実際はどんな神様!? 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』女神・男神大図鑑! #5|執念深い美の“女神”・イシュタル編
シリーズ累計発行部数が1200万部を突破した、大人気小説『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(原作:大森藤ノ イラスト:ヤスダスズヒト GA文庫/SBクリエイティブ刊/通称ダンまち)。
2022年7月22日より最新TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 新章 迷宮篇』が放送・配信中です!
盛り上がりを見せる『ダンまち』ですが、作品の鍵となる存在はやはり「個性豊かな神々」ではないでしょうか。
アニメイトタイムズでは、本作に登場する神々が、実際にはどんな神様なのか紹介する連載を実施中です。
実際に世界中で語り継がれている神話の神々との関連性や、劇中でのエピソード、ファミリアの情報などを解説!
第5回目はメソポタミア神話、シュメール神話などに登場する「神・イシュタル」。神々の事を知って、『ダンまち』をより楽しく鑑賞してみませんか!?
◆『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 新章 迷宮篇』キャスト連載メールインタビューはこちら
メソポタミア神話とは?
メソポタミア文明が生まれた現トルコ、シリア、イラク一部分であるユーフラテス、ティグリス川の周辺で書かれた物語。
中でもペルシア湾に面したシュメル(シュメル人が住むためそう言われた)が起源となり後に世界へと広がっていきました。シュメル人は「楔形文字(最初は絵文字)」を開発し、言葉と文字を駆使して人類最古の都市文明を形成します。
その中で文学作品として生まれたのが「シュメル神話」です。その後北へと伝播していった後「メソポタミア文明・神話」が形成されていきました。
シュメル人は非常に高度な文明を持っていましたが、メソポタミア文明圏のその他民族が力を付ける中で消滅。シュメル人の出自や最後は謎に包まれています。
また「シュメル神話」は、後世の神話や物語に影響を与えています。「旧約聖書」などで語られる「ノアの方舟」のお話もシュメール神話の「大洪水伝説」から来ていると言われています。
高度な文明社会の下で書かれた神話には、人間の死生観を取り扱ったものから、ネゴシエーションを題材にしたもの、ビールやパンを飲み食いする神のお話などバラエティに富んでおり、これまで紹介した神話とはまた違った楽しみ方が出来るでしょう。
複雑にして最高の女神・イシュタル
シュメル人が生み出した神話を完全に復元するのは難しいと言われています。粘土板に書かれた文字の解読の困難さに加え、メソポタミア中の都市国家内に数多く残されているため、矛盾が絶えないものとなっているからです。
そのため、物語だけでなくイシュタルの神話や性格なども地域によって様々です。メソポタミア文化圏以外でも彼女を原型にしたとされる女神が存在し、「ギリシア神話」のアフロディーテもその1人とされています。
「イシュタル」はアッカド語での呼び名であり、原典である「シュメル神話」ではシュメル語で「イナンナ女神」と呼ばれています。シュメル人が居なくなってしまい、シュメル語話者が消えたことで、メジャーな言語へと移り変わっていったのでしょう。
シュメル人の最高女神とされるイナンナの名前の意味は「天の女主人」。
しかしイナンナを表す絵文字は「豊穣」を意味するものだったという説も。地上の豊穣の神なのか、はたまた天上界の最高女神なのか、いつ変化したのか……イシュタル(イナンナ)については多くの言説が存在しています。
シュメル3神との関係性
シュメル神話には、三柱と呼ばれる偉大な神々が存在します。天の神・アン、風の神・ニンリル、大地の神・エンキの3神です。
アンの娘であるイナンナはその3神と並ぶ程の神様だと言われています。その理由はエンキとのエピソードにて描かれています。
