“ハイテク忍者”誕生秘話――秋アニメ『忍の一時』シリーズ構成・脚本 高野水登氏インタビュー
『アルドノア・ゼロ』や『アイドリッシュセブン』で知られるTROYCAが、DMM picturesとタッグを組んでお届けするオリジナルアニメ『忍の一時』。渡部周監督を中心に実力派スタッフが集結した本作がついに2022年10月から放送開始となります。
『表向きには』忍者が存在しないはずの世界。なぜか甲賀忍者に命を狙われる櫻羽一時は、自らが伊賀忍者第19代正当後継者だと知り、誰も知らない忍者の世界に身を投じることに。しかし、それは一時が辿る過酷な運命の、ほんの序章でしかなかった……。
アニメイトタイムズでは、未だ謎に包まれる本作についてインタビューを実施します! 第2回はシリーズ構成・脚本を手掛ける高野水登氏。企画参加までの経緯や忍具の設定など、作品の裏話をたっぷり伺いました。
【高野水登さんプロフィール】
脚本家。Queen-B所属。
代表作:ドラマ『真犯人フラグ』、ドラマ『あなたの番です』、実写『映像研には手を出すな!』シリーズ、実写『賭ケグルイ』シリーズ
“ハイテク忍者”誕生秘話
高野 いやー、子供の頃から読んでいた媒体に、こうしてインタビューを載せていただけるってうれしいですね!
――おお、そうなんですね。高野さんのこれまでのご活動は舞台と実写が中心でしたので、少々意外なご発言でした。ちなみに、アニメのお仕事は『忍の一時』が初、という理解でよろしいですか?
高野 そうですね。世に出たのは『TIGER&BUNNY 2』の第6話が先になりましたけど、着手していたのはこちらが先なので、初作品と言ってよいかな、と。初めてのアニメの仕事でいきなりシリーズ構成を任せていただけて、それどころか全話脚本までやらせていただけた。本当にありがたかったです。
――これも確認になりますが、アニメはもともとお好きで?
高野 ですね。今は文字を書く方になりましたけど、中学のころはずっと絵を描いていて、「俺はいつかアニメーターになるんだ」とまで言っていたくらいなんです(笑)。
――それはかなりのものですね(笑)。
高野 今29歳なんですけど、中学校のときにちょうど深夜アニメの本数が爆増して、ニコニコ動画が盛り上がっていたんですよ。
――『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』あたりがちょうど中学時代ですか。
高野 そうそう! だから俺、「ハレ晴レユカイ」を未だに踊れます。そんな、まあまあ痛いオタクでした(笑)。だからもう、今回の仕事ができたのがうれしくて、うれしくて。
――アニメの「心の一本」はなんなんですか?
高野 難しい質問が来ましたね……そこは『カウボーイビバップ』なんですよ。幼稚園の頃から『ルパン三世』が大好きで、そうしたら母の知り合いが、「『ルパン』が好きなら、これも好きなんじゃない?」って教えてくれた。幼稚園児に薦めるアニメか? と、今はちょっと思うんですけど(笑)、観て、衝撃を受けて、それ以来ずっと好きなんです。それが心の一本ですけど、中学時代はしっかり『エヴァ』にはまり、『ハルヒ』にはまり、一通り通っていますね。授業中に綾波の絵をずっと描いている少年でした。
――『ビバップ』みたいなスタイリッシュなアニメが好きで、『エヴァ』や『ハルヒ』にはまって……って、まさにその要素、全部『忍の一時』にありますね。来るべくして来たお仕事だったのでは。
高野 いやー、ホントにありがたいです。
――企画に参加された段階では、どのくらい企画の概要は固まっていたのでしょう?
高野 TROYCAのプロデューサーの長野(敏之)さんがやりたいことは、参加した時点ではっきりしていました。やりたいことを実現する筋道は任せてもらえるんですけど、ゴールは最初から決まっていた……みたいなイメージですね。あとは僕が参加した時点で、「サラリーマン忍者もの」という大元のアイデアに、学園ものの要素も追加されていましたね。キャラクターもそれに合わせて、一時、時貞、紅雪の名前と立ち位置くらいまでは決まっていたと思います。要は現代忍者という世界観の中で、大人の時貞がいて、子供の一時がいる。そしてヒロインに紅雪がいる……くらいまでは、ざっくりと決まっていたわけです。
――では高野さんのアイデアを盛り込む余地も十分にあったと。たとえば、ここは高野さんのカラーが良く出ている、みたいな部分はどこになるのでしょう?
高野 アニメの仕事を初めてやってみて、「独特だな」と感じたところでもあるんですけど、世界設定の構築ですね。直接本編では語られない裏設定を決めることが、結果的には多くなりました。例えばこの作品の中での歴史とか。「どうして忍者はサービスエリアで働くようになったのか?」とか、忍具はどういうものなのかとか。
――忍具は今作のユニークな設定のひとつですが、どこから着想されたんですか?
高野 最初は実は、忍者同士の対決で「ローテク対ハイテク」をやろうとしていたんです。ハイテク甲賀に対してローテク伊賀、みたいな。でも、これが誤算がありまして……よくある忍者のイメージってあるじゃないですか。手裏剣だとか変わり身だとか、壁に布をやって隠れるとか。調べていくとああいうのが結構創作だとわかってきちゃって。大体、山田風太郎さん(※)か千葉真一さん(※)が作っていらっしゃるんですよ。リアル忍者は本来、滅茶苦茶地味で、それでハイテクと戦うのは難しいかも……とわかってきたところで吹っ切って、ある程度は科学技術に頼っている忍者の設定ができあがりました。
※ 山田風太郎
伝奇、推理、時代小説を中心に活躍した小説家。『甲賀忍法帖』に始まる「忍法帖」シリーズは1960年代に爆発的なブームを巻き起こし、その後のマンガ、アニメなどの忍者・忍法描写に多大な影響を与えた。没後も度重なる復刊、コミカライズなどを通じ、世代を越えて愛され続けている。
代表作:『魔界転生』『警視庁草紙』『妖説太閤記』ほか多数
※千葉真一
俳優・映画監督。日本を代表するアクションスター。海外でもサニー千葉(Sonny
Chiba)の名前で有名。大ヒットしたテレビ時代劇「影の軍団」シリーズを始め、数々の作品で忍者に扮し、華麗な殺陣を披露している。
代表作:『殺人拳』シリーズ『仁義なき戦い 広島死闘篇』『柳生一族の陰謀』『キル・ビル』ほか多数
――キャラクター設定の面でこだわられたところは?
高野 紅雪のマスク。あの設定は肝入りです。あとは甲賀の当主の鬼道ですね。もともと「敵」という存在が好きなこともあって、力を入れて敵のバックボーンを書いたら、ちょっと張り切りすぎてしまった気もしています(笑)。