【アニメスタジオの今と未来】MAPPAスタッフインタビュー|『進撃の巨人 The Final Season』『呪術廻戦』『ユーリ!!! on ICE』人気作品を作り続けられる理由とは?【連載第2回】
日本を代表するアニメ制作会社にインタビューを行う新企画「アニメスタジオの今と未来」。
近年では配信やSNSの普及により、海外からの反応もダイレクトに届く時代となりました。そんな中、Twitterのフォロワー数が驚異の46万というアニメ制作会社があります。
その名をMAPPA。
特に海外からの人気は凄まじいものがあります。『進撃の巨人 The Final Season』『呪術廻戦』『ユーリ!!! on ICE』といった名だたる人気作品を世に送り続けるMAPPAがここまで急成長し、国内国外問わずに不動の人気を得た理由とは何なのでしょうか?
今回は、MAPPAから代表取締役の大塚学さん、MAPPA所属アニメーター・演出家の平松禎史さん、取締役・企画部部長の木村誠さんの3名をお招きし、インタビューを実施。MAPPAの魅力に迫りました。
なお、今回も本稿を英語と中国語に翻訳を行い、世界に発信していきます。
※翻訳記事は後日掲載となります。
プロフィール
大塚学さん
MAPPA代表取締役。2016年の4月から社長を兼任。現在も、MAPPAのすべての作品に関わっている。
平松禎史さん
MAPPA所属のアニメーター・演出家。2016年にMAPPAが制作した『ユーリ!!! on ICE』でキャラクターデザイン・アニメーター・演出家を努め、2018年からMAPPAの社員に。近年では『呪術廻戦』のキャラクターデザイン等も担当。
木村誠さん
MAPPA取締役・企画部部長。前職はフジテレビの「ノイタミナ」プロデューサーとして『残響のテロル』などの制作を担当。MAPPA好きが高じて2018年よりMAPPAに入社。現在は、作品のプロデューサーや新規事業・企画営業などを担当。
連載バックナンバー
□ボンズ・大薮芳広プロデューサーに聞く『僕のヒーローアカデミア』【アニメスタジオの今と未来 連載第1回】
MAPPAはターニングポイントの連続
ーー本日はよろしくお願いします。直接お会いするのはお久しぶりだそうですね。
平松:コロナで在宅ワークが多いので、社長はもちろんですが木村さんとはだいぶお久しぶりで(笑)。
木村:ですね。大塚さんとはちょこちょこ会ってましたが。
大塚:リモートとかでね。
平松:直接会う事が減っていて寂しいですね。
ーーやはりそうでしたか。会社としてリモート環境は進んでいるのでしょうか?
大塚:部署によってしまいますね。アニメーター、作画と呼ばれる方々は可能な限り自宅で対応していただいています。一番進んでいるのはCGI、3D、背景で、機材を会社で用意して、自宅で作業してもらっています。
逆に難しいのは制作部です。やはりチームでアニメを作っている事もあって、特にオンエアが始まるタイミングは皆が現場に集まらないとできない部分もありました。
ーーどこの会社もその辺りの塩梅が難しい所です。
平松:キャラクターデザインや絵コンテといったプリプロダクションまでは部署によりますが在宅でできるんです。しかし、作品が動き出し、関わる人が増えると、特に演出となると会社でしか対応できなくて。
リモートの会議に切り替えたら時間が短くなったというメリットがあると聞いた事もあるのですが、我々の仕事は雑談からアイディアが生まれる事があるので、そういった所が欠けるのはよろしくないなと思っていて。対面にも良さはあるという事ですね。
ーーなかなか難しい問題ですね……。それでは本題なのですが、MAPPAはこれまで数々のヒット作品を手掛けられていますが、こういった大ヒット作品の誕生を受けて、スタジオ内に変化はありましたか?
大塚:具体的には商品化ですね。ヒット作に紐付いて自分たちができるビジネスを拡大していく意識がやはり『ユーリ!!! on ICE(以下、ユーリ)』から生まれてきて、今はそれを育てています。
他にも『ユーリ』のヒットで女性スタッフも増えました。
平松:以前、馴染みの居酒屋で女性ファンに声をかけてもらったこともありましたね。
木村:クリエイターも制作も、女性がとても活躍しています。
ーー大ヒット作をきっかけに人が集まるというのはアニメの制作現場ならではかもしれません。
平松:ヒットしたらそのチャンスを逃さないという感覚はやっぱり重要ですよね。
大塚:ヒットというのは時代の象徴といいますか、「時代の先端がこれなんだ」という事を実感できるので、次の企画にもその経験が反映されていくのかなと思っています。
ーー大ヒット作品をきっかけに優秀な人材も集まるのでは?