大地の主人と呼ばれるエンキは、繁殖と豊穣を司る偉大な神。また、シュメル神話で重要な概念である「メー」(※1)も彼の管理下にありました。
※1……自然界に存在する、必ず従わなければならない掟のようなもの。「和平のメー、知識のメー、虫歯のメー」などありとあらゆるものに設定されている。筆者は「そのものの本質的な定義」と解釈した。
エンキはイナンナを自分のものにするべく、飲み会へ誘います。酒やケーキなどを振る舞いますが、イナンナはエンキの思惑に気づいており、逆に彼を泥酔させて、この世のメーの殆どを譲渡する約束を取り付けさせてしまうのです。
イナンナがメーを持ち帰り、大きな力を手に入れたことで、彼女の住むウルクがシュメルの主要都市になったと言われています。
イナンナが高い位を持つ神様だというのが分かると同時に、彼女の策略家な側面が垣間見えるエピソードといえるでしょう。
イナンナの冥界下り
イナンナの神話で最も有名なエピソードが「冥界下り」の物語。彼女がイシュタルという名前に変わってからも似たような話が各地で書かれているようです。
ある時、彼女は妹が住む冥界へ行こうと考えます。(冥界を支配する魂胆だったと推測されるが、特に言及はされていない)冥界に行くには7つの門を通過せねばならず、計7人の門番にそれぞれ何かを与えなければいけません。
イナンナは身につけていた衣装や装飾品を門番に与えていき、最後には裸になってしまいます。突如現れた全裸の姉に対して、妹は裁きを下し殺してしまうのでした。
しかしイナンナは、「自分が戻ってこなかったら他の神々に助けを求めるように」と侍女たちに伝えており、その要請に応じたエンキが使者を送りイナンナを生き返らせます。
イナンナは何事も無かったかのように帰ろうとしますが、冥界から帰るには生贄が必要でした。
そこで、妻の身に危険が迫っているにも関わらずアクションを起こさなかった夫・ドゥムジ神を生贄に捧げてしまいます。ドゥムジは姉のゲシュティンアンナに助けを求めますが、結局姉弟もろとも冥界へ。
流石に可哀想だと思ったイナンナは、2人を半年ごとに交代で地上に来ることが出来るように手配をするのでした。
ドゥムジとゲシュティンアンナは牧畜の神とぶどうの木の神で、牧畜とぶどう栽培のサイクルに合わせた物語の結末では?と言われているようです。
イナンナの身勝手さ、自分の夫を生贄に捧げる冷徹さ、そして救済する慈愛心を感じる事ができるエピソードとなっています。
夜の街を統べる美の女神『ダンまち』におけるイシュタル(CV:本田貴子)
迷宮都市であるオラリオには大きな歓楽街が存在します。そんな愛憎渦巻く夜の街を支配しているのがイシュタル・ファミリアであり、その主神がイシュタルです。
美しい髪と褐色の肌、抜群のスタイルを持つ彼女はフレイヤと並ぶ「美の女神」。ベルに接触したのも、彼がフレイヤのお気に入りであるためで、彼女への強い対抗心を持っていることが分かります。
イシュタル・ファミリアは戦闘娼婦(バーベラ)と呼ばれるアマゾネス中心のファミリアで、イシュタルは「魅了(チャーム)」を眷族達に施し従えています。ファミリアのメンバーは歓楽街での仕事の他、戦闘などもこなします。
フレイヤへの対抗心
フレイヤとイシュタルは同じ美の女神ですが、2人の間にはファミリアの規模や人気など格差があるようです。その嫉妬心からイシュタルは「打倒・フレイヤ」を掲げ、虎視眈々と策略を練ります。
その鍵となったのが、現ヘスティア・ファミリアのサンジョウノ・春姫。彼女を娼婦として働かせ、彼女の持つ階位昇華(レベルブースト)の魔法を使って眷族達を強化していました。また「殺生石」というアイテムを使い、春姫の命を犠牲にさらなる力を手に入れようと画策。
イシュタルはフレイヤが惚れ込んでいるベルにも目を付け、歓楽街におびき寄せ、魅了(チャーム)してフレイヤから奪おうとします。しかしベルのスキル・憧憬一途(リアリス・フレーゼ)は魅了(チャーム)が効かないという効果も持っており、計画は失敗。
さらには、ベルが春姫を救出したことによって、フレイヤを倒すための計画も阻止されてしまいます。
フレイヤとの争いの結果は……?
