TVアニメ『平家物語』と羊文学「光るとき」、物語と深くリンクしたフレーズが心に響く|最終回のその後も誰かが君と生きた記憶を語り継ぐでしょう――
作品を彩る劇伴の素晴らしさ――アニメ『平家物語』を描ききった「光るとき」
物語に没入させ、その時代の日常を描きながらも音楽は現代のサウンドを取り入れたものになっていたのは、やはり山田監督の感性の鋭さでありセンスなのだろう。牛尾憲輔が手掛けている劇伴は、当時の楽器を使ったような、時代に寄り添った音楽ばかりでなく、現代の音楽も多い。第二話のOPテーマ明けで流れたロック調のBGMには驚かされたが、それが違和感にはならず、かえって躍動感が生まれ、人間がより生き生きとして見えた。
そこに舞いの音楽やびわが奏でる琵琶の音色、さらに“語り”があることで、時代感がより引き立つ。このバランス感覚は絶妙で、音楽に造詣が深い山田監督だからこそ実現できたものだと感じる。
そして劇伴よりも前に、作品の印象を大きく変えたのがOPテーマ「光るとき」で、第一話で流れたときは衝撃だった。いわゆる爽やかさすら感じるギターロックで、平安時代を舞台にした軍記物からは、おおよそイメージするものではないサウンドが流れてきたときに、これは時代劇や大河ドラマの類ではないことを察した。そして話数を重ね、この作品の世界観を理解していくにつれて、この曲がいかにアニメ『平家物語』と向き合って、そして寄り添って生み出されたのかがわかるようになっていった。
アニメ『平家物語』が人間の表や裏、そのすべてを見て、それでもなお美しいと言ってくれているような作品だったからこそ、サビの〈何回だって言うよ 世界は美しいよ〉というフレーズに心に響くし、ひとりひとりの生活、そしてその時代の“今”を生きる人間を描いているからこそ、〈最終回のストーリーははじめから決まっていたとしても 今だけはここにあるよ 君のまま光ってゆけよ〉という歌詞に救われる。しかもそのサビの歌詞に合わせ、生と死や喜びや悲しみの場面を描くアニメーションは見事だった。
サビだけでなくAメロBメロも、この作品のことを考え抜いて吐き出していった言葉たちであることがよくわかる。解釈は聴く人それぞれであり、いろいろな想像ができるように書かれていると思うが、個人的にはびわが見てきた人たちへかける言葉のような感じがするし、そのびわを山田尚子監督の分身のようなものだと考えるとよりしっくりくる。このフレーズは重盛のことを言っているのかな? 徳子のことかな?と妄想していくと自然と涙をこらえて聴いている自分がいた。
羊文学の塩塚モエカが「この作品は、原作で描き出される平家の魂に対して、並々ならぬ思いをもって作られています。台本を読むたびに、傲慢なイメージで語られがちな平家の人々の、人間らしく美しい側面を知りました。そんな姿を、私たちなりに讃え、照らし出す曲を作ることができたと思います。今までに抱いたことのないような、複雑で尊い感情を教えてくれる物語に出会えたこと、そしてその一部を担わせていただけたことを心から光栄に思い、感謝しています」というコメントを寄せているが、脚本からクリエイターの想いを受け取り、そしてそれを音楽にして返していくやり取りが、とても尊いものに感じる。
メロディーやボーカルの美しさはTVサイズでも十分に伝わってきたが、フルサイズで聴くと、羊文学が本来持っているオルタナティブな一面がより感じられるし、歌詞もより深くなる。アニメで描かれているのは、はるか昔の物語だが、そこで描かれている人々の想いは今の私たちに確かに繋がっていて、それは前へ向かう力にもなるのだ。「光るとき」はそれを強く感じさせてくれる楽曲だった。
最後に、この楽曲に寄せられた監督とキャストからのコメントを紹介したい。
「はじめてこの曲を聴いたとき、気がついたら目から涙がぼとんぼとん落ちてました。 それが何か、曇っていたものがすっきり晴れたような気持ちよさで。 なんて繊細で強い塊なんだろう、聴くたびに感動が更新されるような感じでした。 この曲に出会った方も、きっとこのおどろきを体験するのだろうか。と思うとわくわくが止まりません」(山田尚子監督)
「国語の時間に暗記した物悲しいお話…そんな平家物語のOPがこんなに穏やかで爽やかな曲!?と、アフレコ前の私なら言っていたはず。でも今はびわの目を借りて、平家の人々と全編を駆け抜けた後なので、曲も歌詞も分かりみの嵐なんです。OPの絵を思い出すと泣けるんですが、フルで聴くと絵がない部分にも何故か絵が想像できて泣けて…。そのくらい、私たちが本編で伝えたかった気持ちが数分にぎゅぎゅっと詰め込まれた曲なんだと思います。既にご覧になった方とはこのエモさを共有できてるんじゃないかな…! 今からご覧になる方は是非、全部見終わってからもう一度『光るとき』聞いてみてください。めっちゃエモいと思います!」
(びわ役 悠木碧)
「この『平家物語』のキャラクターたち、携わる我々、ひいては作品を見てくださる方々の、
