絶望系アニソンシンガーの名のもと、孤独や哀しみに寄り添い進化を続けるReoNa TVアニメ『シャドーハウス』のエンディングテーマ「ないない」で未知の扉を開くまで/インタビュー前編
4月からTOKYO MXほかで放送中のTVアニメ『シャドーハウス』(原作:ソウマトウ)は、顔のない一族「シャドー」と、その “顔”としてシャドーに仕える世話係の「生き人形」が織りなすゴシックミステリーだ。
物語の最後を飾るのは、ReoNaの「ないない」。ゴシック/クラシックとエレクトロを融合したサウンドで、『シャドーハウス』の妖しげな美しさと世界観を(毒にも近い苦味を忍ばせながら)醸し出した本作は、観るものに深いふかい余韻を残す――。その「ないない」をタイトルとしたシングルが、5月12日(水)に待望のリリース。初回生産限定盤(CD+DVD)、通常盤(CD)、期間生産限定盤(CD+DVD)には、「ないない」の他、多角的に絶望に寄り添った3曲と「ないない」のインストナンバー・TVサイズバージョン(それぞれの盤に新曲2曲ずつ)が収められている。
下記インタビューは「ないない」が生まれるまでの軌跡を辿ったもの。後半のインタビューでは、本作のMV、収録曲の制作エピソードについてたっぷりと話を聞いているので、楽しみに待っていてほしい。
新しいReoNaらしさが生まれた「ないない」
――『シャドーハウス』のミステリアスな世界観に寄り添った「ないない」という素晴らしい曲が届きました。タイトルだけでも名曲の予感しかなくて。
ReoNaさん(以下ReoNa):ありがとうございます。実は歌詞が完成してから「ないない」というタイトルに決まったんです。今までにない響きのタイトルとなりましたが、いま振り返ってみると「まさにこれだな」という曲名になったなと思っています。
――全体的にはクラシカルなゴシック調なんですけど、AメロはR&Bにエレクトロを融合したかのような妖艶な雰囲気。Bメロから曲調がガラりと切り替わる構成にも驚きました。どのように制作されていったのでしょうか。
ReoNa:『シャドーハウス』のエンディングテーマを制作するにあたって、アニメ制作サイドの皆さんからクラシカル、ゴシックといったリクエストを受けて、毛蟹さんが制作を始めたんです。
いざ上がってきたものを聴いたときに、今までのReoNaの楽曲になかったものだなと。それと同時に「ここにどんな私の声がのっかるんだろう」と、未知の扉が現れたような感覚でした。
今回はクラシカルさ、ゴシックさだけではなく、どうやって聴いていて楽しいもの、心地いいものにしていくかということで、編曲を初めて小松一也さんにお願いしたんです。小松さんは打ち込みサウンドや最新のエレクトロポップが得意な方で。
――小松さんはKAZ名義でDA PUMPの「U.S.A」をはじめ、MAXなどの音楽も手掛けられていますよね。その一方で田村ゆかりさんやAqoursの楽曲も作られていて。
ReoNa:幅広く曲を手掛けられている方です。なおかつ、打ち込みの音だけで楽曲を完結できるような技術や経験もある方なので、小松さんが手掛けられるサウンドの融合もどうなるんだろうと楽しみにしていました。打ち込みの音に、生の楽器の音も融合したことで、新しいReoNaらしさを作っていただいたように感じています。
――かなりゴージャスなオケで、インストだけでも楽しめる印象です。
ReoNa:本当にその通りで。もちろんお歌を聴いていただきたいという気持ちはあるんですが、私もこの楽曲のインストが大好きなんです。レコーディングやトラックダウンの現場にも行ったんですが、印象的なフレーズ、重なり合う弦の音がたくさん散りばめられていて。楽器の音色を鼻歌できるくらいだなって。聴くたびにいろいろな発見がある楽曲だと思っています。
私も実際、スマートフォンでイヤホンをつけて聴いたときと、大きなスピーカーで聴いたときとで、感じる音がまったく違ったので。ぜひ……お父さんが良いスピーカーを持っている方や、友だちが良いヘッドフォンを持っているという方は、借りて聴いていただけると、ぞわぞわっとする曲になってると思います。
――たくさんの音色が入っているように感じました。打ち込みの音が入ってるからよりそう聴こえるとは思うんですが。
ReoNa:聴いたことのない音色が入っているんですが、実は生で入っているのはストリングス、ウッドベースとギターだけなんです。
――え!? じゃあドラムは打ち込みなんですか?
