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映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』イシグロキョウヘイ&市川染五郎&杉咲花インタビュー

映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』イシグロキョウヘイ監督&市川染五郎さん&杉咲花さんインタビュー|『サマーウォーズ』に影響を受けた? ネガティブなものもポジティブに変える魔法

みなさんはコンプレックスがありますか? 僕はもっとイケメンだったらよかったなとか、三日坊主を直したいなとか、そんなことを常日頃考えています。

でも、人によっては僕のこの顔もイケメンに見えるのかもしれないし、三日坊主も自分に合わないことは割り切るマイペースだと捉えることができるかもしれない。そう思ったら、なんだか人生は少し楽しくなりそうです。

そんなふうに考えられたのは『サイダーのように言葉が湧き上がる』に出会ったからなのかもしれません。

『四月は君の嘘』『クジラの子らは砂上に歌う』などで監督を務めたイシグロキョウヘイさんが劇場作品初監督を務めたのが、映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』。

人と話すのが苦手なチェリーと出っ歯なのがコンプレックスなスマイルの二人がおりなすラブストーリーは、見るものを笑顔にし、明日からがんばろうと思える青春映画に仕上がっています。

今回はそんな本作から、イシグロ監督、チェリー役の市川染五郎さん、スマイル役の杉咲花さんにインタビューを行いました。

チェリーは自分にそっくりだという染五郎さん。スマイルを演じるのは大変だったという杉咲さん。そして、そんな二人を笑顔で見つめるイシグロさんの姿をお楽しみください。

『サマーウォーズ』から受け取ったメッセージ

ーーまずは監督へお伺いします。構想期間も含めるとかなりの制作期間だったそうですね。

イシグロキョウヘイさん(以下、イシグロ):今の時点でも4年半くらいは経ちましたね(※インタビューは2020年3月収録)。2015年の9月の末にフライングドッグの尾留川さんと石川さん、両プロデューサーからお話しをいただいて、そこからですかね。紆余曲折二転三転しながら、作品として一つにまとまりました。

ーーどういうお話にするのかは決まっていたのですか?

イシグロ:元々、僕がお話しいただいた時、音楽もののオリジナル作品を作れないかっていう形で企画をいただきました。その時点で、フライングドッグの石川さんたちがまとめていたイメージのプロットみたいなものがあったんですよ。

それが、SFチックなお話で、音楽の無くなった世界をどうにかするみたいな。それを各所に回って音楽を集めていくみたいな感じだったんですけど、これは相当ヘビーだなと思いまして、若干後ろ向きな感じになりました(笑)。SFにそこまで僕は知見があったわけでもないので。

音楽ものであれば縛られずに作っていいというお話も伺ったので、まず現代劇にしました。音楽は、舞台装置として使うくらいに引っ込めて、キャラクターのドラマに焦点を当てていこう……という感じで、だんだん修正しながらやっていきました。

そこから脚本の佐藤大さんに参加してもらって、二人で共同執筆として脚本を書いていきました。僕のやりたい大枠の現代劇や音楽ネタは、使うけども本筋じゃないと大さんに伝えたら、「じゃあショッピングモールで、ゾンビは出てこないけど、閉じた場所にすればそんなに移動することもない」と。

でも、最初は群像劇だったんですよ。だからチェリーとスマイルは、もちろん主人公で立っているんですけど、他のビーバーとかフジヤマさんも含めて、いろんな人たちを深掘りしたドラマも存在していて、表に出てないものもあるんです。

それをやりすぎると、ボリュームも尺も膨らんでしまうから少なくして、あとは恋愛軸ってすごくキャッチーですからね。お客さんがより観てくれる要素になるし、そっちにフォーカスし直しました。

だからといって、筋は全く変わっていません。二人が出会って、最後恋愛が成就するっていう流れは全く変わってないんだけど、それをカメラがフォーカスし直して、こういう青春恋愛ものの形に書き直していったんです。

ーーそういうことでしたら、もしかしたらスピンオフ的な話もできそうですね。

イシグロ:全然できますね。大貫さんに曲を書いていただいたっていうのもあるんですけど、フジヤマさんとサクラさんの物語もできます。

50年前にこの曲を作るきっかけになった物語がないと、大貫さんは歌詞を書けないはずだから、より具体的にプロットを僕が書いたんですよ。50年前にチェリーとスマイルと同じような関係性で、夢破れたフジヤマさんを励ますためにサクラさんがあの歌を歌うっていうプロットを書いたんです。そういうのもスピンオフで、やろうと思ったらできます。

