アニメ『恋は世界征服のあとで』OP主題歌「恋はエクスプロージョン (feat.田村ゆかり)」シングル発売記念 オーイシマサヨシ ロングインタビュー|「 アニソン界のおしゃべりクソメガネを自称する僕と、王国の姫という、身分の違いがあるふたりがデュエットすることが面白いんじゃないかと」
突然訪れたスランプに戸惑いも
――そのツアー中に、“どっかーん”とシングル「恋はエクスプロージョン (feat.田村ゆかり)」がドロップ。TVアニメ『恋は世界征服のあとで』OP主題歌としても話題のデュエットソングです。
オーイシ:実は1年くらい前には書いてて、レコーディングも終わっていたんです。
――さすがアニメタイアップだから早いですね。
オーイシ:そうですね。特にここ最近は納期が早くなってきています。でもそのちょうど1年前が……自分がスランプを抜けた時期だったんですね。スランプだったのは2年くらい前で。それが「インパーフェクト」 (『SSSS.DYNAZENON』オープニング主題歌)の曲を書いている時期だったんですけど、うまく曲を書けなかったんですよね。その時は結構苦しくて。今までそういうことがなかったので、自分でもびっくりしていました。
――2年前……というと、コロナ禍がはじまってどうしていいか分からない時期でしたよね。
オーイシ:そう。緊急自体宣言が出て、「ステイホーム」と皆さんが発信していた時期ですね。(スランプになったのは)確実にコロナの影響でした。世の中の閉塞感や、ライブが延期・中止になったりする中で、自分の居場所がなくなっていくような気がして。周りのスタッフや周りのアニソンクリエイターに相談することもありました。オンラインで夜な夜なアニソンクリエイターを集めて飲み会をしたことも。あまり自分からそういうことをしないタイプだったんですけど「そっちの世界はどう?」といろいろな人とお話して。
――「インパーフェクト」には<街中にバラ撒いた窮屈で不安定な感情>という言葉があったじゃないですか。ある意味、オーイシさんの気持ちでもあったのかもしれませんね。
オーイシ:ああ、ありましたね。作品に寄り添った言葉ではあるんですけど、知らず知らずのうちに、自分のドキュメントも含まれていたのかもしれません。
――スランプの時期をどうやって抜けられたんですか?
オーイシ:とにかく書く。できるまで書く。それしか方法がなかったです。スランプの抜け出し方っていろいろあるじゃないですか。一回休憩してみるとか、できるまでやるとか。僕の場合は待たせているクライアントさんがいたので後者でしたけど。
――タイアップ作品の場合は、待ってらっしゃるかたがいるからこそ、「スランプなんです」とは気軽に明かせない状況ですよね。しばらくしてからこそ言えるお話というか。
オーイシ:そう、弱音は吐けない。でも夜な夜な逃げるように弾き語りで配信していて。でもそれについては何も言われずで、今思えば、きっと見守ってくれたんだろうなと思ってます。いい人たちに囲まれて幸せです。
――もともとOP主題歌を男女のデュエットソングにしたいという強いこだわりがあったとうかがっていますが、スランプの先に、そのこだわりが生まれたのでしょうか。
オーイシ:前回のアルバム『エンターテイナー』で、シンガーソングライターのりりあ。ちゃんとデュエットをしていて。それはステイホームの中で周りのクリエイターと「何かクリエイティブなことをしたいね」って話していて、それで集まったのが「神或アルゴリズム(feat.りりあ。)」のMVを作ってくれた監督(&キャラクター原案)、プロデューサー、制作会社のTriF studioさん、うちのレーベルディレクターだったんです。架空の主題歌を書いて、アニメーションに落とし込もうと。
その中で、りりあ。ちゃんを呼び込んでデュエットすることになったんですが、デュエットしようと思ったのは、外の力を入れて風通しをよくしたかったというのと、自分以外の声が乗る音源って今まであまりなかったので、そういう音源を作ってみたいなという思いがあって。無理を言ってりりあ。ちゃんに参加してもらいました。今、りりあ。ちゃんは、アニメ映画『バブル』のエンディングテーマとヒロイン・ウタの声優も務め、大活躍中で。あのタイミングでしかできなかったことだなと思います。そういうことをやっていくうちに、(メンタルが)健康になってきたというか。
――自分以外の方とクリエイトしていくうちに。
オーイシ:お客さんと直接関われなくなって、いろいろな志を持ったクリエイターさんたちと関わりを持つことによって、自分のクリエイティブも奮い立っていって。しぼんでいた心が元に戻っていった感じがありました。そうしたことがあった後、TVアニメ『恋は世界征服のあとで』のお話をいただいて。原作を読んでいる中で、男女のデュエットがいいなと思ったんですよね。恋愛ドタバタ劇みたいな感じを男ひとりで歌うとちょっと物足りないかなと。で、最初に候補に上がったのが田村ゆかりさんでした。
――へえ! その理由は?
