『ベルセルク』を描いていく険しさ。それは三浦先生の原作を愛せば愛すほど──『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』TVシリーズ監督・佐野雄太さん×STUDIO4℃プロデューサー田中栄子さんインタビュー(前編)
映画三部作『ベルセルク 黄金時代篇』の公開から10年。TVシリーズ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』として、鷹の団の、あの輝かしい時代が再び幕を開ける!
原作は言わずとしれた三浦建太郎による同名コミック。2022年6月時点で全世界累計発行部数5,000万部(紙+電子)を突破する、世界で愛され続けるダークファンタジーが、STUDIO4℃による鮮烈な映像表現でアニメーションとして描き出される。メモリアル・エディションでは映画版では描かれなかった「夢のかがり火」など原作珠玉の名シーンを追加。放送は2022年10月1日24:30~スタートだ。
アニメイトタイムズでは、かつての制作秘話、新規シーンへのこだわりなど作品に込めた想いをスタッフ&キャストが語り明かす連載インタビューを実施。放送目前の第1回は、TVシリーズ監督・佐野雄太さん×STUDIO4℃プロデューサー田中栄子さんインタビュー(前編)をお届けする。
「メモリアル・エディション」企画誕生までの経緯
──映画三部作公開から10年、メモリアル・エディションの企画はどのように始動したのでしょう?
田中:実は、TVシリーズにしてはどうかというお話は、映画三部作を公開した数年後にはいただいていたんです。でも、はじめはお断りしていました。というのも、私自身プロデューサーとして、映画制作当初から映画3部作からTVシリーズへという流れはかなりしっかりと検討していたんです。映画の先にTVシリーズも見込むなら制作費への増額をもう少し望めるのではないか、ということも含めてね。けれど、断念したんですよ。
その理由は、『ベルセルク』という大いなる作品世界に臨むのであれば、そこで描かれている人間の生き様……エロスやバイオレンスの表現に真っ向から挑まなくては、と考えたからです。表現を抑えざるを得ないTV放送を諦めてでも、たとえ映倫さんにR指定を受けてでも、原作に描かれている内臓をえぐり出すような極限の表現にチャレンジする。その決意は、もう振り返らないという覚悟で固めたものだったので、それをひっくり返すつもりはなかったんですね。
──今回、その想いが変化したきっかけはあったのですか?
田中:徐々にでしたね。映像業界的にも動画配信サービスと合わせて公開するフォーマットが拡ったこともあって、あらためて前向きに考え出すことができたんです。
そんな中で、ひとつ大きく膨らんでいったのは、映画ではガッツとグリフィスの物語に軸を絞ったことで入れることができなかった「夢のかがり火」エピソードや、ジュドーをはじめとした鷹の団のエピソードを、新規シーンとしてのせていけるのであれば……という思いでした。
あとは、テクニカルな問題ですが、当時のデータを現在の制作環境でいじるのは、ギリギリのタイミングだったということもあります。昔のフォーマットで作られたデータなので、現在の環境での互換には限界があって、去年あたりまでの環境がリミットでした。データに手を入れる最後のチャンスだったという側面もあり、10年の節目にスタートすることに決めたのです。
……と、そうして動き出した矢先に、三浦建太郎先生のご逝去という本当に本当に大きな喪失、悲しい出来事が起こってしまったのですが……。『ベルセルク』という比類なき作品の輝き、エネルギーを心してみなさまにお届けせねばという想いを一層強く持ち、スタッフ一同制作に臨んでいきました。
──TVシリーズでは佐野雄太さんが監督として立たれています。佐野さんに白羽の矢を立てた経緯とは?
田中:映画三部作を再編集してシリーズにするということなのですが、この作品は映画として構成してあるので、簡単に尺で切り分けるわけにいかない。TVというフォーマットならば、約20数分尺の中に、盛り上がりと引きを作らないといけない。映画3部作の監督である窪岡(俊之)さんもTVをやるのなら、まったく違う構成や演出になる、と最初は反対でした。もっともな話ですよね。私もそう考えていたのですが、映画のクオリィティーにもう一度光を当てることができることや、編集の重村さんや、美術の中村さん、作画監督の恩田さん、音楽・音響の皆さん、当時のスタッフが再結集してくれていることや、彼らの作品愛も伝えて、ご逝去もあって・・・最終的にはご了承いただきました。そして新しく佐野さんに監督という白羽の矢を立てることにも、とても喜んでくれました。佐野さんはSTUDIO4℃に入社してすぐに三部作の現場に加わって、3Dアニメーションスタッフとして大活躍されていた方で。そのときに発揮してくれたアイディアやテクニックが印象的で、その実績が今回のスタッフィングの大きな理由になっています。ベルセルクの大ファンでしたしね。
──佐野監督は、たたき上げといっても過言ではないのですね。
佐野:そうなんです。お話をいただいたときには、これは大変だっていうのが正直な気持ちでした。窪岡監督のおっしゃるとおり三部作の映画として完成している重厚な作品なので、万が一にも作品の良さを壊すわけにはいかないと思ったんです。しかも、その上でTVシリーズとしての新しい魅力を付加しなければならない。これは相当難しいことですので、自分にできるのか?と自問しましたね。
『ベルセルク』は個人的にもとても思い入れが強い作品なんです。入社してからの3年間を捧げた作品ですし、原作へのリスペクトも、三浦先生へのリスペクトも、映画三部作へのリスペクトも、窪岡監督へリスペクトも大きくある中で、最終的にはこの作品をより多くの人に観ていただけるなら、という想いで引き受けました。また、当時のCGスタッフとしては、時間の問題や予算の問題、あるいはテクノロジーの問題でやり残してしまったこともたくさんあったので、それを直させてもらえるなら、という希望もありました。
──佐野監督は「黄金時代篇」をどんな魅力のある物語だと感じていますか?
佐野:自分の命を試すようにひたすら剣を振り続けるガッツと、強烈なカリスマ性を持つグリフィス。この二人の活躍を中心に鷹の団がどんどん成り上がっていく青春群像劇なんですよね。鷹の団の快進撃は、まさに黄金時代という印象で、眩い光を見ているような爽快感が魅力だと思っています。
もちろん爽快なだけではなく、個性あふれるキャラクターそれぞれの複雑な想いもしっかり描かれて、濃厚な人間ドラマが重ねられていて。その一方で、リアルな中世ヨーロッパの世界観の中に時折姿を顕すファンタジー要素が不吉な予感も助長させていく。そして、一気に最強最悪のダークファンタジーへ駆け下りていく後半は、原作を読んでいるとき、人間の感情のすべてが加速度的に一点に収束して爆発するのを体感したような感覚に陥りました。『ベルセルク』という作品、特に「黄金時代篇」は、心の琴線を衝く唯一無二の物語だと思います。