影のある芝居、魂の叫び。役者・石川由依さんについて“推しを知らない”男が書いてみる【推し声優語らせてください・連載第3回】
影を表現できる役者
と、その前に。石川由依さんについて書き進めるにあたって、まずこんなエピソードを紹介したい。
2020年に発令された緊急事態宣言から約1年が経った。
ステイホーム期間には、アニメやゲーム、韓流ドラマ、オーディション番組といったエンタメが人々の心を癒し、熱くした。
緊急事態宣言が落ち着いた後、僕が通っている銀座の美容室に行ってみると、担当の男の子に変化があった。
美容師でZ世代の彼はアニメやゲームに疎く、ファッションや美容、韓流、メジャーシーンのアーティストを愛している。いわゆる陽キャだ。もちろん、髪の色も派手だ。そんな彼がステイホーム期間でアニメにハマったというのだ。
特にNetflixで見た『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が最高だったと、ファミレスでケーキを目の前にした子どもくらいの極上スマイルで話してきた。
これまでの人生でアニメにハマったことがない彼が、「石川由依さんって凄いですよね」と神妙な面持ちで話してきた時には「いきなり声優さんまでチェックするって、オタクの素質ありすぎじゃない?」と思いつつ、「どこが凄いと思ったの?」と返した。
ちなみに、僕がこういった仕事をしていることは彼には明かしていない。
「とにかく声を聴いてたら泣けてくるんですよ」
なるほど。「君、分かってるな」と心と心がBluetooth接続できたところで、カラーを流す時間になった。
少々長くなったが、これまで全くアニメや声優さんに疎かった方をも魅力してしまう魅力が石川さんにはある。
僕は石川由依さんについて、「人の気持ちを動かすことができる役者」だと思っている。
人の気持ちをお芝居で動かす。これは本当に難しいことだと思う。
自分のリアルな感情を目の前の相手にぶつけても(相手の心が)動かないこともあるのにだ。
ただ、石川由依さんの芝居は違う。心の塀をひょいっと超えてくる。コンテンツが飽和状態になっている世の中でも、これはちゃんと見なきゃダメだなと思わせる説得力がある。
彼女がお芝居で喜怒哀楽を表現すれば、こちらも同じように気持ちが変化していく。
例えば、ラーメン屋で普通のラーメンを頼んだらチャーシュー麺が出てきて、「おや?」っという表情を浮かべたら、可愛い看板娘が「内緒ですよ」と自分にだけの微笑みを浮かべていたみたいな。そんな心をパッと明るくさせるような清潔感のある声の力。
一方で、フィルムを見ているこちらの涙腺が完全に崩壊して、映画館内で「バスタオル! この中に予備のバスタオルをお持ちのお客様はいらっしゃいませんか!?」と(心で)嘆くほど感情を掴んで離さない芝居も魅せる。
天才か秀才かは演技素人の僕には判断できない。ただ、石川由依さんが逸材であることだけは間違いないと思う。