絶望系アニソンシンガーというより、アニソンシンガーとしてのReoNaが詰まっています──「シャドーハウス×ReoNa」で魅せる、新しいお歌のセカイ ReoNaロングインタビュー
はじめて作詞にクレジット 故郷を想うお歌
――「ネリヤカナヤ ~美ら奄美(きょらあまみ)~」は、ReoNaさんの故郷、奄美大島を思って歌われた曲。歌詞には、奄美大島の方言「島口(しまぐち)」が使われています。
ReoNa:今回の「シャル・ウィ・ダンス ?」は、「ないない」以来、久しぶりのアニメの主題歌なんです。そして、ひとつ前の『Naked』は、言葉の通り、ReoNa自身の内側を出した作品で。そこで原点やルーツを歌ったのですが、でも私がまだお歌にしていない原点って残ってるよな……というところから、故郷の歌を作っても良いのかもしれないと。それで「今回の曲のテーマは奄美大島にしましょう」と。
――作曲は堀江晶太さん。そして、作詞のクレジットには、傘村トータさんと、そしてReoNaさんの名前が。今まで思いを書いたメモを渡すことはあっても、作詞のクレジットに入るのは初めてですよね。
ReoNa:はい。堀江晶太さんから美しく壮大なメロディーが上がってきて、傘村トータさんと「どういう歌詞にしようか」というお話をして。そのときに「実は“美しい”って奄美大島では美ら(きょら)って言うんです」と、傘村トータさんに話したことがきっかけでした。それで「普段こういう言葉に励まされました」「この言葉はこうやっていいます」っていうお話や、ネリヤカナヤ(桃源郷、ユートピアの意)という考え方をお伝えして。
――こういう言葉ってReoNaさんも使ってきたんですか?
ReoNa:今でも使っています。「ネリヤカナヤ」「とうとがなし(尊ぶ、ありがとうの意)」は使う場面が限定されていますが、例えば、「よーり(ゆっくりの意)」とかは、準備が間に合ってない人などに対して「よーりよーりでいいが(良いよ)」って言います。
――私自身、奄美大島には行ったことがないんですが、美しい雄大な景色が思い浮かびます。その景色は知らないはずなのに、郷愁にかられるというか……。
ReoNa:嬉しいです。聴いてくださる方の心を島に持っていけたら良いなとも思っていました。実はこの楽曲を作るにあたって、奄美に行って。この曲の最初に入っている波の音は、実際の奄美大島の海で録ったものなんです。
――皆さんで景色を共有されたんですね。ReoNaさんのご自宅の近くに海があるんです?
ReoNa:海は近くにありました。幼少期から聴いてきた海の音を聴きながら歌ってました。
――奄美大島らしいといえば、<朝の海は ばぁばの呼び声 夜の海は じぃじの静かな話し声>という一節があります。ばぁば、じぃじという響きがなんだか切なくて温かくて。
ReoNa:ばぁば、じぃじは血縁関係じゃなくても使う言葉なんです。奄美にいた祖父母のことを、島に帰る度に思い出します。自分が傷ついていた時期、居場所がないと思っていた時期に、心の拠り所になってくれたんです。故郷、思い出……この温かな場所がなかったら、今の私はなかったなと改めて思いました。
――今のお話を聞くと、曲調はまったく違うんですけど、神崎エルザ starring ReoNaとしてリリースされた「Prologue」の「葬送の儀」を思い出します。ところで、この曲は「ANIMA」や「まっさら」のストリングスを担っていた宮野幸子(SHANGRI-LA INC.)さんが編曲を手がけられていますね。
ReoNa:宮野幸子さん自身、歌ものはこれまであまり手がけられたことがなかったそうなんです。その中で、今回フルでアレンジを施してくれました。ReoNaの声も、ある種楽器のひとつのようになっていて。だからコーラスも楽器のようなロングトーンになっています。それも宮野幸子さんに入れていただいているんです。宮野幸子さんにストリングスアレンジしていただいた楽曲のストリングス、管のラインってすごく特徴的で、美しくて大好きで。今度は自分の声が入っているというのがすごく新鮮でした。
――完全に余談なのですが、石垣島に行ったとき、友だちの子どもの運動会に参加したんです。BGMが琉球民謡だったんですけど、体育館の隅で地元の方たちが三線などを弾かれていてびっくりして。根付いているものなんだなと改めて感じました。
ReoNa:運動会で生で弾かれているのはすごいです。奄美大島にも歌者と呼ばれる方たちがいて、宴会などの席で、ご年配の方たちがどこからともなく三味線を持ってきて……ってことがあります。実は祖母が歌者だったんです。だから誰かが弾き始めた三味線に合わせて島唄を歌うっていう。
