夏アニメ『リコリス・リコイル』キャラクターデザイン いみぎむるさんインタビュー|初めてアニメのキャラクターデザインを担当して感じたこととは【連載 第2回】
2022年7月2日より放送がスタートするオリジナルTVアニメ『リコリス・リコイル』。監督・足立慎吾さん(代表作『ソードアート・オンライン』)×ストーリー原案・アサウラさん(代表作『ベン・トー』)×キャラクターデザイン・いみぎむるさん(代表作『この美術部には問題がある!』)×制作・A-1 Pictures(代表作『かぐや様は告らせたい』)という、スタッフ陣を見るだけで、どんな物語が展開されるのか、ワクワクしていることだろう。
アニメイトタイムズでは、作品誕生の経緯や声優陣の演じるキャラクターに対する想いに迫る放送開始直前の連載インタビュー(全4回)を実施しています。第2回は、キャラクターデザインのいみぎむるさんに、『リコリス・リコイル』に登場する魅力的なキャラクターたちのデザインが、どのように生まれたのかを語ってもらった。
監督の並々ならぬこだわり、色んなパターンを描いたキャラとは?
――オファーは監督からだったと聞いているのですが。
いみぎむるさん(以下、いみぎむる):冬コミで足立さんとお会いして、そのときに初めてオファーをされました。自分のサークルの前を足立さんが通りかかり、サークルの売り子をやってくれていた友達がたまたま足立さんの知り合いで、呼び止めてくれたんです。お互い初対面だったんですけど、ずっと足立さんのファンだったので、テンションが上がりながら、ご挨拶をさせていただいたのを覚えています。
足立さんも私の作品を見てくれていたみたいで、そのときの立ち話で、今度仕事の話をメールしていいですか?と言われ、二つ返事で「ぜひぜひ!」と答えていたんです。コミケの場でしたし、足立さんの同人誌のゲストイラストみたいなお話なのかな?と思っていたら、年が明けてDMが届きまして「オリジナルアニメのキャラクターデザインなんですけど……」っていう(笑)。
――とてつもないオファーでしたね(笑)。
いみぎむる:想像の10倍くらいのものが来たので、驚きました。
――足立さんの絵にはシンパシーのようなものを感じていたのですか?
いみぎむる:というよりも、すごく影響を受けています。特に『WORKING!!』は設定資料集なども買っていましたし、漫画家デビューしたてのときから影響は受けていました。もともとシンプルな絵が好きなのですが、足立さんの絵はシンプルながらもバランスがすごく良いので、大好きなんです。
――足立さんの絵が好きな人は、いみぎむるさんの絵も好きだろうなという、何か共通するものは感じていました。ただ、キャラクターデザインの経験はないですよね?
いみぎむる:ソーシャルゲームで原案などはやらせていただいたのですが、アニメのキャラクターデザインというのは初めてでした。やっぱりイラストレーターや漫画家って原案まで、というイメージがあったので、キャラクターデザインですか!?って、最初は思いました。
――ルールや作法的なところは足立さんに相談しながら、という感じですか?
いみぎむる:そうですね。三面図を描いたことがなかったので、どうやって描けばいいのかもわからないですし、何より昔の絵を見返すというのが苦手なんです。でも設定画って、1年以上経ってからも現役のアニメーターの方々が使うものなんですよね。なので、1~2年後に自分がこのキャラクターを気に入っているのだろうか。この髪型で、この目つきで良かったのかな?って後悔してしまうんじゃないかという心配がありました。
漫画の場合は1人で描いているので微調整ができるんですよ。ちょっと髪型変えちゃおうとか、目つき変えちゃおうってことができるんですけど、アニメではそれができないので、2年後も現役で使える正解を描かなければいけないというプレッシャーはすごかったです。
――しかもアニメだと、動かせるように線を減らさなければいけないですしね。どの線を選ぶかというところで洗練された技術が必要なイメージがあります。
いみぎむる:そうですね。線を思うまま描いてしまうと動かせないということになりますし、減らしすぎてしまうと、それはそれで物足りなくなるのではないかとか。経験がないのでわからなかったんです。なので足立さんには「原案ではダメでしょうか?」という話を2回くらいしました(笑)。でもその都度説得をされて……。
――どういう理由でデザインをしてほしいということだったのですか?