イシュタルがベルにちょっかいを出したことを知ったフレイヤは、オラリオ随一の戦力を誇るフレイヤ・ファミリアのメンバーに、イシュタル・ファミリアへの攻撃を命令。
ベルに春姫を救出され、後がないイシュタルは逃走しますが、フレイヤに見つかってしまいます。側近であるイシュタル・ファミリア副団長のタンムズ・ベリリなどもフレイヤの魅了(チャーム)にかかり再起不能に。
美の神である自身の魅了(チャーム)を上書きされてしまうという最大の屈辱を受け、自身とフレイヤの違いを問うと、フレイヤは嘲るように「品性」と回答。
その言葉に逆上し襲いかかりますが、実力は到底及ばず塔から突き落とされ、天界へと送還されるのでした。
イシュタル・ファミリア メンバー紹介
フリュネ・ジャミール(CV:斉藤貴美子)
35歳
イシュタル・ファミリア 団長
Lv.5
二つ名:男殺し(アンドロクトノス)
種族:アマゾネス
巨体、おかっぱ、褐色、ヒキガエル似という個性盛りだくさんの戦闘娼婦(バーベラ)。ベルやアイズにモンスターと勘違いされるほどの強烈なビジュアルを持つ。
性格は利己的で、ファミリアの団員との関係も悪い。また自身への評価が高く、誰よりも美しいと信じて疑わないナルシスト。
しかしLv.5なだけあって実力は高く、その執念深さも相まって厄介な冒険者。
タンムズ・ベリリ(CV:坂泰斗)
年齢不詳
イシュタル・ファミリア 副団長
Lv.4
種族:ヒューマン
イシュタル・ファミリアの副団長。イシュタルの側近として、常に彼女の隣に仕え、命令を遂行する。
イシュタルの「魅了(チャーム)」を受けていたが、フレイヤに「魅了(チャーム)」を上書きされてしまう。
アイシャ・ベルカ(CV:渡辺明乃)
21歳
イシュタル・ファミリア
Lv.4
二つ名:麗傑(アンティアネイラ)
種族:アマゾネス
魔法:ヘル・カイオス
イシュタル・ファミリアでフリュネに次ぐ中心人物。容姿端麗で、戦闘も得意としている。義理堅く、アネゴ肌であり他の団員からの信頼も厚い。
イシュタルに利用されていた春姫を気にかけており、その事でイシュタルの「魅了(チャーム)」によって辱めを受けてもなお彼女を思っていた。
イシュタル・ファミリア消滅後には、ヘルメス・ファミリアに改宗(コンバージョン)し、ベルたちに力を貸すことも。
■スキル・魔法について
・ヘル・カイオス……剣から巨大な斬撃波を放つ攻撃魔法。並行詠唱することによって戦闘しながら撃つことができる。
サミラ(CV:藤原夏海)
22歳
イシュタル・ファミリア
Lv.3
二つ名:乱士(バイト)
種族:アマゾネス
銀髪ショートヘアの美女。一人称は「俺」で、男勝りな性格。
アイシャとも親交が深く、ファミリア消滅後も関係が続いている。
レナ・タリー(CV:M・A・O)
16歳
イシュタル・ファミリア
Lv.2
二つ名:爛花(プールス)
種族:アマゾネス
アイシャの妹のような存在の少女。元気で朗らかな性格。
ロキ・ファミリアのベート・ローガに惚れている。
参考
「面白いほどよくわかるメソポタミア神話: スラスラ読めて一気にわかる神々の物語 ミスペディア神話シリーズ (神話が好きになるポケット文庫シリーズ)(ミスペディア編集部、高安正明)」
「シュメル神話の世界―粘土板に刻まれた最古のロマン(岡田 明子、小林 登志子)」中央公論新社