大塚:ヒット作というよりは、どちらかというと色々なタイトルをやる事で、「MAPPAならこんな作品をやらせてもらえるかも」と考える人が多いんじゃないかなと思っていて。ここが一番大きいと思います。これから新卒から入ってくる若い人は「『呪術廻戦』を見て」というような事はあるかもしれませんが。
平松:アニメーターとしての経験上、具体的にこういう作品を作りたい、こういう絵を描きたい、という意欲は重要なんですけど、それだと長続きしないんですよ。
才能が開花する人ってアニメでなにをしたいのかという自己実現というか、生きるのとアニメが一緒みたいな人の方が、現場に残るし、成功していると思います。
もちろん好きだったり、こんな絵を描きたい、こんな作品をやりたい、という事も必要ではありますが、そこまでだと「ファンとどこまで違うんだ?」となってしまって。なのでファンを超えないと仕事として続ける事は難しいかなと思います。
ーー長く続けられている平松さんならではのお話ですね。
平松:この仕事を続けて37年くらいになりますけど最初の会社の同期が5、6人いたんですよ。でも今では、アニメのクレジットに載っている人はひとりくらいしかいないんです。同世代で活躍している人はもう少しいるとは思いますけど。
ーーヒット作品と言えば近年では『呪術廻戦』が記憶に新しいと思います。本作のヒットを通じて、なにか変化や影響を感じた事はありますか?
大塚:『呪術廻戦』だけではなく、『進撃の巨人』といった人気タイトルを続けてやっていく中で、海外を含めた注目度が急激に増加したと感じます。単純なTwitterのフォロワー数とか「なにをどうすればこんなに伸びるんだ?」と思うくらいで(笑)。
平松:謎の力が働いていると感じるほどですね(笑)。
木村:それこそ『呪術廻戦』の放送前はフォロワー数が10万にも満たなくて、「頑張って10万人いくぞ」と思っていたら今は45万人に達していて(取材時)。
平松:『ユーリ』が顕著でしたね。放送前は「スケートアニメってどんなのなんだろう?」と様子を見られていたと思うんですけど、放送開始後はむしろ海外から注目されて、日本はやや後追いで盛り上がるくらいで。あれはびっくりしました。
大塚:『呪術廻戦』に関しては、アニメ最前線のトレンドに上手く入り込めたことが大きかったかもしれませんね。この世界は毎回そうなんですけどね。
木村:「MAPPA SHOW CASE」という作品の合同企画展を定期的に開催しているのですが、作品をきっかけに足を運んでいただける機会も増えて、催事以外の展開も色々積極的に展開を考えています。そういった取り組みをすることで、作品とスタジオを紐付けて見てくれるファンの方も増えてきているかもしれません。
平松:やっぱり作品の捉え方が日本と外国とでは違うと思います。日本人は人で見るじゃないですか。監督や役者の名前で見る作品を選んだりします。
外国の映画を例に挙げると、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)やDCは、大きいジャンルを作ってそこにお客さんを呼び込む形を作っていますよね。ディズニーやPIXARもですが、会社が主導するという事は歴史的にもあるので、今後はそういった所も見ていかないといけないなと思いますね。
ーーということは、MAPPAのターニングポイントはやはり『ユーリ!!! on ICE』ですか?
大塚:いや~、ターニングポイントが多くて(笑)。一作品目の『坂道のアポロン』から始まって、2014年には『残響のテロル』、『神撃のバハムート GENESIS』、『牙狼〈GARO〉-炎の刻印-』という3本を一気に作って。それまで仕事がなかったんですけど、そこからは継続して仕事がくるようになりました。
そして、『ユーリ』と『この世界の片隅に』で初めてヒットを出して。世の中で自分たちの作品が評価されるという経験を積んで、そこから『ゾンビランドサガ』など各作品でチャレンジもするようになりました。
最近だと『呪術廻戦』『進撃の巨人』を並行してやりましたが、この経験はこの先、過去を振り返った時にターニングポイントと感じるんじゃないかなと思います。
ーーターニングポイントが次々とやってくるというのはそうそうない事だと思うのですが、その要因はどんな所にあると思いますか?
大塚:とにかく頑張って作って、お客さんに作品を提供していくという事を貪欲にやり続けたからなのかなと思います。やっぱり自分たちのペースだったり、自分たちに都合のいい事ばかり考えていたらこのペースで成長していけなかったと思います。
あとは運が良かった事もあるのかなと思います。次のステップに行けたり、わりと勢いでやった事が上手くはまったりとか。
平松:ステップを踏んでいくと、「運が良かったね」から「自分たちで運を呼び寄せなきゃ」になりますからね。
大塚:そうですね。
平松:『ユーリ』とかヒット作が出てくると「意識を変えていかないと」となりますから。
大塚:『ユーリ』が『ゾンビランドサガ』や『BANANA FISH』に繋がって『呪術廻戦』に繋がっていきますからね。
木村:フジテレビで作品を一緒にやっていた時は外側からの目線で、MAPPAのクオリティには感動していました。
ーーあれだけの映像美を見せられたら局としてもお願いしたくなるでしょうね。
木村:そうですね。『残響のテロル』がMAPPAとやった初めての仕事だったんですが、それから常に仕事を一緒にできないかと思っていました。現在も色々な会社様と関係を続けさせて頂いておりますが、一つ一つの仕事の蓄積がご縁になって、今に繋がっているのかもと思います。