ReoNa:そうです。あの気持ちの良いドラムの音は小松さんが作ってくださったんです。
――人間らしい温度もある音だったので打ち込みだと気付きませんでした。
ReoNa:その感じはたぶん……『Null』(2019年に発表した“原点”を詰め込んだ3rdシングル)以降の楽曲はアナログテープで通した音を使っていて。一度テープを通しているからこそ、生音に聴こえるかのような温かさがあるのかなと、専門知識はないながらにも感じるところです。
――なるほど……! あと、ギターが不思議な深みを持った音色だなと感じたんですが、どなたが弾かれていたんでしょうか?
ReoNa:ギターは山口隆志さんが演奏されてます。今回の期間生産限定盤に収録されている「あしたはハレルヤ」を作曲・編曲してくださった方で。
――山口さんはYouTubeでReoNaさんがアップされている「Take Me Home, Country Roads」のカバー動画のギターを担当したり、デビュー時にも関われていたりと、実は深く関われている方ですよね。
ReoNa:そうです。デビュー前にもご一緒させていただいたり、TVアニメ『ハッピーシュガーライフ』のイベントでもお世話になったりで。
2番のAメロにギターの印象的なフレーズが入っているんですけど、それをコンソール側(ミキシング卓側)で聴いていたとき、ReoNaチームから感嘆の声が漏れていました。妖しげな曲調に妖しげなギターの音色をのせてくださっていて。ゆっくり音が立ち上がって、ゆっくり音が減衰していくような……バイオリン奏法のような感じというんですかね。いろいろな形で弾いてくださっていました。レコーディングスタジオなのですごく良いスピーカーから音が出ていて、「これはボーカル負けてらんないぞ」って。この音の迫力に対して、両立できるだけのボーカルを乗せなきゃいけないなと思いました。
――アナログテープと打ち込みってある意味両極端にある存在ですが、そこと融合しているのも面白いですね。
ReoNa:そうですね。だからそういうサウンド面でも「顔と影」というか、極端な場所にあるものを融合した音になっていて、新しいなと感じています。
――そんな音と両立するためのボーカル。ReoNaさんとしてはどういったアプローチで攻めようと考えられたんでしょうか。
ReoNa:ボーカルのアプローチは今までと変えているんです。これまでは、まっすぐ声と言葉を伝える、柱のようなものが一本あって。それに対してハモを歌わせてもらっていったんですが、今回は言葉遊び、韻の気持ちよさを凄くすごく大切にしました。Aメロは不穏な雰囲気の歌い方をしているんですけど、より妖しげな雰囲気を出すために、一度英語に書き起こしているんです。
――例えば<アイのない個体>のアイは「EYE」「I」とか?
ReoNa:そうです。パッと聴いたときに「これ日本語だけど、英語?」「なんだろう?」って思うような発音を意識しました。
――それこそノンクレジットエンディング映像を見られた方のなかに、歌詞起こしされている方がいらっしゃって。それぞれ起こし方が違うのも面白いですよね。
ReoNa:ノンクレジット映像のコメントを拝見したら、耳コピで歌詞を起こしてくださっている方がいて、「アイ」ひとつ見ても、人それぞれ書き方が違うんですよね。「そうそう、そこの表記、そんな感じです」って思っていました。正しい歌詞を読んだときに驚いて欲しいなと思いつつ、耳で聴いて文字を起こすことに対してチャレンジしていただいていることに対して嬉しさも感じています。
――歌詞にはほかにもギミックが用意されているので、歌詞を見たときにハッとしてもらいたいですね。
ReoNa:文字になるとこういう表現なんだってところも含めて楽しんでほしいなと。ブックレットが皆さんの手に届くことが楽しみです。