いみぎむる:「とりあえず、いみぎさんの絵で動かさないと意味がない」と言われたんです。それはすごくありがたいことでした。足らないところがあったらこちらで足しますし、サポートはしますので、という話や、『ソードアート・オンライン』の設定画などもいただいて、勇気をもらいながら進めていきました。
――監督がアニメーター出身で、絵が完璧に描ける人でもあるので、そのプレッシャーもあったのではないですか?
いみぎむる:変なものを提出して、変な空気になったらどうしようみたいなところはすごくありましたね(笑)。デザインを終えて、そこから設定画を描くタイミングが、一番プレッシャーが大きかったと思います。
――キャラクターのデザインに関しては、監督と相談しながら作り上げていく感じだったのですか?
いみぎむる:そうですね。でもほぼ自由にやらせてもらえました。LINEでやり取りしつつ決めていった感じだったと思います。キャラクターたちの性格などのベースや、ストーリーのプロットや設定はすでにできていたところで参加したので、デザインはやりやすかったです。たきなに関しては、最初から「黒髪ロングで」という指定もありましたし。ミカも黒人のキャラクターであることは決まっていました。
――錦木千束のデザインは、どのように出来上がっていったのでしょうか?
いみぎむる:たきなが黒髪ロングだったので、メイン2人は対称的な感じにしようとまず思いました。たきなは髪を飾り付けたりはしないだろうから、千束はリボンを付けて、髪型も左右非対称にして、白っぽい髪色にする。たきなの逆にするようにしていたので、わりとスムーズでした。
ただ特徴的な髪型が何なのかというところでは、とにかくパターンをたくさん出して、最終的には足立さんと相談しながら、AのこことBのここ、みたいな感じで、いろんな案を組み合わせて調整しました。
――そのポイントというと?
いみぎむる:向かって右の髪が、結っているほうに上がっているのが特徴的なんです。左耳だけが見えているんですが、耳上の髪が上に上がっているというデザインはあまり見ないし、ここがいいですねっていう話をしていたので、結構ポイントだと思います。
――では、井ノ上たきなのポイントは?
いみぎむる:黒髪ロングでシンプルというのがポイントです。お店ではツインテールになるんですけど、髪型を変えることへの作画のカロリー的なところがわからなかったので、そこは確認させていただき、全然大丈夫とのことでしたので変えさせていただきました。
――中原ミズキやクルミについては?
いみぎむる:ミズキは最初、メガネをかけていなかったんですけど、メインの女の子4人で、1人はメガネを掛けさせたい。それならミズキしかいないという流れでした。ミズキも監督からのリクエストは特になかったんです。飲んだくれている設定はその時あったのかな? 結婚したいのにできない、というのはあった気がしますが、大人な知的なお姉さんのつもりで描いていた記憶があります。なので声が付いたときに、こんなにザンネンな人だったんだ!と思いました(笑)。
クルミも自由でしたね。足立さんは幼女に並々ならぬこだわりがあるようで、いろいろなパターンは描きました。自分の漫画で金髪幼女でおでこが出ているキャラクターがいるのですが、そこと似ないようにと言われていたんです。でも、ツイッターで似ていると書かれて悔しかったです(笑)。
――かなり共通点が多いですからね……。
いみぎむる:そうなんですよね。自分の好きなものを詰め込んだら、こうなってしまったのかもしれません。クルミの場合はけだるげな目が特徴になります。最初はヤンチャな子供っぽいキャラクターだと思っていたのですが、ミカと対等に話せるくらい賢いキャラですと教えていただいたんです。なのでデザイン的には初期と最終型が一番違うキャラクターかもしれません。
――ミカのデザインは特に素晴らしく、こういう渋い年齢を重ねた男性の絵って、実は難しいと思っていまして。でもしっかりとリアリティがありつつ、いみぎさんの絵に落とし込んでいると思いました。
いみぎむる:ありがとうございます。今までまったく描いたことがなかったんですよ。漫画にも若いキャラクターしか出てこなかったので、おじさんを描くことがなかったんです。だから困ったんですけど、描いていた当時を思い出すと、おじさんキャラをたくさん調べていた気がします(笑)。
あと、ミカに関しては絶対に和服を着させようと思いました。和服を着せたデザインを見せたところ、足立さんが良いと言ってくれたので、そこからはトントン拍子でした。ミカも結構早かったので、千束の髪型とクルミが少し時間がかかったくらいですね。