田所あずささん初のデジタルシングル「箱庭の幸福」リリース記念インタビュー！幸せは一体どういうものを指すのか、というのを歌詞にしたかった──TVアニメ『リアデイルの大地にて』EDテーマに込めた想い

絵本のような世界観。「箱庭の幸福」が生まれるまで。

──今回、久々のリリースとなりますが、1月5日にデジタルリリースされた「箱庭の幸福」の制作は、どんなところからスタートしたのでしょうか？

田所：TVアニメ『リアデイルの大地にて』のEDテーマというのと、『Waver』の次のシングル楽曲でもあるので、アルバムを経てというところは出したいという気持ちがあったんです。それで、大木貢祐さん（作詞）と神田ジョンさん（作曲・編曲）にお願いしたいとなり、そこから集まって打ち合わせをしました。

──打ち合わせはどのような感じなのですか？

田所：まず、それぞれが意見を持ち寄るんですけど、原作を読んでみてどうだったとか、ゼロの段階から始める感じでした。

作品のどこを切り取るのか、そこからどういうアプローチでいくかというところから話し合ったんですけど、私的には『Waver』を経てという意味でも、私だったらどうするのかとか、私がこの作品を読んで感じたことをテーマに歌にしていくのが、田所あずさの曲としても作品としてもリンクするのではないか、と思ったんです。

──『Waver』がセルフプロデュースだったから、自分が何を感じたのか、作品から何を受け取ったのかを大事にしたいと。

田所：はい。そこで作品のことを話したり、曲としても私がどんなことに挑戦したいか、ジョンさんが私にどんな曲を歌ってほしいのかということを話していきました。

大木さんからは『リアデイルの大地にて』の優しい世界には絵本みたいな質感の歌が合うのではないか、ささやくような置いていくような曲が合うんじゃないかという意見をいただいて。そこからいろいろと広がって行き、さらに打ち合わせを重ねて、具体的に作っていく感じでした。

【小説】リアデイルの大地にて

──田所さんは原作から、どんなことを感じ取ったのでしょう？

田所：この作品は転生モノで、主人公のケーナちゃんが自分の大好きだったゲームの中に入って、そこで生きていく話です。

ケーナちゃんは現実世界では病気をしていて自由に生きられなかったので、転生した先では穏やかに幸せに暮らしていきます。だけど私はケーナちゃんはどこか寂しさを抱えている気もしたんです。

理想通りにいってしまうことは幸せでもあるけど、自分の予想外のことが起こらない世界って、私としては違和感があって。そういうところから、幸せは一体どういうものを指すのか、というのを歌詞にしたいと大木さんと詰めていきました。

──なるほど。

田所：やっぱり予想外なことを連れてくる他者がいないと幸せも存在しないのではないか、……良いものも悪いものも連れてくる他のものがあることが幸せなのかなという話になったんです。

もちろんケーナちゃんの幸せはこの世界で生きることにあるんですけど、そこから私にとっての幸せとは何かというテーマを考えてできた歌詞になっています。

──まさにそういう歌詞になっていますね。〈しあわせのかたち〉など、大木さんの言葉選びも良いですし。

田所：ホントに！　泣けるというか、刺すようなところもありつつ、結局それは優しさからくるものだという肌触りがある歌詞だなと思います。

──絵本という話もありましたが、ひらがなが多めなのもそのあたりを意識して？

田所：そうですね。子供目線というか、そういうイメージで書いていただいたので、本当に絵本みたいな歌詞になりました。

──歌い心地はどうでしたか？

田所：歌に関しては置いていくような感じだったので、すごく集中力が要りました。技術的にも難易度が高くて（笑）、音の流れが難しかったので挑戦の曲でした。

──楽曲も聴いていると、優しいメロディなんですけどね。

田所：ホントに癒やされるような感じの曲でした！　ジョンさんも避暑地で書いたらしいので、それが出ているかもしれないです（笑）。

──でも、歌い方が難しいというのもわかります。ちなみに幸福とありますが、声的には切なさも感じる歌声だったと思うのですが、声にどんなことを込めたのでしょうか。

田所：幸せ過ぎる、ただ明るいものは違うなと思いました。

歌詞を見ても、最初は自分の好きなものを集めているけど、〈あの子〉という存在が出てきて、幸せな私だけの空間にバケツをこぼしたり、クレヨンでジャマをしてきたり。

でもそれによって見えた思いがけない景色があることに気づいて、ケンカしても汚してもいいから一緒にいてほしいという歌なので、そういうところを表現したかったというか。温度感みたいなところを言葉にするのは難しいんですけど、それを歌に込められるようにしました。

──本当に、こういう幸せあるよねっていう、まさに絵本とかおとぎ話みたいな感じは、歌からも感じられました。ではレコーディングはどんな感じなのですか？　もう田所さんをよく知っているメンバーだと思いますが。

田所：やっぱり楽しいですし、安心感があるんです。あの、私がだいぶ掛かっちゃっていたんですよ（笑）。『Waver』を経てのタイアップ曲だし、この曲の歌詞もメロディも最高すぎて、最後に色を付けるのが私のボーカルじゃないですか。

最終段階で私が下手こいたら良い曲が台無しになる！というプレッシャーにやられちゃって。

やっぱり私はあの子みたいにうまくないし、あんな風に歌えない……みたいにぼやいていたら、ジョンさんがトークバックで「ころあずはそのままでいいんだよ！」って言ってくれて、それでなんとか乗り切りました（笑）。

──何と比較してるんですか（笑）。

田所：世の中のいろんなうまい歌と、みたいな（笑）。技術面で、この音の流れを私はうまくできない、シンプルに技術がないんだ！！とかぶつぶつと。

──ものすごく高いところで悩んでるんでしょうね。聴いている限りではものすごくうまい！と思いながら聴いていたので意外でした。

田所：ホントですか！　もう、そういう言葉に救われながら生き長らえています。

──ここまで歌えてまだ悩むのかという感覚です（笑）。

田所：総じて強欲な生き物なんですかね（笑）。もっともっと良いものを歌いたい！と思ってしまうんです。

──自分の理想の歌い方までは行けていないと自分で思ってしまうということなんでしょうね。でも、神田さんは褒めてくださると。

田所：ジョンさんだけでなく大木さんにも慰めてもらっています。いつもギリギリなんですよ（笑）。でも、ジョンさんはいつもレコーディングが終わって数時間後くらいに「マジで最高だ！」ってLINEをくれるんです。それにまた救われるというか。

自分は気合いを入れてレコーディグをしたけど、やっぱり終わりたてって「本当に大丈夫だったかな？」っていう不安に数時間は置かれるんです。ジョンさんは自分の車内で爆音で聴いて帰るらしいんですけど、家に着いて最高だったとなるらしく、そこでLINEをしてくれるんです。

私は、ジョンさんと大木さんをすごく信頼しているので、2人が言うなら良いんだ！と自分を納得させています。

──きっと不安に思っているとわかるから、ちゃんと言葉で伝えてくれるんでしょうね。

田所：私のことをわかっているというのも確かにあると思うんですけど、本当に良いと思って言ってくれているのがわかるんですよね。だから私の心にもちゃんと届くんです。