影のある芝居、魂の叫び。役者・石川由依さんについて“推しを知らない”男が書いてみる【推し声優語らせてください・連載第3回】
ヴァイオレット・エヴァーガーデン
石川由依さんを語る上で、やはりこの作品の話は欠かすことができないと思う。
原作は暁佳奈さん。2015年にKAエスマ文庫から刊行され、2018年にアニメ化。2020年9月に『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が公開され、大きな話題を生んだ。
「第44回 日本アカデミー賞 優秀アニメーション作品賞」、「東京アニメアワードフェスティバル2021 アニメ オブ ザ イヤー部門 作品賞」、「第3回京都デジタルアミューズメントアワード大賞」、「第24回文化庁メディア芸術祭『アニメーション部門』優秀賞」。
トロフィーの数が優れた作品を証明するわけではないが、ここまで表彰されるだけの作品であることは間違いない。
2020年。大きな感動を生んだ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主役ヴァイオレット・エヴァーガーデンを演じているのが石川由依さんだ。
過去の経験から感情の起伏が乏しく、無表情。そんな彼女が代筆業を通じて、家族愛、兄弟愛、恋などを目の当たりにし、「愛してる」を、少しわかるまでのお話だ。
愛してるの意味は一生誰にも分からないかもしれない。だからこそ、「少し」という表現がとても美しいと僕は思う。
そんな「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の舞台挨拶で石川由依さんが語ったエピソードがとても印象的だ。
アフレコ現場での思い出を聞かれると「ギルベルトとヴァイオレットの再会シーンは一番最後に収録させていただいたんですけども、音響監督の鶴岡(陽太)さんから『石川が思っているヴァイオレットが正解だから。好きなようにやって』とまかせていただいて。『ただし音(劇伴)も入れないから』と言われてすごいプレッシャー(笑)」(石川)
◆「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」公開記念舞台挨拶オフィシャルレポート
このシーン。実際に映画館で見た時、正直震えた。
実際に見返すと、セリフというセリフはない。ヴァイオレットが言葉にできない感情を表に出すシーンだ。
ただ、一体、何をどうやったらあんなことができるのか想像もできないほどに石川由依さんが凄すぎた。もちろん、それを受ける浪川大輔さんもとんでもなかった。
僕は芝居が上手いとか下手とかはよく分からないが、“石川由依の魂”があのシーンに込められていたことだけは分かる。
もう一点が作画だ。スクリーンに映し出されているヴァイオレットの表情もとんでもないことになっている。
これは、アニメーションならではの話だと思うが芝居と声がどれだけシンクロしているのかも大切な点だろう。
フィルム全体もそうだが、特にこのシーンはアニメ史に残る傑作だと僕は思っている。何年経っても語り継がれるべき名シーンだ。
「愛を知らない自動手記人形」
感情がないのではなく、表現の仕方を知らない難役を演じられたのは、地に足のついた役者・石川由依さんだからだと僕は思う。