時間に対するアプローチ、切る心苦しさ……ギリギリまで頭を抱えた「あと50秒」とは?『映画大好きポンポさん』平尾隆之監督×松尾亮一郎プロデューサーインタビュー【後編】
編集シーンの演出には、実際の編集マンの影響も
――後半の編集シーンも大きな見どころです。編集作業と聞くと部屋にこもって行う地味なイメージでしたが、本作では見応えがあって面白いなと感じました。
平尾:編集シーンをクライマックスに持っていくのは、最初の提案書の段階からありました。ジーンくんと劇中劇がリンクして、そこからジーンくんが何を選び取るのか。ジーンくんも過去にはいろんな未来の選択肢があったけど、やっぱり自分にできないことや社会にうまく馴染めなかったりして、削ってきたと思うんですよ。でも、ただひとつ残った“映画を撮る”ことを選んだ覚悟があって。編集シーンのクライマックスでは、切っていった上でたったひとつ残ったものを諦めないために頑張るんです。
『映画大好きポンポさん』はもともとハッピーな作品ですけど、やっぱり何もしなかったら夢は叶わない、叶えるためにはどこかで覚悟を持って何かを捨てなきゃいけない時もある――そういったメッセージも入れたかったんです。
――実際にどのように編集したのかパターンを変えて見せるシーンも、編集に焦点をあてたからこその面白さがあって。実写映画ではなくアニメーションでも、編集でいろいろなパターンを考えたりするのでしょうか?
平尾:アニメーションの場合だと、編集段階ではなく絵コンテ段階ですることがありますね。そのシーンをシンプルに(カットを)割ったらこれぐらいだな、このキャラクターの顔がここで……みたいなラフコンテを最初に描くんです。でも、それを全部つないだらカット数が多くなってテンポも悪くなるから、こことここの3カットのみでみせよう、とかやります。
松尾:いま言っていた編集シーンは、編集の今井剛さんの提案なんですよ。
平尾:そうなんです。今井さんは現役で数々の名作を世に送り出している実写の編集マンなので、彼からアイディアをいただきました。実写ではこうだと。
――なるほど。そうやって実写のアイディアも活かされているのですね。ただ、どの段階でやるかはともかく「切る心苦しさ」はアニメーションでもあると。
平尾:そうですね。絵コンテから原画になった後に、編集でどうしても尺に収まらないから切らなきゃいけない時も、すごく心苦しいです。何コマかでも削るということは、アニメーターさんが描いた絵を無駄にしちゃうわけですからね。もちろん、実写でも役者さんが演技したものが切られるので、同じ苦しみではありますけど。
あと50秒……尺を90分で収めるために苦労したこととは?
――編集で切る話にも通じることですが、尺を“90分”に収めることにもこだわったそうですね。とはいえ、いきなり90分ぴったりにはならなかったと思いますので、制作する上で尺的な苦労話がありましたらお聞かせください。
平尾:提案書でも「90分で終わらせたい」と書いていたのですが、最初の脚本段階では95ページぐらいあったんですよ。1ページ1分と考えたとしても5分オーバーになってしまって。でも、まだなんとかなるかなと思っていたんです。そしたら、この段階でスタジオマウスの納谷(僚介)さんが、仮の声優さんでセリフ収録を行う“仮アフレコ”をやってくれて。やってみたら……100分を超えていました(笑)。
――うわ〜、それは大変ですね。
平尾:これでは90分に収まらないから、コンテをちょっとずつ削りながらやっていこうと。コンテはStoryboard Proというソフトを使っているので、描きあげたらその時点で絵コンテムービーになるんですね。それを編集の今井さんに預けて、「尺をもうちょっと削りたい」「ここをこうしたい」などと話して、いったん今井さんが切ったものをさらに修正していく……とやっていきました。そうやって、Dパートあがりの時点で93分ぐらい。
松尾:あと3分。これはどこかのシーンを丸ごと切らないとどうにもならないかも、と思っていたんですね。
平尾:それに、やっぱり作画さんも芝居を足したくなってしまうんですよ。それを足したら、また尺が伸びる。でも、確かにこの芝居は欲しいよね、と編集に持っていって、またみんなで悩むという(笑)。結局91分ぐらいまでは削れても、そこからが削れなくて。
松尾:あと50秒どうする?って結構頭を抱えていました(笑)。
平尾:これは本当にシーンを削らなきゃいけないかなと、絶望的な感じにもなったんです。ダビングギリギリの段階でまだ削りきることが出来ていなかったですし。
――結局はどうしたのですか?
平尾:役者さんには本当に申し訳ないんですけど、セリフの一音だけ削るとかもやったりして。語尾の小さい「っ」だけを削れば数コマ削れるんじゃないかとか、そういうこともやりながら、今井さんが本当に数コマ単位で削っていって、気がついたら逆に2コマ足りなかった。今井さんは魔法が使えるんです(笑)。
――現代だからこその切り方ですね。
平尾:そうですね。デジタルとして収録されているからできることで、手法自体は『ゴッドイーター』の頃からやっているんです。例えば「戦うぞ」といったセリフの「ぞ」だけ切れば入るんじゃないかとか、そうやって一音ずつ削ることで尺に収めていくんですよ。本当に最後の手段ですし、役者さんは「それだったら録り直しますよ」って言ってくださるんですけど、さすがにそのためだけに呼ぶわけには……というのもあって。
――録り直し(撮り直し)のために呼ぶのは、作中のシーンと被りますね。
平尾:でも、清水さんだけは、どうしてもジーンくんの追加のセリフをお願いしたくて、来ていただいたことがありました(笑)。
松尾:清水さんは終わった後に2回来てもらったんですよ。あと1回で終わりますから、と言った後にもどうしても足さなきゃいけないセリフができてしまって……。
平尾:そうだそうだ。結局、作品と同じことをやっちゃっているんですよね。
――この作品だからこそ、そういうエピソードが面白いです。
平尾:そうなんですよね。現場では、作中での映画制作よりもスムーズにいくよねって話をしていたんですけど、最後はリンクするようになってしまって……。現場には申し訳ないと思っています(笑)。
――ちなみに、実際に映画を見る時に、尺が90分だと嬉しいですか? それとも物足りなかったりしますか?
平尾:僕自身は、見る分には時間はあまり気にしないですね。それを主軸にして見るかどうかを決めないというか、途中で随分長いなと思って尺を見たら2時間半もあると気づいたこともあります(笑)。でも、作る側としてはやっぱり90分から100分というのは毎回気にしますね。
――松尾さんはいかがですか? プロデューサーとしてはやはり時間を気にされますか?
松尾:もちろん気にします。それによって制作費も変わってきますので(笑)。
平尾:カット数も尺によって増えますからね。そうするとコストもかかりますし、プロデューサーはすごく気にされると思います。