太宰治にとって織田作之助は“生きる意味”|映画『文豪ストレイドッグス BEAST』谷口賢志さん&田淵累生さんインタビュー
太宰にとって織田作は“生きる意味”
ーーせっかくお二人そろってのインタビューですので、太宰治と織田作之助の関係性をそれぞれどのように解釈されているのかお伺いしたいです。
谷口:(田淵さんを見ながら)僕もそれは聞いてみたい。
田淵:そうですね……織田作は太宰にとって生きるための根本的な存在だと思っています。
谷口:うんうん。
田淵:僕自身の考えですが、たぶん織田作と出会っていなかったら太宰は死んじゃっている可能性が高いんじゃないかなと。2人が出会ったからこそ「黒の時代」以降のストーリーがあるんだと思っています。太宰にとっての織田作は生きるためというか、生きる意味です。
谷口:僕の場合、最初は「黒の時代」で坂口安吾を含めての関係性を作っていました。おそらく、ソウルメイトというか出会うために生まれているんだと感じる相手が、実際の世界にも存在していると思うんです。
実在した太宰治さん、織田作之助さん、坂口安吾さんも話をしている写真を見る限り、出会うべくして出会った存在であり、お互いに影響し合って小説を書いていたであろう生き様に羨ましいさを感じました。
なので、舞台でもその3人が後ろ向きでバーで飲んでいる姿がすごく好きなんです。その背中は三者三様だけど、3つ並んでいないと1個にならない感じがすごく好きで。今回の「BEAST」に関しては、ある意味、その背中が2つになったときどうなるか……というところがもろに出ています。
織田作之助の人生というのは、すべて太宰に捧げる人生であり、太宰の人生も「BEAST」に全部捧げてくれている。これはなかなかないすごい関係ですよね。
こういうことを簡単に言っちゃいけないかもしれませんが、“愛する人のために死ねる関係”で成り立っているので、“どうして2人で幸せになれないのかな?”と思ってしまいます。
田淵:いや本当に……そう思っちゃいます。
谷口:それが美しいんでしょうけど、絶対に2人では幸せになれないわけじゃないですか。どっちかがいなくならないとダメだという関係は、物語であり小説だからこそ美しい関係だと思います。
ーーすごくわかります……! わかっているのに“2人で一緒に幸せになることはできなかったのか?”っていう気持ちがどうしても出てきちゃうんですよね。
田淵:その世界線はあるのかな?
谷口:ないだろうね~。だからこそ、面白いのかも。小説家というものが1番素晴らしいとされている世界観の中で、何の目的もないとにかく死にたい太宰と小説を書くしかない織田作が出会う。本当はただバーで一緒に話したり飲んだりするのが楽しいのに、どうにもなんない2人の関係は何だろう……考えると泣けてくるね。
田淵:泣けてきますね。
谷口:これはもうカフカ先生が悪いです(笑)
ーー「黒の時代」で描かれたからこそ、織田が生きている「BEAST」の世界がより輝いて見えるように感じます。
谷口:たまらないですよね。僕(織田)はそれを受け取っちゃいけないですけど、小説が書けている世界を守るために命を何とも思わない彼の芝居を見ると、何とも言えない気持ちが込み上げてきます。
田淵:僕も賢志さんのお芝居すべてに痺れました。最初の撮影から織田作之助本人がそこにいるかのように感じましたし、賢志さんの織田から太宰が降りてきたというか、そういう感覚に近かったです。それだけ、ずっと織田が心の中で強く存在していました。
谷口:太宰治の役作りで織田作之助という人はどうしても避けて通れない存在だからね。
田淵:はい。
谷口:本当に性格の悪いキャストが集まっているので……
田淵:性格の悪いキャスト(笑)
一同:(笑)
谷口:実は、みんながこの可愛い累生に「賢志さんはすごくおっかないから挨拶に行かないとぶっ飛ばされるよ」と嘘の噂をずっと吹き込んでいたんです。だから、僕の前に出てきた累生がガタガタ震えていて(笑)
田淵:周りから嘘の噂を吹き込まれ続けていたので、すごく怖かったです。最初に挨拶させていただいたときも、あまり会話がなかったから「あっやっぱりそういう人だったのかな……」と(笑)
谷口:僕は全然そんなつもりじゃなかったんですよ? 役柄的にあまり話さないほうがいいなと思っていたのでそういう態度をとっていましたが、まさかそういう噂を言われているとは思わなかったので相当怖かったんだろうなと思います(笑)
ーー撮影後にはその誤解もすべて解けましたか?