――へえ! ReoNaさんにその血が引き継がれているんですね。きっと、地元でも長く愛される曲になるでしょうね。
ReoNa:そうだと良いなぁと。地元に持って帰ってこられる曲ができたなと思っていて。アニソンシンガーでありつつ、奄美大島出身のひとりとしても出会ってもらえるような楽曲になったら良いなと思っています。ライブでどんなふうにお届けできるのか、楽しみな曲でもあります。故郷を想った歌をいろいろな場所でお届けしたいです。
――皆さんで島に行かれたときの様子も見たかったなぁ……。
ReoNa:このお歌と共に奄美大島の美しさや雄大さをお届けできる機会を作れれば良いな、と思っています。
怒りを代弁したハードな「JAMMER」
――さらにもうひとつ新曲が。「ネリヤカナヤ ~美ら奄美(きょらあまみ)~」とは相反するような「JAMMER」というロックなナンバーが。個人的に大好きな1曲です。2バスの鳴りがめちゃくちゃ良くて、ライブで絶対盛り上がりそうだなと。ここまでハードな曲はなかなかなかったですよね。
ReoNa:メタルというか、ロックというか。毛蟹さんならではの曲ですね。神崎エルザ starring ReoNaの楽曲では、「Independence」や「Disorder」などの激しいナンバーがありましたが、ReoNaとしてはここまでの激しさは初と言って良いんじゃないかってくらい振り切れた曲になっています。「ReoNa Live Tour 2019 “Wonder 1284”」以来ぶりのオールスタンディングライブが待っているので、「ライブで遊べる曲があっても良いよね」っていう話になりました。
――そこに傘村トータさんの歌詞が乗って。同じ布陣で作られた「いかり」はゆったりとした、切々とした曲で。「JAMMER」はまさに怒りまくってるというか。<やること やるから しのごのくらい言わせてよ!>っていう。
ReoNa:今回は「代わりに怒ろう、キレよう」という想いが歌詞の軸にありました。攻撃的な曲もいろいろな方が歌われていて、いろいろな怒り方があると思うんですけど、普段怒ることが苦手な私たちが怒るっていうことが大きなテーマとしてあって。抑圧に対して、私たちが怒ってる楽曲になればいいなと思っていました。
――ReoNaさん自身、怒りを表に出さないタイプですよね。
ReoNa:生きてきた上で、人に対して直接怒ったこと自体あんまりなくて。そういう(怒りの)気持ちになったときは、代わりに怒ってくれる曲を聴いたり、怒りを表している作品に触れたりしていました。怒りの感情の代弁が救いになったり、溜飲が下がることになったりするんです。そういう寄り添いもあっても良いんじゃないかなって。
――ReoNaさんがボカロ曲に救われていたように。
ReoNa:ボカロ曲の怒り方ってここまで高圧的ではなくて。心のどこかに、(相手の言うことを)認めながら怒っているような感じというか。私のなかで、この「JAMMER」のキーワードに「ほっといて!」があって。SNSだったり、自分が発信している場だったりに「嫌いならわざわざ見に来なくていいよ」というか。「私の世界は私の世界で、あなたの世界はあなたの世界で良いじゃん」って。ただ、それってなかなか難しいんです。
――わざわざ踏み込んでこなくていいのに、と思ってしまう一幕ってきっと誰かの日常にもあるもので。
ReoNa:そうだと思います。それは私自身にもある怒りであり、傘村トータさん自身にもある怒りで。それに加え、きっとこの世界を生きている方の誰かの怒りでもあるんだろうなと。
――冒頭の<スカート穿きなさい 誰とでも仲良くしなさい 真面目にやりなさい>ってああ、言われたなぁ……ってものすごく共感しました。それで最後に必ず<あなたのために言ってるのよ>って念押しされる。そう言われると、モヤモヤしたままなんて返していいか分からないんですよね。
ReoNa:そうなんです。私に関しては、「黒い服以外の他の色の服を着なさい」って言われた記憶があって。生きていく中で「◯◯しなさい」「◯◯であるべき」って言われることが多いですが、言い返したくても言い返せなかったり、認めてほしいのに認められなかったりっていう鬱憤に寄り添えたら良いなと思っています。
――ここにも<猫も杓子も>と猫ワードが出てくるのが、猫好きとしては見逃せないポイントでした(笑)。
ReoNa:一切合切という意味でここもすごくReoNaらしいなと感じています。