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『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』ネタバレレビュー|ゴジラと対峙した3ヶ月で僕らが見た世界

『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』という体験|ゴジラと対峙した3ヶ月で僕らが見た世界

春アニメ作品『ゴジラS.P<シンギュラポイント>(以下、ゴジラS.P)』が完結しました。21年3月末の配信開始から注目が集まり、翌週の地上波放送開始を皮切りにほぼ毎週Twitterトレンド入りをするなど話題になった作品でした。

作品はとても面白くて、筆者はこれまで映画や特撮の基礎として「ゴジラ作品」を数本観たことがある程度だったのですが、すっかりファンに。放送開始から現在まで暇を見つけては過去の映画シリーズをあらかた見返し「ゴジラ沼」にどっぷりハマっています。本作をきっかけにゴジラを更に深堀りした方も多いのではないでしょうか。

ですが、今回の『ゴジラS.P』ではミーハーな私だけではなく、多くのファンの皆さんも今までと違うゴジラ体験をしたと思います。

それはゴジラと対峙するという体験です。

今までは、ゴジラと対決する人間を観て応援したり憂いたりする、もしくは「破壊神ゴジラ」に自分の不安や憤りを託し、全てを破壊してもらうような疑似体験をする、といった現実と虚構の間にある「特撮」という世界を楽しませてくれるものだったように感じます。

しかし、最終話を迎えた今、私達はTVアニメシリーズでしか、『ゴジラS.P』でしかできない体験をしました。ゴジラと対峙した3ヶ月、本作は私達に何を伝えてくれたのでしょうか。

※本稿では最終回のネタバレが含まれています。最終話をご覧になった上でお楽しみください。

これまでの「ゴジラ」とは違うと思っていた『ゴジラS.P』が……

本作の最大の特徴と言えば「SF要素」です。これまでの「ゴジラ」らしい特撮としての楽しさを残しつつ、「王道パニックアクション×エヴァンゲリオン)」をコンセプト(※CG WORLDでのインタビューで言及)に「高次元」「AI」といったメジャーなSF設定をプラス。

さらに、伏線回収、考察といった中毒性のあるスパイスを「ゴジラ」に加えた作品でした。従来のゴジラ作品とは違うTVシリーズならではの毎週放送&配信が行われることを意識した展開や物語の速度、近年注目を集めている謎解き要素などで、古典とも言える「ゴジラ」を現代にフィットさせました。

しかし、最後に描かれたのは「ゴジラ」の普遍的なテーマでもあった「人間の愚かさ」でした(たまにはほのぼの作品もありましたが……)。

怪獣や自然、神による終焉、AIが人間を超越することによる破局ではなく、一番恐ろしく、愚かなのは人間でした。結局の所、人を脅かして、滅ぼすのは人なのです。これは従来のゴジラのテーマそのものではないでしょうか。

物語終盤、主人公・ユンとメイはそれぞれのパートナーであった2人のAI、ユングとペロ2に助けられ、無事にこの世の破局を回避します。鍵を握っていたのはやはりユングとペロ2でした。彼らは超計算機の中で、いわゆる技術的特異点(シンギュラリティ)を迎え人間には想像もつかないような領域へと足を踏み入れます。

近年のSF作品では、人類を超越したAIが人類を救うために人類を滅ぼす、といった展開が散見されますが、『ゴジラS.P』ではユングとペロ2はシンギュラリティを迎え、友である人間を救おうとした。

彼らによって『ゴジラS.P』の世界の破局は回避された、ということになります。

しかし、その後見覚えのある巨大なロボットの建設現場が映され、スティーブンと海がなにやら作業中。そしてその背後にはニヤリと笑う葦原が! この前後の展開は個人的な解釈になりますが、葦原が創設したシヴァは世界を震撼させる兵器である「メカゴジラ」を作ることが目的であり、破局を回避したユンやメイは結果的にはシヴァに利用された形なのではないかと思っています。そしてその後メカゴジラを使った悪事が始まる……という風に私は解釈しています。

やはり人を滅ぼすのは人なのかもしれません。そしてこれまでゴジラは私達を怒り、憂い、絶望させたかと思えば、希望にもなり、社会を露わにし、時には人間の尻拭いまでしてきました。

本作はゴジラの皮を被ったSFではなく、れっきとしたとした「ゴジラ」のメッセージを踏襲している作品でもあったのです。新しいモノを描きつつ、普遍的なモノを提示する。「ゴジラ」という古典を正しく扱った作品ではないでしょうか。

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