よくよく聞いていただけると、一見どうしてこの単語が出てきたのかって思われるような歌詞があるんですよ。例えば「幻のチェリーコーク」っていうのがサビの最後。チェリーコークっていうバンドをフジヤマさんがやっていたけど、自分の才能のなさに見限ってレコードプレス工場で働き始めて、そこで二人が出会って。実は、サクラさんは元々チェリーコークの大ファンだった、みたいなね。

フジヤマさんはベースなんですけど、細野晴臣さんをモデルにしてるんですよ。

杉咲花さん(以下、杉咲):そうなんですか! 確かに似てますね。

イシグロ:細野さんといとうせいこうさんを足して2で割ったんです。

ーー(笑)。

杉咲:そうなんですね。

イシグロ:自分の良いと思っている才能は、自分が見限ってしまったけど、別の人からしてみるとそれがすごく良いっていう物語を作ったみたいな。やりてぇなぁ~……。

ーー楽しみにしています(笑)。

イシグロ:でも、そういうのを大貫さんに渡して読んでもらって、歌詞が出来上がったからびっくりです! 完全にキャッチアップしてくれてるなって。

チェリーが自分の気持ちを言葉に出すのが苦手な性格だったり、スマイルが出っ歯なので矯正器具で隠しちゃうっていうのは、設定としてはちょっと過剰なんですけど、群像劇ではキャラクターが立っていないと物語が転がらないんです。

本当にごく普通の少年と、何の変哲もない少女っていうのは、もともとその筋で作る二人の物語でやるときにキャラクターとして設定することは多いんですけど、今回そうなってないのはもともとが群像劇だったから。ビジュアルの違いとかで分かりやすく、コンプレックスが見えるようになっています。

たまたまのキャラクターの割り当てだったんですけど、結果的には個性が出て良かったなと思いましたね。

ーーなるほど。そしてメインキャストのお二人は作品をご覧になってどういう感想を抱きましたか?

市川染五郎さん(以下、染五郎):収録している時も思いましたけど、この作品はただの青春恋愛ドラマではないなと。俳句がテーマなのでその日本語の美しさが感じられたりして、いい映画だなと思いましたね。

杉咲:映像の色味もすごくポップで、明るい気持ちで楽しめました。どんどんテンポ良く話が展開していくので、本当にあっという間で。

二人の甘酸っぱい姿に胸がキュンキュンされながら、どっちの気持ちも分かるからこそむず痒くなってしまいました。

最後の二人は、清々しくラストを迎えて、温かい気持ちで明日が楽しみになるような映画になっているなって思いました。

ーー他の作品と比べるわけではないんですが、アニメは何でもできてしまう中で、『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、超能力もないし、天変地異も起こりません。でもちゃんとドラマがあって、観終わった後にほっこりしました。

イシグロ:それはよく言われることですよね。現代劇をアニメでやる意味ってなんだろうっていつも考えています。

アニメって規約がいっぱいできちゃって、アクションをやろうと思えばできるし、何十メートルでも羽ばたかせることもできるし、絵として説得力があれば何でも見れちゃいますから。

逆に地に足ついてるドラマをアニメでやる意味っていうのは、僕も考えています。

僕は細田守さんの『サマーウォーズ』がすごく好きで、あそこが僕の中でのキーになってるんですよ。地に足ついたキャラドラマと、ちょっとした飛躍がびっくりするくらい上手くミックスされています。

『サマーウォーズ』の中で、庭の池に漁師のおじさんの船を浮かべて波がバサーンとくるようなカットがあるんですけど、あれを実写でやると多分ギャグとして成立しづらいんですよね。怖いという思考も起こる可能性がある。でも、アニメだとギャグになるんです。池から魚が飛んじゃったりね。

あの飛躍の仕方を見て、エッセンスとして植えつけられるっていうのを学んだんです。だからこそ、『サマーウォーズ』を見て感動して涙が止まらないくらいでした。キャラクターの心情に寄り添いながら、今の僕を出しても映画として成り立つんだろうなってあの時感じましたね。

作画のスタッフに配る演出メモっていうのを僕は書いてるんですけど、そこに「マークになってるのは『サマーウォーズ』です」って書きましたからね。ギャグにするところの顔の変え方も、『サマーウォーズ』で主人公が顔を真っ赤になっちゃうところから来ています。あれは僕の中のオマージュなので、やり方は全く同じにしています(笑)。

顔が真っ赤になるっていうのはすごく記号的なんだけど、それがギャグや真面目なシーンに植え付けられると、すごく感動するんですよね。そういう飛躍っていうのが、現代劇でも成り立つのがわかっていたので、僕は確信を持ってやっていたつもりです。先人の素晴らしい作品から得るものはたくさんあったんですよ。

ーーなるほど。勉強になります。

イシグロ:まぁまぁまぁ。調子乗っちゃうんですよ、僕(笑)。

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