オーイシ:田村さんと言えば王国を築き上げられた方で。アニソン界に置いてもお姫様のような存在じゃないですか。で、かたや僕は、“アニソン界のおしゃべりクソメガネ”を自称する存在(笑)。クソメガネと姫という、身分の違いがあるふたりがデュエットすることに面白みがあるんじゃないかなと。それと作品の中に“秘密にしておかなければいけない恋”、“誰か隠れてする愛”といったテーマ感があると思うんですけど、そういうものも田村さんと僕でデュエットすることで表現できるんじゃないかなと思いました。それで田村さんにお声がけしたらまさかのオッケーをいただけて、すごくびっくりしました。
――もともとやりとりはあったんですか?
オーイシ:いえ、なかったんです。でも5年前の“アニサマ2017”の時、「バラライカ」でコラボレーションしてるんですよ(田村ゆかりxOxT)。それもあったので、オーイシマサヨシがどんなやつかっていう認識はあったと思うので、お声がけしやすかったところはあります。ご快諾いただいたあとに、僕が2人分歌っている仮歌を送らせてもらいました。
――懐かしい昭和の雰囲気も感じる曲ですが、イメージはすぐに湧いたのでしょうか。
オーイシ:わりと早かったですね。『恋は世界征服のあとで』は、往年のすれちがいコント感がある作品だなと思っていて。それと設定の王道感、レトロ感。ヒーロー戦隊「ジェラート5」、秘密結社「ゲッコー」のコミュニティ感っていうのが、昭和のヒーローに近いなと感じていたので、昭和メロディ感のようなものを一部に入れられたらいいなと思っていました。
いただいたオファーは「カッコいい感じの特撮ソングで」ということだったので、そこに自分の中で捨てられなかった昭和レトロな雰囲気を入れて、まぜこぜにしてみようかなと。Aメロはタイトな16ビートで、ラップが入ってて。エレキギターと同じラインをメロディーでなぞるっていう、特撮でありそうなシチュエーションをしながら、Bメロやサビで懐かしい雰囲気に。「もしかしたら松田聖子さんが歌ってたんじゃないか?」って思うような、8ビートのメロディにして。それをデュエットすることで新しい化学反応が起きないかなと思ってました。
――田村さんは昭和アイドルの神楽坂ゆかさんのお友達ですし、松田聖子さんのカバーもされていますし、そういった意図も理解してくれそうですね。
オーイシ:実際に1テイク目からほぼオッケーという状態でした。どこの馬の骨か分からないメガネの曲を事前にしっかりと覚えてきていただいたことに尊さを感じましたね。本当にプロだなって。どんな仕事も手を抜かず、愛を持って、自分の持てるポテンシャルを発揮するって本当にすごいことだと思います。本来、もっと偉そうにしていてもいい人なのに、こっちのレベリングに合わせて、リラックスしたムードにしてくれて、いたく感動しました。
――ところで昭和レトロな雰囲気といえば、オーイシさんの「沼」や「学園天国」のカバーを思い出します。
オーイシ:「沼」はまさに昭和レトロ歌謡ですね。レトロというか、もう僕は現役なので(笑)。42年生きていたら自分がリアルタイムで聴いていたものもレトロになるんだなと。だってTik Tokで「学園天国」が流行る時代ですから、すごいですよね。若い子にとっては新鮮なんだろうなと思います。
――堀海登さんと鈴木ゆうかさんが出演されているミュージックビデオも話題となっています。MVの見どころを教えて下さい。
オーイシ:アニメの世界、楽曲の物語をなぞらって、ライバル店であるお肉屋さん、お魚屋さんのせがれと娘が秘密裏に付き合っているという物語です。堀海登さんと鈴木ゆうかさんのおふたりは、ABEMA TVの恋愛リアリティ番組「オオカミ」シリーズにも出演されていてMV以外のところでも秘密の恋を連想させるようなキャスティングというのがニクいなぁと思いました。
あと僕が主題歌を歌わせてもらっている『A3!』でシトロンを演じる五十嵐雅さんが御曹司役で参加してくださっていて。パンチの効いた、いい演技をしてくれているんですよね。『A3!』のファンからすると、僕と五十嵐さんの関係値も読み取れるところもあると思うんです。一部の方がざわっとしてくれそうな、キャスティングの妙というか……それは僕が想像したものではなく、監督が勝手にしてくれたもので面白いなと思いました。そもそも僕は五十嵐さんが出るって知らなかったんですよ(笑)。あとでラインナップを見て「五十嵐さんいるじゃん!」って。