田淵:はい! 完全に解けました。
谷口:LINEで織田作スタンプと太宰スタンプを送り合うような仲になりました(笑)
田淵:あはははは(笑)
ーー本当にスタッフさんもキャストさんも作品愛に溢れている現場ですね。
谷口:そうですね。それはたぶん、この2人(鳥越さんと橋本さん)や植田圭輔がアニメ原作でもちゃんと演劇をしたい、原作をちゃんと愛しつつお芝居も最高峰のレベルで演劇として魅せたいという気持ちを背負ってきて、それを一緒に作ってくれる原作チームやキャストがいるからだと思います。全部が良い感じにミックスしているので、僕が参加したとき、“なかなか稀有な現場だな”と感じました。お客様を含め、ここまで全部の愛がうまくいっている現場はなかなないと思います。
田淵:本当に愛に溢れている現場で温かいです。
谷口:舞台化すると「これは原作と違う」「本当のキャラクターと違う」などと言われますが、「いや、私たちが認めていますから」とそれすらも原作チームが優しく包み込んでいるというか。カフカ先生自身が舞台を愛してくださっているんです。
原作の小説を書かれているご本人から「舞台が最高だと思っています。だから谷口さんが好きにやってください」と言われたら、それはもう「全力でやらせていただきます!」と答えるしかない。カフカ先生からもすごく熱いものを感じました。
結局、演技も舞台も映画も人と人が大事になってきます。たとえば、キャスティング1つとっても役の1人が悪い性格をしていたら、それだけで座組は壊れてしまう。そういった意味でいうと、この座組は本当に素晴らしい座組なんだと感じます。
実写映画『文豪ストレイドッグス BEAST』作品情報
2022年1月7日(金)公開
あらすじ
異能者ひしめく混沌都市、ヨコハマ。貧民街で生きる孤児の芥川龍之介は、ならず者たちの襲撃によって仲間の 命を奪われた。それは「心なき狗」と呼ばれた少年が、瞳に初めての〝憎悪〟を宿した日。そこへあらわれた黒 衣の男は、復讐へと駆り立てられる芥川を嘲り、実の妹・銀を連れ去ってしまう。「やはり部下には、もう一人の 彼を選ぼう」という言葉を残して。
4年後。餓死寸前で川べりをさまよっていたところを「武装探偵社」の織田作之助に 拾われた芥川は、その推薦のもと働きはじめる。だが、ある雨の日だった。喫茶店の カウンターで偶然にも肩を並べた少年は、武装探偵社への遣いだと話す。その者こそ、 表情一つ変えることなく敵を屠り「ポートマフィアの白い死神」の異名で恐れられる、 中島敦。敦は、自分を地獄から救い出してくれた首領を信奉し、命じられるがままに 動くことを誓っていた。そうとは知らず、芥川が受け取った封筒の中に入っていたの は、行方を探し続けた銀の写真で……。
「ついに来た……第四段階」。すべては、闇に染まる黒衣を纏うポートマフィアの首領・太宰治の企てる計画の中にあった。国家に匹敵する武力を持つに至った組織の長 が、真に求めるものとは? 少年たちの邂逅の先に何が待つのか――?
スタッフ
原作:角川ビーンズ文庫『文豪ストレイドッグス BEAST』
監督:坂本浩一
脚本:朝霧カフカ
音楽:岩崎 琢
主題歌:GRANRODEO「時計回りのトルク」
配給:KADOKAWA
キャスト
橋本祥平
鳥越裕貴
谷口賢志
田淵累生
紺野彩夏
桑江咲菜
植田圭輔
輝馬
長江崚行
桑野晃輔
堀之内 仁
広川 碧
齋藤明里
村田 充
岸本勇太
南 圭介
荒木宏文