各々の生き様と各々が光るとき、さらにその先までを道しるべのように照らしてくれる、優しく力強い楽曲です。軍記としての側面に留まらず、その時代そこに存在した人たちの物語なのだと改めて感じさせられます」(平重盛役 櫻井孝宏)
「〈ならば、全てを生きてやれ〉という歌詞のフレーズを聴いたとき、徳子としてマイクの前で言葉を発したときの真っ直ぐでひりひりとした感覚が蘇りました。平家物語の時代の人々にとっての“今“と、現代に生きる私たちにとっての“今“は遠く離れているけれど、どちらにも光を照らしてくれるような、そんな温かさを感じました」(平徳子役 早見沙織)
--
作品に寄り添って作られた「光るとき」。そのMVでも、草木や花の映像を挟むなどアニメへのリスペクトが強く感じられる。ぜひフルサイズを聴いて、TVアニメ『平家物語』を何度も鑑賞してみてほしい。
[文・塚越淳一]
楽曲情報
羊文学「光るとき」
2022.01.12 On Sale(配信限定)
【タイアップ】
■TVアニメ「平家物語」オープニングテーマ
アニメ『平家物語』作品情報
イントロダクション
《祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす》
平安末期。平家一門は、権力・武力・財力あらゆる面で栄華を極めようとしていた。
亡者が見える目を持つ男・平重盛は、未来(さき)が見える目を持つ琵琶法師の少女・びわに出会い、「お前たちはじき滅びる」と予言される。
貴族社会から武家社会へ―― 日本が歴史的転換を果たす、激動の15年が幕を開ける。
放送・配信情報
フジテレビ「+Ultra」ほかにて2022年1月12日(水)24:55~より放送開始
9月15日(水)24時よりFODにて先行独占配信
※放送、配信日時は都合により変更となる可能性があります。
■テレビ放送
フジテレビ:毎週水曜 24:55
関西テレビ:毎週木曜 25:55
東海テレビ:毎週土曜 25:45
北海道文化放送:毎週日曜 25:10
テレビ西日本:毎週水曜 25:55
BSフジ:毎週水曜 24:00(※初回放送1月19日)
※放送時間は予告なく変更になる可能性がございます。
<初回放送>
フジテレビ:1月12日(水)25:05
関西テレビ:1月13日(木)25:55
東海テレ:1月15日(土)26:15
北海道文化放送:1月16日(日)25:20
テレビ西日本:1月12日(水)26:25
BSフジ:1月19日(水)24:00
■見放題サービス<毎週各話更新>
FOD:全話配信中
Netflix:毎週木曜
Amazon Prime Video:毎週木曜 12:00
アニメカ:毎週木曜 12:00
J:COMオンデマンド:毎週金曜 0:00
milplus:毎週金曜 0:00
ひかりTV:毎週木曜 12:00
dアニメストア:毎週木曜 12:00
U-NEXT:毎週木曜 12:00
アニメ放題:毎週木曜 12:00
dTV:毎週木曜 12:00
バンダイチャンネル:毎週木曜 12:00
■都度課金サービス<毎週各話更新>
ビデオマーケット:毎週木曜 12:00
music.jp:毎週木曜 12:00
DMM動画:毎週木曜 12:00
GYAO!ストア:毎週木曜 12:00
Rakuten TV:毎週木曜 12:00
TSUTAYA TV:毎週木曜 19:00
ムービーフルPlus:毎週木曜 12:00
HAPPY!動画:毎週木曜 12:00
Google Play:毎週木曜 12:00
スタッフ
原作:古川日出男訳『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09 平家物語』河出書房新社刊
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
音楽:牛尾憲輔
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャラクターデザイン:小島崇史
美術監督:久保友孝(でほぎゃらりー)
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗(Otonarium)
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
オープニング・テーマ:羊文学「光るとき」
エンディング・テーマ:agraph feat. ANI(スチャダラパー)「unified perspective 」
キャスト
びわ:悠木碧
平重盛:櫻井孝宏
平徳子:早見沙織
平清盛:玄田哲章
後白河法皇:千葉繁
平時子:井上喜久子
平維盛:入野自由
平維盛(幼少期):小林由美子
平資盛:岡本信彦
平清経:花江夏樹
平敦盛:村瀬歩
高倉天皇:西山宏太朗
平宗盛:檜山修之
平知盛:木村昴
平重衡:宮崎遊
静御前:水瀬いのり
源頼朝:杉田智和
源義経:梶裕貴