音楽
ReoNaインタビュー前編・革新的なアプローチで挑んだ名曲「ないない」誕生の軌跡を辿る

絶望系アニソンシンガーの名のもと、孤独や哀しみに寄り添い進化を続けるReoNa TVアニメ『シャドーハウス』のエンディングテーマ「ないない」で未知の扉を開くまで/インタビュー前編

 

自分とは、個性とは、存在とはという問いかけ

――実際に「アイ」っていろいろな意味が含まれていますよね。英語のみならず、悲しみの哀も、愛も。

ReoNa:そうなんです。文字だけにすると<曖昧>の「曖」もそうですし。いくらでも深読みができる言葉遊びになっています。実はボーカルも、メインの声がひとつではなくて。特にAメロに関しては、メインの低い声と同じ旋律で、ハモではなく、高い声で歌っているもの、囁くように歌っているものが入っています。メインの声は不穏な感じですけど、別の人格が歌っている感じというか……。

――それこそシャドーと生き人形の関係性を感じるというか……。『シャドーハウス』の楽曲ならではのこだわりを感じます。

ReoNa:制作している段階で『シャドーハウス』というテーマで、違う声、違う音階で、同じ旋律を歌うというのはすごく面白いねっていうお話になったんです。声でも『シャドーハウス』の世界観、深みを伝えられたらと。

「英語、日本語?」と思うようなAメロのあとに<何者でもないまま 何にもできないまま>というハッキリ発音していくBメロがあって。Bメロの言葉にハッとしてもらえたら良いなと思ってます。

――Bメロで<生きるのは無駄ですか 悪いことですか>と問いかけるところは、「ANIMA」の<魂の色は何色ですか>の問いかけを思い出しました。

ReoNa:「ANIMA」は「魂とは」という問いかけがテーマで、答えというより、考えることに意味があるものになっていて。今回の「ないない」という楽曲は「自分とは、個性とは、存在とは」と考えること、なぞかけをすることがテーマになっています。

――その果てにあるサビは、切ないながら力強い印象があります。

ReoNa:Aメロ、Bメロで温度の低い、嘆くような声音だった分、サビは力を込めて歌いました。メインの声がすごく強くて、特に<さようなら>の一節は、音が減った状態で声が前に出ている場所になっているので、言葉がまっすぐ届くパートになるように意識しました。

 

 

――後半のDメロ前の間奏には「Till the End」(2020年発表『ソードアート・オンライン』原作小説刊行10周年テーマソング)並みのクワイヤーが入ってきます。あのゾクッする部分が、すごく好きなんです。

ReoNa:ありがとうございます。分厚くなってます。2番のAメロが終わったあとの間奏、二番のDメロの妖しげな雰囲気も、『シャドーハウス』のセカイととも楽しんでもらえるだろうなって。アニメでエンディングテーマを良いなと思ってくださった方は、2番以降のこの楽曲のセカイにもぜひ触れてほしいです。クラシカルなはずなのに踊っているような、不思議な間奏が入っているので。

――ホラーハウスのような洋館で踊っているような印象を受けました。

ReoNa:そうそう。音だけなのに世界観が見えるあの感覚が楽しいなあって思います。

他人から影響を受ける自分も、自分

――レコーディング前に作詞のハヤシケイさん、作曲の毛蟹さんからは何かお話はあったんですか?

ReoNa:ボーカル面については、レコーディングでディレクターさんと話していくなかでできたものなんです。ケイさんとは歌詞の意味を……存在がない、個性がない。じゃあ本当の自分ってなんなんだろうってお話をしました。

――本当の自分って……難しいですよね。

ReoNa:ケイさんは「自分は他人の鏡」とおっしゃってて。その感覚はケイさんの芯にあるんだろうなと感じていたのが、「雨に唄えば」(『ANIMA』収録)の<一人きりじゃわからない自分の形でさえ触れて 傷つけて少しずつ気づいていく>という歌詞で。自分というものは誰かとの比較で形成されていくものという感覚があるんだなと。

実際に“本当の自分”っていうけど自分はそもそもなくて、あるのは誰かとの比較というか。自分が“ないない”、でもその答えも“分からない”。自分が思う本当の自分って、それぞれなんだろうなと私も感じています。

育った環境で将来の夢が決まったり、周りの友だちの影響で口癖が移ったり。周りから染まって染まって自分が出来ていく。「じゃあ、本当の自分ってなんだろう?」と思ったとき……口癖が移ったのも自分だし、友だちに勧められて食べたものを「おいしい」と思うのも自分。どれもこれも外から受けたものだけど、それを削ぎ落したものが、本当の自分と言えるのかなって。

――自分は自分。他人に作られた自分も自分。さきほどホラーハウスって表現をしたんですけど、今お話を聞いてミラーハウスのようなものも思い浮かびました。そこで自分と対峙していくというか。

ReoNa:確かにそうですね。鏡の間というか……そんなイメージもあるかもしれません。

そういった芯となる言葉をケイさんが作ってくれて。しかもメロディを活かす言葉なんです。毛蟹さんの作ってくれた音の楽しさというものが、この曲の中で重要視されているように思います。今までは言葉の意味をお届けするということを大切にしてきたので、ReoNaとしては初めて、言葉の音で遊んだ楽曲になりました。

 

 

――話が少し変わるんですが、「time」(『七つの大罪 憤怒の審判』のEDテーマ/SawanoHiroyuki[nZk]:ReoNa名義の楽曲)でコラボレーションした澤野弘之さんも音の気持ち良さを大切にされている方ですよね。偶然だとはおもいつつも、そういった刺激もあった上でここに辿り着いているのかなという気もします。

ReoNa:確かに……。そう考えるとすごく奇遇というか、運命的なものを感じます。澤野さんは劇中音楽を担当されてきて、音色としての言葉を大切にされている印象があります。「time」はエリザベスとメリオダスの、時間に縛られているふたりのイメージがある曲ですが、英語と日本語が混ざった音の気持ちよさがあって。言葉の持つ音を大切にした「time」があって、ReoNaとして音を楽しむ「ないない」があって。今までのReoNaが一歩一歩、歩んできたものの先にできた曲だなと思っています。

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