橋本監督へのオファーは「女好き」だから? ダメ人間のダメな悩みを、みんなで考えてみようを描いた春アニメ『エスタブライフ』原案・クリエイティブ統括・谷口悟朗さん、監督・橋本裕之さん、シリーズ構成・脚本の賀東招二さん座談会をお届け!
壮大ではなく、「ダメな世界で、ダメ人間のダメな悩み」を描いたアニメ!?
――本作は人間が獣人やサイボーグ、魔族など多様な姿を持つようになった未来で、東京はAIが管理する「クラスタ」という地域分けがされているという壮大な世界観で……。
谷口:壮大じゃないですよ! ダメな世界です(笑)。ダメ人間のダメな悩みを、みんなで考えてみよう、みたいなそんな感じです。
――谷口さんの原案だから本格的なSFだろうと身構えて見る必要はないと?
谷口:そのために橋本監督に入っていただいているので。橋本監督の作品が好きな人たちはそのノリを期待して見ていただいても大丈夫だと思います。同じように賀東さんのファンの方も『フルメタル・パニック?ふもっふ』の賀東さんをイメージしてもらえたら。
賀東:確かにそうですね。あと『甘城ブリリアントパーク』とか。
――谷口さんからオーダーされたことは?
谷口:世界を終わらせてしまうと他につなげることができなくなるので、「頼むからそこだけはやめてくれ」と。あと放送できるのかは毎回、フジテレビのプロデューサーと相談しながら。ただ賀東さんが東京のあちこちに相当恨みを抱いていることは、今回よくわかりました(笑)。
賀東:東京は人間が多いので(笑)。
橋本:いいですね。この話はどこかでやりましょう(笑)。
――TVアニメでは、新宿や池袋など東京各地のクラスタが登場しますが、クラスタの概念はどのように生まれたのでしょうか?
賀東:僕が付けました。
谷口:まだ街やエリアなど曖昧な言い方をしていた時に賀東さんがアイデアを出してくれました。最初は行けるところが限られている構成……オープンワールドではないゲームっぽい設定として入れ込んでしまおうと。移動や活動できる範囲を限定させるためにはどうしようかというところから考えていきました。
――作中で描かれる各クラスタはリアルだけどコミカルさもあるのがおもしろいですね。
谷口:海外の方がイメージしている半分間違った日本が好きなんですよ。そういう部分が
入ってしまったところはあるかもしれません。
橋本:池袋のクラスタを作った時、話しましたよね。「とあるビルの屋上にペンギンがいるけど、60階という高層にいるペンギンなんて他にいるのかな」とか「そもそも何であんな上に水族館を作ってしまったんだろう?」とか。リアル自体がおかしいところもあるし、そこを広げていったらおもしろいかもって。
例えば「あのペンギンはちゃんとした南極を見たこともないし、低いところにも行くことなく、ずっと60階で暮らすのかな? そんな時、逃げたくなるのかも」とか。あの時、いろいろな街のことを考えましたね。
賀東:もっと広い街を出したかったですけどね。
――まさに都民がファミレスで雑談しているような感じで、クラスタのアイデアが誕生していったんですね(笑)。
谷口:そういうノリですからね。
――そして様々な悩みを抱える人のクラスタ脱出を手助けするのが逃がし屋ですが、現代に多く存在する悩める人たちの縮図を意識されているのかなとも思いました。
谷口:そんな立派な思想はありません(笑)。逃がし屋という設定を提案したのは私ですが、いろいろなクラスタを見せていこうとなると、行き来できる人がいいなと。でも体制側から描くと観察日記のようなつまらないものになってしまいそうだったので、民の目線から見られる形を考えた時、逃がし屋であれば、いろいろな街を見せられるし、ドラマも官僚目線ではない、民の目線で描けるかなと思って提案しました。
逃がし屋チームの構成の発想はあの人気作品から? 驚きのキャスティング、速水 奨さんと三木眞一郎さんを起用した理由
――逃がし屋であるメインキャラクター5人はどのように構築されたのでしょうか?
賀東:女性3人、男性2人というのは僕が提案しました。SOS団がその男女比率と人数だったので(笑)。キャラクターは最初に作ったのはエクアで、マルテースは結構難航しました。マルテースがスライム人間に決定して、ようやく全員決まった気がします。
――逃がし屋チームは魔族、スライム、AIロボット、獣人など、属性がバラバラなのもおもしろいですね。
賀東:更にフェレスはハーフ○○○で、他にもハイ○○○やコモン○○○もいて(ネタバレにつき伏字)。
谷口:いろいろな種族を見せるとしたら、てっとり早いのは主人公チームがそうなっていることかなと思って。
――また逃がし屋の5人のキャスティングも個性的ですね。選ばれたポイントは?
橋本:キャラクターに合っているかどうか、キャラクターを見たら、その声で再生されるだけですね。ただウルラ役の三木眞一郎さんは本当に受けてくれるのかなと心配でした。セリフが言葉ではなく、「わん」とかだったので(笑)。アルガ役は迷いました。いろいろな方に声をかけて、オーディションさせていただきましたが、回りまわって速水 奨さんが一番合っているなと。やっぱりロボットだし(笑)。
谷口:ひどい!(笑)
橋本:速水さんとはだいぶ長いお付き合いをさせていただいているので(笑)。でもカッコいい声で悪いことを言ってほしいというのはありました。悪いことを言ってもカッコいい声なら許されるんじゃないかと。
あと前にいる同年代くらいの女の子3人がわちゃわちゃできるのも、どっしりした声優さんの三木さんや速水さんがいるからで。まるでお父さんに見守られているような(笑)。好き勝手言ったり、やっても「何とかしてくれるでしょ?」みたいな感じにしたくて。だからベテランと若い人の組み合わせで構成しようと思いました。
――キャストの皆さんにはどんなディレクションをされたのでしょうか?
橋本:キャラについてはディレクションをしましたが、そもそもTVアニメは広げていくお話なので、「ここの気持ちはこうで」と決め打ちで伝えるのではなく、「まずは想いのままにやってください」とお願いしました。その結果、広がって採用できるものもあると思ったので、あまり細かく言ってはなかった気がします。
だからエクア役の嶺内(ともみ)さんもフェレス役の高橋(李依)さんもマルテース役の長縄(まりあ)さんも最初は迷われたと思います。「どこまでやっていいのだろうか?」と。「すごく悪ふざけしてもまあまあ楽しんでくれてるみたいだし、大丈夫かな?」みたいな(笑)。第1話でマルテースが酔っぱらうシーンで「超おもしろいね」と言ったら、長縄さんも「超おもしろいね、でいいのかな」と戸惑われていたようで、終わった後、不安そうな顔をしてました(笑)。