおいて高い技術を要する楽曲ですね。
――ものすごく高度な曲を、私たち大人の視聴者は“難しい”とは理解しつつも、それでも子どもたちを含め、ものすごくキャッチーに受け取っていると思うんです。そこには、井上さんのこだわりも潜んでいるのでしょうか。
井上:難しい曲を歌手にお願いするんですが、それを(聴き手が)難しく感じてしまうと、やはり壁を感じてしまうと思うんです。受け取り手が「楽しい」って捉えられるようなキャッチーな曲作りというのは常に意識しています。
――北川さんは、井上さんがいらしてから大変な1年半だったんじゃないですか。と言うと語弊があるかもしれませんが(笑)。ずっとチャレンジしていく状態で。
北川:大変というか、レコーディングを重ねるごとに曲が難しくなっていくというのが初めての経験だったんです。舞台でもプリキュアでも、いろいろなジャンルの曲を歌わせていただきますが、あとから「あのときの曲は難しかったなぁ」って思い返すことはありましたけど、この1年半は「どうして、毎度毎度難しくなるんだろう?」「この間も難しかったですよね? 今回もこの難しさなんですか?」って(笑)。
井上さんがプロデュースされる楽曲は、プリキュアのテーマを確実に含んでいて、「確かにこういう展開だったらプリキュアの世界観が伝わる」って感じるんです。でも難しい。本当に難しいんです(笑)。「私はこの世界観を伝えなきゃいけないんだ!」っていう思いで、めちゃくちゃ練習してから、レコーディングに挑んでいます。
――プリキュアの世界観を伝えなきゃいけないというのは、歌い手として大切にされているところでもあり、使命感でもあるのでしょうか。
北川:そうですね。やっぱり大事なのは、プリキュアという作品のテーマだと思うんです。北川理恵を全面に押し出されるより、自分の歌った曲によって作品が盛り上がってくれるのがいちばん嬉しい。だからこそ「こういう歌い方なら伝わるかな」というのは常に考えています。