『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』ククルス・ドアン役 武内駿輔さんインタビュー|アムロ・レイ役の古谷徹さんに言われた嬉しい一言に救われた
ククルス・ドアンを演じてから出会ったアムロ役古谷徹さんからもらった言葉とは?
ーーTVシリーズのククルス・ドアンと、映画でのククルス・ドアンの違いを、どのように考えていましたか?
武内:当時のドアンが子どもたちのために行動する理由のひとつに、贖罪があると思うんです。自分が犯してしまった罪を何とか償えないかというところで、残された子どもたちと幸せな平和な島を築いていく、そういう思いがあったと思うんですね。
でも今回のドアンは、贖罪の気持ち……子どもたちの親を手にかけてしまったという思いを、脱走兵になった時点で断ち切っている感じがしたんです。そういう苦しみを周りに絶対に見せない人物像になっていたので、当時よりも心がものすごく強靭な人間になっていると思いました。
そこが強くなったことで、彼がなぜ脱走という手段をとったのかという理由も明確化されてくるというか。個人で国の意志には逆らえないけど、自分一人ではどうにもならない状況に巻き込まれたとき、自分自身が周りに流されずにどう行動に移すかだと思うんです。ドアンは今回、それを実行に移すことができた。そして、支配されるのが嫌ならば新しい平和なコミュニティを作ろうという結論に至ったんですよね。争いがツラくて逃げたわけではない。それが今回のドアンなんだと思います。
だから、子どもたちに対する接し方も、お互い依存しあっていない関係性なんですよね。ドアンはドアンで自立した人間であるし、そんなドアンの姿を見て、子どもたちも彼に依存しない生活を過ごしている。自分たちでどうしたら乳が絞れるのか、農作物ができるのかを考えながら意見交換し合って生活しているところが、当時と今回の違いだと思います。
ーー古谷徹さんは15歳のアムロを演じられていましたが、アムロはいかがでしたか?
武内:キャラクターでいうと、意外と最初のシリーズのアムロって、もやし少年で、それがだんだん成長していく姿が描かれていくんですよね。その成長がより細かく見られるのが今回の「ククルス・ドアンの島」なのではないかと思っていて……。
戦士としてやっていく中で、TVアニメのアムロは成長していくんですけど、今回は戦いを通してというより、集団行動が苦手な少年が、集団行動によって生活を維持している枠の中に入ることで人間的に成長するんです。それは当時もなかなかない表現だと思うので、今作のアムロの魅力的なところだと思うんですよね。
自分と同じくらいの多感な感性をもった青年・マルコスという存在も当時はいなかったですし、なぜ登場させたかと言えばそういうことだと思うんです。育ち方が自分と違う少年をぶつかったことで得られたものがあったので、戦士としてではなく、イチ人間としての成長が描かれていたなぁと思います。
そして古谷さんはそこをものすごく汲み取られていて。当時よりもさらに集団を理解できない演技とか、「は?」っていう一瞬の息遣いとか。それだけでアムロは慣れていなくて、どうしていいかわからないんだなって伝わってくるんですよね。
当時の古谷さんも素晴らしいんですけど、そういう細かい表現みたいなところ、より繊細なところに磨きがかかっている感じがしたというか。変な話、体って必ず老いていくし、不自由になっていくものなんですけど、それと逆で、肉体がバリバリなときのものよりも良いものを生み出せちゃうというのはどういうことなんだろうなと思いました(笑)。ものすごく勉強になりましたし、もう脱帽……という感じでした。
ーーアフレコは、誰かと一緒にできたのですか?
武内:完全に一人でした。ただ、皆さんの声がほとんど入りきっている状態ではありました。
ーー武内さんのククルス・ドアンについて、古谷さんから何か言われたりしましたか?
武内:「はじめまして」が収録後で、僕も緊張していたんですけど、第一声が「ドアンをやってくれて良かった」で。「僕が頭の中で聞こえていた音そのままだった」と言ってくださったので、もう思い残すことはないわ~って思いました(笑)。
ーーまだ、24歳なので(笑)。
武内:そして別現場でお会いしたときも、「低く響く良い声だね」って言ってくださって、やっぱり、もう思い残すことはないなって思いました(笑)。
ーードアンは、モビルスーツのパイロットであり軍人ですが、演じる上で意識したことはありますか?
武内:ディレクションでいうと、子どもたちに対する接し方と、自分の仕事でミサイルを動かしに行っているところの切り替えは、思った以上にはっきりとやって大丈夫と言われました。それによって、ドアンの精神的な強さをより描けるということだと思うんですよね。
キャラクター作りに関しては、歴代演じていた方のことを調べたり、ガンダムの世界で描かれる、ドアンと同い年くらいのキャラクターはどんな演技をしていたのかなどを参考にしていきました。
どうしても僕は世代が違うし年齢も違う。ただ、アムロは当時から変わらないし、監督も安彦さんなので、そのまま入ると浮いてしまう気がしたので、当時の軍人像というか。描かれていた40年前にやっていた人たちがイメージする軍人像はこんな感じ、というのを、なるべく引き継げるようには意識していました。
ーー演じる前に研究して入ったのですね。それは毎回ですか?
