この記事をかいた人
- 篭法
- 内向的で口下手、典型的な陰の者。テーマやメッセージ、登場人物の心情を考えさせられるアニメが好み。小説も好き。
全寮制の名門女学校にやってきたヴァイオレット。今回の依頼は代筆ではなく、少女・イザベラ・ヨークのデビュタント(社交界デビューの場)を成功させるための教育係になる、というものでした。
イザベラは貧民街出身の元孤児。同じく孤児の“妹”(血のつながりはない)テイラーと貧しいながらも幸せに暮らしていましたが、ある日、自身が貴族の血を引いていることが分かり、妹を養うために、これまでの名を捨て、貴族の子どもとして生きていたのでした。
離れ離れになってしまった妹への想いを吐露するイザベラにヴァイオレットは手紙を書くことを提案します。
その手紙に綴られたのがこの言葉。貴族の娘「イザベラ・ヨーク」ではなく、テイラーの“ねえね”である「エイミー・バートレット」という名前を、あなたにだけは覚えていてほしい。そんな願いを込めた言葉です。
『エイミー』という言葉を聞いた途端、涙を流すテイラー。当時とても幼かったゆえ忘れかけていた“ねえね”との思い出が一気に蘇ったからでした。彼女にとって『エイミー』は、勇気をくれる特別な言葉となったのです。
イザベラの手紙がテイラーに届けられてから数年後。なんと成長したテイラーが、孤児院を抜け出してC.H郵便社にやって来ます。
しばらくの間、彼女の面倒を見ることになった郵便社。ヴァイオレットはイザベラ(エイミー)との思い出をテイラーに語ったり、仕事を教えたりして仲良くなっていきます。
ある日、ヴァイオレットの髪を見て真似するもうまくできないテイラーに、髪を結ってあげながら掛けたのがこの言葉。2つではほどけてしまいます、と前置きし、見事な三つ編みを結っていきます。
演出的な側面としては、この台詞はイザベラとテイラー、そしてヴァイオレットを表した比喩表現。ほどけかかっていた姉妹の絆を、ヴァイオレット、そして手紙が強く結び直した、といった意味合いになっています。「三つ編み」は作品のひとつのモチーフにもなっており、キービジュアルや劇場入場者特典イラストなどにも印象的に描かれています。
テイラーが郵便社にやってきたのは、“ねえね”エイミーに手紙を届けるため。しかし、女学校卒業後、彼女がどこに嫁いだのか知る者はおらず、ヴァイオレットも交流がなくなって久しい状態になっていました。
その際に活躍したのが、TVシリーズでも郵便社の一員としてたびたび登場した郵便配達人(ポストマン)のベネディクト・ブルー。昔、孤児院にいたテイラーにエイミーの手紙を届けたのは彼であり、ぶっきらぼうに振る舞いながらも、親身になって協力します。
苦労の末、エイミーを見つけ出し、無事テイラーの手紙を届けたベネディクト。妹が自分のことを覚えてくれていたこと、かつて出した手紙(想い)がちゃんと届いていたことが分かり涙を流す彼女を見て、冷めかかっていた仕事への情熱を取り戻すのでした。
「いつか自分が郵便配達人になったときに初めて対面する」と決めて、付いてきていながらもエイミーには会わなかったテイラーを連れて帰る道すがら、「郵便配達人はねえ……」と得意げに言いかける彼女の言葉を借りて、こうつぶやきます。「郵便配達人が運ぶのは“幸せ”」なのだと。
「手紙というのはただの紙ではなく、人生を変えるきっかけにさえなるような想いのこもったものだ」という当たり前で、けれども忘れがちな大切なことを思い出したベネディクトは笑顔を見せるのでした。
多くの手紙を書き、今や大陸中に広く名を轟かせるほどの人気と実力を兼ね備えるようになったヴァイオレット。しかし、手紙を書けば書くほど、人の心を知れば知るほど、会えない人への想いは強まっていくのでした。
少佐の母親の墓参りの際に久しぶりに会った、少佐の兄である海軍大佐・ディートフリートに「もう忘れろ」と言われても、「忘れるのは難しい」と返します。
自分にとって、やはりあの人は特別で、どれだけ時間が経とうとも決して忘れることはできない。けれど、もう会うことは2度とない。どうにもならない思いを抱えていた彼女にホッジンズが衝撃的なニュースを持ちこんできます。
「彼が生きているかもしれない」と。
海に浮かぶ小さな島・エカルテ島。右目と右腕を失いながらも奇跡的に生きていたギルベルトは放浪の末、名前も捨てて、ひっそりとその島で暮らしていました。
そこに、旧友・ホッジンズが現れます。もう会えないと思っていた友との再会に涙を浮かべるホッジンズ。しかし、対するギルベルトの表情は暗く曇っています。ヴァイオレットも来ていることを伝えても晴れることはないどころか、彼女に会うことを拒否するギルベルト。
彼は、幼かった彼女に幸せを与えられなかったことをひどく後悔しており、今の彼女が手に入れた新しい人生を壊したくないと考えていたのでした。いても立ってもいられなくなったヴァイオレットの呼びかけにも応じず、断固として彼女の前に姿を見せません。
人の気持ちが分かるようになったからこそ、少佐の後悔・苦悩さえも理解できるようになってしまったヴァイオレットは、自分の想いを押し殺し、涙を流しながらその場を立ち去ります。
ギルベルトの想いを尊重し、郵便社に帰ることを決めたヴァイオレット。島を離れる前にこれまでの想いを綴った、最後の手紙を彼に送ります。
彼女からのめいっぱいの感謝と愛の言葉が込められた手紙。自分が贈った「愛してる」の言葉が彼女に届いたこと、それが彼女にとって、自動手記人形という新たな人生を歩むきっかけとなってくれたこと、そして今ではもう「愛してる」を伝えられるほどに彼女が成長したこと……さまざまな想いがギルベルトの心を激しく揺さぶります。
後悔や苦悩、葛藤、なにもかもを振り払い、ついに彼は離れ行く船に向かって、愛する人の名前を叫びながら駆け出すのでした。
一度たりとも忘れたことはない、大切な人の声が聞こえたヴァイオレットもまた駆け出します。船を飛び下り、ずぶ濡れになりながら、一秒でも早く彼に会いたいと進み続けます。
長い長い時を経て、ついに再会したふたり。滂沱の涙を流しながら抱擁を交わし、ギルベルトは再び愛の言葉を最愛の人に贈るのでした。
いかがだったでしょうか。本稿が、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の素敵な台詞やシーンをみなさんが思い出すきっかけになっていましたら幸いです。
本作には、今回紹介しきれなかった話数やシーンにも心に響くものがたくさんあります。ぜひみなさんのお気に入りを見つけて、友人や家族、周りの人におすすめしてみてください。
作品に対するめいっぱいの“愛”を持って、これからも本作を応援し続け、語り継いでいきましょう!
[文/篭法]
中学までは運動部だったが、だんだんインドア趣味になり、今では完全に陰の者。小説が好き。ライターを志すきっかけになったアニメは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。その他に好きな作品は『91Days』『SSSS.GRIDMAN』『ワンダーエッグ・プライオリティ』など。アイドル系の作品にはあまり触れてこなかったが、1年ほど前から『シャニマス』にハマり、ライブにも足を運ぶようになった。