武内:役柄とか題材によりますね。ただ僕はモノマネ好きだったりするので、完成したものからヒントを得たり、誰かからヒントを得たりするやり方をすることは多いんです。
ーーモビルスーツに乗るというのはどうでしたか? パイロットになったときのお芝居に何かコツなどはあるのでしょうか。極端な話、たとえば操縦席に座った感じを出すために姿勢を変えるとか。
武内:猫背で操縦しているわけではないし、ドアンってガタイもいいから、そういう意味では姿勢は気にしますね。ちょっと胸を開いて演じるというか。おっしゃる通り、ちょっとした首の角度とかで、出る音って意外と変わったりするんですよ。そういう意味では、実際にキャラクターがどういう姿勢をしているのか、どんな絵をしているのかというのは、ちゃんと見ながら演じています。
その点、今作は、キャラクターの動きに関してはほぼ出来上がっている状態だったし、作画がものすごくきれいだったので、アニメーターさんの演技力がものすごく高い作品だと思います。だから僕たちは、そこで起こっていることを具現化するだけで良かった。スタッフの皆さんの力に感謝しながら取り組むことができました。
ーーTVアニメでもそうでしたが、アムロがドアンに武器を捨てさせるラストは印象的でした。この島で、アムロは何を得たと思いますか?
武内:ドアンの武器を捨てているようで、アムロ自身の武器も捨てている気がするんですよね。難しいラインの話かもですけど、アムロって脱走したわけではなくホワイトベースという帰る場所があるので、ガンダムは捨てられないけど、自分としても戦争というものに抗えない中で、脱走して一つの島を築き上げたドアンの姿勢を見て、大多数の意見に巻き込まれたときこそ、自分自身の意見をちゃんと持ち、それを行動に移すことが大事なんだって知ったと思うんです。
そうなったとき、この島で起こりうる争いごとや、危険なことをより避けるためにはどうしたらいいのかというところで出した結論だったと思うんですね。
そういった意味ではドアンはずっと心の中で一人で戦い続けていて、周りに弱みを見せなかった。それをアムロという存在が背中を押してくれたというか。もう大丈夫です。あなたは武器を捨てきってもいい人間なんですと伝えたんじゃないかなと思います。
ーーでは最後に、映画の見どころをお願いします。
武内:自立性とかに焦点が当たっていると思いますし、今ってSNSで、他人の意見に自分の意見をぶつけるような風潮が流行っていたりすると思うんですけど、無益な争い事っていうのも増えている時代だと思うんです。でもそれって結局何も生まなかったり、その中で傷ついている人も実はいっぱいいる。
武器を捨てて、戦いではなく対話することで人間同士で成長することができるし、良いコミュニティを作ることができるんだよっていうメッセージも映画にはあると思ったんです。40年も前の作品なのに、現代人に伝わるようになっているところがすごく魅力的だと思います。ガンダムを好きな方もそうですし、お話としてはガンダムを知らない人でも独立している分、見ることができる映画だと思うので、ぜひ幅広い世代と層の方に、気軽な気持ちで劇場に足を運んでいただけたらと思います。
映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』
公開時期:6月3日(金)全国ロードショー
配給:松竹ODS事業室
STORY
オデッサ作戦を控えたアムロたちホワイトベース隊は、「帰らずの島」と呼ばれる無人島での残置諜者(敵地に残って破壊諜報活動などを行う兵士)掃討の任務を拝命する。
捜索に当たっていたアムロは1機のザクと遭遇、囚われの身となってしまう。目覚めたアムロが見たのは「ククルス・ドアン」と名乗る男と20人の子どもたちであった。
アムロは失ったガンダムを取り戻し、島の秘密へとたどり着けるのか?
メインスタッフ
企画・制作:サンライズ
原作:矢立 肇 富野由悠季
監督:安彦良和
副監督:イム ガヒ
脚本 : 根元歳三
キャラクターデザイン:安彦良和 田村 篤 ことぶきつかさ
メカニカルデザイン:大河原邦男 カトキハジメ 山根公利
総作画監督 : 田村 篤
美術監督:金子雄司
色彩設計:安部なぎさ
撮影監督:葛山剛士 飯島 亮
CGI演出:森田修平
CGI監督:安部保仁
編集:新居和弘
音響監督:藤野貞義
音楽:服部隆之
製作:バンダイナムコフィルムワークス